[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ 作:日常系好き
「…女将さん、この煮物美味いのぉ! 味がしっかり染みとるわっ」
「ありがとう、キー坊 グラスがそろそろ空きそうだけどお代わりはいる?」
「せやな、もう一杯貰います」
とある小料理屋で宮沢熹一は一人料理をつまみながらグラスを傾けていた。
その中身は勿論ノンアルコールでもう成人して酒は飲める物の“常在戦場”を己に課している身として彼は外では極力飲むのを控えていたからである。
すると店のドアが開いて待ち合わせた人物の姿を見かけたので彼は人懐っこい笑顔を向けながら声を掛けたのだった。
「おうっ、北原さん 勝手に始めてて悪いのぉ 中央の試験も近いっちゅうに急に呼び出して悪かったな」
「いやキー坊、ありがとう 朝昇さんに“効率的な勉強方法”ってヤツは教わったんだが、久しぶりに本気で勉強するとどうにも頭が痛くなってな…」
「せや、オベンキョーで頭が痛くなるのは分かるわ…せやから“息抜き”っちゅう事で声を掛けたんや 勿論、アルコール抜きでな」
「言いたい事は分かるがキー坊…こんな“良い雰囲気の店”で一滴の酒も飲めないのは辛すぎだろ」
「いや、悪いのぉ ワシもゆっくりできる場所なんて
「えっ!? “宮沢静虎の御用達”なのかよ、この店!」
「はい、お客様がお望みであればプロテインのミルク割も出来ますよ」
驚く北原に美しい女店主は微笑みを浮かべてメニューを差し出した。
「は、ははっ…ありがとうございます おぉ、どれも美味そうだな」
「せやろ? ワシの
「ふふっ、キー坊のお母さんも良くウチの店を利用してくれているんですよ」
「そうだったんですね なら、まずは季節のお通しをお願いします」
「なぁに北原さん 酒は無くとも気持ち良く酔わせたるから安心せぇ もう一人呼んどるからな、そろそろ着く頃や」
「な、何だよキー坊 まさか“キレイ所”か…?」
「アホゥ、ワシに女っ気なんぞ期待すんなや…“格闘家”じゃい ホレ、北原さんも前に会いたいって話しとった…」
「いや、待てよキー坊 それって……」
北原の声を遮るように店のドアが開き、“その人物”は姿を表した。
「よぉ、久しぶりだなキー坊 “灘と幽玄の大将戦”は海外でだが観させて貰ってな、また俺が倒すに相応しくなったようで嬉しいぜ」
「おうっ、ミノルさんも相変わらずのエラソーな態度でワシも安心したわ」
「か…“風のミノル”じゃないか!?」
かつては灘神影流と祖を同じくした覇生流体術の元・師範代“風のミノル”こと鈴木ミノルが傲岸さを含む、爽やかな笑みを浮かべていた。
「ハイパー・バトルの宮沢静虎との戦い観ました! お会いできて光栄ですっ!!」
「キー坊から話は聞いてるぜ、オグリのカサマツ時代のトレーナーだろ? しかしよ…出会い頭によりにも依って俺の“負け戦”を語るとは…アンタ、中々面白いな」
「あっ…いや、すいません!」
「北原さん、ミノルさんはおちょくっとるだけや 見てみぃ…言葉と裏腹に顔はニヤついとるやん」
熹一の指摘通り、ミノルはイタズラが上手くいった少年のような茶目っ気を含んだ笑顔を見せており、北原は胸を撫で下ろしていた。
「ま、マジだ 良かったぁ…」
「悪いな、“宮沢静虎”に“鬼龍”…奴等に負けたのは思う所もあったが、今は気にしちゃいないんだよ なんせ、お蔭で俺はまた更に強くなっちゃったんだからな」
「ポジティブさも変わっとらんようで何よりや…で? 今日は連絡が付いたんで呼び出したんやが、そもそも何で日本に戻ってきたんや?」
「おっ! 聞いてくれたか、嬉しいね 実はな…俺、少し前に“中央のトレーナー資格”を取ってたんで自分の修行と並行して勉強の為に海外回ってたんだが、それが一区切り付いたんで帰って来たのよ」
「なにっ!? “トレーナー”やて!?」
「しかも“中央”の!?」
熹一と北原が驚くのも無理はない、格闘家として名の売れているミノルの突然の“中央トレーナー就任”に店内の空気は一瞬で騒然となったのだ。
「良いね良いね二人とも、その顔! 話を渋った甲斐があったぜっ!!」
「いや…中央の資格なんてT大合格以上の狭き門だってのに格闘家をやりながら…?」
「しゃあけど、ミノルさん…何でまたトレーナーの道を?」
「まぁ、それなんだが…実は俺が出て行った“覇生流”にな、一人のウマ娘が居たんだよ 名を“イナリワン” やる気と才気は俺も認めていた逸材よ」
『イナリワン』と彼女の名を呼ぶミノルの声は誇らしげに弾んでいた。
「気性は激しい奴だったが、其処はウマ娘らしく殴り合いにはとんと興味を示さないで“走る事”に夢中な奴だった」
「…つまり、ミノルさんは彼女の為に中央の資格を?」
「北原さん、そこがちょいと複雑でな 詳しい理由は省くが覇生流の高弟共…特に“狐面を被った4人”はキー坊の使ってる灘神影流を目の敵にしてんのよ」
「成程、分かったわ ミノルさんがワシ等を潰せず流派を抜けたんで、代わりに白羽の矢が立ったのがそのイナリっちゅうワケなんやな?」
「ご明察 “坊主憎けりゃ袈裟まで”なんて言葉があるが、事もあろうにアイツ等今度は『宮沢家の長女であるオグリキャップを潰せ』とイナリに命じやがったんだ」
「ほぉう…せやったらワシ等、灘の
“妹の危機”を聞いた熹一は瞬時に空気を戦闘態勢に切り替えたのだが、ミノルがそれを止めた。
「おいおい、キー坊…話しは最後まで聞けよ 隣にいる北原さん…ビビッちまってるぜ」
「………(ガタガタガタガタ」
「す、スマン! 北原さん、大丈夫か!?」
「お、お、おうっ……大丈夫だ」
「…ったく、話を戻すぞ 俺も久しぶりに覇生流に戻ってその話を聞いたら流石にムカついてよ、狐面4人の顔にお得意の“風当身”ぶちかました後、イナリを連れて逃げてやったのさ」
「か、“風当身”!! あのヤバイ技かよっ!?」
「あちゃ~、そんなん絶縁どころかお尋ねモンやんケ 大丈夫なんか?」
「大丈夫なわけねぇだろ 取り敢えずイナリの事は俺と同じく昔、覇生流を抜けて今は大井でトレーナーやってる“梼原龍子”さんに預けて湧いて来た追っ手を片付けた後、海外にトンズラしたんだからな」
唐突に始まった壮絶な話に北原は更に体を震わせ、熹一は呆れ顔を見せるもミノルの口は止まらない。
「でよ、龍子さんの息子がアメリカに居るってんで世話させてやろうと俺もハイパー・バトル振りに渡米する事にしたんだ そしたらな、その息子の太郎ってヤツが勉強してたのが何と……」
「アレやろ 『中央トレーナーで俺も折角だから資格取っちまうか』 違うか?」
「何だよオイ! 一番いい所を言っちまうなんてキー坊、お前ホントに関西人か?」
「生憎、ワシは神戸人や 相手のオチ待ってやるほど寛容やないんや」
「マジかよ…そんな簡単に中央の資格を取っちまうなんて……」
熹一とミノルが軽口の応酬を繰り広げる横で北原はショックを受けていた様子を見せていたが、それに気づいた熹一がフォローを入れる。
「ミノルさんはこんな軽く言っとるが本人がエライ努力家でな、基本的に自分の為に頑張っとる人が“ここまで”やるのはそんだけイナリっちゅう子を大切にしとるって事なんや 北原さん、アンタがオグリの事を想ってくれとる様にな」
「き、キー坊…」
「オイオイオイ キー坊、なに勝手に人を感動路線に巻き込んでんだよ」
「なんや、ミノルさんはその子の事が大切やないんか?」
「…俺は基本的に自分が強くなる為なら吐き気を催すヤツにだって頭を下げる でもイナリは違う、“伸びるヤツが環境で潰される”なんて我慢がならないってだけだ」
「な、北原さん? ワシはミノルさんのこういう所がメッチャ好きやねん」
「“傲慢さは優しさの裏返し”…誰が言ったかその通りだな ますますファンになっちまったよ」
「悪いが俺はその方向性でのファン獲得は望んでないんだよ しかし良いのかキー坊? 俺はまだ経験が浅いって理由で中央では太郎のサポートを任されたが“ウチのイナリ”がお前の妹、オグリに挑んで来るんだ…覚悟しとけよ?」
「何かと思えばそんな事かい 心配いらんわ」
熹一はそう言うと北原の肩に腕を回し、ミノルに宣言する。
「ワシ等の希望“宮沢家のオグリ”には六平のオッチャンと今度から中央に行くこの北原さんが付いとんじゃい!! ミノルさんこそ覚悟せぇよ!?」
「い、いやキー坊…俺はまだ試験も受けてないんだが……」
「そいつは面白ぇ…その時はよろしくお願いされてやるぜ! 北原さんよ!!」
その後、己の担当バを語りながら白熱する男共を横目にしながら小料理屋の女店主は微笑みを浮かべて彼らが注文した料理の準備をしていた。 夜はまだまだ長い…。
オマケ
イナリ、オグリとベルノと出会う
ある日、イナリワンは快晴の空の下“中央の学園の高みに立ち”、通りがかったオグリに宣戦布告をする。
「やぁやぁやぁ! お前ぇさんが“灘のオグリキャップ”だな!! あたしは“元・覇生のイナリワン”!! 超えるべき相手の面ぁ拝みに来てやったぜぃ!!!」
「うん、キー坊からお前の事は聞いてるぞ しかし…わざわざそんな高い所に立って昼間だというのに寒くないのか?」
「…それに『拝みに来た』って、私達がここを通らなかったらどうしてたんですか?」
「べらんめぇちくしょう! いきなり何でい、二人掛かりで!! “粋”を思えばこの身に吹く風なんざ屁とも思わねぇし、お前ぇさん等がここを通るのはミノル兄さんの“ミノルノート”の情報通りだから問題なんざねぇ!!」
「まだミノルさんはノートを使っているのか そろそろタブレットに移行した方がいいぞ」
「私が使ってるのでおススメを紹介しましょうか? 覚えると情報の取り出しがラクになりますよ」
「がぁあああっ! 会って早々にミノル兄さんの“こだわり”にケチ付けるたぁ、“粋”じゃねぇ奴等め!! お前ぇさん等の
これがオグリが後に中央で“三強”と呼ばれるイナリワンとの初会合であった。