[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ   作:日常系好き

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GOKUSAI関係の話で一本書きました。
久々のオグリ一人称。


二人の瞳が白いキャンバスに写す物

 現在、私の目の前には一枚の“真っ白な絵”があった。

 一見すると何も描かれていない様に見えるその絵は白を何重にも重ねた物で『見た者の心を映す』という説明を受けたのだが、私には何も『見えなかった』のだ。

 私の心に何か問題があるのだろうかと疑問を感じて隣で一緒に見ていた“人物”に質問をしようとした所…驚くべき物を見る結果となった。

 何故ならば、“彼”のその時の表情は───

 

◇◇◇◇◇

 

 時は少し遡り…中央のボランティアで近場の教会の掃除手伝いを募っていたのだが、予定していたメンバーに急用が入ってしまったので参加者が私一人しか残らなかった。

 それを聞いた神父さんやシスターのお姉さんは申し訳なさそうに『また後日に』と言ってくれたのだが、私としても『せっかく参加すると決めたのだから』と周辺の掃除を手伝わせて貰い、それが終わると神父さんが『お礼にになるかは分からないが…』と前置きした上で礼拝堂で待つ様に言われたのだ。

 そして、本来は私一人しか居ないであろうその空間に、いつの間にか叔父である宮沢鬼龍が一人席に腰掛けているのを見かけたのだった。

 

「…何だ、オグリか? “こんな所”でお前一人と会うとは奇遇だな」

「鬼龍おじさん…そうだな まさか私も神様嫌いなおじさんと“教会”で会うとは思わなかったよ」

「…別に俺は神に祈りなんて捧げるつもりは毛頭無いし、今までの罪を懺悔しに来た訳でもない 今日から教会(此処)に展示すると言われた絵画の『噂』を確かめに来たのだが…肝心の絵が時間になっても来ないから中で勝手に待つ事にしていただけだ」

「そうだったんだな 私はそんな事聞かされずただ待つように言われたんだが、良ければその『噂』の内容を聞かせて貰っても良いか?」

「突如としてこの世に現れた“真っ白な絵画”、それを見た者は写し出された己の心を突き付けられてどんな極悪人であろうとも涙を流して自身の罪を懺悔するという下らない話だ」

「…おじさんは別に懺悔したい訳じゃないんだろ?」

「フンッ、当たり前だろう 静虎との闘いで俺は己の“殺意”や“業”と向き合っても生き方を変えなかった男だぞ? その噂も鼻で嗤ってやろうと今回は来てやったのさ」

 

 こういう事を平気で言うのだ、鬼龍(おじさん)という人は。

 おじさんとの闘いでお父さんが一時的にでも“廃人”になった事は私としても未だに心に棘を残す出来事ではあったが、お父さんを復活させたのもまた、おじさんの活法のお蔭でもあったので今は何も言うつもりはない。

 何より、今の私はおじさんに“頼りっきり”という状況なのだ、そんな相手の心に波風を立てる気は起きなかった。

 

「…この前のオグリ・ラッシュの“後始末”だけど、ありがとう 鬼龍おじさん」

「お前の判断は正解だったぞ、オグリ 何せ静虎は勿論の事、尊鷹ですらも行き場を失った外国のウマ娘の抱える面倒事を合法、非合法を含めて片付けられるのは俺以外居ないのだからな」

「うん そういうのは鬼龍おじさんが一番上手だって知っていたから、『自分がやるべき』って考えを改めて相談する事にしたんだ」

「ふんっ、それで良いんだ お前の一番の強みは他者に『頼る』事を“弱み”と考えていない所だからな 見ず知らずの他人に対し盲目、無差別的に縋るような奴らは俺にとって唾棄すべき存在だが、お前の様に適材適所を考え抜いた上で自身の目的の為に利用出来る者を使う選択が出来る奴こそ評価されるべきだ」

「…私は別におじさんを“利用”しようなんて思ってないぞ」

「何、あくまで『見方と言い回しの違い』に過ぎない お前が望む結果を得る為に俺に『頼み』、俺はお前の望みを叶える事によって得られる利の為にそれを『受けた』 これで立派な“利害関係”が発生しているのさ」 

 

 相変わらずの持って回った言い回しをするおじさんであったが、つまりは『私が困っているから助けてやろう』と言っているに過ぎない。

 素直に言ってくれないのに少しばかりの不満はある物の、出会った頃から変わらない私やお母さんに対する“気遣い”に嬉しさが込み上げて来る。

 

「言い方の違い…そういう物か」

「それに今回、保護する形になったウマ娘にしたって慈善事業で手を貸してやる訳じゃない あくまで俺が行うのは“釈迦が垂らした蜘蛛の糸”の様な物だ 与えられたチャンスを物に出来ない愚か者はその後の人生でも堕ちて行くしかないのだからな」

「おじさん…その言い方はなんか嫌だな」

「まぁ…お前と戦って敗れた連中はどいつもこいつも『憑き物が落ちた』顔をしていたし、最低でも俺の“損”にはならないだろう その点は褒めてやっても良いぞ」

「そうか…お願いしてるばかりの立場で申し訳無いとは思っていたが、私のワガママでおじさんにも“利”があったのなら良かったよ」

 

 おじさんには迷惑を掛けられる事は何度かあるも、迷惑を掛けるのは望んでは無かったからその言葉に対して素直に感謝を伝えるも、おじさんは何故か私の方を見ずに教会のステンドグラスを見ていた。

 …何故だ?

 

「……それに、“悪魔王子”と名乗る奴に一泡吹かせる事にもなるからな オグリ(お前)が“撒き餌”の役割を果たす事で行動の予測も立てやすくなるんだ、今後もその調子で頼むぞ」

「…おじさんはまだ悪魔王子(あいつ)の事を“家族”として見られないのか?」

「考えてもみろ 遺伝子提供して生まれた存在から一方的に『父親』と呼ばれた所でお前は納得出来るのか? 熹一とお前の関係性とて血の繋がりなど関係無い、時間が育んだ結果生まれた“情”によって成り立っているんだ 俺と“奴”との間にそんな物は存在しないのだから家族と呼ぶなぞ欺瞞にしか過ぎない」

「…“性格”はとても似てると思うんだけどな」

「それこそ熹一とお前の相性の真逆だ 『似通っているからこそ反発し合う』 向こうだって大方、俺と似ている事への嫌悪感を抱いているんだろう」

「それは……」

 

 正しく、おじさんの言う通りだった。

 悪魔王子はおじさんを『パパ』と呼ぶが、初めて会った時から自分の“宮沢鬼龍に似ている部分”を『忌々しく』思っている事は感じていたのだ。

 それでも直接的に血の繋がった肉親がおじさんしかいないから執着を見せるのも分かっていたし、二人に『仲良くなって欲しい』と私が思ってもそれが“自己満足”でしかない事も分かっていたからそれ以上は言葉を続ける事が出来なかった。

 そんな私を見て目を細めていたおじさんだったが、しばらくすると溜息を吐いて話し掛けて来る。

 

「…少し話を変えるぞ 今日この教会に展示される予定の絵画の『噂』に尾ひれが付いた部分だが、本来の描かれた目的は『病気の母親の延命』の為らしい」

「…絵を見て人の寿命って延びる物なのか?」

「見た者に影響を与える“力を持った絵画”というのもオカルト染みた話ではあるがプラシーボ効果…“思い込みの効果”は決してバ鹿にした物じゃない 作者の母親は息子を一流の芸術家にする為に傍から見れば“虐待”としか言えない所業を繰り返す『極悪人』と呼んで差し支えない女だったそうだ」

「それは……本人にとっての息子さんに対する『愛情』だったのかな?」

「さぁな、そんなものは当事者にしか分からん そもそも、あくまで『噂話』なんだ 絵画に感情移入させる為に話を盛った可能性だって十分考えられるが…つまり息子はそんな悪党である『母親の心を救いたい』という一心で作品を描き上げたという話だ」

「心を救う事が延命に繋がる…か」

「フンッ 俺なぞ自他共に認める悪党であるし、“この心臓”だって最近ではゴアが作った薬で安定してるが急に止まる危険性は消えちゃいない 点欠(ツボ)に打ち込む為の針だって未だに手放せない身体だというのに、しぶとく今でも生きていられるんだから心…“生きる気力”ってヤツは人間にとって何より重要なんだ」

 

 …おじさんの心臓は急に止まってしまう可能性を秘めた“バースト・ハート”と呼ばれる疾患があり、それは龍星達子供にも引き継がれてしまっている。

 最近になって中央のサポート科に来たおじさんの知り合いである“ゴア博士”という人が作ってくれた薬でみんな安定した生活を送れている物の、それでも『自分の心臓が何時止まってしまうのか』という焦りを抱えてみんなは常に『自分の命の使い方』を考えて生きているのだった。

 

「つまりはだ、自身の罪を悔い改めようが改めまいが…善人だろうが悪人だろうが人間の寿命は変わらない ただ作者は生きる為に必要な道程から『余計な小石を省く』為の作品に仕上げたという事なんだろうな」

「それは…生きて行く上でなるべく“転ばないように”って事なんだな?」

「逆に言えばこの先にある道程に待つ“破滅”を防ぐ為に『余分な石を置いて』方向転換させる為なのかもな それが『噂』における“改心”の正体かもしれないぞ?」

「その人の生き方に対する“杖”になってあげる絵か…そんな絵をお母さんの為に描けるんだからその作者はきっと……」

「ああ、母親を愛していたんだろう この世の中では“愛”が最強だからな そう言った意味では今のオグリ(お前)が悪魔王子に付き合ってやっている“愛”は大した物だ 間違い無く悪魔王子()の心に変化をもたらしているんだからな」

 

 …びっくりした。 急におじさんが絵の話から私の話に切り替えるんだから。

 

「…そ、そうなのか?」

悪魔王子()が呼び寄せたウマ娘の“後始末”をやって気付いたが、奴は回を重ねる毎に悲惨な状況の娘程“元凶を排除してから”お前の元へ送るスタンスへと変化している それが奴の生来の“美学”から来る物なのか、あくまで俺の“模倣”に過ぎないのかは興味も無いがお前へのストレスを配慮する形で“遊び”に誘う情緒は身に付けている様だな」

「そう聞くと、悪魔王子(あいつ)はますますおじさんに似て来るな」

「フンッ! オグリ、下らない話はやめろ! …要はお前が悪魔王子()に“愛”を与えてやって俺が表裏一体である“憎しみ”を与える事で国から『兵器』として使い捨てられるだけの存在だった奴を『人間』として成長させてやろうという話だ」

「鬼龍おじさん…本当にありがとう」

 

 多分、私が『悪魔王子と関わりたい』と言ったからおじさんはここまで協力してくれているんだろう。

 そうでなければ…この人はきっとこんな配慮はしないんだろうなという事は長い付き合いで分かっていたからだ。

 どこまでも面倒な性格で、ちょっとだけ寂しがりやで、イジワルな事ばかり言うけどたまに優しい私の叔父である宮沢鬼龍の見せた気遣いに自然と頬が緩んでしまうのを止められなかったのだが、そんな時に外から車を止める音が聞こえたのでそちらの方を向くことにした。

 

「…“絵画”が届いたようだな 話も終わったし丁度良いタイミングだ」

「…そう言えばおじさん ちゃんと聞いた事がなかったが、今日展示される絵ってどんな題名なんだ?」

「知らん 更に言うと作者の名前も不明だ」

「えっ?」

「“ブラック・オークション”とかいう裏取引の場で誰が、何時描いたのかも分からないというのに『噂』ばかりが広がって何が真実なのかも分からない中で『罪を悔い改めた』とかほざく連中の存在だけは確認できたんでな 今日だって三流ゴシップ並みの信憑性の無い情報から駄目元で来ただけにオグリ(お前)を見掛けなかったらさっさと帰っていた所だ」

 

 ……あれだけの情報を私に与えておいて結局は全部不確かな『噂』でしかないって…いや、確かにおじさんは“それ”を『本当の事だ』なんて一貫して嘘は言ってないのだが…。

 

「…なんだか、納得できないな」

「まぁ、そう言うな 出自も何もかもが不明なのに突如、まるで“別の世界”からこの世に現れた名画なんて龍星の言葉を借りれば『刺激的でファンタスティック』というヤツだ 折角だから鑑賞してみようじゃないか」

 

 こうして…未だに納得が行かない表情の私を面白そうに見下ろす鬼龍おじさんと共に、私達は車から降りた業者の人達が教会に絵を飾り付けるの静かに見守る事にしたのだった。

 

◇◇◇◇◇

 

 ───と、いう事があって私達は現在、目の前にある“真っ白な絵”の前に立っているのだが、何も『見えない』私と違っておじさんには何かが『見えている』様なのだ。

 何故なら今のおじさんの“表情”は──

 

「おじさんは…何で“楽しそうに笑って”いるんだ?」

 

 人から『悪魔を超えた悪魔』と呼ばれるに相応しい、自信に満ちあふれた“悪そうな笑顔”を浮かべていたからだ。

 

「“コイツ”は愉快だぞ、オグリ 何せ俺の目の前には“悪魔”としか言いようが無い化け物が他の化け物共から“天使”を守ってるんだからな…ククククク 認めてやるよ、この絵は“名画”であるとな」

「おじさんにはそういう風に『見えてる』のか…“悪魔”っていうのはおじさんの事なんだろうけど、“天使”っていうのは分からないな……“誰”を指しているんだ?」

「…言ってやっても良いが、聞けば“オグリ(お前)”は絶対に微妙な顔をするだろうからな 教えてはやらんぞ」

「えっ? そんな事を言われると逆に気になってくるんだが……」

 

 頭に疑問符を浮かべる私をおじさんはどことなく優し気な表情で見ていたのだが、それが私を更に混乱させて頭が少しだけ痛くなってくる。

 

「確かにこの絵を見ると『もう少しだけ生きてやろう』という活力が湧いて来るな 少し前まで『龍の終活』を考えていた自分を完全にぶち殺して新たに生き返った気分にさせてくれる」

「…それなら、良かった でも…おじさんと違って私には何も『見えない』んだ 薄っすらと何かは“感じる”んだけど……」

「ほう…“感じる”か ならオグリよ、“少し離れて”見てみろ 絵画の種類に依るが作品にもお前等ウマ娘と同じく適正距離が存在する 俯瞰とも違うが物理的に距離を置く事で見え方も違うからな」

「うん、分かった」

 

 おじさんのアドバイス通り私は徐々に、徐々に距離を離して絵を見る。

 すると、薄っすらとだけ感じていた物の“正体”が遂に分かって私は驚きの声を上げた。

 

「凄いな! 何だ、この“真っ白で四本足の動物”は!? 絵から離れたお蔭で“全体像”がはっきりと見える! とっても大きくて優しそうな子なんだな!!」

 

 子供の頃に見せて貰った動物図鑑にも載っていない、初めて見た“珍しい動物”に私の心は不思議と騒ぎ出す。

 所々で私達ウマ娘に似ている“耳”や“尻尾”に親近感を感じ、力強い脚はきっと速く走る為に洗練された物であろう事が見て取れ、何より“彼”の優しそうな瞳には理由の分からない安心感を覚える位だ。

 

「…俺にはお前に何が『見えてる』のかは分からんが お前が動物を見てここまではしゃぐのはゴリラ以来だな」

「いや、おじさん…“彼”はある意味ゴリラさん以上に私の心を揺さぶってくるよ 何故だか分からないんだが、彼を見てるとこれまでよりも強く『元気で楽しく走ろう』って気分にさせてくれるんだ!」

「そうか…これで『噂』の真偽は“改心”よりも“延命”の説が有力である事が分かった訳だ」

 

 おじさんの言う通り、今の私には説明が出来ない“活力”に満ち溢れていた。

 早く走りたい、競い合いたい、ご飯をお腹いっぱい食べたいという心が抑えきれず、思わずおじさんにお願いをしてしまう。

 

「鬼龍おじさん! 申し訳ないんだが私はこれからご飯を食べに行くよ!! 近場で美味しいお店があったら紹介してくれないか!?」

「ふんっ、紹介と言わず奢ってやるよ 何故だか今日は俺もオグリ(お前)に“真っ当に”奢ってやれそうな気がするんでな」

 

 こうして私達は教会の人達にお礼と挨拶を済ませた後、ご飯を食べに外へと出る事にしたのだったが…教会から出て行く前に何故だか“彼”が私に対して笑顔を見せてくれた様な気がして…負けじと笑顔を返し、教会の扉を閉めたのだった。

 

◇◇◇◇◇

 

 ───後日、もう一度“彼”に会いたいと思って教会を尋ねたのだが、展示されていた絵は私達が見たその日の内に教会から“消えてしまった”との事らしい。

 神父さんは『その日の内に盗まれるとは…』と頭を抱えていたので鬼龍おじさんに相談すると『絵画なんて物は人から人へ移って価値を高めるんだ』と探してくれる気が毛頭無い返事が返って来たので少し落ち込んでいると『あの日、あの絵は俺とお前に見られるのが運命だったんだ』とロマンティックな事を言いだしたので『そういう物か』と取り敢えずは納得し、彼との“またの再会”を願って私は本日の練習へと向かうのだった。

 

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