[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ 作:日常系好き
此処は朧山に居を構える“灘・真・神影流”の本道場。
「「「「「セイッ!! ハアッ!! フンッ!! 」」」」」
そこに居る門下生は多種多様な人種…その中には“ウマ娘”も少数ながら在籍しており、日夜心身の鍛錬に励んでいる。
「よし! 午前の部はここまでだ!! 休憩とする!!」
「「「「「はいっ! ありがとうございました! “師範代”!!」」」」」
門下生達は声を揃えて師範代に礼を言うが、当の『師範代』と呼ばれた少女は少しだけバツの悪そうな表情を見せた。
「いや、私は父から活法しか学んでいないし 何より今は“中央の選手”なんだ…ロクに此処には来れていない上、君達に教えられるのは基礎くらいだから“師範代”はやめてくれないだろうか…?」
「何言ってんだよ、“オグリちゃん”に教わるなんて滅多に無いんだから俺達も気分が上がっちまうって!」
「中央での活躍は知ってるけど、それでも合間を縫って顔を出してくれるんだから感謝してるんですよ」
「ソウダソウダ! メッタに来ない
「…宮沢さんって“先生呼び”すると機嫌悪そうにしてませんでしたっけ?」
「知った事か! 『ワシ、もっと世界を見て回りたいんや』なんてしょっちゅう海外に行ってはアホ面と現地の土産物を引っ提げて道場に顔出すあんな男に気を使う必要なんて無いっ!!」
口々に自分への労いと創始者である兄、“宮沢熹一”への罵詈雑言を吐き始めた門下生達に“オグリキャップ”は複雑な表情をする他なかった…。
「……やっぱり、道場に顔を出すのは走るよりもずっと疲れるな」
「お疲れ様 それでも『みんなが喜んでくれるなら』って理由で来てくれてるんだから、当主であるキー坊よりも立派だよオグリ」
「いや、“和香ちゃん”…キー坊だってちゃんと考えあっての行動なんだ」
「いえ、我々も分かってるんス 『一子相伝の技をみだりに広めたくない』という考えの下、普段は“健康体操”の延長線上での活動していますが当主が認めた方にのみ“心・技・体の個人指導”を行う事はね」
「うん、“万次さん”…問題はキー坊に認められる人が中々いないという事なんだが」
「ねーっ、“私の所の門下生”まで入れてあげたのに誰もキー坊のお眼鏡に敵わないんだもの」
「仕方ないっスよ、和香さん キー坊は数々の強敵達と闘い、間違い無く今現在…この世における“最強の格闘家”なんスからハードルが上がって当然っス」
午前の部の指導が終了し、休憩室のちゃぶ台にグッタリと体を預けていたオグリに声を掛けたのはかつて熹一が修行の為、道場破りを行った石心空手の元館長“宮下和香”と和香の父である前館長を果し合いの末に自殺にまで追い込んだが熹一との闘いで己が妄執から解き放たれた格闘家“新堂万次”。
その二人が互いの壮絶な過去を感じさせない程の穏やかな笑みをオグリに向けていた。
「…二人とも、前より話す雰囲気が柔らかくなったか?」
「んー…まぁね お世話になったキー坊の力になりたかったから門下生を連れて道場の門を叩こうとしたらさ…」
「今までの贖罪の意味も込めてキー坊の下で修業させて貰おうとした私と鉢合わせたんだ 最初の頃は気まずかったっスね…」
「でもね、私も万次さんが“格闘家として純粋な人だった”っていうのはハイパー・バトル予選でのキー坊との闘いで理解はしていたし…無駄に意地張るのにも疲れちゃったんだ」
「…和香さんからそう言って貰えて、私の中に在った重荷が少しだけ軽くなったような気がして…その後は少しずつ話す機会も増えて、今では普通に話せてるっス」
「そもそも私等キー坊の力になりたくて集まった同士なんだから、私は“経営面”で…万次さんは“実技面”で協力してたら自然とこんな距離感になっちゃったんだよね」
「…そうか、それは良かった」
かつてのわだかまりが払拭されて笑いあう二人にオグリも自然と顔がほころぶ。
「…まぁ、経営のノウハウは黒田さんに相談して灘心陽流みたいに活法を取り入れたフィットネスを中心にしたら思いの外…特にレースで故障の多いウマ娘に流行っちゃったからさ、やっぱりこれも“格闘興行の衰退”を感じて複雑な気分だよ」
「昔から競い合いなら『ウマ娘のレースを観る方が健全』って風潮でしたからね そう言った意味でならアイアン木場の功績はやっぱり凄いっスよ」
「ちょっ、万次さん!? オグリの前でその話題は…」
「大丈夫だよ和香ちゃん もう私は“アイツ”の話題を出されても何とも思わなくなったから」
オグリの地雷ワードに反応した和香は慌てて万次の口を塞ごうとするが、当のオグリがケロリとした表情をしていたので胸を撫で下ろし、そのまま話題を続けることにした。
「そ、そうなの…? えーと、どこまで話したっけ…そうだ、それでも“強くなりたい”って人は一定数居てさ、この道場の評判を聞いて来てくれたのは良いけどホラ…此処って言っちゃ悪いけど“山奥の僻地”じゃない?」
「うん、幽玄の人達が建ててくれたから使わせて貰っているが…ハッキリ言って一般の人からすれば利便性は最悪だな」
この道場を手作業で作り上げた幽玄の面々が聞けば無言で泣きそうな…しかし、純然たる事実をオグリは言い切る。
「だからさ…オグリとキー坊の実家である神戸の道場を“第一支部”にして師範を静虎さん、管理人を奥さんに任せて、都内に作った“第二支部”を静虎さんの姉である由美子さんにお願いしたんだよね」
「第二支部の方は鬼龍の子供達が定期的に顔を出してると聞いたんで、私もお邪魔しましたが…いや龍星君と姫次君、でしたか…あの二人はかなり強いっスね」
「龍星はお父さんに鍛えられて組技の練度が更に上がっていたし、姫次の方もキー坊の再指導のお蔭で大抵の相手なら組ませる前に無力化できると聞いていたからな 万次さんが褒めてくれたのなら相当な物なのだろう」
「…はい しかも聞いた話では二人とも『今は“色々と”忙しいから修練の時間が中々取れない』との事で…持って生まれた“血の強さ”に驚くばかりっス」
「あの二人は向上心の塊だからな それに、傍で見ている由美子おばさんや優希に情けない所は見せられないといつもより張り切っていたんだろうし、万次さんもタイミングが悪かったね」
「……その話を聞くと、ただの“思春期の男の子”って感じがしてなんか親近感湧くっスね」
「だよね…何より、“オグリがそう言ってるから”言葉がスッと心に入って来る感じ…不思議だな」
「? 二人とも、私はただ自分の思った事を喋っているだけだぞ?」
「…“そんなオグリ”が定期的に顔出してくれてるからかな…私達の居る
「そう…なのかな? だとしたらみんなの役に立てて私も嬉しいんだが……」
和香がしみじみといった様子で掛けられた言葉に表情は変わらずともオグリの耳は忙しなく動き始める。
「うわっ! 照れてるんだ、オグリってば可愛いなぁ……」
「な、何だいきなり! それを言うなら和香ちゃんだって昔、キー坊に『カワイイ、結婚したい』って言われていたじゃないか!?」
「えっ!? あんな昔の話を引っ張り出しちゃう!? いやいやオグリ、
「確かに…キー坊にそういう所があるのは私も知ってるが、和香ちゃんは本当に可愛いんだし…私はてっきり二人が結婚するものとばかり思ってたんだぞ」
「うーん……実はねオグリ、キー坊って“意外とモテてる”の…気が付いてた?」
「…前にタマともそんな話をした事があったが、本当だったんだな」
「そうなの、何て言えば良いか…普段はそうでもないんだけど“肝心な所でビシッと欲しい言葉をくれる”って言うのかな? 一言で言えば“人たらし”でさ、アイツの事良いなって思う子が意外とたくさん居たんだよ、ホント…」
『オグリみたいだよね』という言葉を飲み込んだ和香に、先程まで静観を決め込んでいた万次が力強く頷いて同意する。
「分かります、和香さん! 私も含めてキー坊と闘った者達の殆どは、“自分の事を好きになれた”んス それと同時にキー坊の事が好きになっちまうのは当然っスから!!」
「…まぁ、男の人の方が割合多いのは仕方ないとしてもさ、女の子の方は皆“そう思っちゃった相手”に自分の想いを伝えられなかったんだ 何でだか分かる?」
「………分からない 教えてくれないか?」
「うん…キー坊の傍にはある女の子が居てね 言葉にしなくてもお互いがお互いの事を大切にしてるっていうのが見てて伝わってきちゃって、『自分は
「キー坊の傍にそんな
和香の言葉により『大切な兄の“一番の妹”で無くなるかもしれない』という思いが湧き出してしまい、オグリは言葉と裏腹に気分は落ち込んでいったのだが、それを見かねた和香が慌ててフォロー(?)を入れる。
「いやいやオグリ! だいじょ…大丈夫、なのかな? その子とキー坊って別に付き合ってるワケじゃないし、お互い恋愛感情の“れ”の字も見せてないから、ある意味健全で私達も安心しているっていうか、ヤキモキしてるっていうか……ですよねっ!? 万次さん!!」
「そうっスね…相性的にはお似合いだと思うんスけど 当の本人達が“今の関係に満足”してるんで外野がとやかく言うのは違うと思うんで……とにかくオグリは安心して良いと思うっス」
「そうか…ありがとう、二人とも しかし気になるな、一体誰がキー坊と…タマ…優希…ベルノ…カサマツの子達は付き合いが浅いか……」
恐らくは答えが見つからないであろう問いの為に思考状態へ入ったオグリが今まで出会った女性の名をブツブツと羅列し始めた事に言いようの無い危機感を覚えた和香と万次は話題を変える為に大きな声を張り上げた。
「いやっ! それにしてもキー坊、今回は何処まで行ったんだろうね!!」
「何言ってんスか和香さん! 第二支部にちょっかいを掛けて来たメキシコ人を龍星君達が懲らしめたら本国に居るマフィアに泣きついたから『ワシがとっちめたるわ』の一言で出掛けて行ったんじゃないっスか!!」
「…そうだったな お父さんと鬼龍おじさん、たまたま支部に来ていた尊鷹おじさんまで付いて行ったんだった」
「うん、そうそう この調子じゃ“また”現地で新しい弟子候補連れて来ちゃうよ」
「何だかんだで
「うん、みんなキー坊を好きで居てくれてるから私もみんなが大好きなんだ」
思考を中断し、会話に入ったオグリを見て安心する二人であったが、今度は突如開け放たれたドアから現れた“4人の宮沢家の男達”に驚く事となった。
「おうっ!
「こら、熹一 神聖なる本道場でそないデカイ声を出すなや オグリもびっくりするやろ」
「フンッ! コイツがそんなタマか静虎 戻って来てやったぞオグリ、土産の食い物も大量に用意してるから安心しろ」
「…どうやら疲れている様子だが済まない、オグリ 現地で身寄りを失くしたウマ娘に出逢ってな 社会的な身分は鬼龍が与え、活法は我々で施したのだが心がまだ弱っているのだ お前が話し相手になってくれないか?」
「尊鷹おじさん…分かった 今すぐ行くよ」
「オグリ、ホンマにスマン…あの
「キー坊…私を誰だと思ってるんだ 巷ではキー坊みたいに“タフなウマ娘”って呼ばれてるんだぞ」
「…あんがとな ほな万次、和香ちゃん! 帰って来て早々で悪いが、
「はいっ! オグリ“師範代”!! 頑張ってきてください!!」
「…ハイハイ その代わり夕飯は
「そいつは楽しみやっ! 行くぞオグリ、早よあの
「ああっ! 行こう、キー坊!!」
先程の疲れなど微塵も見せず熹一と共に廊下を駆けて行くオグリキャップを見て和香は思わず呟いた。
「やっぱり、あの二人って本当に“絵になる”なぁ…」