[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ   作:日常系好き

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仕事中に突如ギャルアッドの事が思い浮かび、頭から離れなかったので書きました。


タイ・バンコクを堪能しよう

「“タマモクロス”やっ!!」

「“オグリキャップ”だ」

「…“北原穣”、です」

「今回、ウチ等はなんと……」

「タイの“バンコク”に来ているんだ! 凄い街並みだな北原!」

「…ああ、そうだな」

「そんなワケでウチ等の前には…ジャジャーン! テーブルいっぱいの“タイ料理”の数々や!! オグリんはともかく、ウチと北原のオッチャンには食い切れん量やで……」

「基本的にバンコクでは一屋台に付き一品らしいのだが、今回は私達が来店するという事で店長である奥さんが周りに声を掛けて用意してくれたそうだ 本当に有難いな」

「飯物、麺類、サラダ、スープの一つとっても調理法は様々で…これだけの量を準備してくれたんだからキー坊の人徳は本当に凄いよ」

 

「オッチャン、今此処におらんキー坊(ドアホ)の事なんか話題に出さんでエエわ」

 

 ───この瞬間、今まで謎のテンションで進行していた空気は打ち切られたのだが…発端である話題を出した北原をタマが一睨みした後、再び続行する運びとなった。

 

「さて! まずはこれから行こか、“カオパッド”…うん、コレはチャーハンやな」

「タイ米を炒めた物でパラパラ感と独特な味付けで癖になる一品だ…お代わりを頼む」

「オ、オグリ…他の物があるんだからまずはそれを食べようぜ どれ、“パッタイクン”ね…見た目はエビ焼きそばだが……」

「あー…コレはアレや 中央の食堂で食った事あるわ 麺が“米粉”なんやな」

「米粉特有のほのかな甘さと香辛料で味付けされたエビとの組み合わせが絶妙だな、いくらでも食べられそうだ 後、これが“プラパオ”か」

「鯛の塩焼きが屋台で安く食べられるなんて…日本で見かけるのは鮎くらいだしな で、サラダの“ソムタム”が…この青いのパパイヤなのか!?」

「どれ…成程な、青いヤツやとしっかり野菜感出とる 口の中もサッパリして丁度エエわ」

「…ん? 北原、店長の旦那さんがジムから帰って来たようだぞ 挨拶してきたらどうだ」

「えっ!? ま、マジか…あの、こんにちは! ファンなんです!! サイン貰っても良いですか!?」

マイ・ペンライ(大丈夫だよ)

 

 見た目は若干、細身ながらも無駄のない筋肉が付いた身体の“旦那さん”から笑顔でサインを受け取る北原を横目に、タマはため息を吐きながら隣で食事を続けるオグリに話しかける。

 

「……『一回失明させた手前、ワシには会う資格が無い』ってなんやねん そうでもせな“止まらんかった”と思ったからやったんやろ?」

「…キー坊はそれが“逆効果”になった事をずっと悔やんでたからな 今回のバンコク招待だって私達の有馬記念のお祝いでもなければ顔を出す気は無かったんだろう」

「ウチ等を祝う気なら直前でバックレて、こない“変な空気”にすんなっちゅうねん 北原のオッチャンと追いかけてる“ベルちゃん”にも悪いやろが……」

「チケット人数の関係で今回は二人も呼んだが…正直、今回はベルノに任せて良いと思う 同性の北原や付き合いの長い私達じゃ多分、キー坊の本心は聞き出せないから」

「…ウチ等みたいな“エエ女”に寄りかかれんとはホンマ、贅沢な男やなキー坊(アイツ)は」

 

 そう言いながらタマは自分の傍に置いてあるジュースの瓶を掴むと、一気に呷った。

 

 

────────────────────────

 

 

 同時刻、雑踏から離れた街並みが一望出来る公園で宮沢熹一は一人、先程露店で購入したミネラルウォーターを口にしていた。

 

「グイッ)……………」

「…お兄さん、こんな所に居たんですね」

「…ベルノちゃんか ようワシの居場所が分かったのう?」

「はい、オグリちゃんから『キー坊は何かあると人気の無い所に行きたがる』って聞いて…後は携帯のGPSアプリを使ったらこの公園かなって」

「アナログとデジタルの併せ技っちゅうヤツか…現代人らしくて、エエな」

 

 “普段通り”自分に優しく微笑んでくれるも僅かばかりの陰りを見せる熹一に対して何とも言えない気分になり、ベルノライトは口を開く。

 

「…何があってお店の前で突然、消えちゃったんですか?」

「……店長の旦那さん、ムエタイやっとった“ギャルアッド”言うんやけどな、嫁さんも子供もおるのに更に危険なラウェイって武術始めたんや 前にも大怪我してリハビリも終わったっちゅうに家族からすりゃそら、心配も心配で『止めてくれ』言うわな」

「そう…ですね」

「でもワシにも分かんねん 例え家族を泣かせようとも『最強の道を諦めたくない』って気持ちはな……せやから、ワシはアイツの目から“光を奪った”んや」

「…えっ!?」

「…アスリート相手にショッキングな話で悪いの 活法で治せる範囲やったとは言え、逆にそれがギャルアットの闘志に火を点けてしもうてな……」

「止まれなく、なっちゃったんですね?」

 

 ベルノの言葉に熹一は無言で頷く。

 

「“あの頃のワシ”はどうかしとった…ワケあって『金の為なら何でもやる』なんぞ家族や親友(ダチ)にも嘘を吐いて悲しませ、自分で決めた事とは言え世の中の汚い場所ばっか見て来た所為かの」

「………」

「普段通りのワシなら、『たとえこの身が無くなろうとも自分が決めた事は曲げない』っちゅう“当たり前”の考えを理解できとったのにのぉ……」

「会わない理由はその時の自分を…思い出しちゃうからですか?」

「まぁ…せやな ちなみにベルノちゃんに初めて会った時の格好が“そん時のワシ”やったんやで?」

「そ、そうだったんですね…」

 

 恐らくは今まで誰にも言わなかったであろう想いを吐き出し、纏っていた陰りが薄れた熹一に対し、ふと思いついた疑問をベルノは投げかけた。

 

「お兄さんは…何でその話を私にしてくれたんですか?」

「……ベルノちゃんの話しやすい雰囲気もそうなんやが、アレやな…前に自分の事『弱い』って話してくれたからや」

「えっ!? あの時は…」

「ベルノちゃんは自分の弱さを“自覚”して“改善する努力”をしとる 頭が良くても頭でっかちやない…そういう人になら話しても笑いもせんし、同情もせん 下手にオグリやタマ辺りに話すとアイツ等ウンザリする程、絡んで来るからの」

「えーと…それは……」

「…ま、困惑はさせたようやがそれは堪忍な お陰さんで気持ちがスッキリしたわ」

「あっ…それなら良かったです」

「ホンマ…おおきにな せっかく海外に誘ったっちゅうに皆にイヤ~な気分させて申し訳ないわ 今度は別の意味で戻りた無いが…エエ大人がそういうワケにもアカンしな、行くかっ!」

「だったら、直ぐに行きましょう! 用意してくれてる料理が無くなっちゃいそうですし…」

 

 すっかり元の調子を取り戻した熹一にベルノが店まで案内しようと後ろを振り向くと、其処には何時の間にか彼女等を取り囲む“ガラの悪い男達”に溢れていた。

 

「…気配には気付いとったが、話に割り込まんから放っておいたんや お前等、早う散れ」

「****&$#─$¥!」

 

 男の一人がベルノを指差して何かを喋っているが彼女にはその言葉を翻訳することが出来ず困惑するも、熹一の方は意味が通じたようで“笑顔を深めて”いく。

 

「良かったのぉ、ベルノちゃん コイツ等ベルノちゃんの事『海外でも通用する値千金の美人さんや』と褒めちぎっとるわ…」

「お、お兄さん…顔が恐くなってますけど……」

「ベルノちゃん、右端の“薄い所”をワシが穴開けるんでそっから逃げぇや」

 

 悪い意味で“この世の何処にでも居る連中”に熹一は頭のスイッチを切り替え、ベルノにこの場から離れるように促す。

 しかし──────

 

「大丈夫です 『こういう状況ではお兄さんの傍に居た方が一番安全だ』ってオグリちゃんやタマちゃん、六平さんも言ってましたから」

「? オグリやタマはともかく、何で六平のオッチャンまで……」

「いえ、六平さんは『尊鷹相手に喧嘩で勝つ化け物なんざ絶対、囲っとけ』って…『囲っとく』の意味は分からないんですけど」

「いたいけな女学生に何言っとんじゃい、あのオッチャンは…“そない関係”にならんでもキッチリ守ったるわいっ!!」

「え…? そ、それに私もお兄さんが…“熹一さん”がすごく強い人って知ってるから、何も心配してません!」

「…オグリ相手にもそうやけど、ベルノちゃんって“人をその気にさせる”のがホント上手やのっ!! 名トレーナの資質あるわいっ!!」

 

 おそらくは意識すらしていないベルノの言葉で熹一の心は火を点け直し、目の前の荒くれ共に向かおうとしたその時──────

 

「“コブラ・ソード”!!」

「ゴッ)*#*&*&*!?」

 

 突如現れた男が“変則のテン・カウ”であるコブラ・ソードを放ち、荒くれの一人をなぎ倒したのである。

 その男の名は───

 

「“ギャルアッド”! 何でお前が来とんねん!?」

「あんまりにもお前が俺のカミさんの店に来るのが遅いんで迎えに来たんだよ」

 

 かつて熹一が一度は光を奪い、その後にそれ以上の光を与えられた“ギャルアッド・スワンパクティ”が恩人に笑顔を向けていた。

 

「お前のお蔭で『戦い(これ)しか自分には無い』って思い込みを解き放ってくれたんだ カミさんの屋台も…今、俺がやってるジムもお前の支援で形になってるんだ なら…“恩”を返さなきゃお前に足向けて寝られないだろっ!!(ボッ」

「…なんや、日本嫌いだったくせに日本人好みの言い回ししよってからにっ! 白髪交じりのオッサンが無理するんや…ないぞっ!!(ボムッ」

「言ってろっ!(ボゴッ しかしキー坊…“あの娘”はお前のカミさんか? 器量も気立ても良さそうだな、安心したぜ!!(ガッ」

「ドアホゥッ!!(バキッ ベルノちゃんは(オグリ)親友(マブダチ)じゃいっ!! ま、『器量も気立てもエエ』のはその通りやがのっ!!!(ゴッ」

「なら、早く誰か良い人見つけて子供を作れっ!!(パァン 俺のジム生と闘わせたい!!」

「ほっとけ…ってなんや、今の“シン・コブラ”やん!! ちゃっかり自分でも習得しよって抜け目ないのぉ(スパァン」

「指導する側が弱いんじゃ話にならないからな(ガッ 俺もまだまだ成長中さ」

 

 笑顔で会話しながら悪漢達を瞬く間に片づけていく“達人”の戦いにベルノは開いた口が塞がらなかった…。

 

「ま、前にテレビで観た映像よりもスゴイ…これが熹一さんの“本気”……」

「いや、まだだベルノ キー坊は“空眼の目付け”…領域(ゾーン)にも入ってないし、使う技もギャルアッドの物ばかりだ 仲直り出来てはしゃいでいるんだろう」

「…ったく、“エエ女の慰め”よりも“男同士のバ鹿騒ぎ”で元気になっとるんやから…格闘家っちゅうのはホンマ、バ鹿ばっかりやな」

「…わぁっ! 二人ともいつの間に来たの!?」

 

 突如現れて解説と愚弄を行うオグリとタマに驚くベルノであったが、当の本人達はどこ吹く風である。

 

「ギャルアッドが『嫌な予感がする』とバイクで走って行ったから私が並走して案内したんだ」

「…オグリちゃんもGPSを使ったの?」

「イヤ、ベルちゃん…あんまりにも迷い無く案内するもんでウチも気になって聞いたんやが、オグリ(コイツ)『勘』の一言で済ませよった…“引き寄せ合う惑星”っかっちゅうの!」

「…惑星か スケールが大きくて何だか嬉しいな」

 

 タマによる皮肉交じりのツッコミもオグリには通じず、むしろ機嫌が良くなっている様子であったがベルノはふと、疑問に思った事を二人に尋ねた。

 

「…二人とも、北原さんって今お店で留守番してるの?」

「いや、お店の原チャリを借りて付いて来ていたんだが今は……」

「あー、あそこや 近くの木ぃに隠れて観戦しとる」

 

 タマの指差す方へ視線を向けると、確かに北原は木陰から半分ほど身を乗り出して熹一とギャルアッドの大立ち回りを食い入るように見ていた。

 

「キー坊とギャルアッド、“二人の達人”の戦いを見れるなんて……くぅー! 付いて来て良かったぜ!!」

「…まぁ、満足そうにしとるようやし アレはアレでエエんとちゃうんか?」

「うん 北原が嬉しそうで本当に今回は誘って良かった」

「…オグリちゃんが納得してるなら、それで良いけど」

 

 しばらくの間、北原の様子を見て笑顔だったオグリが何かを思い出したかの様に表情を消すとベルノの方に向き直る。

 

「そうだベルノ さっき、キー坊の事を『熹一さん』と呼んでなかったか?」

「えっ!? そ、それはその……」

「ちょちょちょい、オグリん お前なに……」

 

 真剣な表情でオグリに見つめられ蛇に睨まれた蛙の如く固まってしまったベルノを見てタマが口を挟もうとするが、直後にオグリが満面の笑みを浮かべてベルノの手を取る。

 

「今まで『お兄さん』呼びで少し寂しかったんだが、名前呼びになるとは…キー坊と仲良くなれたんだな! 本当に良かったよ、私も嬉しい!」

「う、うん…そう、なるのかな?」

「…なぁオグリん コレ、いつも思うんやけど…“地雷原”が分かり辛いねん ヒヤヒヤさせんなや」

「…そうなのか? 二人とも済まない」

 

 

 この後、悪漢共を全て片付けて店へ戻ったオグリ達は昔の事、今の事、これからの事を肴にタイ料理を楽しんで全員の瞼が閉じるまで宴が続いたのだった。

 


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