[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ   作:日常系好き

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一つの節目と思って書きました。


タマとキー坊

 

「「 乾杯っ!! 」」

 

 此処は“宮沢熹一”と“タマモクロス”の二人が住む場所から町一つ隔てた距離に構えるお好み焼き屋である。

 其処で前述の二人、珍しくも“二人きり”でテーブルに座っていたのである。

 

「連日のどんちゃん騒ぎで疲れたやろ、タマ 前にも話した通り、この店はワシの奢りやけど…まぁ、マッタリ行こうや」

「まったくや…こちとら“精魂尽き果てとる”っちゅうにウチの家族もキー坊、アンタの家族も毎日お祭り騒ぎでホンマ、シンドイで」

「しゃあけど、仕方ないやろ 有馬でのオグリとの戦いがお前の……“ラストラン”やったんやからな」

 

 熹一の言葉で店内は静寂が支配し、鉄板で焼けるタネの音しか聞こえなくなった。

 

「…それこそ、しゃあないやろ? 静虎のオッチャンの活法のお蔭で今まで…だましだましやって来たけど、ウチの身体では今以上のパフォーマンスはもう無理や 『“今回で”オグリんに勝てんかったら選手辞める』ゆうのは前々から決めとった事やしな」

「……引き際見極めんのも“一流の証”や オグリだって悲しんどったが、納得はしとる…勿論、ワシも含めてやで?」

「…で? ナーバスになってるであろうウチを呼び出して二人きりになった所で口説くつもりなんか? 相変わらず、スケベなやっちゃなぁ……」

「アホゥ、ワシはお前が“これ位”の頃からの付き合いやぞ 今更そんな目で見れるか」

 

 そう言って熹一は小指の先を指して“これ位”を表す。

 

「“そこまで”ウチは小さないわっ、このクソボケ───っ!」

「…おうっ、その調子や やっぱ、タマはその“キンキン声”やないとな」

「…ったく、ウチはアンタのそういう所がイケ好かんのや」

「そうか? ワシはお前のそういう所がオモロイ思うとるで」

 

 自身でも感じていた精神的不調を見透かされた上でおちょくられた事に怒りはあった物の同時に心が軽くなった事も自覚し、タマは椅子から立ち上がりかけた体を不承不承と言った様子で元に戻す。

 

「……ウチもな、本当に『やり切った』思うとんねん 間違いなく肉体(カラダ)を全盛期まで持っていけたし、周りの支えてくれた皆に対しての不満なんて勿論無い…子供の頃にウチに走りのイロハを教えてくれた“おっちゃん”もこの前、病院行ったら静虎のオッチャンの施術の甲斐もあって…ようやっと峠を越えたんや 本当に、本当に…悔いなんて、無い…思うとるのに……」

「………」

 

 

 タマは瞳に滲む涙を堪えながら、時折つっかえながらも言葉を絞り出す。

 それを熹一はただ黙って聞いていた。

 

「ウチは我儘や…『まだ体が動いてる内は終わりやない』って思いが止められへんのやっ……!」

 

 “幼い頃からの付き合い”であるタマモクロスにとってオグリキャップという存在は“妹”…とまでは行かないまでも自身を“先輩”として基本的に後ろを走っていた存在である。

 そんな彼女が“後輩”にも、支えてくれていた人達にも弱みを見せる事は出来なかったのだが…目の前に居る男は彼女が弱音を吐く事の出来る数少ない“大人”の一人であった。

 

「やっぱり…お前は“アスリート”言うより“格闘家(コッチ)”側なんやな、タマ ワシもそうやが親父(おとん)、お前の師匠である鉄山のおっちゃんなんかは“お前の気持ち”が痛い程分かるわ」

「……………(グスッ」

「しゃあけど、しゃあけどな…お前は有馬記念で“自分から”一線を引いたんや ほなら、“どうすべきか”は分かっとるやろ?」

「……当たり前やろが、アホ 自分でも整理付けようとしてた所をほじくりくさりおって…ホンマに性格悪いやっちゃな」

「知らんかったか? 格闘家っちゅうのは“相手のシンドイ所”見つけるのが上手いんや 可愛い妹分が傷跡を下手に縫い合わせようとしとったら止めんのも一つの優しさやぞ」

「…そうかい、ソイツはどうもアリガトさんやっ!(ガッ」

 

 タマが感謝の言葉を言い終わるや否や、彼女の脚は熹一に脛蹴りを放っていた。

 

「痛ぅ~~~~っ! 完全に調子が戻った様やな…それでこそや」

「わざと避けへんのも“優しさ”のつもりかい…けったくそ悪いっ!!」

「何言っとんのや…“このやり取り”がワシ等のいつも通りやろがい」

「ふんっ……まぁ、せやな」

 

 場の空気から最初に漂っていた“重々しい物”は完全に消え去り、今では清々しい表情をしていたタマの口からふと…不思議な質問が投げ掛けられる。

 

「なぁ、キー坊…もしも、もしもやで? 『ウチ等が出会っとらんかったら』どうなっとったんやろな?」

「……なんや、SF本でも読んだか? 急におかしな事言いおってからに」

「…ウチの恩人である“おっちゃん”が元気な顔を見せた日の夜にな、変な夢を見たんや そこでのウチは子供の頃にキー坊にもオグリにも会っとらんし、鉄山師匠の指導も受けとらん…せやけど“おおまかな事”はそのままっちゅう何とも言えん夢やった…」

「ほなら…ワシはタマ、お前ともオグリとも会えんかった…つまり“親父(おとん)お袋(おかん)が再婚せんかった”っちゅう事かの…?」

「…せやな そしたらキー坊はどんな人生を歩んどったと思う?」

「そんなん…決まっとるやろ 親父(おとん)を超えた“最強の格闘家”になっとるわいっ!」

「まぁ…アンタはそう言うと思っとたわ……」

「しゃあけどな…ワシは今の人生、最高やと思っとるで! 親父(おとん)とジイちゃんに加えてお袋(おかん)オグリ()もワシの“家族”になってくれて…タマ、お前とも親友(マブダチ)になれとるんやからなっ!!」

「……ウチもな、さっき言った夢見たらなーんか『物足りなかった』感じなんや “前あったモンが無くなった”ちゅうか…ともかく、ウチも今の人生を悪くないって思っとんねん」

「当ったり前の事抜かすなやっ! 直ぐにナーバスになりよって、“夢の話”なんぞいきなり言われても頭の医者やないんやから分かる訳ないやろがい!!」

「…それもそうや “万年振られマンのアホ”にウチも何を話しとったんやろ…アホくさ」

「何やと、コラ! せっかく、オグリと一緒に“バンコク旅行”に連れてってやろう思うとったのにお前の分のチケット売っ払うぞっ!!」

 

 すっかり調子を取り戻したタマの軽口に乗っかる熹一の発言で気になるワードを拾ったので彼女は質問をする事にした。

 

「…“バンコク”ってタイのやろ? ギャルちゃんにでも誘われたんか?」

「……ニュースで有馬記念にお前等が出とった事知った様でな、“お祝い”だそうや」

「へぇ、ええやん チケットは何人分なんや?」

 

 タマの質問に熹一はその日偶然持ち歩いていたチケットを取り出し、枚数を確認する。

 

「…五人分、やな ワシは行かんからオグリとタマ…後の三人を選んでくれ」

「…いや、キー坊も行けや ギャルちゃんからすればウチ等の方が“オマケ”やろ」

「ギャルアッドに関しては…一回失明させた手前、ワシには会う資格が無い」

「アホ抜かせ! 男が過ぎた事グダグダ引きずっとるんやないぞっ!! チケット寄越せやっ!!」

「お、おう…」

 

 先程とは立場が逆転したようで、呆然としていた熹一の手からタマがチケットをもぎ取った。

 

「…ったく、決めたわ キー坊はウチとオグリんの二人で引きずってでも連れてく事にしたからな 当日は覚悟しとけや」

「な、なんやもう…そないピリピリすんなや、タマ」

「やかましいっ! その腑抜けた(ツラァ)便所で洗ってこいやっ!!」

「………分かったわい」

 

 恐ろしい形相で放たれた指示に顔を青くし、すごすごとトイレへ向かう熹一の背中にタマは思わず独り言を呟く。

 

「久々に格好エエとこ見せたと思ったら“コレ”や しゃーない、あんな絶対モテへん男…ウチが十年経っても彼氏がおらへんかったら、特別に貰ってやる事も考え……って、こないな事考えるとは…ウチまたナーバスになっとんな」

 

 そうして彼女は鉄板に放置され、最早“真っ黒になった”お好み焼きを切り分けて口に運び、文字通りの苦い顔をするのであった。

 

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