「いやぁ、流石アスハ代表。期待を裏切らない人ですね」
オーブ侵攻軍の旗艦、タラワ級MS搭載型強襲揚陸艦パウエルに同乗しているアズラエルは、返ってきた正式回答の文書に嘲りを抑えられなかった。
勿論、こうなる様に最後通告は出したが、ここまで予定通りになるとも思っていなかったのである。
「正直なところ、要求呑まれちゃったらどうしようかなぁって思ってたんですよ。アレのテスト。こうなった以上、是非とも最後まで頑張り通して頂きたいものですね」
パウエルにはXシリーズから派生させた発展機を4機積んでいた。それに合わせて貴重な実験体も。
プラントへの本格的な反抗作戦と行く前に試験運用をしておきたかったというのが、今回の派遣のもう一つの理由だ。
思惑通りに、突っぱねてくれたオーブには感謝の念すらある。
「さて、艦長さんそろそろ時間ですよ」
「本当に、よろしいのですね?」
「えぇ、勿論」
旗艦パウエルの艦長、ダーレスの最後の確認の声に、アズラエルは自信満々に頷くのだった。
その返答を聞いて、艦隊に次々と指令が打診されていく。
腕の時計へと視線をやったアズラエルは、遂にその指示を出した。
「──時間です。攻撃を開始してください」
「全艦攻撃開始!」
遂に、オーブ解放戦線が幕を開ける。
初撃──連合艦隊から降り注ぐミサイルの雨を、迎撃設備で迎え撃つ。
自走砲も展開され、最初の攻撃を防いだところで、出撃準備を終えていたアストレイは次々と起動。
各部隊、部隊長に配備されたM2アストレイと、主戦力であるM1アストレイ。
それらが、降り注ぐ第二陣のミサイルの雨を迎撃していく。
「オーブ軍、戦闘を開始しました!」
「アークエンジェル発進します!」
サイが挙げた戦闘開始の報告に、マリューは即座に発進を指示。
アークエンジェルもまた、オーブ防衛の為に出港していく。
沖合ではオーブ護衛艦群と、連合艦隊とが殴り合いの様相を呈していた。
互いに砲火をぶつけ合い、交差していく。
次々と撃っては撃たれての攻防。だが、数で劣るオーブの護衛艦群の方が損耗は激しいだろう。
「ゴットフリート照準──てぇ!」
そこへアークエンジェルが参戦。
艦船として、その圧倒的な性能が、連合艦隊を押し返していく。
同時に、オノゴロ上空には輸送空母が多数接近。
ストライクダガーの降下部隊を一挙に降ろしてくる。
「ジュリ、マユラ、敵MS群!」
「来たわね!」
「やらせない!」
アサギ、マユラ、ジュリの3人は降下してくる部隊に集中して迎撃に回っていく。
それぞれ訓練してきたようにM2のウエポンパックを装備した本気モード。
初めての戦場という緊張があるものの、冷静に敵を見据えカバーし合いながら確実に対応していった。
『キラ、本当にこれ大丈夫なんだろうな?』
そんな中、アークエンジェル格納庫ではストライクに乗りこんだムウが、不安げにキラへと通信を繋いでいた。
「安心してください。危なくなったらパージすればいいだけですから」
『おっ、おまえなぁ!』
「大丈夫ですよ。一応あの後、タケルにも見てもらったんですし」
『それが一番怖えんだって。アイツ、あのときマジで怒ってたじゃねえか!』
「あれはムウさんが悪いですよ。あと、タケルは少なくとも機体にそういう変な事は絶対しないです」
『本当か?』
「はい」
『──わかった。信じる』
そういって通信を切ったムウは、ストライクのコンディションをチェックした。
背部にはエールストライカー。右肩にはランチャーストライカー。そして左肩にはソードストライカー。
今のストライクは全てのストライカーパックを接続したとてつもない状態となっていた。
あの日、ムウが初めてストライクに乗り、そのプライドを完膚なきまでに打ち壊された日。
最初こそボロボロにされたムウであったが、その類稀なセンスと感覚であっという間にストライクへ慣熟した。翌日にはタケルとストライカーパックの運用についてまで議論する様になっていた。
そこで提案されたのが、ムウのこれまでの経験と実績を活かした運用──全ストライカーを装備することによる全距離対応型ストライク。
通称パーフェクトストライクである。
それぞれのストライカーで主力となる対艦刀やアグニなどの兵装を供えつつ、バッテリーの複数搭載で稼働時間を稼ぎ、重量増加の影響はエールのスラスターでカバー。
勿論、火器管制は複雑の極みだし、運用方法も余程熟練したパイロットでないと難しい。そもそも、機体として完成させる事すら難しかった。
しかし、そこはタケルとキラが居る。
キラが徹底してムウに合わせたOSの調整を行い、タケルは必要な機体の改造をモルゲンレーテで施していく。
こうして今回、パーフェクトストライクの初陣となったわけだ。
実稼動は今回が初めてという不安要素はあるが……そこは、戦友であるキラとタケルを信じて、ムウは腹をくくった。
「よし、それじゃいくとするか……キラ!」
「了解です。マリューさん! 出撃します!」
キラの声に応えてアークエンジェルのハッチが開放され、ミリアリアのアナウンスの元発進シークエンスが開始されていく。
『フリーダム発進、どうぞ!』
「キラ・ヤマト。フリーダム、行きます!」
先に出撃していくキラのフリーダム。
発進と同時に、バラエーナを斉射し、ムウの進路を確保していく。
『進路クリア。続いてストライク発進、どうぞ!』
「ムウ・ラ・フラガ。ストライク出るぞ!」
背部にシュベルトゲベールをマウントし右腕にはアグニを携え、ストライクもまたアークエンジェルを発進して飛翔していく。
『敵MS部隊、イザナギ海岸に上陸』
『オノゴロ上空に、更に大型機接近』
「くっ、第8機甲大隊を回せ! イザナギ海岸には第6機甲分隊だ!」
司令室では次から次へと挙がってくる連合の攻勢報告を聞きながら、キサカ監視の下カガリにより指示が下されていた。
これも一つのカガリ・ユラ・アスハの役目である。
指揮官がオーブの獅子の娘である事、少なくとも兵の士気が下がることはないだろう。
オーブの代表の娘が必死に司令所で戦っているというのなら、兵の鼓舞としては十分だ。
本来、指揮を取るべきはずの人物、ユウキ・アマノは対策していた国民の避難誘導の総指揮にあたっているためにまだこの時不在であった。
だがそれでも、カガリが見つめる戦況マップには次々と敵部隊のマーカーが出現し、防衛線に少しずつ綻びが生じてくるのが見えた。
特に港がある前線の中央──アサギ達が守るエリアは、敵部隊の集中と、敵前線艦隊からの援護射撃による波状攻撃で最も苛烈な戦場となっていた。
「くっ、えぇい!」
その最も厳しいポイントに向かって、蒼い翼を広げてフリーダムが駆けつける。
キラは即座にマルチロックオンでダガー部隊を一斉ロック。
全5門の一斉射で次々とダガーを屠った。
そうしてダガー部隊を一挙に片付けたかと思えば、次は海上へと向かい護衛艦群とアークエンジェルの援護に回る。
その圧倒的な戦闘力でフリーダムは八面六臂の活躍を見せていた。
「フリーダム、凄い……」
「感心してる場合じゃ無いぞお嬢ちゃんズ! 次来るぞ!!」
「は、はい!」
フリーダムが切り開いたところへ飛び込むように、ムウのストライクも敵陣へと飛び込んでいく。
シュベルトゲベールによって次々とストライクダガーを両断していく様は、とてもつい最近MSに乗り始めた人間とは思えない活躍であった。
対してアサギ達はまだ初の実戦に硬さが抜けていない。
当然だろう。いきなりの実戦。初めての実戦で、大概不利な防衛戦。
次々と増えてくる敵部隊には気持ちが負けそうになるのも当たり前だ。
それでも、何とか持ちこたえているのは彼女達が優秀であるが故だ。
戦闘はまだ、始まったばかりであった。
パウエル艦内。
パイロットスーツを着込む3人の男性。
クロト・ブエル。
シャニ・アンドラス。
オルガ・サブナック。
彼等はブーステッドマンと呼ばれる連合が行った実験の被検体である。
Xシリーズの完成度に合わせ、通常のナチュラルではまともに扱えないこれらを高いレベルで運用させるために。
後天的に投薬や特殊訓練、心理操作を加えてコーディネーター以上の兵士を作り上げた──いわば、連合の切り札と呼べるパイロット達だ。
外科的にマイクロ・インプラントを脳内に埋め込むなど、もはや改造人間と言っても良いだろう。
そんな彼等が乗るのが、Xシリーズ後継発展機。
X370レイダー、X252フォビドゥン、X131カラミティである。
それぞれに、前身となるXシリーズの特徴を元に開発された後継発展機となり、レイダーはイージスを元に可変機能を搭載した高機動強襲機。
フォビドゥンはブリッツのコンセプトを元に開発された特殊兵装強襲機。
カラミティはバスターのコンセプトを元に開発された、指揮・後方支援機。
アズラエルが自信をもってオーブとの交渉に乗り出した1つの要因である。
彼等ブーステッドマンと、これらXシリーズ後継発展機の試用──プラントへの本格的な戦い反抗作戦となる前に実戦データが欲しかったわけである。
クロト、シャニ、オルガの3人は戦闘前の処置として最後に“γ-グリフェプタン”と呼ばれる薬剤を投与され、それぞれの機体に乗り込んだ。
戦闘における反射能力や耐G耐久度、その他操縦に必要な能力の向上が図れる薬剤を投与しされ、ようやくブーステッドマンは完成する。
「あー君達」
「あぁ?」
「へ?」
「──はい」
通信モニターに移り込む、彼等にとって主人となるアズラエルの声に、どこか投げやりに返事をする3人。
「マスドライバーとモルゲンレーテの工場は壊してはいけません。わかってるね?」
アズラエルの問いかけに、3人はそれぞれが雰囲気を変える。
戦闘へと赴く──それがスイッチとなり、彼等はその気質を豹変させる。
「他はいくらやっても良いんだろう?」
残忍な笑みを浮かべるシャニ。
「ですよね?」
愉悦を交えて笑うクロト。
「うっせーよ、お前等!」
どこかうんざりとした様子を見せるオルガ。
パウエルのハッチが開くと、フォビドゥン、レイダー、カラミティが発進していく。
レイダーはMA形態へと変形しカラミティをその背に乗せると、遠く離れたオーブへと飛翔した。
連合が生み出した悪魔の3兵器が、オーブを狙う。
「ちっ、いくら忘れてたからって、流石にギリギリのタイミング過ぎるだろう!」
攻撃が始まったオーブ国土を、ディアッカはひた走る。
アークエンジェルを降ろされたまでは良いものを、戦地となるオノゴロ島は一番最初に避難誘導が始まった場所だ。
彼を拾ってくれる避難船が都合よく近くには無かった。
急いで島の反対側へと向かう指示を受けるも、移動するための足が無い。
そうこうしているうちに戦闘が始まり、ディアッカは我が身を守る為這う這うの体で逃げていた。
“私はアークエンジェルのCIC担当よ。それに……オーブは私の国なんだから”
直前で聞いた声がチラつく。
彼女には酷い事を言った。謝罪もしたし、先程会った時も、もうわだかまりの様なものはなかった。
だがその分、ディアッカには捨て置けない気持ちが芽吹いていた。
“トールが居ないのに、何でこんな奴がここに居るのよ! ”
その時は、思考をぐちゃぐちゃにされた気分であった。
自身が何気なく放った軽い言葉が、本来であれば臆病で大人しいであろう少女を憎悪に染め上げ変貌させた。
凶器を手にし、狂気に染まった。
人は簡単に傷つき、簡単に壊れるのだと、ディアッカは知った。
それが何気なく放った言葉でも、もう放ってしまった以上、飲み込めないのだと理解した。
「──つーかよ、ゴメンだけで済ませちゃいけねえよなあんなの」
謝罪一つで足りるのならば、戦争など起きはしない。
自身が許されているのは、彼女がそれを許容してくれたからに過ぎなかった。
ディアッカは、まだ自身に贖罪の義務があると思えてならなかった。
「モルゲンレーテだったな……」
以前に潜入してモルゲンレーテの場所は把握している。
何処にモビルスーツが運び込まれるのかも、イザークと調査していたから見当はついた。
「しかたねえ。このままじゃ気分も悪いままだし……やるしかないじゃん」
小さな決意と共に、ディアッカはモルゲンレーテへと向かい走り出した。
「あの白いのをやるよ」
シャニの声に応えるように、カラミティはレイダーの背を降りてオーブへと上陸。
上陸と同時に豊富に備えられた火器が一斉に火を噴きオーブの大地を焼いていく。
「ちっ、地球軍の新型か!?」
これ以上好き勝手させては危険だと、ムウはストライクを走らせた。
「でぇええい!」
「あん?」
接近してシュベルトゲベールで切りかかるも、カラミティは冷静にシールドで対処。
反撃と言わんばかりに115mm2連装衝角砲ケーファー・ツヴァイが火を噴く。
「ちぃ!」
間一髪、エールの推力で直上へと躱したストライクが再び切りかかるも、カラミティはひらりと躱して距離を取った。
「12時方向、MS……いや、MA接近!」
「何っ!?」
新手の反応にアークエンジェルが警戒する中、レイダーは一気に機体を加速させて強襲。
接近と同時に変形してアークエンジェルへと襲いかかった。
「ちぃ! させない!」
「そりゃあ!! 撃滅──どわっ!?」
周囲で戦っていたキラはこれを察知。
アークエンジェルの艦橋へと狙いを定めたレイダーを突撃と共に蹴り飛ばし、海へと叩きつける。
「ふーん。うざーい」
直後、その背を切り付ける様に大鎌を構えたフォビドゥンがフリーダムの背後を奇襲。
これを即座に機体を翻して躱すも、今度は海中から飛び出してきたレイダーがその手に備えた鉄球ミョルニルを放つ。
「てめえ!! 抹殺!!」
「くぅ!」
次々と繰り出されてくる攻撃に、キラは翻弄された。
幸いにも大きな損傷を受けるような攻撃はPS装甲と機動力でやり過ごしているが、これによってフリーダムは完全にフォビドゥンとレイダーに捉まってしまう。
かろうじて互角を保っていた戦場の戦力バランスが崩れた。
「ヘルダート、てぇ!!」
フリーダムの抜けた穴を埋めるべくアークエンジェルは奮戦するが、それも簡単な事ではない。
攻守両面で目覚ましい活躍をしていたフリーダムが抜けたことで一気に敵艦隊からの圧力が増していた。
依然として後方の連合艦隊はひっきりなしにミサイルを討ち続けており、海上のオーブ軍だけでなく、港で応戦する国防軍の被も大きくなってきている。
アストレイがどれだけ優秀であろうと、数の劣勢と、何より防衛戦という不利が、戦況を苦しいものにさせていた。
「ミサイル接近、数10!」
「11時方向、敵艦!」
「迎撃! バリアント照準!」
「ダメです、間に合いません!」
「ちっ、衝撃に備えて!」
被弾を覚悟したマリューであったが、アークエンジェルの前方を、横から飛来した対装甲散弾砲が薙ぎ払う。
接近してきていたミサイルを根こそぎ払った閃光に、その元を観測して、サイは驚きの声を挙げた。
「熱紋照合──バスター?」
モルゲンレーテ付近から対装甲散弾砲を構えたままのバスターの姿があった。
「とっととそこから下がれよ、アークエンジェル!」
ザフトであるはずの自分が何をしているのだろうか……そんな疑念を僅かに抱きつつ、ディアッカは続く2射目を放った。
再びアークエンジェルへ接近してきていたミサイルを薙ぎ払う。
様々な人達を巻き込み、戦況はさらに混迷していく。
「くそ、遅かった!」
ヘリを必死に走らせてオーブへと帰国したタケルであったが、既に戦端は開かれていた。
タケルは惨状を目の当たりにして、自身の浅はかさを呪う。
パナマ陥落で読めていた事態であった。
できる限り国防の戦力を用意しておきたい。その為に自身とキラが持つであろうSEEDの秘密を解き明かしにマルキオの元へと訪れた。
だがその結果がこれだ。肝心な時に国を留守にしていた。
「ホント、度し難い! 自分の愚かさが!」
ヘリをモルゲンレーテへと向かわせて、タケルはまた一つ自身に悪態をついた。
戦局は既に混乱。戦場となっている場所を見るに、前線はかなり押し込まれていた。
減速も僅かに、半ば墜落する様な勢いでモルゲンレーテの敷地へと着陸すると、タケルは直ぐに走り出した。
背後で聞こえる爆発がやけに近く感じる。
それが、敵の攻勢がどんどんと激しくなってることを示唆している気がした。
「はぁ、はぁ、シロガネ……エリカさんの事だから、発進準備はきっと──」
格納庫へと辿り着き、シロガネを前にして、タケルはその足を止める。
そこには何故か、この場所にいるはずのない男が居た。
「戻ったか、バカ者」
「
タケル・アマノの父、ユウキ・アマノである。
「お前が戻ってこないものだからな。俺が乗って前線に出ようかと思っていたところだ」
「何をバカな……早く本部に行ってください。シロガネは僕の専用機だ……いくらあんたでも、扱えるわけがない」
時間も無い。
すぐさまシロガネに乗り込もうと、ユウキの横を通り過ぎていくタケル。
ユウキはそんなタケルの様子に、わからない程度に小さく口元を緩めた。
「乗り越えたようだな」
通り過ぎようとしたタケルの足が止まる。
何の事を言っているのかはすぐに分かった。
先日聞かされた事──己の生まれの事を指しているのだろうと。
「別に……悲観する必要は無いと教えてもらっただけです。僕は、僕でしかないから」
「あの日は冷や冷やしたものだ。これでお前が戦えなくなったらどうするか、とな……だが、自分を見失わなかったようで安心した」
「言いたいことはそれだけですか? だったら僕はもういく──」
「あの日……お前に伝えていないことがもう一つある」
言葉を遮って切り出してくるユウキに、タケルは訝しんで振り返った。
同様にユウキも振り返り、互いの視線が交錯する。
「確かにお前は、キラ・ヤマトの身代わりであった。それに間違いはない。
ヤマト夫妻にその意図が無かったとしても。誰の子でもなく、誰に求められるでもなく生まれてきたお前には、カガリ姫の双子の兄という役割しかなかった」
「今更そんな事確認して──」
「だが我が子となったお前をそんな風に扱う事──あのウズミが良しとすると思うか?」
ハッとして、タケルは口を噤んだ。
ウズミ・ナラ・アスハは高潔な人間である。
自他ともに厳しく、だが身内には愛情深く接してくれる。
タケルは、そんな父であったウズミを心から慕っていた。
血がつながらなくとも、カガリとタケルは、愛情深く育てられてきたのだ。
「忘れるな、お前の父はウズミ・ナラ・アスハだ。あの男が、我が子となったお前をキラ・ヤマトの代わりなどと思うものか」
「だったら……だったらどうして。僕は捨てられたんだよ」
アスハからアマノへと。
カガリと離れ離れになり、アスハの家を追い出された。
それがずっとタケルが抱えてきた、消すことのできないしこり。
慕っている事は間違いない。大切な家族だと今でもタケルは思っている
それでも、未だ卸し切れない想いがそこにはあった。
「バカ者が、まだわからんか? ウズミはお前を捨てたかったのではない──守りたかったのだ」
「えっ?」
驚きの声を漏らし、タケルはユウキを見る。
嘘をついている顔ではない。しかし告げられた言葉は、タケルには予想外に過ぎるものであった。
「幼い頃ならお前もカガリ姫も、同年代とそこまで大きな違いは無い。だがウズミはお前のその高い能力に気が付いていた。このまま成長し頭角を現せば、すぐにでもお前の正体が掴まれる……そう判断したのだろう。
だから──私に預けた。護衛を用意し周囲を固める等、狙ってくれと言ってるようなもの。お前に必要だったのは、自身を守り通すための力だった」
「だから、アマノの養子に……」
砂漠で、バルトフェルドと共にブルーコスモスのテロに巻き込まれたのは記憶に新しい。
確かにタケルは、危機察知能力、危機回避能力、そしてテロに対する圧倒的な対応力を持っている。
それは偏に、目の前の男ユウキ・アマノの苛烈な教育の賜物だ。
これまでに培ってきた戦闘技術、それらは全てアマノの家で培われたものだ。
それは全て、タケル・アマノをブルーコスモスなどに殺させないためのものであったというわけだ。
「言っておくが俺は違う。お前を守りたいなどというウズミの言葉を真に受けたわけじゃない。
アマノを継ぐに相応しい最高の軍人。その素材が手に入ったからお前を育てただけだ……残念なことにお前の素質はサヤをも凌駕していたからな。実力主義を徹底するアマノにおいてお前の存在は正に降って湧いてきたような最高の逸材だった」
「今更その話を疑う余地はないですよ。どれだけ辛かったと思ってる……でも」
それでも事実として、ユウキですらタケルを死なせないために育ててきてくれた。
一拍置いて、タケルは目を伏せた。
ただ、本当か嘘かもわからない話を聞かされただけだ。
ウズミの真意などわからない。これを聞かせてきた、目の前の男の真意もわからない。
だが、ずっと残り続けていたしこりが消え、胸が満たされていくのを、タケルは感じた。
捨てられたアスハの子。
自身が囚われていたそれが、偽りなのだと知った。
「そうやって父さんも
タケルもキラも、そんなエゴによって生み出された。
コーディネーターなど皆そうだろう。
子供にこうあって欲しい。そんな親のエゴの結晶だ。
「──でもきっと、そこにはちゃんと想いがある」
根本はきっとそうだ。
こうあって欲しいというエゴも、その発端は子を想う親心からくるものだ。
子に健康であって欲しい。子に優秀になって欲しい。子に、生きる能力を与えたい。
そんな、願いからくるものだろう。
例え親のエゴであっても、きっと子供の幸せを願う気持ちから来ているはずだ。
「だから、全部受け止めるよ──僕は、貴方達の息子だから」
「忘れるな……お前の名は被検体283号であり、タケル・アマノであり──タケル・イラ・アスハだ」
懐かしいと思える名であった。
だが、今のタケルはその名に頭を振って応える。
「僕はアマノの人間です。今までも、これからも……そして貴方が作り上げた、最高の軍人です」
「最高の軍人はお前のようにすぐ涙を流したりはしない」
「じゃあ貴方の夢は一生叶わないでしょうね」
「ふっ、この親不孝者が」
小さく笑う。
今度こそタケルは、再びシロガネに向かって歩き出した。
「僕を育てたこと、後悔はさせない──行ってきます、父上」
その言葉に、ユウキは何も言わずにタケルの背を見送った。
泣き虫な我が子の、少し大きくなった背中であった。
パイロットスーツを着て、シロガネへと乗り込む。
システムを起動。白銀に輝くMSに今、光が灯った。
立ち上がっていくOSとシロガネのコンディションを確認。
何も問題は無い──万全の状態である。
タケルは目を閉じて1つ深呼吸をした。
マルキオは言った。
SEEDの発現には個人差がある。そしてその条件は自ずと知れる、と。
タケルは自身の胸に問いかけた──自身が戦うその理由を。
オーブの為。大切な人達の為。
タケル・アマノにはその責任があった。
だが大元は違う。
どこまでいっても、自身の為。
国を失いたくない。
大切な人を失いたくない。
大切な人の悲しい顔を見たくない。
だから戦うのだ。
今はそこに、父親の願いに応えたいと追加された。
増えた分だけ、意思が強固になった。
増えた分だけ、願いが強くなった。
引き寄せていく。手繰り寄せていく。
胸を満たしていく、その力を。
その背に負った、覚悟の力を。
──種が、開いた。
「タケル・アマノ──シロガネ、出撃する!」
閉じていた目を開いて、双眸に戦場を映す。
同時にフットペダルを踏みこんで、シロガネに火を点ける。
バックパックの大型スラスターが稼働して、けたたましい音を上げながら、モルゲンレーテから白銀の閃光が飛び立った。
それは瞬く間にユウキの視界から消え、閃光の如く戦場を飛翔していく。
「行ってこい、バカ息子……」
また一機、ビームサーベルを振り抜いてストライクダガーを切り裂いた。
アサギは10を超えた辺りで、敵機を屠った数を数えるのをやめた。
普通であれば大戦果であろうが彼女達は、もっと酷いシミュレーションをこなしてきている。
そもそもMSにまだまだ不慣れな連合が相手であれば、何ら苦もなく迎撃できるものだ。
厳しいのは後方の艦隊からくる、援護射撃である。
動きが制限され、攻勢に出るのを制限され、そして敵機だけでなく飛来してくる援護射撃に神経を割かなくてはいけない。この状況が彼女達を大きく疲弊させていた。
初陣の硬さは消えていたが、その分終わりのない連合の攻勢に恐怖を抱いていた。
次から次へと、倒しても倒しても、増援がやってくる。
後方支援で撃ち続けていたジュリは一度ウェポンパックの換装で補給している。
恐らくこの戦闘で、ジュリはアサギやマユラの倍近くの敵機を撃ち落としているだろう。
それでも、敵の攻勢は衰える事が無かった。
既に国防軍の中にはかなり被害が出ていた。
アサギ達はまだギリギリの所で撃たれてはいないが、それも後どれほど続くかはわからない。
「アサギ!!」
「アサギちゃん!」
コクピットに飛び込んでくる友人達の声にハッとする。
僅かな時、思考が戦闘から外れていた間に、頭上から降りてきていたストライクダガーが、丁度真下にいたアサギのM2アストレイにサーベルを振り下ろそうとしていた。
「あっ」
自分でも間抜けな声を挙げたと思った。
防御、回避、そのどれもが不可能。
振り下ろされた光の刃を、メインカメラ越しにアサギは見つめていた。
閃光が駆け抜けた。
ビームの光ではなかった。
何かがアストレイとストライクダガーの間を駆け抜け、そして次の瞬間には、ストライクダガーが機体を上下真っ二つにされて地面に転がっていた。
「あっ……シロ、ガネ」
直上に浮かぶ、眩い光をアサギは見つめた。
前線を支えていたアサギ達だけではない。連合の部隊の視線すらも釘づけにして。
それは、戦場を翔ける一陣の風となって現れた。
「なんだ!?」
「白銀の……MS?」
陽光を反射し、白銀の煌きを放ちながら。
「こちらタケル・アマノ! これより参戦します!」
タケル・アマノとORB-00シロガネの参戦である。
来たぜ主人公、って話。
大事な時になに留守にしてんねんって突っ込みは無しで。ご容赦下さい。
さーて、次回から反撃開始です。