[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ   作:日常系好き

35 / 53
先達者の絡みがありますが独自の概念でこの二人を書いてみました。
悪魔おにぎりおじさんのオグリ以来の一人称物です。


八重桜と金髪猿

 当時の私は未熟で───いや、今の私も決して立派であるとは考えていないが、それでも…“昔の自分”は己が心の奥に抱えた“火”を制御できていなかったという自覚がある。

 “あの日”の私もウマ娘という身の上で『武術を習っているのはズルい』という話から始まり、実家の道場を愚弄された事によって頭に血が上ってしまい、発言者達を“打ち据えて”しまった。

 己が手に残る“昏い高揚感”と“衝動を抑えられぬ罪悪感”が発言者達から奪ったバットの冷たさに呼応するかのようにジワジワと私の心を蝕みながら川沿いを通って帰路に就いていた時であった、“彼”に出逢ったのは───

 

「なんや、こんな所にボロボロのウマ娘が居るやんケ バットなんぞ持って危ないのォ」

「……誰だよ、アンタ?」

 

 “彼”は当時高校生であったが平均より小柄な体格をしており、金髪に染め上げられた頭も相まって私からすれば『金色の猿』の様な印象を受けた。

 

「おうっ! ワシは今、家族と東京観光しとる身やが…まぁ、なんや『傷心中』言えばエエんかのォ……一人でブラブラしたかったんじゃ」

「…アンタがどこから来たのかなんて知らないし、興味もない 私に話し掛けるな、ブン殴られたいのか?」

「ホンマに血の気が多い娘っ子やな…挙句に歩き方からして“武術”も齧っとんのやろ? ガス抜きしたいなら手伝ったるわ」

「オイ、『人間がウマ娘の相手になる』とか本気で考えてるワケじゃないよな?」

「生憎やが…ワシも最近“プロレスラー”、“ムエタイ選手”に負け続きでフラストレーション溜まっとんじゃい そんな時に人間、ウマ娘関係なく『武術を間違った使い方しとるヤツ』見るとカッチーン来るねん」

 

 そう言って彼は私の前に立ち、見覚えの無い“武術の構え”を見せた。

 当時の私は彼が己の地雷を踏み抜いた発言をした事と、曲がりなりにも武術家であった事に『殴っても良い相手』だと認識し、持っていたバットを投げ捨てて同様に構えを取る。

 

「なんや…得物(バット)なら使ってもエエぞ」

バット(アレ)は私に殴り掛かって来たヤツ等から没収しただけだ それに…『武器を持ってると持ち手だけに意識が集中する』って私の道場の師範代が言ってた」

「しっかりとした“実践派”の考え教えられとるやん…うっし! 来いやぁ!!」

 

 笑顔の彼からの誘いに私も釣られて頬が緩み、『純粋な闘争心』が己を包み込んだ事を自覚してその感情のまま彼へと挑んだのだった。

 その結果だが───

 

「ピタッ)っ!? “寸止め”…? いや、今“どこから”打ち込んだ!?」

「お嬢ちゃんは自分が打ち込む時、拳や蹴りに意識が集中しすぎや せやから“意識外の攻撃”なんて技術(ワザ)に引っ掛かる…ま、ワシの練度もまだまだやから、あんまエラそうな事言えへんけどな」

「で、でも…アンタは私の打ち込みを明らかに“見切って”いたじゃないか!?」

「確かにエライ速い打撃やったが、武術家の打撃言うのは『来ると分かっても躱せない』まで練り上げた(モン)が本領や 曲がりなりにも子供(ガキ)の頃から親父(おとん)に食らいまくっとるワシからすれば嬢ちゃんのは“速さ”も“恐さ”も無いわ」

 

 私の放った拳や蹴りは彼の身体を当たるか当たらないかのギリギリで躱され、逆に彼の攻撃はその全てが“寸止め”されるという当時の…いや、現在の私にとっても屈辱的な結果となった。

 

「くっ…もう一本っ!!」

「やめとけやめとけ、ただでさえ嬢ちゃんは“身体が出来上がってない”からリーチが足り取らんのや これ以上ワシの動きに付き合うとなるとワシの“妹分”みたいな貧相なボディになりかねんで」

「余計なお世話だ! アンタだって十分“チビ”だろっ!!」

「なっ!? 人が気にしとる事指摘しよって!! ワシの“妹”と違って可愛げない娘っ子やのォ!!」

「アンタの妹なんて知った事か!! 大体、私に指一本触れずに負けを認めさせようっていうのが傲慢なんだ!!」

「しゃーないやろ! 触ったら力が入らなくなる掴み方…“関節技”も解禁できるが、君みたいなカワイ子ちゃんにそんな事したらワシ“最低野郎”になってまうやん!」

「はぁっ!? 『カワイ子ちゃん』とかどれだけ私を愚弄するつもりだ!!」

 

 その後も私は怒りが冷めやらず、彼に突っかかって行ったが当の彼は苦笑を浮かべたままそれを捌くばかりで結局…本当に私に対して指一本触れる事は無かった。

 

「……疲れた」

「……同じくや けど、会った時よりも随分と“エエ顔”になったようやな?」

「はぁっ? 何を言ってるんだ」

「お嬢ちゃんの打撃見て何となく思ったんや、『ワシと違って“闘う事自体”はそんな好きでもない()なんやろな』ってのォ…やっぱ、ウマ娘だけあって“走る方”が好きか?」

 

 彼からの突然の問いに面食らった私であったが、問いの意味を暫く考えた上で答えを出す事にした。

 

「……私が暴力を振るってしまうのは自分の心の中にある“火”を制御出来ないからだ でも、アンタの事は一発も殴れなかったのに今は不思議と気分が良い…多分、私は『強い奴に挑む』のが楽しいんだと思う」

「はははっ! “そこ”はワシと一緒やな! だったら、お嬢ちゃんの言う“火”ってヤツをどうやったら丁度良く治められるんかのォ?」

「…実家の道場で武術を続けてみる 今日、“火”が漏れ出したのも実家の道場を馬鹿にされたからなんだ なら、道場(みんな)に迷惑を掛けないように敬遠してた“精神修行”ってヤツもやってみるよ」

「ワシも武術が好きって言うより『親父(おとん)が好きな武術やから好き』でやっとるトコあるからのォ…エエんやないか? その気持ちがあればきっと“間違った道”には進まんと思うで」

「そっか…今日はありがとう えっと、名前は……」

「せやったな、お互い名前も知らんと()り合っとったんや ワシの名前は……」

 

 彼が名乗ろうとした直後、私達から離れた場所で彼を呼ぶ声が聞こえた。

 

「キー坊! こんな所にいたのか!! 探したぞ!!」

「ったくよぉ! 妹と妹分を俺に押し付けて東京をブラブラしやがって、そんなにギャルアッドが故郷(くに)に帰ったのが寂しかったのか!?」

「ウチのせっかくの東京観光に水差すマネすんなや、キー坊! 家族への土産(モン)をヨッちゃんだけに持たせとらんと、アンタも早よ来いっ!!」

「タマちゃんもオグリもウマ娘やっちゅうに荷物持ちになってくれとんのやからヨッちゃんはホンマ、エエ男やねぇ」

「ハハハ、由美子さん 可愛い二人が『土産物選ぶ』って言うならコレ位当たり前っすよ」

 

 どうやら彼の“知り合い”だった様で、その内の二人はウマ娘だった。

 後にその“二人のウマ娘”を私は強く意識する事になるのだが、当時の私はそんな事になるとは露知らず彼に関係を聞いていた。

 

「…あれがアンタの言ってた“妹”と“妹分”なのか?」

「おうっ! 残りの二人はワシの叔母ちゃんと親友(ダチ)や!!」

「で、アンタが『キー坊』か…覚えた」

「皆はそう呼んでくれんのやが、ワシの本名……も別にエエかっ! どうせワシはこれから“ビッグな男”になるんやからな!! そん時にでもテレビで知ってくれればエエわいっ!!」

「ふふっ…何だよソレ、変なの」

「イヤ、笑うなや……ほな、今日は“ワシの息抜き”にも付き合わせて悪かったな!! 武術やっとんなら、また会えるやろ!!」

「あっ、待って……」

 

 私の最後の呼びかけは“仲間達”の元へ向かった彼の耳には届かず、去って行く彼等の姿が遠ざかるのを見ながら伝えられなかった言葉を漏らす。

 

「あの“金髪猿”…私の名前、聞き忘れてるじゃないか……」

 

 

 

 ───それから数年の時が経ち…現在は中央の選手となった私こと“ヤエノムテキ”は僅かに震える手を師範代から教わった呼吸法を持って鎮め、己の目の前に立ちはだかる会議室のドアの向こうに居るであろう彼…“宮沢熹一”との再会に心を躍らせていた。

 その後、彼の宣言通り“TDK”、“ハイパー・バトル”での活躍で宮沢熹一は世界に名を知られる格闘家となり、自身も新たなる流派“灘・真・神影流”を興して現在は施術師としてこの中央に在籍する事になったのだ。

 今度、彼主催で行う武術家達の“他流派交流会”でも我が金剛八重垣流の参加が決定し、師範代だけではなく私も彼に挨拶をする運びとなったのだが……駄目だ。

 久しぶり再会で緊張してしまい、彼が本当にドアの向こうに居るのか不安になったのでドアにウマ耳を付けて中の様子を探ろうという不躾な真似をしてしまった。

 

「…キー坊、静虎さんよ このオグリの“クセ”をどう見る?」

「六平のオッチャン…アレやな 『相手の隙見つけたら一気呵成に攻める』所やろ? 観客的にはかなり“オイシイ”場面やが、上位陣からしてもコレはかなり“オイシイ”わ」

「…我々、武術家達と違って人目に付くのが仕事である以上は相手から“研究”されるのは当たり前 今まではそれで結果を出せたからこそ“怪物”の異名を冠するに相応しい選手と評価されていますが、今後の事を考えれば……」

「その通りだ、オグリ(アイツ)はレースも食事も同様に『相手から出された物を残さず平らげる』傾向にある つまり、相手によっては仕掛けを…“毒”を撒かれる可能性もあるってワケだな」

「なんや、そういう表現なら大丈夫な気ぃしてきたわ なんせオグリの胃腸(ストマック)はワシ等の比やない位頑丈(タフ)やし、毒程度なら問題無く消化できるって事やん」

「せやな、ワシや熹一は果し合いで毒を受けても“総身退毒印”で何とか闘えるがオグリはそれすら無く動けるやろうし…いや、念の為にオグリ(あの子)にも習得させた方が……」

「やっぱり、お前等にレースの話を振るのは駄目だな すぐに“物騒な話題”に持って行きやがる……」

 

 ……居る。 “お父様”である宮沢静虎さんとお話しされているようだ。

 もう一人の声は…以前、師範代に紹介されたから聞き覚えがあった彼の妹であるオグリキャップの担当トレーナー…六平銀次郎さんの物で間違い無いだろう。

 

「いや、居るのが分かったからといって…緊張の度合いが益々上がってしまったぞ オグリキャップへの“果し合い”を無視されて“火”が漏れ出しそうになってしまう、相も変わらず未熟者である私がそもそもお会いして良い相手なのか……」

 

 状況から考えて『会うのが礼儀』というのは理解しているのだが、昔の彼に対する“無礼極まりない態度”を思い出して羞恥に震え…思考が堂々巡りに陥ってしまった私がドアの前で悶々としていると───

 

「ガチャ)なんやもう、さっきからドアの前で聞き耳立てたりブツブツ言うたり…“敵”か?」

「──────っ!?」

 

 彼、宮沢熹一が未熟者である私の放つ気配に気付いていた様で胡乱気な表情を隠さずに会議室のドアを開けて確認に来た為、私としては『声にならない叫び』を上げる他なかった…。

 

「どうやった、熹一? 敵意は無かったから放っておいたが…」

「いや待て、静虎さん コイツは確か…」

 

 未だにショックのあまり赤面して言葉が口に出ないという“醜態”を静虎さんと六平さん…そして他ならぬ“彼”に見られている現状に私は更にパニックに陥ってしまう。

 『もう、消えてしまいたい…』 最早そんな事を考えていた私に彼は、宮沢熹一は───

 

「おっ! 懐かしいのォ!? 昔、ワシが“東京行った時”に会った嬢ちゃんやろ? すっかり身体も成長して顔も美人さんになったな!」

「…へっ? ハイ!?」

 

 “昔と変わらない”人懐こい笑顔を浮かべて私との再会を喜んでくれたのだった。

 

「あー…せやった、こういう事言うと今のご時勢“セクハラ”扱いされるんやったわ 悪いな嬢ちゃん……」

「ヤエノムテキ……」

「ん?」

「私の名前は“ヤエノムテキ”です!! “嬢ちゃん”じゃありません!!」

 

 そして、私はと言うと…『変わらずに私という存在を受け入れてくれた』という安心感で当時からずっと心に引っ掛かっていた『私の自己紹介が出来ていない』という思いを礼儀も情緒もなく彼にぶつけてしまっていた…。

 

「お、おうっ…じゃあ、ヤエノちゃんでエエか? しっかし、此処に居るいう事は“中央の選手”か……ホンマ、立派になったな」

「いえ、私は未だに未熟者で…そう言う貴方の方が余程立派になられ……」

「キー坊や」

「えっ?」

「ヤエノちゃんこそ他人行儀に“貴方”とかやめてくれや ワシの呼び名は知っとるやろ? “キー坊”やってな」

「……押忍っ! 改めて宜しくお願いしますっ!! キー坊!!」

「なんや、言葉遣いはエライ堅苦しくなったが…こっちこそ宜しく頼むわ、ヤエノちゃん」

 

 結局、昔と変わらない不作法を晒してしまった事に対しての自己嫌悪はあったのだが…キー坊の見せてくれた昔と変わらない優しさに触れて、私の緊張は無事解かれる事となったのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。