[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ 作:日常系好き
「────ここは、海か?」
オグリキャップ。 彼女はふと、目の前に砂浜と海以外…何も無い空間に自分が居る事に気付く。
「私は確か…カサマツの練習場で走り込みを終えて…ご飯をお腹いっぱい食べて眠くなってきたから、そのまま自室で横になって……そうか! これは夢なんだなっ!」
段々とハッキリしてきた意識の中で彼女は今までの自分を行動を思い返し、さらには自分の顔を引っ張ってみたり、つねったりして痛みを感じない事に気付いた結果、この状況を自分の頭が見せている“夢の中”であると結論付けた。
「まずいな…少しだけ仮眠をと思ったけど、大分深く眠り込んでしまったようだ 早く起きて午後の練習に戻らないと……」
夢と自覚した以上は早く目覚めなければと彼女が砂浜を全力で駆け抜けるも夢の世界からは抜け出せず、意図せずして午後のランニングが夢の中で始まったのであった。
「ハッ、ハッ、ハッ…流石は夢の中だな、いくら走っても疲れが全然来ない……むしろ、気分がどんどん上がって行くぞ」
「それはそうさ ここは天国だからね」
突如、自身の横から聞こえた声に驚いた彼女が振り向くと驚愕のあまり足は止まり、ランニングを中断する事になってしまった。
彼女が足を止めるのも無理はないその相手とは……
「あ、“アイアン木場”!?」
「やあ、久しぶりだね オグリキャップ」
かつてオグリの父、宮沢静虎と兄、宮沢熹一と死闘を繰り広げた伝説のプロレスラー、アイアン木場が其処には居た。
「な、何でお前が…いや、昔キー坊も“TKG”の決勝が終わってお前に会ったと言ってたし、『ここは天国』って…私は死んでしまったのか!?」
「“TDK”だよ 私主催の大会名も碌に覚えてないとは…相変わらず私の事が嫌いなようだね」
「当たり前だ! 私が子供の頃にお父さんの闘う姿を見る羽目になったのは国へ帰れなかったミハイルさんを騙していたお前の所為なんだからな!!」
「…ミハイルか、懐かしい名前だ 彼は元気でやっているかい?」
「ああ、この前の早朝ランニング中にたまたま会ったんだが、今度国へ帰れる事になったらしい 嬉しそうにしていたよ…って違う!」
昔を思い出し、彼女からすれば珍しい“怒りの感情”を露わにしていたのだが、目の前に居るアイアン木場からは生前のような獰猛な覇気は感じられず、穏やかに話しかけてくるものだからオグリにしてはこれもまた珍しく“感情が迷子になる”という状態に陥っていた。
「そもそも私は何で死んでしまったんだ!? キー坊程じゃないが私だって“タフなウマ娘”って言われているのに……」
「キー坊の時と同じさ 君も“愛”を全うして…いや、“その途中”を走り抜けて来たから今、ここに居るんだ」
「“愛”って…昔、
「君は少し前にジュニアクラウンを制しただろ? その時の心境さ」
「それこそ違う…あの時の私にあった気持ちは『負けたくない』って気持ちだけだったから」
「その『負けたくない』には競った相手への“純粋な感謝”しかなかったからさ 君達アスリートに比べて、我々格闘家がそこまでの心境に至れるのは…それこそ“命懸けの相手”くらいだからね」
「……お父さんとキー坊、そして…ガルシアの事か」
「“ウマ娘”という存在は基本的に競い合う事を重視し、争いには興味が無いものだが…君はその中でも特に純粋な様だ 他者に対しての妬みや嫉みがほとんど感じられないのさ」
オグリはこの言葉に思わず黙ってしまう。
それは目の前に居る男の突然の賞賛に対して感じ入った…などという事では一切無く、新たな怒りが湧き出て来たからである。
「……妬みだの嫉みだの、私は確かに一緒に走った相手にそんな事は考えてはいない だけど…嫌いな相手だって間違いなく居る……アイアン木場、お前みたいな奴だっ!」
「…改めて、君が私を嫌っている理由を聞かせてくれないか?」
「ああっ! まず、私にとってこの世で一番大切なのは“家族”だ! お前は自分の勝手な都合で家族であるお父さんとキー坊に迷惑を掛け続けた!!」
「…そうだね」
「次に自分の家族に対しての扱いだ! “キバシン”はキー坊のお蔭で今では私達とご飯に付き合ってくれるまで仲良くなれたが、“キバカツ”はお前の教えの所為で今でも我が家にちょっかいを掛けてくるからキー坊が嫌そうな顔をしているのが見ていて辛い!!」
「活一郎…今でも私の教えを守っているのか」
「まあ、キバカツはこの前、私の従弟の姫次に成敗されたから良いんだが…何より、私がお前を嫌っている一番の理由だが……」
「…何だい?」
「お前が死んでしまって、お父さんとキー坊を悲しませた事が、本当に許せないんだっ!!」
「……っ!?」
「キー坊の泣いた所は小さい頃からさんざん見て来たし、私も見せて来た けれど、お父さんがあんなに悲しんでいる姿を見たのは初めてだったから…そんな
今までずっと言いたくても言えなかった思いを爆発させたオグリは普段見せている“敬愛する叔父、尊鷹の真似”という仮面も脱ぎ捨てて、一人の少女として目の前に居るアイアン木場に言い放った。
「私はお前の事が嫌いだ! 大嫌いだ!! 勝手に死ぬなっ!! テレビでお前の姿が映る度にお父さん達に悲しい顔をさせるなっ!!」
「……………」
「…これが、ずっと私がお前に言いたかった事だ やっと言えて、満足した」
「…やっぱり、ずるいんだな 宮沢家の男達というのは」
「…いきなり何だ?」
「私はね、自分の父のように、強くなれば妾だった私の母や本妻のような“良い女”が手に入るのだと信じて疑わなかった…だが、現実は違った」
「当たり前だろう お前は確かに強いんだろうけどお父さんやキー坊と比べて全然優しくなんかなかったんだからな」
「だからこそ君の母…そして今では君を含めた“二人の良い女”に愛されている宮沢静虎とキー坊が心底、羨ましいのさ」
「……お前の話はこれで終わりか? だったら私はそろそろ帰りたいんだが」
「ああ…小さい頃は足も碌に動かず、キー坊の後ろに付いて来た子供の成長が見れて満足だ 今まで、引き留めてしまって済まなかったね」
その言葉と共にアイアン木場の姿は徐々に薄れていく。
「アイアン木場、最後に良いか?」
「…何だい?」
「言いたい事を言ってすっきりしたから、もう私はお前の事が嫌いじゃ無くなったようだ」
「…そうか 君の心残りが無くなったのなら、何よりだ」
そう言い残し、男の姿は完全にオグリの目の前から消え去った。
そして次の瞬間には────
【今年で※※※※※※の※回忌となりましたが、彼の雄姿をもう一度ご覧ください】
「………ん? 私は、寝ていたのか?」
「おい、起きたかオグリ! 昼飯食べて寝てたら全然起きないからな、心配になって医務室にベルノと一緒に運んだんだが……」
「うんっ! 軽い検査はしてもらって異常なしって言われたけど…このまま目覚めないなら病院へって思ってたんだよ」
担当トレーナーである北原穣と友人であるベルノライトの二人が安堵した表情で目覚めたオグリの前に居たのだった。
「キタハラ、ベルノ…心配を掛けてしまって済まない 何か…長い夢を見ていた様なんだが、どうにも思い出せなくて……」
「起きてくれたんなら、それで十分さ」
「トレーナーさんの言う通りだよ どこか調子の悪い所ってない? あったら念の為に病院で見て貰わないと」
「大丈夫だよベルノ 私は元気だし、もし調子が悪くてもその時はお父さんに診て貰うから」
「あれ? オグリちゃんのお父さんってお医者さんだっけ?」
「いや、違うんだが 私のお父さんは……」
【素晴らしいですね “アイアン木場”の技の運び方は正に芸術的だ 彼を超えるプロレスラーは今後、現れるのでしょうか?】
「やべっ!(プツッ」
オグリの視線が点けていたテレビの“アイアン木場特集”に向いた事に気付き、北原は慌てて電源を切る。
理由を尋ねた事は無かったがアイアン木場の話題が出ると彼女の機嫌が目に見えて悪くなってしまい、自然と話題にすら出さないという暗黙のルールが出来上がっていたのだった。
「小声)トレーナーさん、何でテレビ点けっぱなしにしてたんですかっ!?」
「小声)す、すまん…オグリは嫌ってるようだが俺個人としては大ファンでさ、寝ている間までなら大丈夫かなと思って…」
「いいよ、テレビを点けてても」
「えっ!? でもオグリ、お前…」
「そうだよオグリちゃん、大丈夫なの?」
「…うん、良いんだ二人とも 何故だか分からないけど、もう私はアイアン木場の事が嫌いじゃなくなったらしい」