[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ 作:日常系好き
明石市 拳術館道場───
「“師匠”っ! お久しぶりですっ!! タマモクロス、道場への顔出しに参りました!!」
「“鉄山”さん、小宮山です! 今日は私も来ちゃいました!」
「おお、タマにコミちゃんか! 有馬での活躍は見とったで! よぉ来たのォ!!(グィッ」
「師匠…今日は生徒がおらん言うても、タマちゃん達が折角来たんですからお酒飲みながらの歓迎はやめましょうや……」
引退したタマモクロスと彼女の元トレーナーであった小宮山勝美、二人の美女を道場にて胡坐をかいて出迎えたのはかつて『超人』と呼ばれた空手家“倉本鉄山”と彼の弟子である“金田長英”であるも、相も変わらず一升瓶が手放せていない師匠の姿に弟子が苦言を呈していた。
「ダァホ! 道場の主はお前に移してワシはもう“半隠居”の身ィや! お前を慕って集まって来た生徒等も居らんのにお手本の様な教育者面する必要も無いやろがいッ!!」
「…いえ そりゃあ、そうなんですがね」
「師匠も年取ってちぃっとは丸くなったが、相変わらずやな 飲みたいだけ飲んでアル中でポックリなんてウチは勘弁やで?」
「心配いらん、ワシの肝臓はまだまだ音を上げとらんからな! しっかしタマ、お前も競技者やってから益々エエ女に磨きを掛けて来たのォ…肝っ玉母ちゃんみたいな風格やぞ?」
「誰がオカンやねん!? …ってやり取りも懐かしいなぁ ウチ等がヒートアップすると金田の兄さんがオロオロすんのが面白かったわ」
「…二人とも ボクだって師匠に道場任されてからは色々頑張って来たんですから昔みたいにイジんのやめてくださいよ」
「分かってるよー、キンちゃんが頑張って鉄山さんやタマちゃんの事支えてくれてたってのは私がよーっく、分かってるからね」
「こ、小宮山さん位ですよ…ボクの事真っ当に扱ってくれんのは……」
「コミちゃん、あんま金田を甘やかすんやないぞ 『男は叩いて強くなる
「せやでコミちゃん、師匠の言う通りや あんま優しくし過ぎると金田の兄さんがコミちゃんに恋してしまう可能性だってあるんやからな?」
「…え? それは…遠慮しとこうかな」
「そこでガチ目に引かんで下さいよ、小宮山さん! もう、師匠とタマちゃんが揃うといつもこの流れになるの勘弁して欲しいわ!!」
そう言って金田が大げさに天を仰いで嘆く様子を見てその場に居た三人が大笑いするも、結局“何時もの流れ”になった事に本人は口で言う程の悲壮感はなく、苦笑を返すばかりであった。
「いや、悪かったって 今日はちゃんと美味しい土産
「まぁ、エエけど…で? 今日はタマちゃんが引退してから初めて『お邪魔したいです』って連絡が来たから師匠と二人で道場に待ってたけど、何の用で来たの?」
「それは私から…本日は改めて、タマちゃん…タマモクロスを育んでくれたお二人にお礼をと思って参りました」
突如、居住まいを正して鉄山、金田へと頭を下げた小宮山に対して二人もそれに応える様に雰囲気を真面目な物へと変える。
「小宮山さん…タマモクロスがこの拳術館道場の門を叩いた理由の一つとして、古くからの友人であるオグリキャップと『対等に競う為』言うのがありました」
「はい…タマモクロスは“武術家の下で育った”オグリキャップに立場でも負けない様に自分の“負けん気”を伸ばせる場所として
「ワシもその思いに応えられる様に女の身であろうとも一切の妥協無く指導をしましたが、彼女は弱音や泣き言を吐かずにそれらをやり遂げた、立派な弟子であると思うております」
「…幼い頃に走りを教えて貰った“恩人”、体格のハンデを物ともしない身体を作り上げてくれた“師匠”、そんな彼女を傍で支えて下さった“兄弟子”の存在のお蔭でタマモクロスというウマ娘は一流のアスリートとして大成した事を彼女を担当したトレーナーとして深い感謝を……本当に、ありがとうございました」
一時は“日本一”の称号を得たウマ娘、タマモクロス。
彼女を引退まで支え続けた小宮山勝美という中央の若きトレーナーは体格や環境に決して屈しなかった“相棒”を形作ってくれた者達への感謝を伝える為にこの場へと姿を現したという事を痛感した目の前の男達は天を仰いだ。
師匠は当時、愛弟子に与えた修行の数々を思い出し…弟子は師匠から受けたシゴキから決して逃げる様子を見せない“強さ”を持った姿を思い出していた。
「…タマちゃんはボクと違って“強い娘”です 昔のボクはイジメられても身体を丸めて縮こまってるだけやったけど、タマちゃんは『貧乏』や『体格の無さ』をバ鹿にされたらどんな相手やろうと絶対に噛み付いとった しかも家族をバ鹿にされたらその勢いは“倍”や…そんなタマちゃんが、ボクにとっては何時だって憧れやったんです」
「……金田の兄さん」
「更には…ウマ娘の競技者人生はボク等、格闘家よりもはるかに短い その短い時の中でタマちゃんは“栄光”勝ち取り、“
「二人とも、ホンマに……本当に、ありがとうございましたっ!!」
自身の目の前で微笑む“恩人二人”にタマモクロスは感謝と共に深く頭を下げる。
その瞳からは大粒の涙が零れ落ちそうになるも、『感謝の念も一緒に流れ出そうだ』という思いから彼女はそれを堪える為に道場の神棚の方へと向き直る。
「競技者人生は終わったけど後を託したオグリんだって頑張っとるんやし、ウチの人生はまだまだこれからや!! 今後もみんなには世話になる事もあると思うけど、そん時はどうか! よろしくお願いします!!」
「当たり前の事抜かすなや! タマみたいなエエ女、『放っておけ』言われても構いに行ったるからな!!」
「タマちゃん…偶には拳術館にも顔出してな 生徒達の中にはボクみたいにタマちゃんに憧れてる子も大勢おるんやからね」
「タマちゃんが引退しても私達との縁が切れるってワケじゃないし、何でも相談してね! その時は他の担当の子が居ても一緒に助けに行っちゃうんだから!!」
「イヤイヤ、コミちゃん! “ソレ”はダメやろっ!?」
自身が放ったツッコミに笑う三人に釣られて笑うタマであったが、そんな彼女の携帯に着信が入ったので取ってみると其処から聞こえて来たのは“彼女の友人達の声”であった。
【クロちゃん、この肉はやたら値段が高いんだがどんな感じだ? 『口の中でとろける』と書いているんだが…】
【うん 俺も何度か食べた事あるけど正直、食べ応えは無いからオグリちゃんには物足りないんじゃないかな? この『高級ヒレ肉の5キロ盛り合わせ』とかのウマ娘向けのヤツの方が良いと思うよ】
【そうか! 塩で食べるのも良いし、ニンニクをカリカリに焼いたのを乗せるのも良いな…楽しみだ】
【おいっ! 二人とも静かにせえ!! …タマ、今お前何処におんのや? 都内か?】
「キー坊…いや、今はコミちゃんと一緒に明石の拳術館道場やけど…何や飯でも食っとんのか?」
【なら丁度エエわい ワシな…今クロちゃん、オグリと一緒に神戸で出資したステーキハウスのオープンに参加しとんのや 今だけ『食い放題飲み放題』って事でキンちゃん達、皆も誘ってくれんか?】
「……ステーキハウスの『食い放題飲み放題』とはそら、太っ腹やな…分かった みんなには声掛けとくんで決まったら折り返すわ」
【おうっ、なるべく早めに決めてくれや 早よせんとオグリに肉を食い尽くされるからな(ブツッ…】
電話の主である宮沢熹一による食事への誘いは周りの妹であるオグリキャップと戦友である黒田光秀の楽し気なやり取りに負けない様に張り上げた声で伝えられ、電話を切った瞬間にタマが道場内の三人の顔を確認すると内容が聞こえていたのであろう、その表情は全員が“期待に胸を膨らませる物”であった。
それを分かりながらもタマは口角を上げながら三人に声を掛ける。
「…って、事らしいんやけど みんな…どないする?」
「決まり切った事抜かすなや、タマ! 『飲み放題』も付く言うならワシが参加せん理由なんぞ無いわ!!」
「黒田クンも来とるんやったら、ボクも是非とも参加したいな 道場経営の先輩として色々聞きたい事もあるしね」
「キー坊出資のお店って私も何度か連れて行って貰えたけど、どこも美味しくて落ち着く雰囲気ばっかりなんだよね 奢りって言うならここは行っちゃおうよ、タマちゃん!」
「よぉし! 全員参加で決まりやなっ!! ほな、早速折り返しの連絡すんで!!」
自身の“大切な人達”の乗り気な返事に太陽の様な笑顔を見せたタマは熹一に参加を伝える為に再び携帯を構えるのであった。
オマケ
数時間後、神戸 ステーキハウス店───
「だぁ~から、タマは『男前』なんじゃい! ワシのシゴキに耐えるあの“気構え”は並の男なんぞ裸足で逃げ出す言うとるやろがァ…ボケェ(ヒック」
「分かってないですってぇ~、鉄山さん(ヒック タマちゃんの一番の推し所は『カワイさ』なんですよぉ…よくナーバスになってもみんなの期待に応えようと持ち直す姿ってホント、カワイイんですからぁ…(グビグビ」
「そぉいう所がむしろ『格好エエ』言うとんじゃあ(グイッ コミちゃんとはホンマに話が平行線になるのォ…(ウィー」
「ならぁ、今日はせっかくなんですから徹底的に語り合おうじゃあないですか…(グイッ どっちの意見が正しいのか白黒つけましょうよぉ(ヒック」
初めの内は互いが愛弟子と担当の良い所を語り合うだけであったのだが、酒が入って行く事で議論は熱を帯び始めて現在の二人は如何に『格好良い』か『可愛い』かを大声で語り合う場となってしまい、その様子を他の客が見世物感覚で彼等の周りを取り囲む状況となってしまっていた。
そしてそんな二人から離れて現在、頭を抱えて居るのは勿論───
「二度と行かん…ウチ、この店には二度と行かへんぞ……」
話題の中心であるタマモクロスであった。
「タマ、災難だったな 良かったらこの高い肉でも食べて気を紛らわせてくれ 本当に口の中で溶けてしまうんだぞ?」
「…いらん ウチの腹にそんなん入れたら調子悪くなるの確実やもん」
「なら、このハーブティー…中国茶でも飲んどけ 気分が落ち着くらしいで」
「…それなら飲む(グイッ 何でや、何でこないな事になっとんのや…?」
「仕方がないだろ 本来なら“こういう時”頼りになるキンちゃんもクロちゃんも……」
そう言ったオグリの視線の先ではすっかり“出来上がって”しまった当の二人の姿があった。
「いやぁ! 黒田クゥン!! 久しぶりに会うたけど益々男前が上がったんやないか!?」
「金田も道場経営が上手く行っているからか自信に満ちた顔をしているね! 戦友がそんな顔をしていると俺も本当に嬉しいよ!!」
普段では見られないテンションの二人を未成年であるタマとオグリは若干引いた目で見ていたが、成人男性として熹一の方からフォローが入る事になった。
「タマもオグリも勘弁したってくれや あの二人も若い頃に闘り合ってから立派な戦友になったからな…キンちゃんがクロちゃんに道場経営のイロハ聞く名目で飯に行く頻度はワシよりも多い位やし、今日は特別羽目外してしまうんもしゃあないわ」
「それは分かっているんだが…やっぱり“お酒の力”って凄いんだな」
「金田の兄さんもクロちゃんもあんな“赤ら顔”でハシャぐんは初めて見たんでな…ビックリしとんねん」
「ま、ワシは“ああなったら”いざって時に反応できん思うて人前では酒を入れん様にしとるんや お前等も飲める年になったら、ちゃんと節制するんやで?」
普段よりも“出来る大人感”を出してアドバイスをする熹一に二人の未成年アスリートは思わず首を縦に振り、再び辺りを見回して“酒におぼれてしまった大人達”に軽く溜息を吐くのであった…。