[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ   作:日常系好き

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今週号のシングレ読んだら心が燃え上がったので


北原、メジロアルダンの生き様を知る

「今だっ! そこだ“ブル”!! 仕掛けろっ!!!」

「いけるよっ! そのタイミングで“巨岩返し”ネ!!」

 

 現在、観客の歓声と興奮と熱気が支配するこのドーム場にて男、北原穣は周囲の者達と変わらぬ熱量を持って目の前で繰り広げられる“総合格闘技の試合”を隣に居る“本日の相方”と共に酔いしれていた。

 

「…っしゃあー!! 決まったーっ!! 巨岩返しでフィニッシュだぁ!!!(ゴッ」

「あうっ!」

 

 そして応援していた“ブル・マツダ”のフェイバリッド、巨岩返しでの決着に彼のテンションは最高潮に達し、思わず振り上げた腕が隣に居た相方の腕を殴ってしまったのだった。

 

「うわっ!? わ、悪い“エンゾウ”さん! 痛くなかったか!?」

「うん、大丈夫だよ北原さん ボクにはこんなの“痛くない”んだからネ」

 

 そう言って微笑みを浮かべた男はかつてTDKで熹一と闘い“凶犬”と人から恐れられた格闘家、笹川エンゾウであった。

 

「そうか、確かエンゾウさんは“無痛症”だから…って違う! 痛くないからこそ何か不調って無いのか!? いや…ホントに済まない」

「…ボクは本当に大丈夫 北原さん、キー坊とオグリの友達だからとっても優しいんだネ」

「なっ!? い、いや…俺だってトレーナーの端くれなんだ、これ位の心配普通だって」

 

 TDKでの戦いを経て“心の痛み”の理解を深め、人間として成長したエンゾウは北原の心遣いに満面の笑みを見せる。

 そんな姿を見て最早、彼の事を凶犬などと呼ぶ者は誰もいないであろう。

 

「…しかしな、エンゾウさん 今日は付き合ってくれてありがとう キー坊が“ブル・マツダ”のセコンドに入るって言うんで招待券貰ったんだが…まさかアンタみたいな有名な格闘家が着いて来てくれるとは思わなかったよ」

「キー坊とオグリの二人から『絶対に喜ぶから会ってくれ』って言われたら、ボクが行かない理由はないヨ」

「そうか…あの二人にも本当に感謝しなきゃな」

 

 元担当とその兄の気遣いを知った北原は年甲斐もなく溢れ出した涙を隠すように頭の帽子を深く被り直す、すると彼の視線に白魚のような美しい指とその指が持つ見るからに上品な刺繡が施されたハンカチが飛び込んで来た。

 

「あの…深く感動なされているご様子でしたので、宜しければこちらをお使いください」

「お、お気遣いどうも! いえっ、別に泣いていたワケでは……って、えっ!?」

 

 目の前に居るであろう女性に言い訳をすべく顔を上げた北原はあまりの驚きに涙が引っ込む事となる。

 それもそうであろう、彼女はあの───

 

「め、“メジロアルダン”!? どうして此処に!?」

「あら? 私の事をご存じでしたか はい…私の名はメジロアルダン まだ未熟ながらも“メジロ家”の一員を務めさせて頂いております」

 

 中央においても名門と名高いメジロ家のウマ娘“メジロアルダン”、見た目はさながら深窓の令嬢といった彼女がある種の血生臭さを漂わせたこの場に姿を表していたからである。

 

「北原さん…ボク、ウマ娘の選手はあまり知らないけどこの子って有名なの?」

「エンゾウさん、トップアスリートである事は間違いないんだが、俺が驚いてるのはそこじゃなくて……」

「ふふっ、『なぜこのような場所に居るのか』ですよね? 私、実は子供の頃から体が弱く…病室で過ごす事が多かったのですが、そんな時にテレビで観ていた格闘家の方々に“憧れ”を抱きまして…自由に歩けるようになった今は観戦を趣味にしているのです」

「そうなんだ なら、ボクの事も知ってるよネ?」

「はい、存じ上げていますよ 笹川エンゾウ様ですね 貴方様と宮沢熹一様の試合を観て、私は深い感銘を受けましたので」

「えっ? キー坊とエンゾウさんの試合って言うと…」

「えぇ…これは後から聞いたお話になりますが、宮沢様はあの試合で『例えこの身が朽ちようとも生きている限り“闘いたい”』という覚悟決め…文字通りご自身の“命を懸けて”闘い抜き、一度はその命を失ったのです」

「“あの時のキー坊”はとっても怖かった しかも、ボクの所為でキー坊が死んじゃったって思った時はもっと怖くなったんだヨ…」

「共に競った相手、残される者、自分の将来…そのように失う物を飲み込んだ上で“最後までやり通す覚悟”に私は堪らなく“惹かれて”しまったのです」

「そ、それは一体どういう……」

 

 疑問を投げかける北原とそれを眺めるエンゾウにアルダンの事情は分からない。

 彼女の脚は担当の医師からいつ砕けるかも分からない“ガラスの脚”と診断を受けていた事など。

 しかし、これだけは理解できた。

 見るからに上流階級の令嬢らしさが分かる見た目など所詮、彼女の“器”にしか過ぎず…その中身は彼らの想像を絶する“覚悟”に満たされているという事に。

 

「昔、私の入院中にとあるプロレスラーの方とお会いしました その方は癌により余命いくばくもなく、全身に痛みが走ろうともいつも明るく団体の方々と娘さんと笑っていて…ある日、思わず訊いてしまったんです 『怖くは無いのですか?』と」

「…その彼は、何と?」

「はい、『俺はプロレスを愛してるからさ』と一言だけ…その時に私も思ったのです 『この人のように私も自分の人生を掛けるに値する“何か”を見つけたい』と」

「それが…アルダンにとっては“走る事”なんだネ」

「その通りです ウマ娘に生まれたからには…生まれた家の為…等という外付けの理由はあくまで補強でしかなく…私は私の思うがままに“走り抜きたい”のです」

 

 そこまで言うとアルダンは先程までブル・マツダが試合をしていたリングに視線を向ける。

 其処に居たリング近くで談笑をしているブルと熹一、そして何時の間にか彼らの傍に居たオグリキャップが視界に入ると彼女の目の奥には“熱”が篭っていた。

 

「私が“心から尊敬する方の妹”…立場としては挑まれる形になりますが、私の全身全霊を傾けるに相応しいお相手の一人 受けて立ち、必ず勝利して見せます」

「…その結果が“アイアン木場と同じ”になっても、きっとアルダンは後悔しないんだネ」

「はい、エンゾウ様の仰る通りです 私はむしろ彼の様に、この世に己が一瞬を“永遠に刻みたい”のですから」

「…あなたが“その覚悟で来る”以上、きっとオグリは尚更『負けたくない』と思いますよ」

「そう思ってくれている相手だからこそ、私も全力で競いたいと思えるのです では北原穣様、笹川エンゾウ様、本日は私のお話にお付き合いくださり誠にありがとうございます」

「えっ? エンゾウさんはともかく何で俺の名前まで…」

「失礼ながら周囲の情報を家の者に調べて貰いましたので 先程も申し上げた通り、私は宮沢熹一様の“ファン”ですから」

「は、ははは…そうですか」

「はい 今はリング傍に居るお二人にも宜しくお伝えください…それでは」

 

 清楚な外見からは想像もできない行動力に慄く北原にメジロアルダンは見る人が安心するような微笑みを浮かべた後、会場を後にしたのだった。

 

「北原さん、ボク初めて知ったよ “ウマ娘”って凄いんだネ…」

「いやいや、エンゾウさん…あの娘もきっと“特別”だよ」

 

 試合での興奮を突如現れた“強烈な個性”に上書きされてしまった二人は彼女の伝言通り、オグリキャップと宮沢熹一の居るリングへと足を運ぶことにした…。

 

 

 

オマケ

キー坊とオグリ、気付く

 

「ブルさんっ! さっきの技の運びは見事なモンやっ!! また腕を上げたのお!!」

「うんっ! 相手への攻め手を確実に封じる動きだったぞ!! ナイスファイトだった!!」

「何だよキー坊にオグリまで…そんなに褒めてくれるなって 俺は二人に教えて貰った事を忘れずにやっただけだよ」

 

 かつてはうだつの上がらない総合格闘家であった“ブル・マツダ”。

 彼は熹一とオグリの指導によって心身ともに磨かれて再起を果たし、今回の試合も危なげなく勝利できたのだが…突然の二人から褒めちぎりに困惑していた。

 

「いやいや、良いモンは良いって言うんがワシ等の流儀やからな せやろ、オグリ?」

「キー坊の言う通りだ 今日は娘さんとお孫さんも観に来てくれていたんだろう? 控室に案内していたから、親子水入らずで会ってくるといい」

「そ、そうか! なら、二人には悪いんだが…俺は先に行かせて貰うよ」

 

 二人に多少の疑念を感じつつもブルはオグリの誘導に従い、控室へと向かっていった。

 そしてブルの姿が視界から消えた事を確認した二人は“スイッチ”を切り替える。

 

「オグリ…気付いとったか」

「ああ…さっきから視線は感じていた 私とキー坊にだけ向けていた物だが」

「…せやな 敵意が無く、もう気配も消えたとは言え…ブルさんを巻き込む事になるかもしれんからこの場は離れて貰ったが…何やろな、この感じ…」

「私には身に覚えのない感覚だったが、キー坊は“アレ”が何なのか分かるのか?」

「おうっ、多分やが…“果し合い”の感覚と“尊敬”がない交ぜになったみたいなモンやな」

「そうなのか?」

「ワシ等はどうにも普段の行いの所為か初見の相手にはどこか“嘗められとる所”あるやん?」

「失礼な話だな 私もキー坊もふざけてなんかいないというのに」

「まぁ、その話は今はエエねん いや、明らかに初見さんの気配やったのにワシ等の事を嘗めとらんっちゅうのは…お前、アレやぞ」

「…“強敵”という事だな?」

「せや、標的はワシかお前か…どっちにしろ相当の強者(ツワモノ)や ()るとなったら気合入れんとアッサリとやられてまうな」

「標的は私だとしても恐らくはレースになるだろうから、注意をしないとな」

「タマやベルノちゃん、親父(おとん)やワシもおる 練習やったら何時でも付き合うで」

「ありがとう、キー坊! 私は絶対負けないぞ!」

 

 新たに感じた“強敵の気配”に兄妹は気を引き締め、そして合流した北原達の口から語られた強敵の正体である“メジロアルダン”の名を聞き、二人は決意を新たにするのであった。

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