[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ 作:日常系好き
中央、生徒会室───
「宮沢熹一さん…本日はこちらにお呼び立てして申し訳ありません」
「構わへんよ、会長さん ワシも今日はアンタに用事があったんやしな…けど、ワシは
「ええ、構いません 貴方は私よりも年長者である上、畑違いとは言え“頂点に立つ者”の一人ですので…畏まった態度を取られても逆にこちらが委縮してしまいますよ」
「せやったら、会長さんも敬語を取って『キー坊呼び』で頼むわ ワシもアンタと固っ苦しい雰囲気はゴメンやし、オグリと話しとる時の少しだけ砕けた感じや“ピリッ”とした感じが好きなんや(ニッ」
「であれば…“キー坊” 今日は“相談”があっての呼び出しだが、個人的に君との会話を心待ちにしていたんだ 有意義な時間となる様、宜しく頼むよ…これで良いだろうか?(ニコッ」
「おうっ! “それでこそ”会長さんやで! こっちこそ今日はヨロシク頼むわ!!」
生徒会室に招かれ、現在はソファに座る熹一とテーブルに置かれたコーヒーから立ち昇る湯気にの向こうにいるのは今回の呼び出し人であり、中央の生徒会長である“シンボリルドルフ”。
当初、彼女が客人を招いた側…
そして、そんな二人の間…厳密には熹一の両隣に腰掛ける二人が感嘆の息を漏らす。
「やっぱ“師匠”のコミュ力って半端ねぇな…気ぃ使わせねぇ雰囲気にすんのが上手ぇし、それでいて無駄に空気を緩ませねぇんだからよ “龍星”もそう思うだろ?」
「それは俺も思うけど…“姫次”はもうちょっと会長さんに敬意を払えよ 立場的に“俺達みたいな人間”を受け入れてくれてる側の一人なんだからさ」
熹一の叔父に当たる宮沢鬼龍の息子である鬼塚姫次と長岡龍星…中央のトレーナー資格を持つ彼等が熹一を挟んでの談笑を始めようとしていたので熹一から呆れた様な声音で指摘が入る。
「ったく…お前等まで気を緩ませんのに加担してどないすんねん 会長さんを見てみぃ、『坊主頭三人が並んでバ鹿やっとる』って笑いを堪えとるわ」
「げっ あー…何か、スンマセン」
「いやっ 本当に申し訳ありませんでした! ほぼ“身内だけの空気”に当てられてとんだ失礼を……」
「フフフッ…いや、気にしないでくれ 君達の様に“強い者”がいがみ合う事も無く、仲良くやれている姿を見れるのは私としても嬉しいんだ」
「んな事ねぇって会長さんよ 良い子ちゃんの龍星はともかく、俺は隙あれば武術家として『打倒、宮沢熹一』を狙ってんだからな」
「何言ってんだよ姫次、俺だって目標は同じさ…けど、今日みたいに熹一さんのトレーニング中に“仕掛ける”のはナシだろ? お陰で普段以上に顔を腫らす羽目になったんだからさ」
「…オグリが『バーベル500キロ上げられた』なんて聞いたら兄貴としてせめて『半分でも』と気合入れとる最中に襲い掛かって来たんじゃ、今日一日マトモに飯は食えんと思うからそれで反省しなさい」
「フッ…フフフ……ハーハッハッハッ!!」
親戚関係である“坊主頭三人組”の物騒ながらも気の置けない会話、特に腫れあがって四谷怪談の“お岩さん”を思わせる容貌になった姫次の顔にルドルフは耐え切れず、遂に彼等の前で大声で笑いだしてしまった。
「イテテ…そんな笑うこたぁねぇだろ? 会長さん」
「いや、“問題行動”として扱わずに笑うだけで済ませてくれてるんだから姫次はもっと感謝しろって…」
「スマンのォ…会長さん 男…特に“格闘家”いうのはこの通りバ鹿ばっかりで、アスリートとしては理解できん所もあるとは思うが…指導したワシも含めて勘弁してくれや……なっ?」
「……いや、笑ってしまって済まないな姫次 確かに“暴力沙汰”ではあるのだがキー坊、君達にとっての“コミュニケーション”であるという事は我々も理解しているんだ 最早、中央の“日常風景”となっているし…他の者の迷惑にならないか、外部の目に入らなければこちらとしても君達にとやかく言うつもりはないから安心して欲しい」
「ふーっ…会長さんの器が大きくて助かったわ」
「…誓って、大きな騒ぎにはしねぇよ 悪かったな、会長さん」
「…中央の寛大な処置に心から、感謝します」
「龍星は相も変わらずの見た目に反した礼儀正しさだな 時には慇懃無礼な面も目立つが、それも“敵の前”でだけだ 君のデータ型の指導法で助けられている者達が居るのは聞いているが…まだ担当を持つ気は無いのかい?」
「はい、俺もまだ学びの途中ですので……今は“その時”の為に勉強を続ける事にします」
「……そうか、分かった さて…三人とも話が逸れてしまって済まなかったな 今日の“本題”に入るとしようか」
雑談の空気感が切り替わり、若干身体を固くした三人にルドルフは穏やかに微笑みかける。
「何、目の前に出された珈琲でも飲んでリラックスして聞いてくれて良い…とは言っても『内容も内容』でね、ある種の“専門家”である君達の意見を聞きたいんだ」
「会長さん、この面子で“専門家”ってぇと…“荒事”の話かい?」
「姫次 だったら静虎さんや鬼龍、呼べれば尊鷹さんもまとめて呼んだ方が良い…それに『ある種の』と前置きも付いてるんだ、そこから分かる“俺達の共通点”と言えば……」
「成程のォ…『裏の事情を知っとる』面子って事か 今は縁をキレイサッパリ切っとるが、ワシ等も少し前までは“そういう連中”と関わりを持っとったからな」
「あれ? 熹一さんこの前、俺やオグリさんと一緒に“ダンプ松木”さんと一緒に焼肉に行きましたよね…って、ダンプさんはもう“堅気”だったか」
「娘さんの治療も終わったのにもう裏稼業に居る理由も無いやろ 連れ戻しに来たバ鹿タレ共もワシ等で片付けたし、今のアイツは全力で『優しいパパさん』をやっとるからエエねん」
「オイオイ、だから二人とも話を脱線させんなって…で、会長さんは『裏稼業の話』が聞きたいのか? だったら、鬼龍に聞いた方が手っ取り早いぜ 何せアイツは俺等と違って“現役”だからな」
「…聞きたいのは正しく“そういう話”なのだが……
姫次の指摘に同意を示すルドルフであったがその言葉の歯切れは彼女にしては珍しく悪く、三人は頭に疑問符を浮かべていた。
「…私もまだ『仮説』の段階ではあるのだが、取り敢えずは“この映像”を見て欲しい 話し合いはそれからにしよう」
そう言って彼女は立ち上がると部屋のカーテンを閉めてプロジェクターとスクリーンの準備を行う。
「なんだ、動画でも観るのか?」
「そうらしいけど…どんな内容だろう?」
「会長さん、コレ『喋ったらアカン』ヤツか?」
「大丈夫だ 音声を遮らないのであれば好きに喋ってくれて構わないよ」
全ての準備が終わって遂に映し出される映像、その内容とは───
【私は“キャプテン・マッスル” このメールを受け取り、開いた君は選ばれし者 “100万ドル”を掴むチャンスを与えられた速きウマ娘だ】
「…何や、この“ムキムキのホラーマスクマン”は?」
「マスクの出来はともかく、デザインセンスはパーティーグッズレベルなんですけど…」
「冒頭からして明らかなスパム・メールだろ…」
【単刀直入に言うと、日本に居るとあるウマ娘と戦って欲しい 名はオグリキャップ 通称オグリと呼ばれ、“怪物”の異名を持つ葦毛の少女だ もちろんめちゃくちゃ速い】
「…こりゃあ、オグリを的にした“嫌がらせ”か?」
「それで本当に100万ドル(約1億円)出せるんだったら結構な資産家なんでしょうが…気に入らないな」
「せやな 特に今の説明でオグリの『カワイさ』を抜かしとる所が
「「 (そっちか(よ)……) 」」
【オグリと戦うといってもウマ娘らしく当然勝敗を決めるのは“レース”でだ 万が一にも表のスター選手である彼女を傷付ける行為はNGだぞ ぶっちゃけ今後の活動に支障をきたす様なハードなヤツはこっちだって見たくないからなぁ!】
「何だコイツ…いきなり日和った事言い出しやがったぞ?」
「……いや、怪我とかを考慮してくれるならこっちとしては別に構わないんだけど」
「………」
【さぁ、走りに自信のある者は今すぐ日本に行け! オグリを打ち破れ! 乗り遅れるな、100万ドルを掴むんだ! “オグリ・ラッシュ”だ!!】
その言葉を最後にマスクの男…“キャプテン・マッスル”と名乗るその人物がポーズを決めた後、動画は終了した。
そしてルドルフは部屋の明かりを点け直した後、一息ついてから三人へと向き合う。
「……以上で“私が手に入れた分”の映像は終了だ」
「ちなみに…会長さんはどうやって今の映像を手に入れたんや?」
「それは勿論、この“オグリ・ラッシュ”とやらの参加者から頂いたのさ」
「「 なっ!? 」」
「…今の動画の内容からしても主に海外の“金が要る”ウマ娘へ発信してるのは明らかやしな 大方、会長さんはその中の一人に『案内』でも頼まれたんやろ?」
ルドルフからの情報源の入手方法に他の二人は驚いた様子であったが、熹一は『納得した』という表情で続きを促す。
「正しく、その通り 私に話し掛けて来た彼女の言い分では『学も無い、国では立場も無い…それでも“走り”だったら誰にも負けない』と豪語していてね…その様な身の上で単身オグリ探していたんだ 『私に勝てたのなら会わせよう』とつい、約束してしまったよ」
「…で? 会長さんの性格や 当然……」
「ああ、意気込みは立派であったが『日本に居る私の事を知らなかった』以上は“井の中の蛙”にしか過ぎない 然るべき
笑顔で語る彼女の風格は正しく日本に君臨する“皇帝”に相応しい物であり、その身から漏れ出す覇気に話を聞く三人の身体は高揚感を伴った震えを感じていた。
「フフッ…やはり有難い物だな、私に対して『委縮しない存在』というのは 私だって出来ればキー坊の様な『他者を威圧しない』立ち振る舞いを身に付けたいのだがね……」
「いえいえ、会長さんは熹一さんみたいにフラフラ出来る立場じゃありませんからね “今くらい”が丁度良いですよ」
「そうだぜ それに
「お前等、言いたい放題言い腐りおって…話を戻すぞ 会長さん、さっきは『私が手に入れた』とか言うとったが他にも『案内』を頼まれた娘が居るって事か?」
「そうだな “マルゼンスキー”に“ミスターシービー”…『暇を持て余した強者』に関わってしまったお蔭でオグリまで辿り着けなかった者達は何人か居た様だ」
「制服を着てるっていうのが外国の人から見れば『同じに見える』って事なんでしょうか?」
「
“オグリ・ラッシュ”に集まった者達の行き当たりばったりとも言える行動に龍星と姫次の二人は溜息を付くが熹一の方は何かを考えている様子であり、ルドルフもそれに気付いたのか声を掛ける。
「そう言えばキー坊…君も私に『用事』があったのだったな 良ければそれと併せて“君の考え”を聞かせてくれないか?」
「せやな…実は最近、オグリのヤツを学園の外で見かけると“戦った気配”を感じる時があんのや ワシが理由を訊いても『危ない事じゃないから心配しないで欲しい』の一点張りでな 今日の会長さんの話を聞いて“何をやっとるのか”は分かったが腑に落ちん事があってのォ……」
「それは…正直者のオグリさんが何故『理由を話してくれないのか』って事ですか?」
「せや、
「…『走る事自体』は後ろめたくねぇと思っても『走る理由』に後ろめたさがあるんじゃねぇのか? 例えば…“身内の不始末”とかでよ」
姫次の唱えた説にそれまで三人の会話に加わらなかったルドルフは頷いて肯定の意を示した。
「うむ、今回の“オグリ・ラッシュ”という名の騒動だが…私は宮沢鬼龍が“主催者”ではないかと考えているんだ」
「成程ねぇ…そりゃ、
「確かにオグリさんに…“女性に怪我をさせない配慮”や“100万ドルを気軽に出せる財力”なんかは
「……これもあくまで予想でしかないが、私は『中央のレベルを上げる為』ではないかと考えているんだ」
「いや、
「いや、それなんだが…私達も圧勝こそ出来た物の競ったウマ娘達が見せた『独特な気迫』には感じ入る所があってね 『“純粋”に走る事こそ強さ』と信じて来た価値感に『“不純”を極めた先に得られる強さ』を加えられたと言えば良いか…視野を広げる機会を与えられたんだ」
「まぁ…ウマ娘には、特にトップ層には馴染みねぇ感覚かもな 人間の格闘家なんか『強いヤツは大体悪いヤツ』なんて言われるくらい“欲”が直結してモチベーションになってるからよ」
「姫次…“それ”って俺も言われたけど鬼龍からの受け売りだろ? 何か…ますます疑惑が深まって来た感じだな」
ルドルフの感想に鬼龍の息子二人が意見を出す事で『鬼龍黒幕説』が補強される中、熹一は瞼を閉じて思考状態に入っており、その姿からは『今まで自身に起きた出来事を思い返している』様子であった。
そして、それが終わったのか熹一は瞼を開くと話し合っていた三人に自身の意見を述べる。
「…皆、“今回の件”やが ワシは『鬼龍は関わってない』と思っとる」
「キー坊…理由を聞いても良いか?」
「いやな、ワシも若い頃…最近までか、詳しい理由は会長さんの前では伏せるが鬼龍のヤツに粘着されとったんじゃ で、経験から言わせて貰うと今回のはまるで
「オイオイ、何言ってんだよ?
「…つまり、熹一さんは意識改革としての『中央のレベルの底上げ』なんか考えていない子供がやる様な『場当たり的な悪戯』だと考えてるんですね?」
「強いて言えばその『両方』やと考えとる そもそも、あのオッサンはワシには兎も角オグリに対して試練を自主的に与える様なマネはせんし、オグリ自身が望んだのならお互いが身近な
「言われてみれば確かにそうだな…キー坊、他に根拠は?」
「実はのォ、心当たりがあんねん 最近になって
「! 熹一さん、“そいつ”って………」
龍星が今回の“首謀者”が誰かを理解すると熹一が彼の言おうとした人物の名をうんざりとした表情で続ける。
「おうっ…“悪魔王子”やろうな 会長さん…そいつはワシ等“灘の親戚”に当たる男でな、現在はオグリにご執心なんや 大方、ちょっかい掛けるついでにオグリの『“遊び場”のレベルを上げてやろう』とかゲーム感覚で
「……十分、考えられるな
「…なぁ二人とも 俺はまだ会った事ねぇんだが、そんなにヤバイ奴なのか? その悪魔王子ってのは」
「俺が初めて会ったのはオグリさんと一緒に散歩してる時で『お前如きにオグリの隣を歩くだけの価値があるのか?』っていきなりアイアンクロー極めてきたんだ…オグリさんが止めてくれなかったら頭を本気で割られてたね」
「
「…聞けば聞く程『お近づきになりたくないヤツ筆頭』って感じだな 俺としては今後とも会わない事を祈ってるぜ」
「成程…悪魔王子、か」
熹一の口から語られた悪魔王子という存在にルドルフが『今後、どのように対応すべきか』を考えているとそれに気付いた三人から各々の意見が出る。
「俺個人としては『清濁併せ持つのが健全』って考えではあるが…放っておくかどうかは
「俺は純粋に競技に打ち込んでいる者達に対して半端に“ノイズ”を入れるなんて言語道断だと思っています 少なくとも今回の件に悪魔王子が関わっているのであれば曲がりなりにも身内に当たる俺達が動くべきではないでしょうか?」
「“そこ”なんや龍星……オグリが今回の件を誰にも相談しとらんって事は間違い無く悪魔王子が関わってるっちゅう信憑性が増す つまり
「…何故、その様な判断を
「おうっ、会長さん 前にオグリから聞いたんじゃ、『
「…間違いなく、“癇癪”を起こすだろうな 私も経験があるから分かるよ」
自身の幼少期…『ルナ』と呼ばれていた頃を思い返してルドルフは熹一の問い掛けに答える。
「なんや、会長さんにもカワイイ頃があったんやな? まぁ…そんな癇癪持ちに
「“静虎さんの教え”を守ろうとしてか……困ったな、尊敬する彼の話を持ち出されると甘い判断を下してしまいそうだ」
「悪魔王子の事は正直、『イケ好かんヤツ』とは思っとるがそれでも“灘の人間”やからな オグリのヤツが『見捨てたくない』いう覚悟なら、ワシも最後まで付き合ってやりたいんじゃ 頼む“ルドルフ”さん…しばらくの間でエエ、オグリの好きにやらせてくれんか」
「…ここで私を“名前呼び”しての懇願と来たか キー坊、やはり君は“ズルい男”だな 認めている人間からそこまで言われれば、首を縦に振らざる負えないじゃないか」
「…ホンマかっ!? 恩に着るで!!」
「何、聞けばその悪魔王子なる人物は居場所無き者達の扱いに長けている様だ 学園内では“シリウスシンボリ”がその役を自主的に担っているが、外に…外国にまで“その役割”を担う者が居てくれるとこちらとしても助かると思っていたんだ」
「…お言葉なんですが会長さん 悪魔王子はそう簡単にコントロール出来るヤツじゃないですよ?」
「龍星…恐らくは、そうなのだろうな だから私もキー坊の言う『しばらくの間』という条件で首を縦にした これ以上看過できない所まで影響が出るのであれば勿論、それに比した対応をこちらとしても取らざる得ないのでね」
「…会長さん、アンタやっぱりイイね 普通に生きてちゃまず出ない判断を『さも当然の様に』ルールに組み込みやがる “タダの良い子ちゃん”じゃない所に好感持てるよ」
「フッ…姫次はやはり“シリウス”に近い雰囲気を感じるな 多様性の獲得の為だが、君を選考段階で推したのはやはり正解だった様だ」
「なんや、やっぱり
「おっと、キー坊 済まないのだが君が提示した条件だが…私の方から“追加”をさせてくれないかい?」
「…んっ!? 何や、会長さん」
ルドルフからの新たな条件の提示に熹一は一瞬身構えかけたが、彼女の表情は『イタズラを思い付いた』物であり、安心感を覚えて話を聞く態勢に入る。
「何、“呼び方”の事さ 先程の『ルドルフ呼び』は“対等感”があって中々に気分が良かったのでね 今後は出来ればで良いのだが妹のオグリ共々、敬称を抜いた呼び方で頼めないか?」
「…ま、ワシが最初に『キー坊呼び』を振ったからのォ アンタが良ければ構わんよ ほな、今後もヨロシク頼むで、“ルドルフ”」
「ああ こちらこそ宜しく頼むよ、キー坊」
最初に互いが感じていた“固さ”はすっかり消え去り、周囲から『最強』と呼ばれながらも高みを目指す研鑽を怠らない“求道者”二人はしばらくの間見つめ合うと、どちらともなく笑顔を見せていた。
そんな二人の横ですっかり冷めてしまったコーヒーに口を付ける龍星と姫次は揃って渋面を作る。
「うぇっ! 香りからして“コナコーヒー”ってのは分かってたけど…やっぱ、冷めたら台無しだな」
「ハワイでマナちゃん達が淹れてくれたのが美味しかったからお土産で買って来たけど、流石にここまで時間が経つとなぁ……」
「どれ(ズズッ……確かに、栄養面的には問題無いが味的にはかなり劣化しとるな」
「いや…長話で静虎さんから頂いたハワイ土産を台無しにして悪かったね 詫びと言ってはなんだが私の手でもう一度淹れ直しても構わないだろうか?」
「せやったらルドルフ、ワシも淹れるんでどっちが美味いか“勝負”と行こうやないか これでも
「ほう…? それは面白い試みだ 私も昔から嗜みとして習得していた技術だが“競い合い”となれば一層の気合も入るからな 龍星、姫次もだが審査員として参加してくれ 私とキー坊のどちらが『バリスタとして上か』判断して貰おうじゃないか」
「(め、メンドクセー)……ウッス」
「…別に構いませんが、二人とも負けず嫌いなんだから“熱”を入れ過ぎないでくださいよ?」
その後、思った以上に技量が伯仲した事により審査員の…龍星の危惧した通り“熱”が入った二人の“コーヒー勝負”は長引き、それに比例して審査員二人の腹内がその後の飲食を受け付けない状態にまで追い込まれる事になったのだった…。
◇◇◇◇◇
その日の深夜 某運動場───
「………(グッグッ」
「“ストレッチ”に余念が無いのは結構だが、今回は随分と機嫌が良いな…何か“良い事”でもあったか?」
「“悪魔王子”か…今日は姿を現すのが早いな なに、昼間にキー坊から『頑張って来い』って言われてな…今、“私がしている事”を見抜かれた上で応援してくれたんだ 気合を入れなければと思ってね」
夜中に寮から“幽玄の技”を用いて抜け出した後、悪魔王子からの指定された
そんな彼女に声を掛けた悪魔王子であったが、深夜にも関わらず“晴れやかな表情”を見せる“怪物”に言いようの無い不快感を感じ、皮肉気に言葉を投げかける。
「今回は“いつものヤツ等”とは気合もレベルも違うぜ 懸賞金も相当上げたし、境遇だって悲惨で『勝てなきゃ人生終わりだ』って顔してる連中ばかりだからね」
「…そうか、だったらその子達の後の事は“いつも通り”鬼龍おじさんに任せる事になるな」
「えっ? 何だ、此処に“パパ”が来てるのか?」
「ああ、お前とは『顔を合わせる気は無い』って気配を消してるけど、お前の後始末の為に近くに潜んでる筈だ」
「何だ…“息子”である俺よりも“姪”のオグリのおねだりを優先かぁ…まぁ、いいさ 今は
「……その“遊び”でお前が満足するならいくらでも付き合ってやる 私としてもこの“オグリ・ラッシュ”とやらに参加する意義はあるからな」
「…そういや、毎度律儀に乗って来るんで理由なんて聞いた事が無かったな 聞かせろよ、
「この世の中には巡り合わせが悪くて不幸になったウマ娘が数多く居るんだって事を今回で“身を以て”実感した だったら、私がすべき事はそんな彼女達にせめて『走る事の楽しさ』を思い出して欲しいと思ったんだ」
「…下らない 『走りこそ人生だ』なんて考えはそれこそ選ばれし者だけが持てる“傲慢”だ 大抵の脱落者はそんな事忘れて死ぬまで生きて行くんだろうが」
「私達ウマ娘の幸せは“自分の脚で走れる事”だ 小さい頃の私は“それ”を実感出来なかったけど…周りの皆のお蔭で今は知る事が出来た なら、今度は私が皆に与えられた物を返さなくちゃならないんだ」
そう言って悪魔王子の目を真っ直ぐに見据えるオグリ。
その瞳は『お前にも私が与えられた物を分けてやりたいんだ』と訴えている様に感じられ、猛烈な居心地の悪さを感じて悪魔王子が思わずその視線を切った。
「…やっぱりお前は“傲慢”だ そんな事が言えるのも『今回も自分が勝つ』って確信を持っているからに決まっている……おいっ! とっとと出て来いよっ!!
悪魔王子の言葉を皮切りに多くのウマ娘が
その眼はどこまでも疲れ切っているが、泣いて詫びても徹底的に踏みにじられて来た人生をやり直してやるという覚悟を持つ“強さ”を伴った強者ばかりだった。
「今回は随分と数が多いな 勝負の形式はどうするんだ?」
「折角、今日は奮発して夜の運動場を貸し切ったんだ…“実際の試合形式”でやろうぜ 集まった面子の適正距離はバラバラだがオールラウンダーのお前なら“いつも通り”対応できるだろ?」
「何だ、
オグリの宣誓と共にその場の“熱”は一気に高まり、本日のオグリ・ラッシュが開催されたのであった。
気付けば今までで一番文字数が多くなりました。
ちなみにキャプテンマッスルの“中の人”は原作とは別人設定です。