[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ 作:日常系好き
一日遅れですが猿渡哲也先生、お誕生日おめでとうございます。
「(な、何で俺は今こんな状況になってるんだ…?)」
オグリキャップの担当…否、今度から“元”担当になる事を自身で決意した北原穣は現在、オグリと来た定食屋で恐怖に震えていた。
『ダイヤの原石が“今の”己の下に居ては決して磨かれない』という事を自覚して相棒との別れを決める覚悟を見せた男が今…歯をガチガチと鳴らし、胃は重さを増して吐き気が込み上げ、目の焦点は合わなくても誰が彼を責める事など出来ようか、何故なら現在、隣に居るオグリと彼の目の前に居る人物とは─────
「オグリ…また、背が大きくなったか? ちゃんと飯食えてるなら何よりだ」
「“リキちゃん”、久しぶりだな リキちゃんは最後に会った時より少し痩せたな でも、元気そうで安心したよ」
“関東道城会系新藤組の現組長”新藤力丸…いわゆる“ヤクザ者”が突如現れて自分達が据わっている席の隣向かいに腰掛けていたからだった。
「…ったく、相変わらずの“リキちゃん”呼びかよ オグリよ、前々から思ってたがお前はキー坊の影響を受け過ぎじゃないか?」
「キー坊は気に入った人に愛称を付けるからな それはつまり“良い人”だって事だから私も倣って呼ぶ事にしてるんだ」
「…“良い人”ね そいつは間違っても“人殺したヤクザ者”に言う言葉じゃねぇんだが、そこの所……分かってんのか?」
「ヒィッ!!」
先程まで穏やかな調子から一変し、剣呑な気配を放つ力丸に北原は意識を手放しそうになるも、当のオグリは気にしていない様子であった。
「リキちゃん、ここは“皆が楽しく食事をする場所”なんだ 恐がらせる様な事はやめてくれ」
「……初めて会った時から思ったが、お前等兄妹の肝の据わり様はなんなんだ? 俺達の仕事は人を怖がらせる事だってのに、まるで風に吹かれた柳みてぇな顔しやがって」
オグリの指摘を受けてあっさりと気配を霧散させた力丸は呆れた様子で彼女に疑問を投げかける。
「別に…私が子供の頃、お父さんの腕を切ろうとしたヤクザのおじいさんから始まって、その後も家族絡みの荒事は頻繁あったから…慣れただけだよ」
「お前等の家も、色々大変だったんだな……それでもキー坊は“ハイパー・バトルを優勝”、お前も今度はカサマツから“中央へデビュー” 表の世界の花形に成れたんだ、大したもんさ」
「私はまだまだこれからだよ それにキー坊のハイパー・バトル優勝に関してはリキちゃんが紹介してくれたお蔭でもあるだろう? あの後連絡が取れなくて私達も心配してたんだ」
「…あれから俺も色々あってな、大分稼がせて貰ったが
「叔父って…鬼龍おじさんの事か?」
「ああ、そうだが…まぁ、今では“そこそこの立ち位置”ってヤツに収まってな ようやくお前のデビュー祝いに来れたってワケだ」
「…そうだったのか 私もあの時はキー坊とお父さんが血が繋がってない事を知ったり、ガトリングで撃たれたお父さんの看病をお母さんと一緒にやって、銃を向けて来た相手をおジイちゃんと一緒に締め落としたりと色々あり過ぎたけれども、リキちゃんも大変だったんだな」
「……いや、十代の頃に潜らせるべきじゃない修羅場に巻き込んじまって悪かったよ お前のお袋さんも含めてだが本当に、済まない」
「そんな事ないぞ 朝昇さんにも久々に会えたし、アメリカ本場のハンバーガーもお腹いっぱい食べれたから良かったよ」
「(お、オグリってとんでもない経験してたんだな……)」
淡々と、しかし懐かしむ様に当時の壮絶な経験を振り返る相方に北原が若干、引き気味になりつつも遂に力丸に対して会話を行う覚悟を決めた。
「あ…あの、オグリはもうすぐ私の手を離れてしまうとは言え、私の担当なんです “中央へのデビュー祝い”とは言え、この子に関わるのはやめて頂きたいのですが…」
「………(ギロッ」
「ヒエッ! す、すいません!!」
「…オグリ、いい担当さんを持てて良かったじゃねぇか」
「うんっ、キタハラは本当に良い奴なんだぞ キー坊とも仲良しだしな」
「キー坊の方は“お前が認めたから”信頼してるって事なんだろ つくづく似た者兄妹だな…おい、北原さんだったな」
「ハイッ! 何でしょうか!!」
「アンタの言う通り、俺のような日陰者がコイツ等に関わるのは今日限り終わりだ 安心してくれ」
「えっ!?」
「そんな…リキちゃん」
突然告げられた“絶縁宣言”に北原は驚き、オグリは哀しみの表情を見せる。
「そんな顔してくれるなオグリ そもそも俺達の接点なんて“入院していた親父繋がり”でしか無かったんだ 俺の親父が死んじまった時点で縁を切るべきだったのに遅すぎた位だよ」
「そ、そうだったんですか」
「ああ、北原さん でなきゃキー坊や
「そんな事言わないでくれっ! リキちゃんは汚れてなんか……」
「汚れてるんだよ 本当はヤクザなんかになりたくなかったし、親父もそれを認めてくれてたのに…親父を死なせた奴を恨んで殺った時点で俺はウス汚い世界に入っちまった」
「………」
「でもなオグリ…そんなウス汚い世界に居る奴等にとっちゃ、お前等みたいな“まっすぐ、キレイに生きてる存在”ってのは憧れなんだよ」
「リキちゃん…」
「中央に行く…っていうのも裏を返せば利権絡みのゴタゴタに巻き込もうとする奴等に目を付けられるリスクが高くなるって事だからな 其処は蛇の道は蛇って事で俺が陰ながら手を貸そうと思ったのさ」
「あなた、オグリの為に……ありがとうございます!」
力丸の本心を知り、北原は思わず深々と頭を下げていた。
「北原さん、こんな人前で頭なんざ下げる必要ない 俺がオグリに出来るデビュー祝いなんて、これ位のものだしな」
「いえ、ですが……」
「それによ…俺、実は
「えっ? そうだったのか、リキちゃん? 今まで一度もそんな事……」
「当たり前だ、ウマ娘本人に面と向かってそんな事言えるかよ…恥ずかしいだろ」
「それはやはり、先程の“まっすぐ、キレイに生きてる”という所が、ですか?」
「まぁな 皆が皆そうじゃないってのは百も承知だが…昔、親父が元気だった頃に中央のレース場に連れられてよ 其処に居た連中がキラキラ輝いて見えて…本当、キレイだったんだ」
「中央……今度、私が行く場所か」
「オグリ、お前ならきっと其処で輝ける 何せ初めてキー坊と一緒に居たお前を見て、荒んでた俺の心に“
「…ありがとう、私は走るよ リキちゃんの想いも背負って、中央で戦ってくるから」
「ああ…そうしてくれ それじゃあな、長々と居座っちまって悪かった お前等兄妹の事は“陰ながら”応援してるからよ」
そう言い残すと力丸は席を立って店から去り、来る前と変わらない空気感がオグリと北原の間に戻った。
「何ていうか…不思議な人だったな “悪いんだが優しい”、みたいな」
「リキちゃんは出会った頃からあんな感じだったからな 私は“義理堅い人”だって思ってる」
「そういうもんか…さて、俺達もそろそろ店を出るか」
「分かった…いや待てキタハラ、これは……」
店を出る為二人は立ち上がったのだが、そこでオグリが手に取った伝票を見てある事に気付いた。
「見てくれ、キタハラ 伝票にリキちゃんからのメッセージがある」
「なっ!? いつの間に…『この店はウチの系列だから今回に限り
「リキちゃん…本当にありがとう このお礼は、“私の走りで”必ず返すからな」
そして今度こそオグリ達は店を後にした。
もう二度と会う事はないであろう友人と交わした約束を胸に携えて…。
会えなくても繋がっているっていうのが大好物です。