[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ 作:日常系好き
このシリーズでのガルシア達の立ち位置に結構、悩んでいます。
これはオグリキャップがまだカサマツに在籍していた頃、担当である北原穣と親友となったベルノライトと共に休暇を利用して都内の動物園に遊びに行った時の出来事である。
「見て、オグリちゃん! “サイ”が赤ちゃんと一緒に歩いてる、可愛いね!」
「うん、あれだけ強い足運びなんだ…突進を受けたらトラックなんてひとたまりもないな」
「…オグリ、何か例えが物騒じゃないか?」
「うぉっ! コイツが“オオアナコンダ”…こんなでかいヤツに締め付けられたら人間なんて一巻の終わりだな…」
「いえいえ、トレーナーさん…ウマ娘だって無理ですって、こんな力強そうな生き物」
「そうなのか? 大蛇相手でも、圧倒的な脚力を使えば逆に関節技を極められると私は教わったんだが…」
「あれは“イタチ”か…初めて実物を見たが、小さくて可愛らしいな」
「そうだったんだ…私も動物図鑑でしか見る機会が無かったけど、オグリちゃんも?」
「いや、私が初めて見たのは
「なんだよ、その“ビックリ人間” オグリの交友関係って何気に謎だな……」
様々な場所で、多くの動物を鑑賞…時には触れ合いを行い、三人は笑顔を見せる。
更には特別に開かれた動物の絵画展に展示されている菱田“春草”の【黒猫】に感銘を受け、オグリ達は晴れやかな気分で再び園内を回る事となったのだった。
「…次は“ゴリラ”か 実は私はゴリラが大好きなんだ」
「へぇ、そうだったのか…なら、此処には長めに居るとするか 何か軽食買ってくるよ」
「だったら、私も行きます オグリちゃんの分を考えるとトレーナーさんだけじゃ持ちきれないと思うので」
「いや、だったら私も行くよ……」
「なに、オグリはそのままゴリラ鑑賞を続けてくれよ」
「そうだよ、だって…オグリちゃんさっきから『早く見たいな』ってうずうずしてるんだもの 買い出しなら私達に任せて!」
二人に内心を見透かされていた事に少しだけ気恥ずかしさを覚えた物の、その厚意に甘える事にしたオグリは一人でゴリラの観賞に向かう事にしたのだった。
◇◇◇◇◇
「二人には気を遣わせてしまって申し訳なかったな…でも、ようやくゴリラ“さん”を見れるぞ」
二人から離れた途端にまるで幼い子供の様に目を輝かせながらゴリラが待つ柵へと移動したオグリはそこに居た“お目当ての相手”に対し、羨望の眼差しを向ける。
「…やっぱり格好良いな、ゴリラさんは 落ち着いた佇まいといい、動きの一つとっても優しく…頭が良さそうでまるで『お父さんみたい』だ」
「…へぇ? アンタの親父さんは随分と『情けない男』なんだな?」
「…何だと?」
突然ゴリラを…延いては自身の父を侮辱する言葉を吐いたであろう、“横に居た男”をオグリは睨みつける。
「おっと…気に障っちまったか? でも考えてもみなよ、“霊長類最強”のスペックを持ってても“賢く争い事を好まない”性格の所為で野蛮な獣達から自分の子供を守れない残念な生き物なんだ そんなのと同列扱いするのはむしろ可哀そうじゃないか?」
「あまり私の家族を侮辱するな…君が何者かは知らないが、それ以上は本気で怒るぞ」
オグリの視線にたじろぐでもなく、むしろ“楽しそうに”煽って来た男。
その容姿は被っていたフードに隠れていた為、判別する事は出来なかったが…それでも全体的に伝わる『全てをバ鹿にする』雰囲気に対し、オグリにしては珍しく苛立ちを感じていた。
「そもそも…同じ理由で俺はウマ娘って種族も嫌いなんだよ 『人を超越した身体能力を持ち、高い知性のある生き物が人にへりくだってる』って時点で欺瞞でしかない」
「…私達ウマ娘は人から生まれた『人の一形態』に過ぎないんだ 授業でもそう習うし、事実これまでの歴史でも“人の良き隣人”として大きな問題もなく生活出来ている」
「そんなのウマ娘側の“優しさ”に甘えて利権を手放さない小狡い連中が掲げた都合の良い歴史だろ?
「だからと言って
「“純粋”ではあるが“無垢”じゃないってか…つくづく難儀な生き物だよ、
「…君は多分、『悪いヤツが嫌いな悪いヤツ』なんだな 私の親戚にも似た様な人が居るよ」
「へぇ…? 似てるとは光栄だね、良かったらソイツの名前を聞かせてくれよ……」
『子供が落ちたぞーっ!!』
フードの男の態度が少しだけ軟化し、次の話題に移ろうかというその時であった。
ゴリラを見るのに夢中になり過ぎた為、柵から身を乗り出してそのまま落ちてしまった男の子に周りの観客が騒ぎ出したのである。
「あらら、こりゃ大変だ どうするかね…?」
「ゴリラさんは基本的に優しいんだ 落ちた子供を助けたって事例も聞いた事がある……が、“あの子”はマズイな」
オグリが危惧した通り、落ちた子供に対してこのゴリラが抱いたのは“優しさ”ではなく“好奇心”であったからだ。
「きっとストレスが溜まっていたんだろう 『新しい玩具が降って来た』と認識している」
「つまり“シャチの遊び相手”みたいな結末になるワケだ と、なれば…?」
「ああっ! 私が“遊び相手”になる!!」
言うや否やオグリの身体は柵を飛び越えて次の瞬間、ゴリラと男の子の間に着地する。
「済まない、安全な場所まで放り投げるぞ 少しの間、口と目を閉じて我慢していてくれ」
「えっ!? う、うんっ!」
突如現れたオグリに対して驚いていた男の子であったが彼女の自信と優しさに満ちた表情に安心したのか大人しく指示に従う。
「よし、では投げる場所だが……」
オグリは自分の周囲を瞬時に見回す…すると騒ぎを聞きつけて来たのか北原とベルノの慌てた姿も確認する。
結果として彼女の“投擲すべき場所”は決まり、そこへ向けて男の子を放り投げた。
「頼んだぞっ! 受け止めてくれ!!(ブンッ!」
「ん……? おっと!(トスッ 正気かよ
放り投げられた男の子を危なげなく受け止めた物の『納得できない』と言わんばかりの表情を見せたフードの男が渋々といった様子で男の子を親元へと帰す。
「あ、ありがとうございます…本当に…本当にありがとうございます!」
「……礼なら俺の所に放り投げたあのウマ娘に言う事だな ま、“この後”礼を受け取れる状況になるのかは見物だけどね」
フードの男の興味はすっかり柵の向こう側に居るオグリの“その後”に移った様で、隠れている目元には爛々とした輝きが覗いていた。
「…よし、ゴリラさん 私と“遊ぼう”か?」
「ホアッ! ホアッ! ホォオーッ!(ドンドンドンドン」
オグリの言葉に胸を叩く“ドラミング”で『遊んで欲しい』と意思を示すゴリラ。
その思いを汲み取って笑顔を見せたオグリとの“じゃれ合い”が今、始まったのである。
「ホァアーッ!!(ブンッ!」
「(正面からのストレート…“受けたら”折れる…)ならっ!(ギュルンッ!」
「へぇ、スリッピング・アウェイ…灘で言う“
「ホァッ!? ホォオーッ!(ブンブンッ!」
「(『当たると思った物が当たらない』から混乱して雑な手振りだ…)この程度だったら(フワッ…ゴッ!」
「脱力…“変水”で効かない感触を刷り込んで軽くパニック状態にし、その後来る雑な打撃には“硬筋術”で問題無く対応か…ウマ娘の身体能力を差し引いても見事なモンだ…ちゃんと防御のイロハは学んでるんだな」
フードの男はオグリが相手に対してどう立ち回ってるのかを正確に把握し、その後の動きも決して致命打を受けない様に徹底しているのを確認して感嘆の声を上げるも…ふと、違和感を覚える。
「何だ?
「ホッ? ホォ!? ホォアー!!(ダッ!」
「そうだっ! “殴り合う遊び”なんかより“駆けっこ”の方が楽しいぞ!! 私と一緒に走ろうっ!!」
「ホァアアー!!(ダッダッダッ」
オグリは相手に対してずっと誘っていたのだ、『走り合いがしたい』という事を。
そして、
「…マジかよ、荒ぶってたゴリラを宥めやがった いや、周りの連中も……“この俺でさえも”遠巻きで見てたってのに何故かこの光景に“高揚感”を感じてやがる
「ホッホッホッホァー!!(ダッダッダッ」
「流石、力強い走りだなっ! 小さい頃にお父さんと並走していた頃を思い出すぞ!!」
自身の中で“一つの結論”を導いたフードの男が感情の見えない瞳を向け、楽しそうに走る彼女達の体力が尽きるまで、その光景を凝視し続けていたのだった…。
◇◇◇◇◇
「いや、楽しかったな ゴリラさんと一緒に走れるなんて今日は本当に
「もうっ、オグリちゃん! 心配掛けさせないで!!」
「そうだぜ、オグリ! 大きな怪我がなくて良かったが、一歩間違えば大変な事態になってたんだからな!!」
ゴリラの心を見事に鎮めて戻って来たオグリに周囲の観客は惜しみない拍手を送ったがフードの男の姿は消えており、代わりに居たのは心配と怒りがない交ぜになった表情を見せる担当トレーナ―と友人、そして動物園の職員の方々の姿であった…。
「済まない…二人とも 辛そうなゴリラさんを見てたら放っておけなくて……」
「職員さん達も『何とも言えない表情』してたがお叱りは無しだったな まぁ…これに懲りたら今後、無茶はしないでくれよ?」
「うん…ごめん、キタハラ 帰ったらお母さん達にも今日の事を話してちゃんと叱られなきゃだな……」
「オグリちゃん…走る前は結構殴られてたけど、本当に大丈夫?」
「ベルノ、それは大丈夫だ 受ける技術は宮沢家の人達の闘いを見て覚えてたし、最近は幽玄って武術家の人達に“かわし”って
「そ、そうなんだ…でも、確かに“目立った外傷”は見当たらないし、オグリちゃんのお兄さん達がやってる“灘神陰流”って凄いんだね…」
「いや、ベルノ…今は“灘・真・神影流”なんだぜ キー坊が若くして新たに興した流派でな……」
「ベルノ…キタハラはこの前、キー坊と会って意気投合したみたいでな 色々と教えて貰ったから誰かに伝えたくてしょうがないらしいんだ、付き合ってやってくれ…(グゥー」
少年の様に目を輝かせて“新たな友人”の紹介を行う担当トレーナーの姿に嬉しさを覚えたオグリは隣に居たベルノに話し掛けると共に豪快に腹の音を響かせた。
「えっ!? オグリちゃん…さっき私達が持って来た食べ物、全部食べちゃったけど…またお腹が空いたの?」
「…すまない 予想外の運動をしてしまったからか、思った以上に体力を消耗してしまったようだ(グルルルー」
「……ベルノ、もう一回何か買いに行くか」
「はい、トレーナーさん! 今度はもっとお腹に溜まる物にしましょう!!」
悲しそうな顔でお腹を擦る担当、親友の姿を見て二人はいたたまれない気持ちになり、オグリに『そこのテーブルで待っていて欲しい』と伝えると大急ぎでフードコーナーへと向かったのだった。
「…二人には本当に申し訳ないな 心配を掛けたばかりか、私のお腹の音で慌てさせてしまうとは……」
「“あれだけの動き”をやってのけた後で『腹が減った』だけで済ませるのは流石、“灘のウマ娘”だな やっぱりお前は面白いヤツだよ」
続く醜態を大切な人達に見せてしまった事により、流石にショックを受けてしまったオグリは下を向いていたのだが…突如、自分に掛けられた聞き覚えのある声に反応して顔を上げると…自分のテーブルの向かい側には何時の間にか何処かへ消えた筈の“フードの男”が座っていたのである。
「…また出たか 君は何者だ? 何故、私が“灘の人間”だと知っているんだ?」
「個人的な事情でね…俺は灘神影流の技や使う連中を今、調べてる最中なのさ 」
「お父さんやキー坊を狙い…その為に私を“人質”にでもするつもりか?」
「おいおい、俺がそんなクズに見えるってのか? 今日、お前に話し掛けたのは故意だが…見掛けたのは偶然さ 俺の“心臓を”賭けてやってもいい」
「“そんな物”は別にいらない…それで? 君が私に話し掛けた理由はなんだ?」
オグリの言葉に男の口からは『クックッ』と押し殺したような笑い声が漏れ出す。
最初は『バ鹿にされているのだろうか?』という思いがあったが、よくよく見て見ればその姿はどこか『哀しみ』すら感じられる様子だった。
「俺の心臓の“価値”を知らないとはおめでたい……いや、『話し掛けた理由』だったな 最初は『灘の男達全てに愛される娘』ってヤツがどれだけ能天気な顔をして生きてるのか一度、拝んでみたかっただけさ」
「宮沢家の人達はみんな優しくて、私もみんなの事が大好きだ みんなが私を愛してくれているのなら、私もその思いに相応しい存在でありたいと思っている」
「…正直、腹立たしいよ お前は『愛されるべくして生まれた存在』だ 訪れる艱難辛苦すらもお前が『更に輝きを放つ為の越えるべき試練』でしかないんだろうよ」
「…君は、今まで『報われない事ばかり』だったのか?」
「お前と違って俺が他人から受けた評価なんて『犬畜生以下』だ そんな奴等の評価なんて、それこそクソ食らえさ 俺は俺自身の手で『存在していい価値』を作ってやるんだ」
相変わらず男の表情はフードで隠れて見えないが、オグリは対面する彼から『今にも泣き出しそうな小さな男の子』に近い雰囲気を感じ取っていた。
「そもそも、今日は“俺の幻魔拳”が霊長類最強にも通用するのか試しに来たってのに…まさか『お前に先を越される』とは思わなかったよ」
「“幻魔拳”…? 何だその技は…私は知らないぞ?」
「…まさか、知らないで使ったのか? お前の父親である宮沢静虎が得意とする『当てずして相手に幻覚を打ち込む』という、俺からすれば温い技だ」
「当てずして…あれか! 昔、お父さんが幻舟とかいうイヤな奴に放った“寸止めの蹴り技”だな!?」
かつて、兄である熹一と闘った“葵新吾”の師匠であった“茨幻舟”、人間的には外道と言っても差し支えない彼の仕打ちに怒った父である静虎が繰り出した“幻魔脚”…この時の事をオグリは思い出していた。
「“蹴り”…? 幻魔を脚でも打てるのか、流石は静虎さんだ……ともかく、お前はあのゴリラ相手に幻魔を使って“魅了”を行い、大人しくさせたのさ」
「だから待ってくれ、私はあのゴリラさんと一緒に走りたかっただけで、お父さんの技を使った覚えなんて無いんだ」
「ハッ…だったらお前は『走る時に無意識で幻魔を使ってる』って事だろ? やっぱり、お前はズルいよ 相手を傷つけずイメージを植え付けるだけでも温いのに、折角闘う意思を持った獣の戦意を奪う幻魔なんて欺瞞もいい所だ」
「……本当に意識した覚えは無いんだが、もし“そうだった”としたら…私は『嬉しい』な」
「えっ?」
「そうじゃないか? 君は『優しさを罪』と言った…私はそうは思わないが、優しさの所為で傷付く人も居るのは重々承知だ それは“優しくできない”人が居るからで、そんな人達が私の走りを見て『優しい気持ちを思い出してくれる』なら、それはとても意義のある事だと思う」
「……………」
「私は今まで自分の為にだけ走っていたんだが…君との会話で“新たな目標”を見つける事が出来た 本当にありがとう」
オグリの言葉に男はフードを更に目深に被り、下を向いていた。
僅かに震える彼の身体から感じるその感情の正体は果たして『憤怒』か『歓喜』か…はたまたその『両方』であったのか、オグリは読み取る事が出来なかった。
しばらくすると、男は顔を上げて『何ともない』といった雰囲気をオグリに対して向ける。
「……話が通じないな 多分だが、俺とお前は“相性が悪い” お前の言葉に俺が共感する事は無い上、今だってイラついてしょうがないんだからね」
「そうか? 私は最初、君の事を『イヤな奴だな』と思っていたが…話している内に『仲良くなれるんじゃないか』くらいには思えて来たぞ?」
「ハッ、下らない 『幻魔の実験』は必要なくなったし、場も白けたんで俺はもう帰るよ……そうだ 最後に一つだけ聞かせろよ」
「? どうした?」
「ゴリラから
「それは…あの場ではきっと『君が一番強い人』だと思ったからだ それに…さっきも言ったと思うが、君は私の親戚の叔父さんに似ているんだ その人も悪い人ではあるんだが…『女子供に危害を加える真似はしない』を
「ハッ! まさかの“勘”とは恐れ入ったよ それと、俺もさっき言ったが…
「その反応からするに、君は鬼龍おじさんの“息子の一人”なんだな?」
「なに、いずれは“唯一の息子”になってやるさ 何故なら、俺の名前は───」
その言葉と共に男は遂にオグリの前で被っていたフードを取る。
すると、其処にあった顔は───
◇◇◇◇◇
「オグリちゃん、ごめん! 時間も時間だからどこも混んじゃってて…待った?」
「いや、大丈夫だよベルノ むしろ並ばせてしまって悪かったな」
「何言ってんだよ オグリは今日、この動物園で一番の“目立つ動物”になっちまったんだ 動き回っちゃあ、見に来たお客さんも混乱しちまうぜ? ほら、飲み物」
「ふふっ、それもそうだな ありがとうキタハラ、喉もちょうど渇いていたし頂くとするよ」
笑顔で戻って来たベルノと北原に同じく笑顔を返すオグリであったが時折、空席となっている自分の前の席に目をやる様子があった。
「ん? どうしたオグリ…前の席が何か気になるのか?」
「……“残気”がはっきりと見えるんだ 帰り際にわざわざ残していくなんて、随分と『目立ちたがり屋』なヤツだと思ってな」
「えっ…“気”? 確かに…言われてみればオグリちゃんの前の席、何か『イヤな感じ』はするけど……」
「ウマ娘のベルノでもその程度しか分からないんじゃ、俺にはサッパリだな……」
「済まない、二人とも…変な事を言ってしまって じゃあ、せっかくテーブルに食べ物を持って来てくれたんだ 皆で食べてしまおうか」
「お! そうだなっ!!」
「えっと…それじゃあ、私はどれに手を付けようかな……」
オグリが話題を変えて食事を始める三人であったが、当のオグリは食事に集中出来なかった。
何故ならば彼女の脳裏には相手から受けた言葉による“幻魔”がこびり付いていたからであった。
《俺の名前は“悪魔王子”だ オグリ、お前は女だから“ターゲット”から特別に外してやるが…灘の男連中はその限りじゃない 奴等には俺という存在を嫌と言うほど刻み付けてやるよ》
《その顔は…“ガルシア”か!? でも、その“髪の色”は……》
《似合ってるだろ? “パパ”を意識して染めてるんだ》
《パパ…“鬼龍おじさん”の事か》
《その通り、俺がこれから行うのは『世界に俺の存在を認めさせる事』だ 方法は…まだ考え中だけどね》
《“その行い”で無関係の人や私の家族に迷惑を掛けると言うのなら…私はお前を許さないぞ》
《そこなんだよ、基本的に『他人なんかどうだっていい』って思ってる俺が何故か
《それなら別に良い、だったら私もお前を“親戚の一人”として……》
《だからと言って、お前と仲良くなんてゴメンだぜ? 悲しませはしないが…“嫌がる事”はしてやろうと思ってね》
《…なっ!?》
《ハハハッ! “その顔”、傑作だねっ!! いや、いいぜ……今の俺は最高に『生きてる』って感じがするよ…決めた! やっぱりお前“だけを”ターゲットにしよう!! そうと決まれば今後の事を考えないとな…じゃあなオグリ、“また”会おうぜ!》
そう言うと瞬く間に消えた悪魔王子の『心底楽しそうな笑顔』を思い返し、オグリは食事の手を一旦止めて軽く痛んだこめかみを揉む事にした。
「オグリ、どうしたんだ? 食事のペースが遅いなんてお前らしくないが……やっぱり、どこか傷めてたのか!?」
「そ、そうなのオグリちゃん!? 大丈夫!?」
「いや、違うんだ二人とも……ただ、私にしては珍しく『親戚付き合いの難しさ』を考えてしまってな」
心配する二人に問題無い事を伝えると気を取り直して食事を再開し、帰ったら『今日の事を家族に伝えなければ』と深く心に誓ったオグリであった…。
『好きな子ほどイジメたくなる』というタイプの厄介ファン、悪魔王子の誕生です。