機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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幕間 激闘の隙間

 

 

「はぁ、はぁ、クソー!!」

「頭がぁ……」

「ち、きしょう……あぐっ!」

 

 パウエル艦内。MS格納庫にて床にへばりつく様にブーステッドマンの3人は苦しみを露わにしていた。

 戦闘前に投与されたγグリフェプタンは、効果時間が切れると恐ろしい依存性と禁断症状に苦しむ危険な成分である。

 ナチュラルが後天的にコーディネーターよりも高い能力を得るには、大きな代償を伴うという事だ。

 

「アズラエル様。良かったのですか?」

「ん? 何がですか、ユリス?」

「先程飛ばした通信です。増援部隊など呼ばなくても、次の戦闘に初めから私が出れば──」

 

 ユリスの言葉は続かなかった。

 乾いた音が鳴り響き、ユリスの頬はわずかに赤味を帯びている。

 振り上げられたアズラエルの手が再び振り下ろされ、二度目の乾いた音が鳴った。

 

「思い上がるなよ小娘。お前の様な出来損ないが……どうにかできるとでも思ってるのか、あぁ!」

「も、申し訳──」

 

 二度、三度と痛みの走る頬を抑えながら、ユリスは怯えたように肩を竦めて顔を俯かせる。

 そこにタケルと相対した時のような、自信と威勢に溢れた様子はない。

 そうなるように仕立て上げられている──そう教育されてきているのだ。

 

 戦闘に出た際に──MSのコクピットに乗り込んだ時にだけ精神状態を変える。

 それ以外では従順な人間であるように心理操作と暗示がかけられている。

 薬による禁断症状こそ無関係だが、ユリスの扱いはブーステッドマンと同じであった。

 

「二度と思い上った言葉を吐くんじゃない。僕はそういう能力に任せた思い上がりが大嫌いなんだよ」

「は、い……申し訳ありません」

 

 ちっ、と小さく舌打ちをしてアズラエルは艦内に用意された自分の部屋に入ると、椅子に座り込んで今日の戦闘のデータを確認する。

 

 ユリスが言った様に、アズラエルは想定以上であったオーブの戦力を鑑みて増援を要請していた。

 今日の結果は痛恨の極みと言えるだろう。

 想定した結果を大きく外れるこの事態にはそれなりに必要な修正舵を切る必要があった。

 次の戦闘ではディザスターをパウエルの直衛に回す余裕もないだろうと、アズラエルは考えていた。

 本来であればストライクダガーとカラミティ、フォビドゥン、レイダーの3機だけで十分制圧できる予定であったのだ。

 それを覆したのは、その3機の攻勢を一手に引き受けていた白い高性能機。そして更には増援として出てきた真紅の機体と、パウエルまで肉薄してきた白銀の機体。

 そして、数の不利をものともせず押し返してきた、大勢を決めたであろう量産機の性能差。

 

 全てが想定外の戦力であった。

 たかが一国家の保有する戦力と軽んじていた部分は確かにある。

 だがそれでも、連合との国力の差は歴然。このような結果は本来あり得ない。

 そのあり得ないを起こしてきたオーブに、もはや油断などできるはずもなかった。

 

 次の侵攻で仕留めきれなければ、今度はこちらが疲弊する。

 先にはビクトリアへの侵攻も控えているのだ────搦手が必要であった。

 

「あまりスマートではありませんが仕方ないですね。そちらが徹底抗戦の構えだというのなら、こちらも存分に札を切るだけです──アスハさん」

 

 静かな部屋で、アズラエルは1人不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈み始めた夕日がオーブの海に反射し、世界を茜に染める。

 

 先程まで激闘の最中にあったとは思えない静けさの中、国防の為に奮戦した者たちは機体から降りて、ようやく肩の力を抜いて休んでいた。

 

「皆、よくやってくれた! 撤退した理由はわからないが、今はとにかく少しでも休んでくれ!」

 

 カガリはそんな前線で戦ってくれた者達を労いに、キサカと共に顔を出しに来ていた。

 皆一様に疲れた顔をしていたが、その中でもとりわけグッタリとしていたのがアサギ達である。

 戦況を変える起点となった彼女達はそれこそ、死ぬほど必死に戦ってくれたのだろう。

 カガリは国を守ってくれた彼女達に心底感謝した。

 

「お疲れ様、3人共」

「あ、アマノ二尉」

「もぅ、ホントに疲れました」

「アマノ二尉こそ、お疲れ様です」

 

 タケルもまた、そんな彼女達を労うべく飲料チューブ片手にやってきた。

 

 連合の動きが急すぎた事を踏まえたとしても、肝心な時にオーブを留守にしていた責任は重い。

 その分SEEDへの理解を深め、より高い練度でシロガネを使えた事は間違いがない。

 が、それでも押し込まれていた戦局に彼女達を叱咤して、無理をさせた自覚はあった。

 

「アサギ、マユラ、ジュリ……君達が頑張ってくれたお陰で僕も間に合ったし、オーブも守ることができた。本当に──ありがとう」

 

 屈託なく笑うタケルに釣られる様に、アサギ達も疲れた気配を潜めて、だがどこか苦笑するように返す。

 

「いえ……」

「結局アマノ二尉が来なかったら」

「私達ダメでしたし……」

 

 初の実戦で恐怖に囚われていたとは言え、タケルが来るまで自分達の戦いを忘れ及び腰でいた。

 これまでの訓練を忘れて、自分達の戦いができなかった事は恥ずべきことだと、彼女達は自戒していた。

 

「そんな事ないよ。国防軍の部隊でもM2をまともに扱える人は少ない。そんなM2を駆って防衛の最前線をずっと戦い抜いた。それだけでも、勲章ものだ。

 その上で、僕の呼びかけに応えてくれて──無茶もさせた。ホントに、お疲れ様」

 

 タケルの賛辞に、今度こそアサギ達は照れ臭そうに顔を赤らめて笑みを浮かべた。

 

 彼女達からすれば礼を言うのは寧ろ自分達だという想いである。

 

 これまでの教導が有ったから、今日を戦えた。

 これまでの訓練が有ったから、戦いを生き残れた。

 あの時、彼の言葉が有ったから、彼女達は戦局を覆す大きな一矢となれたのだ。

 

 タケル・アマノがアストレイを作り上げたから。

 彼女達はオーブを……大切な祖国を守ることができたのである。

 

 守りたいと思うのは、彼だけではない。

 守れて良かったと思うのは、彼だけではないのだ。

 

「兄様」

「ん? 何、カガリ」

「あれを……」

 

 アサギ達が改めてこれまでの礼を述べようと。

 そんな気配になったところで、カガリが呼びつけてタケルはそちらへと視線を向けてしまう。

 空気の読めないお姫様に心の中で罵詈雑言をぶちまけながら、仕方なくアサギ達もその視線を追った。

 

 空から降りてくるフリーダムと、戦闘中に現れフリーダムを援護してくれたジャスティス。

 2機のMSが少しの距離をとって、地上へと降りてきたのだ。

 

「兄様は味方だって、通信で言ってたよな。向こうのパイロットは?」

「カガリは知ってるよね。ザフトのアスラン・ザラだ」

「ア、アスラン!? なんで──」

「それがわかるのは、これからじゃないかな? 尤も──」

 

 先の戦いを見る限り2人にもう争い合う気はないだろう。と、タケルは半ば確信しながら続けた。

 

 

 茜に染まる岬のほとりで、死闘を経た親友2人が、今静かに邂逅を果たす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いに機体を降りて、夕暮れの光が差し込む中向かい合う。

 

 キラは久しぶりに見るアスランの壮健な姿に、小さな嬉しさを覚える。

 

 降りてきたアスランのパイロットスーツを見て、オーブ軍の兵士の何人か銃を向けたが──

 

「銃を下ろしてください。必要ありません」

 

 よく通る友人の声がそれを制してくれて、キラはまた一つ嬉しくなった。

 キラが知る限りでは、タケルはアスランとは初対面のはず。

 だが先程の戦いでも、タケルは長い時を共にした戦友のようにアスランと呼吸を合わせていた。

 親友でありながらどこかぎこちない自身と、アスランの間を取り持つように。

 自分とアスランの両方に合わせてくれていたのだ。

 

 自分の知らない所で、きっと彼は目の前にいる仏頂面の親友とも、いつの間にか縁深くなっていたのだろう。

 数奇な運命を辿ってるなぁ、と心の奥底で苦笑してしまう。

 

 

 手を伸ばせば届く距離。

 そこまで来てやっと、キラはアスランと視線がぶつかった気がした。

 

 

 トールを殺した相手。

 憎しみを向けた、嘗ての親友。

 

 しかしいざ再会してみれば、キラの胸に去来するのは死闘の果てに互いが無事で有った事。

 そして、再び彼と友として相対する事に、嬉しさを覚える。

 

「やぁ、アスラン」

「…………キラ」

 

 ぎこちない表情を見せるアスラン。

 対してキラは、そんなアスランの様子に苦笑してしまう。

 

「不思議だ。君と会ったら、ホントは色々話したい事があったはずなのに」

「俺も……だ。お前と会ったら、聞きたいことがたくさん有った」

「でもいざこうやって会えると、なんだか色々と飛んでっちゃって」

「あぁ…………でも」

 

 示し合わせたかのように、2人は自然と口を開いた。

 

「生きててくれて良かったよ」

「生きててくれて良かった」

 

 それが、死闘を演じるまで憎しみを抱いた友に向ける。

 一番最初に伝えたい感情だった。

 

「お、お前らぁああ!」

 

 ぎこちなく笑い合う2人の空気をぶち壊すように、どこか怒りすら見えそうな声を上げて突撃してくる少女。

 

「わっ!? カガリ」

「な、なんだ急に?」

「うるさい! 散々2人して心配ばっかりかけやがって! この大バカ野郎達が!」

 

 2人が殺し合った事を知って。

 2人が互いに相手を憎んだ事を後悔していた事を知って。

 一番気にしていたのがカガリだ。

 

 ようやく。

 本当にようやく、2人が笑い合える時が来た事に、カガリは涙と共に喜びを見せていた。

 言葉だけは素直でないところが彼女らしい。

 だがそんな素直じゃない優しさにキラもアスランも思わず笑みをこぼした。

 

「はぁ、全く……我が妹ながら空気の読めない子でゴメンね、2人とも」

「タケル。そこがカガリの良い所じゃない?」

「い、良い所なのかこれは……?」

「な、なんだよ! 良いだろう別に! 大体、いつまでも言いたいことが言えずにいる、女々しいお前達が悪いんだからな! 見守るこっちの身にもなってみろ! バカ!」

「むしろカガリこそ、せっかく分かり合えてそうな雰囲気だったのに、男らしく突っ込みすぎだよもう────とりあえず2人とも、話したい事や伝えたい事はまだまだあるでしょ?」

「あぁ、そうだな」

「うん、そうだね」

 

 タケルは2人の返答に小さく頷くと視線をモルゲンレーテの敷地へと向けた。

 

「機体の整備だって必要だし──場所、変えようか」

「そうだな。次の侵攻にも備えなきゃいけないし──行くぞキラ、アスラン!」

 

 2人の腕を強引にとって連れて行こうとするカガリ。そんな3人を、タケルは後ろから微笑ましく見つめる。

 

 キラとアスラン──夕暮れで伸びた2人の影が、間に立つカガリの影で繋がる。

 

 奇しくもそれが手を繋いでるように見えて。

 タケルは1人静かに、喜びのため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宛てがわれた部屋。とは言っても、ユリス・ラングベルトの扱いはブーステッドマンである彼等と同じ。

 必然、被験体用の簡易なベッドが4つあるだけの少し広い部屋で、ユリスは静かに時を過ごしていた。

 

 アズラエルからは次の侵攻は明朝なので、それまで休んでおけと命令されている。

 明日は最初から出撃するとも聞かされており、彼女は昼間の戦闘に想いを馳せていた。

 

 自身とよく似た少年。

 似てるなんてものではないそれは、性別の違いこそあれ同一人物に近い程に酷似しており、その姿にユリスは確信を得た。

 

 あれは、ずっと探し求めていた兄であると。

 

 被験体283号──それが彼の名であるはずだった。

 そして、ユリス・ラングベルトは被験体284号である。

 

 人工子宮研究において生み出された最後の被験体、及び成功体283号タケル・アマノ。

 だが、正確には違った。

 彼女、ユリス・ラングベルトこそが最後の被験体──被験体284号。

 タケル・アマノがキラ・ヤマトより数ヶ月早く人工子宮より産み落とされていたが為に。

 キラ・ヤマトが生まれるその時まで人工子宮2号機で生育されていた最後の被験体。

 そして生育状態のままブルーコスモスの襲撃を受け、更にはそのまま産み落とされてしまった──タケル・アマノと全く同じ遺伝子を持つ少女であった。

 

 なぜ彼女は、生きて生まれてしまったのか。

 

 完成していた人工子宮には、ブルーコスモスに限らず、一つの大きな可能性があった。

 ──そう、医療目的である。

 

 ヒビキ博士によって最高のコーディネーターを生み出す計画へと変貌してしまった人工子宮の研究であったが、母体の不安定性を解消するための目的であった。

 つまりは、母体への負担を気にせずに子を成すことも可能であるという事だ。

 病気、怪我、その他様々な要因で子を産めない女性。そんな人達にとっては大きな希望となる。

 子を産む機能が正常であっても、胎児を安定した環境で生育し取り上げられるということは、流産や未熟児といった問題への一つの解答となる。

 

 人工子宮2号機は、回収されたのだ。

 

 結局、ユリスはそのまま生まれたものの、人工子宮が世に広まらなかったという事はやはり諸々の問題があったのだろう。

 未完成であったか。或いは倫理の壁がつきまとったか。

 定かではないが、現実としてブルーコスモス監視の下、ユリス・ラングベルトは生まれた──生まれてしまった。

 

 研究施設で生まれ、ユリスは検査と実験に使われる日々を過ごした。

 物心つく頃には既に、コーディネートされた高い能力が知られており、地球連合の研究施設へと移されていた。

 そこからは人間兵器として扱われる日々。

 

 最高のコーディネーターか、最高の人間兵器か。

 ヒビキ博士にしろ、地球連合にしろ、愚かで邪悪なのは人間という種において共通なのかもしれない。

 

 

 ユリスは絶望の日々を過ごしてきた。

 とは言っても、ユリスはその絶望というものを知らなかった為、彼女が絶望の最中に生きてきたのかは不明だ。

 

 ただ、辛く苦しい実験の日々を生きてきた。

 

 戦闘訓練という名の暴行。教育という名の虐待。

 年を重ねる事に際立ってきたコーディネーター故の整った容姿のせいで、研究員の慰み者になった事もあった。

 生きる理由はどこにも無く。生きる意味もどこにも無かった。

 

 

 そんな時彼女は、戦場で真実を知った。

 自身の存在を。人類の業を。

 

 その日初めて、ユリス・ラングベルトは生きる意味を見つけた。

 

 

 

 

「明日は兄さんと、もう1人の方にも会いたいな。会えるかな?」

 

 薬の禁断症状に呻くオルガ達の苦しむ声を聞きながら、ユリスは小さく呟いた。

 声だけ聞けば幼さが残る可愛らしいと言える声である。

 容姿だけ見れば、儚げで庇護欲を掻き立てる容姿をしている。

 

 だと言うのに、その瞳はそれ等をかき消すほど不気味な妖しさに揺れていた。

 

「ふふふ、楽しみだな」

 

 コロンといった風に簡易ベッドへと横たわると、ユリスはオルガ達の呻き声を子守唄にしてスヤスヤと眠りについた。

 

 規則正しい寝息と夢見心地な寝顔を見せて寝る姿が、周囲で苦しむ3人の様子と相まって、殊更不気味に映るのであった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モルゲンレーテへと戻ったキラ達は、そこで様々な事を話した。

 

 いつの間にか集まっていたマリュー達。アークエンジェルのクルーや、エリカ等モルゲンレーテの面々。

 もちろんその場にはタケルとカガリも居合わせている。

 

 そんな中で、キラとアスランは語る。

 互いに撃ち合ったあの時の事も。

 互いに乗り越えた今、何を思っているのかも。

 

 先程は上手く言葉にできなかった事を、全て伝え合った。

 

 ニコルを喪い、トールを喪い、互いが互いを憎んだ先で。

 2人は、平和な世界を望んでいた。

 

 激化していく戦争。

 その最中、陣営を定めようとせずにオーブが選択した道。

 

 辛く、厳しい道であっても。

 それが今の世界には必要な事だと信じて、キラは戦う事をアスランに伝えた。

 

 

 そうして、長い時間をかけて互いを話した後の事である。

 

 

 

 タケル・アマノは静かに、だが酷く真剣な表情で切り出した。

 

「ねぇ、アスラン。実はさ、どうしても君に確認しておきたい事があったんだけど今聞いても良いかな?」

 

 瞬間的に、すぐ傍に居たキラはタケルのその気配と言葉に、危機感と既視感を感じた。

 キラはこれを知っている。

 完成された軍人が見せる濃密な圧と言うべきか。まるで有無を言わさず嘘を許さない──そんな気配である。これをつい先日体感した記憶がある。

 

「あ、あぁ……なんだろうか?」

 

 そんなタケルの気配に気圧されて、アスランは小さく肯定する。

 がしっと効果音がつきそうな音を立てて、アスランの肩が掴まれる。

 ミシミシと聞こえそうなその力。とても肩に手を置く、なんて表現では足りない気配にアスランが面食らうなか、タケルは静かに口を開いた。

 

「以前無人島で遭難した時に、無理矢理カガリを裸に剥いたって──本当?」

「ぶっ!?」

 

 反応は多種多様であった。

 

 カガリ関係である事は想像ついていたものの、真面目な好青年であるはずの親友の鬼畜な所業が予想外すぎて、口を開けて驚きの様子を見せるキラ。

 なぜか目が光り、どこか面白そうに表情を緩めるマリューとムウ。

 よく知った友人としての関係性を保っていたアサギ達は、いつの間にかカガリが大人の階段を登っていた事実に口元を押さえて慄いた。

 

 当事者であるカガリは、その時の事を思い出したのか羞恥に顔を朱に染めて、アスランもまた同様の様子を見せながら慌てて首を横に振って弁解の言葉を口にする。

 

「ま、待て!! 完全なる誤解だ!」

「兄様っ!! こ、こんなところで何をふざけた事を言ってるんだ!」

「ふざけてないよ。とても真剣な話。大切な妹が傷モノにされたのなら、僕は命を奪うことも辞さないつもりだ。そりゃ確かにカガリは可愛いから、手を出したくなっちゃうのは仕方ないかもしれないけど……流石に無理矢理って言うのはちょっといただけないと思う。ましてやその時2人は初対面でしょ? もし無理矢理なら一生残る傷になるよね。もし本当だったら僕、本気でアスランの事殺すからね……教えてアスラン。カガリに手を出してはいないよね? 触れてないよね? ね?」

 

 あぁだめだこれは……多分止まらないやつだ、と思いながらも、キラは藪蛇はゴメンだと口を噤んで静かに2人から離れていく。

 

「待てタケル! 断じて、誓って俺はやってない! 俺はただ、俺のせいでカガリが(服を)濡らしてしまったから(風邪を引かないように)脱がせてあげただけで決して!」

「ばっ、バカアスラン!! なんでそう、大事な部分をぼかすんだよ!」

「えっ……い、いや、ちが、違うんだって!」

 

 ストンと、タケルが四つん這いになって崩れ落ちた。

 しかしそれは嵐の前の静けさ──そうキラには思えた。

 何故ならまだ近くにいたキラには聞こえるのだ。

 

「カガリが、濡れて……アスランが脱がし……濡れ、脱がし……濡れて……」

 

 怨嗟にまみれた、呪詛の如き声が。

 キラとて思春期真っ只中。以前にムウから保健体育()の授業も聞かされている。

 今、タケルの脳内で駆け巡っているであろう光景は容易に想像がついた。

 対象がせっかく仲直りした親友と、大切な友人であるだけに、すぐその想像を振り払うが、代わりに今この時のタケルの心情がとんでもないことになっているのは想像に難くない。

 

「アスラン、今すぐここから離れた方がいいよ……場合によってはジャスティスに乗った方が良いかも」

「そ、そんなにか!?」

「いやぁ、お前はムッツリだと思っていたが、やっぱりヤる時はヤるんだな。見直したぜアスラン!」

「ディアッカ!! なんで──いや、こんな時にふざけるのはよせ!」

「良いから早く逃げないとまずいってアスラ──」

 

 キラの言葉が止まる。

 幽鬼の如くタケルが再起動して立ち上がる。

 俯きその表情は読み取れないが、その存在感だけは徐々に膨れていった。

 

「アァスゥラァンン!!」

 

 俯いた顔を上げてアスランが目にしたのは、血の涙を流さんばかりに悲しみと絶望と憎しみを湛えた少年とてつもない形相であった。

 

「アスラン、逃げ──」

 

 キラが最後の警告を発するより早く、タケルがその身体能力に任せて飛びかかる。

 だが、アスランもさるもの。ザフトのエリートとして、十分な訓練を積んできたアスランもまた、身体能力という点ではタケルに劣らない。

 反射的に飛び掛かってきたタケルを躱して、距離を取った。

 

「じょ、冗談じゃない! こんな冗談みたいな話で死んでたまるか!」

「冗談でカガリを!? もう絶対許さないよアスラン!」

「だからなんでそうなるんだ!!」

 

 我関せずでいた周囲の人間は理解する。

 

 カガリが関わると、タケル・アマノは目だけでなく耳も頭もバカになる、と。

 

「あすらぁああん!!」

「こんな事でやられてたまるか!」

 

 今ここに、生死をかけた壮絶なる鬼ごっこが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「って言う感じの妄想を2人が話してる時に思いついちゃってたのよ」

「マリュー、お前……艦長職のストレスで頭が……」

 

 




どこまでが本当でどこまでが嘘なのかは神のみぞ知る
止めてくれたのはお母さん(お姉さん)ズ。
アスランは説明が下手すぎてカガリに怒られた。

人工子宮の設定はタケルとユリスの設定と共に出来上がりました。


感想よろしくお願いいたします。

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