機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-76 反抗の声

 

 

 

 空を翔ける。

 

 

 モルゲンレーテを飛び出し、飛翔したシロガネはその圧倒的速力を以てオノゴロの空を翔けた。

 

 バックパックに備えられた大型スラスター。そしてそれを囲う様に備えられたサブスラスター6基が全開稼動。

 空力特性を考慮して、流線形に近くデザインされた装甲が風を切り、軽量化を重ねた事で更なる速さへと至る。

 

 その速度はフリーダムを凌ぐ、現行MSの中で、最速であろう。

 

「間に合え、間に合ってくれ!」

 

 コクピットの中で戦況を確認しつつ、タケルは更にフットペダルを踏み込んだ。

 限界ギリギリで稼働しているシロガネが、僅かに悲鳴を挙げている気がした。

 だが主の想いに応えるように、シロガネは更に機体の速度を挙げていく。

 

「見えた!」

 

 敵MS部隊と、アストレイが入り混じる最前線。

 そして、今目の前でマニューバを装備したM2アストレイが破壊されようとしていた。

 

「させない!」

 

 腰に備えられた、ビームライフルショーティーとビームサーベルの一体型複合兵装“ビャクヤ”を手にし、駆け抜けた。

 発振されたビーム刃でストライクダガーを切り裂いた。

 

 

 そのままシロガネは、戦場を見回すかのように上昇。

 威風堂々たる姿で、白銀に輝くその姿を曝す。

 

 

 タケル・アマノとORB-00シロガネの参戦である。

 

 

 

 

 国防本部では突然現れた見慣れぬ機体に、ざわめきが起こるが、次いで入ってきた通信に僅かな歓声が上がる。

 

『こちら国防軍所属、タケル・アマノです。

 これより参戦します。CICを専属で1人僕に下さい!』

「アマノ二尉、どういうつもりだ?」

 

 突然の要望にいち早く我に返ったキサカが答える。

 CICの専属要望に、タケルの意図が掴めなかった。

 

『戦況を覆します。リアルタイムで戦況を観測して、僕に指示を!』

「何を言って──」

「兄様、私がやる!」

『カガリ? うん、お願い!』

 

 間髪入れずにカガリが声を上げる。

 カガリがCIC席へと向かうその間に、タケルはビャクヤの2本目も取り出して、瞬く間に周辺のストライクダガーを撃ち抜いていく。

 

「すまない、変わってくれ」

「し、しかし姫様……」

「構わん、やらせろ」

 

 カガリの進言に僅か抵抗の気配を見せるCIC担当であったが、割り込んできた声にまた周囲が驚きを見せた。

 

「あ、アマノ総括!」

 

 国防軍における最高責任者。ユウキ・アマノその人だ。

 

「できるのだな、カガリ姫?」

「無論だ」

 

 ユウキの問いに、カガリは迷うことなく頷いた。

 

 カガリはさしてCICの経験などない。今カガリに席を明け渡した彼の方が経験もスキルも上だ。

 だが、今タケルが求めているのは、高度なCICの担当者ではない。

 タケル・アマノを知り、シロガネを知り、そして彼ならば可能な最善を指示できる人間だ。

 個人の感情ではなく、本当の意味でカガリ・ユラ・アスハ以上にこの役目に適任はいないだろう。

 

「良し、ならば最善を尽くせ──キサカ、指揮系統を渡せ、これより全軍私が指揮を執る」

「はっ!」

 

 タケルへの指示は全てカガリに任せて、ユウキは次々と崩れかけてきた戦況を立て直すために指示を飛ばした。

 バラバラとなっている部隊を集結。これ以上の崩壊を防ぐ姿勢だ。

 

 そしてここからは、オーブ国防軍反撃の時である。

 

 

 

 ユウキの一声でCIC席を譲り受けたカガリは、端末を操作しながら即座にタケルとの通信を開く。

 

「アマノ二尉、後方の敵艦隊からの援護射撃によって前線が押されている状況だ。まずは後方の敵艦隊を一掃して欲しい」

『了解! すぐに全部叩き潰してくるよ!』

 

 馬鹿を言うなと、司令部のオペレーターは何かを言いかけた。

 後方の敵艦隊の数は10を下らない。

 そんな中にMS単騎での突撃など、何もできず撃ち落されるのが落ちだ。

 進言しようと口を開きかけた彼を、だがカガリはそれを制するようにタケルに通信を返した。

 

「急いでくれアマノ二尉。もう国防軍に余裕は無い。前線はもう崩壊しかけている。これ以上抜かれれば味方は総崩れだ」

 

 想定される危険をまるで意に介さない2人のやり取りを見て、彼は理解する。

 自分が否定しようとしたそれを、出来ると信じて疑っていない。

 指示する側も指示された側も……

 

『了解、そっちもなんとかしてみせるさ!』

 

 やるべきことを見据えた瞬間、タケルはシロガネをフルスロットル。

 一気に海上の敵艦隊へと向かう。と同時に通信を繋いだ。

 

「アサギ、マユラ、ジュリ!」

「はい!」

「遅いですよ!」

「聞こえています!」

 

 呼びつけるは、大切な愛弟子たち。

 激戦の中疲労している事だろう。だがそれを感じさせない声にタケルは僅か安心した。

 これから先、彼女たちには更に奮起してもらう必要があるからだ。

 

「今から戦況をひっくり返す! 僕が何とかするからその間前線を持たせて!」

「えぇ!?」

「そんなの」

「無茶ですよ!」

 

 不可能だ──3人は瞬時にそう思った。

 既に多くの味方機がやられている。対して連合は未だ増援部隊を送り続けてくる。

 どうあがいても、彼女達だけでどうこう出来る戦況ではないはずであった。

 

 だがタケル・アマノは言葉を止めない。

 

「いつまで3人で固まってるのさ! 君達はもう一人で戦えるはずだ!」

 

 M2アストレイを駆り、それぞれ適するウェポンパックを装備していながら、3人は固まってまるで背中合わせの様な状態で戦っている。

 しかし、それは本来の彼女達では無い。

 

 初めての戦場が、彼女達を安全な形に閉じ込めさせていたのだ。

 3人が揃っていれば、そう簡単にはやられないだろうと。

 互いに背中を守っていれば不意をつかれる事も無いだろうと。

 そうして無意識に、引いて引いて戦っていた。

 

 だが、そうではないはずだ。

 

 シミュレーションで戦ってきた形はそうでは無かったはずだ。

 これまでに訓練してきたのは、そんな戦い方ではなかったはずだ。

 

 それぞれができる最大限の訓練をしてきた。

 それぞれができる最大限を見出してきた。

 できる事がそれぞれ違うだけで、彼女達はもう他の誰にも負けないM2アストレイのエースパイロットなのである。

 

 アサギが引き付け、ジュリが支援し、マユラが突破口を開く。

 これまで必死に研鑽を積んできた役割があったはずだ。

 

 恐怖に負けるなと、タケルは叱咤する。

 

「君達なら出来るはずだ! 僕とエリカさんが作って、君達が完成させたM2アストレイは、連合なんかに負けはしない! 

 だから見せてよ……アストレイの真価と、君たちのこれまでを!」

 

 

 ドクンと心臓が脈打った。

 アサギ、マユラ、ジュリは、胸元のエンブレムが一瞬だけ燃えたかと思うような熱を感じた。

 これは、彼がくれた証だ。

 自分達は強いと。M2アストレイを扱う最高のパイロットだと認めてくれた証だ。

 

 いつだってそうだ。

 いつだって彼は、欲しい言葉をくれた。欲しい結果を見せてくれた。

 苦しくても辛くても、その先には彼が見せる答えがあった。

 だからここまでやってこれた。

 

 そんな彼が今、自分達に答えを求めている。

 これまでを見てきた彼が、これまでの結果を求めている。

 

 ならば見せよう。

 

 強くて弱くて、優しくて厳しい彼が。

 求めてやまないその答えを。

 

 オーブは……アストレイは、連合なんかには負けないと。

 

「「「了解っ!!」」」

 

 胸の奥に灯った炎を吐き出す様に、3人は声高らかに吠える。

 

「ジュリ、支援をお願い!」

「アサギ、墜とされないでよね!」

「マユラちゃん、敵陣の突破任せたよ!」

 

 始めに飛びだしたのはアサギの機体であった。

 マニューバパックによって追加されたメインスラスターが火を噴き、一気に空中へと躍り出る。

 

 尤も苛烈な最前線。敵機の狙いは集中するだろう。

 だが、アサギのアストレイは速度を維持したまま降下してくるストライクダガーの部隊を次々と屠っていった。

 

「(まだ! 私の役目は、敵の視線を引きつける事!)」

 

 即座に回避軌道に入る。

 アサギに向かって放たれる驟雨の如き光の嵐。

 だが、それをアサギは増援の降下部隊と重なる事で躱し、イーゲルシュテルンとビームライフルの牽制で制し、そしてタケルと散々鍛えてきたその特異なまでの機動力で翻弄する。

 

「まだ……まだ!」

 

 神経を尖らせろ、と自身を叱咤する。

 敵機の射線を把握して、攻撃のタイミングを掴んで──そして躱す。

 

「(躱したらその先! 速度を落とさないで! 振り回されずに、次の動きへ!)」

 

 次々と描いていく限界機動で身体に掛かるGに、臓腑が捩れる様な思いであった。

 アサギの中で、これ以上はまずいと感じる恐怖とこのまま動き続けようとする気迫とがせめぎ合う。

 

「でも……退かない!」

 

 急制動、そこから急加速。一気に接近し、地上にいたストライクダガーをまた1機サーベルで切り裂いた。

 

 

「ここは、私の場所だ!」

 

 

 討てるものなら討ってみろ。

 そう言わんばかりにアサギ・コードウェルはそこで存在感を示し続けた。

 

 放たれる光条を全てを避け、防いでいく。

 

 そうしてアサギが凌いでる間に、一機、また一機とストライクダガーは射抜かれていった。

 

 

 遥か後方で、ビームスナイパーライフルを構える──ジュリ・ウー・ニェンによって。

 

 

 

 

「大型防循展開……」

 

 静かに、ジュリはコクピットに備え付けられたターゲットスコープから敵機を捉えた。

 捉えた瞬間にはトリガーを引く。

 次、次、と引き金を引いては即座に敵機を狙う。

 

 タケルの声で奮い立ったものの、ジュリの思考は冷静であった。

 後方支援を主とする彼女に必要なのは、アサギやマユラの様に勢いではない。

 視野を広げ、冷静に戦況を分析し対処する判断力だ。

 

 前線で敵を引きつけるアサギや、マユラに向く砲火──その悉くを沈黙させるのが仕事である。

 

 戦場にある敵機の数は膨大。その中で2人を脅かす敵機を判断し、撃ち抜く。

 そうして敵を討てば、ジュリとてその存在を察知され狙われるだろう。

 

 だが、それでいい。

 

 彼我の距離は十分に取れている。

 生半な射撃ではジュリのM2アストレイに命中させるだけの精度は出せないだろう。

 半身になって構えているお陰で、大型防循が機体の大部分をカバーできている。

 命中したとしても、大きな損傷を受ける事は無い。

 そうしてこちらに意識を向ければ、アサギもマユラも少しは楽になる。

 

 後は撃つだけ。それで一方的に、敵機を制圧できる状況。

 ジュリは、以前にタケルから言われた事を思い出した。

 

 いくら機動力が高くても、弾丸やビームより早くはなれない。いざという時、最も頼りとするのは自分だと言ってくれた。

 

 我が弱く、いつも二人より一歩引いていた自分を、一番だと言ってくれた。

 

 だから、応えるのだ──その期待に。

 

「ここは、私の距離だ!」

 

 狙い、撃つ。

 ただそれだけを繰り返す。

 スコープ越しで視界に入ってくる敵機を、ジュリは次々と射抜いていった。

 

 スナイプパックに追加されたビームスナイパーライフルにはカートリッジ型の独自バッテリーが装着されており、十分な弾数を誇る。

 予備カートリッジはバックパックに2つ。

 一度補給を受けておいた事が功を奏したと、ジュリは似合わぬ不敵な笑みを浮かべる。

 

 まだまだ、自分の戦いはこれからだ。

 次々と狙い撃つその最中、ジュリの射撃はさらに速度と精度を挙げて、ストライクダガーの部隊に襲い掛かるのだった。

 

 

 

 

「突破口を開きます! 後に続いてください!」

 

 マユラは高らかに声を挙げる。

 周囲にはまだ健在であった国防軍のアストレイ部隊。

 だが、その数は決して多くは無い。

 対して、連合のストライクダガーは数多。

 敵の前線からは絶えず、光の矢が飛んでくる。

 

 しかし、アサギが引き付け、ジュリが制圧していく敵の前線──そこにできた綻びを、マユラは見逃さなかった。

 

 一点。そこを突破すれば、敵の前線は喰い破れる。

 横に広がり、数に頼るだけの戦い。決して連合の部隊の練度は高くない。

 それでもここまでは後方の艦隊から放たれる援護射撃によって押し込まれてきていた。

 

 だが今は違う。

 

 信頼する教官が何とかすると言った。

 敵艦隊へと突撃し全部叩いてくると。

 

 ならば、本土に進行してきた敵部隊を叩くのは自分達の役目だと心に誓う。

 

 ビームサーベルを2本出力。

 順手と逆手でアストレイに持たせて、スラスターを全開。

 地を這うような低さで、マユラのアストレイは飛翔した。

 

 無論、距離を詰めれば攻撃は当たりやすくなる。

 マユラのアストレイには次々と光条が迫った。

 しかし、それを攻撃に合わせて大地を蹴りつける事で大きく躱していく。

 勿論、スラスター全開の高速起動中にそんな事をすれば機体はかなりの反動で宙に舞うだろう。

 だがそれすらも制御し、回避軌道へと変えて、マユラは大地と宙を翔けた。

 柔軟なアストレイの内部フレームと、ブレードパックによって補強された関節部が僅かに悲鳴を挙げる。

 

 それでも、止まらない。

 

「(掻い潜れ! その先に、勝機がある!)」

 

 地を翔け、跳躍し、まるで空を蹴るように鋭角な軌道で機体を翻す。

 

「(私とアストレイは、戦局を覆す一矢なんだ──だから!)」

 

 最前線、居並ぶダガー部隊の只中へと飛び込んだ。

 

「これは、私の役目だ!!」

 

 流れるように一機のダガーの懐へと潜り込んで一閃。機体を回転させビームサーベルを翻す。

 次いで回転の勢いのままにスラスターを噴射。次のターゲットを捉えると、脚部のビームブレイドで蹴り砕いた。

 

 アストレイに向けて再び放たれるビームライフルの光。だがそれを、アストレイは地を這う程に深く沈み込んで躱す。

 再び噴射するスラスターに合わせて踏み込んで、3機目を捌いた。

 

 マユラが作った前線の綻びに、待ち構えていた国防軍が殺到する。

 敵の陣容を崩す一矢。それをマユラは体現して見せた。

 

 

 彼女達の攻勢は終わらない──止まらない。

 

 

 いくら狙っても落とせず、隙を見せれば攻撃に転じてくるアサギ。

 射程外から、次々とストライクダガーを撃ち抜いて制圧していくジュリ。

 気づけば懐に入り込み、嵐の如く前線を吹き荒らすマユラ。

 

 

 いつの間にか連合の前線は瓦解を始め、オーブ軍に押し込まれ始めていた。

 

 

 

 そしてもう1人。

 

「むぅ、まったくもって面白くありませんわ」

 

 M2アストレイのコクピットの中で、少女サヤ・アマノは不満そうに声を漏らす。

 

 いつの間にやら元気たっぷりな兄の姿に嬉しさ半分、傷心の兄を慰める役目を賜れなかった悔しさ半分と言うところ。

 駆けつけた兄が最初に頼るのが古妹と、モルゲンレーテの雌猫3匹なのも気に食わない。

 タケル・アマノを助ける役目は自分のものだ。これだけは譲れない。

 

「隊長、少々勝手をさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「あぁ? なんの進言だアマノ曹長」

「どうやら私には負けられない理由が出来ました故──これより敵陣に向けて吶喊致します」

「はぁ!? 曹長、お前何を馬鹿な事を──」

「お許しくださいませ隊長。この様な機を逃して何もしなかったとなれば、アマノの名に傷がつき父に折檻されてしまいます」

 

 サヤの言葉に、部隊を預かる隊長はゾッとした。

 優秀とは言えサヤ・アマノは齢にして14。その上初のMSにおける実戦。

 生き残れれば十分。敵機を撃てれば勲章ものだ。

 それが今動けなければ実父より咎めを受けるなど、もはや住む世界が違う。

 

 だがそんなこと、サヤ・アマノにとってはどうでも良い。

 本当に大切なのは、敬愛する兄の為に今この機に乗じて戦線を押し返す事。

 兄の願いに、応えること。

 

「できましたら後方よりご助力を。それ以上は求めません」

 

 シールドを構え、ビームサーベルを出力。

 サヤは眼前の敵部隊を見つめた。

 

 

「サヤ・アマノ、これより護国を守る剣となりましょう──いざ、参ります!」

 

 

 ユウキ・アマノの才を受け継いだ鬼才が、敵陣めがけて飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 海上を閃光が翔る。

 

 最大戦速で飛翔するシロガネは、沖合に居並ぶ連合艦隊を目前にしていた。

 

 ずっとその場でミサイルによる援護射撃だけをしていたのだろう。

 まるで動く気がない警戒の低さに、タケルは獰猛な笑みを浮かべる。

 

 よくもオーブへ侵攻してくれた。

 よくもオーブを焼いてくれた。

 

 やられる覚悟はあっての事だろう──今この時だけは、容赦する気はない。

 

 沸々と湧いて来る怒りと共に、タケルはシロガネを翻す。

 最大戦速のまま、居並ぶ連合艦隊へと突撃していった。

 

 

 

「敵MS接近!!」

「迎撃しろ!」

「ダメです、早すぎます!!」

 

 接近してくるシロガネのその速さに、火器管制の対応すら間に合わない。

 連合艦隊を射程距離に捉えて、シロガネは腰にマウントされたビャクヤを取り出すと──

 

「まず一隻!!」

 

 最速のまま接近し、出力した光刃で艦橋を切り潰した。

 どんな戦艦でも艦橋が破壊されればその機能を失う。最も早く、最も確実で、最も簡単な、艦船の落とし方であった。

 

 僅かな間に他の戦艦が迎撃システムを起動し動き出すが、その間もシロガネは艦隊の合間を駆け抜け、すれ違いざまに更に2隻の艦橋を切り潰した。

 

「まだ、この程度じゃ終わらせない!!」

 

 背部にマウントされた高出力プラズマ収束ビーム砲“キョクヤ”を腰だめに構える。

 シロガネが持つ唯一の高出力兵装が火を噴き、更に2隻の艦船を潰した。

 

 直後、ようやく稼働した迎撃システムから放たれたミサイルがシロガネを狙うも、即座にシロガネは再びの高速機動へ移行。

 

 イーゲルシュテルンとミサイルの雨がシロガネを襲った。

 だが、今のシロガネに──タケル・アマノにそれは届かない。

 SEEDによる知覚領域の拡大。反応速度の上昇。

 数多の射線を把握して最善の回避軌道を選ぶ事が、今のタケルにはできた。

 

 まるで落雷の如き軌道を描いて、次から次へと連合艦隊へと接近してはビャクヤで艦橋を叩き切っていく。

 

「まるでなっちゃいない……この程度なら、サイ君たちの方がよっぽど優秀だ!」

 

 対応は遅く、火器管制は杜撰。

 所詮は数だけ頼みの力押し。いざ懐に入り込まれ窮地に立てば、こうも簡単に脆さが露見する。

 

 タケルは、それを知らしめるように残る戦艦をキョクヤで撃ち抜き、壊滅させた艦隊を置き去りにして、更に後方の旗艦へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 旗艦パウエルの艦橋は大混乱に陥っていた。

 

「オーブ軍、戦線を持ち直しました!」

「先方艦隊、通信途絶!」

「何だと! 何がどうなっている!」

「敵勢力はMS1機とのこと!」

「馬鹿な! そんなことあるわけが」

 

 突然の戦況の変化。

 これまで優位に進んでいたはずの国土の前線が押し込まれ始め、同時に前方で援護射撃に徹していた艦隊の通信が途絶。

 どこか超常的とすら思える変化に、情報が錯綜する。

 

 艦長のダーレスが更に詳細な報告を求めるがそれよりも早く、アズラエルは異変を察知して後方で控える副官へと視線を投げた。

 

「ユリス、貴方はディザスターに乗って出撃し待機していなさい──迎撃準備を」

「はい、アズラエル様」

 

 地球軍の軍服に身を包んだ、まだ幼さすら垣間見えそうな女性士官であった。

 年の頃はキラやタケルと変わらない。

 淡い青の瞳をアズラエルに一度だけ向けてから小さく頭を下げて、混乱の途にある艦橋を気にした様子もなく一人静かにその場を消えていく。

 パイロットスーツを着てアズラエルが指示した通りにMS格納庫へと向かった。

 

 そこにあったのは紫電を思わせるような色合いのMS。

 Xシリーズ後継発展機の最後の一つ──X411ディザスター。

 ストライクの発展機として開発された全距離対応型のMSである。

 大小5つのブロックで形成される大型スラスターに、右肩には320mm高出力ビーム砲シュバイツァを装備。

 両腕部のガントレットアームにビームサーベル発生装置を備え、携行武器にはビームライフルとシールドを備えた機体である。

 ムウが乗るパーフェクトストライクの様に、付け焼刃の全距離対応型ではなく、設計段階から構想を練られた、正にストライクの後継機と呼ぶに相応しい機体だ。

 

 コクピットに乗りこんだ“ユリス・ラングベルト”は、機体を起ち上げながら小さな声で呟いた。

 

「感じる。やっと会えるのね────楽しみだわ」

 

 どこか感情が希薄な様子でありながら、その瞳だけは暗いコクピットの中で爛々と輝いていた。

 

 

「ユリス・ラングベルト。ディザスター、いきます」

 

 

 パウエルのMSハッチが開き、ディザスターは空中へと飛び出した。

 

 

 オーブ攻防戦は、再び混迷へと向かっていく。

 

 




書いてて楽しかった。
こうして活躍させたかった。
強すぎ? 本作において彼女達は開始時点よりも前からMSパイロットやってたので許して。

シロガネの設定資料は戦闘落ち着いたところであげますのでお楽しみに。

それでは。
感想、心よりお待ちしております。

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