[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ   作:日常系好き

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神戸の夜景に煌めく二つ名

 神戸 ホテル最上階のレストラン───

 

「今日はありがとう、宮沢さん 急な集まりで神戸に来る事になったが、終わった後の観光プラン等は考えていなかった物でね…生家がある貴方に案内を頼めて僕も助かったよ」

「気にすんなや、奈瀬ちゃん アンタが最近中央でマスコミの対応に疲れとったのは知ってたし今日はワシも偶々ヒマしとったからな、息抜きに協力出来たなら良かったわ」

「貴方も父である静虎さんと共に数多くのウマ娘を担当している様な物だというのに、こちらの体調まで把握して貰っているんだ 本当に頭が上がらないと思っているよ…」

「それが中央でのワシ等の“仕事”やし気にせんでエエ それよか乾杯しようや、早うせんと前菜(オードブル)が来てまうからな」

「おっと、それもそうだな では、本日の感謝を込めて…乾杯」

「おうっ、お疲れさん 乾杯」

 

 そうして『カチン』とグラスを鳴らす二人の姿は絵になる物であった。

 片や中性的な美貌を持ち、普段はパンツスタイルのスーツで通している物の現在はレストランの雰囲気に合わせた女性的なドレスコートに身を包んだ中央のトレーナー、奈瀬文乃。

 片や彼女と向かい合っている中央の施術師、宮沢熹一の姿も普段のTシャツ姿とは異なり、普段通りの坊主頭は変わらない物のスマートカジュアルをその身に包んでおり、彼が生来持つ野性味が僅かに漂う装いとなっていた。

 その様な二人が穏やかな表情で話し合う様は彼等を見る者にとって良い意味で『美女と野獣』を想像させる事だろう。

 

 向かい合って座る彼等の横に控えていた“二人のウマ娘の存在”が居なければの話ではあるが…。

 

「グイッ)…キー坊、このリンゴジュースは絶品だな 良い感じにお腹が空いてくるぞ」

「オグリ…せやろ? ワシも前に此処に卸してる業者さんに飲まして貰ったが、ホンマ美味いねん」

「あら~、そうなんですね では私も(クイッ…本当 トレーナーさんも飲んでみてください、ほっぺたが落ちちゃいそうになるくらい美味しいですよ~」

「クリーク、済まないが僕の飲み物は君等と違ってリンゴの果実酒…“シードル”なんだ だが(クイッ…うん、確かに美味しいな この味はリンゴ農家の方々の熱意の証なのだろうね」

 

 オグリキャップとスーパークリーク、互いの相方が持つ素朴さに和やかさが増して今回の集まりに“アットホームな空気”が形成されていた。

 

「キー坊さん この前はベルノさんと一緒に私の実家のお手伝いをして貰ったのもありがたかったのに、今日はトレーナーさんと一緒に神戸の街並みを案内してくれてありがとうございます」

「いや、ホンマに気にすんなやクリークちゃん ワシかて子供は嫌いやないし、今日だってワシ等の地元が『エエ所なんや』って事を二人にも分かって欲しかっただけやからな」

「オグリキャップも折角の休みだというのに付き合わせて済まなかったね “英国館”は楽しませて貰ったし“ハーブ園”には癒しを貰えたよ」

「英国館では二人とも“ホームズの格好”がとても似合っていたぞ キー坊もそう思うだろう?」

「二人の別嬪さんが探偵の格好しとるのは壮観やったな 特に奈瀬ちゃんは普段の格好も格好やし、嵌まり過ぎやったわ」

「…そうかい? 宮沢さん達も似合いそうだったし、仮装してみれば良かっただろうに」

「オグリがやったら『カワイイ』で済むやろうけど、ワシがやったら『キッツイ』の一言やん? 気遣いは嬉しいがエンリョしとくわ」

「そうなんですか? 昔にテレビで観たホームズ映画だと“闘う人”だったのでキー坊さんには似合うと思うんですけど」

「それなら私も観たぞ、確か武術の名前は“バリツ”だったか…柔術をベースにした実戦派だったな」

「…相手の心理も汲んだ上で攻撃手順を正確に把握すれば“効率的に壊せる”ってヤツやろ? ワシかてバトルIQいうのは天才やから同じ事出来る自信はあるが…しゃあけど、悲しい位に“推理力”は足りてへんから名探偵役なんて似合わんて」

「そうだった キー坊と推理物を観ていても犯人役を当てる事は滅多に無いんだったな」

「せやせや ワシが出来るんは精々、探偵さんのボディーガードやろうな」

 

 そう言って笑い合い、会話の弾む兄妹の普段の関係性が感じとれるやり取りを見た奈瀬とクリークが頬を緩ませているとウェイターが前菜を持ってこちらへ近付いてくるのが目に入ったので奈瀬の方から二人へ声を掛ける。

 

「二人とも、仲が良いのは結構だが…オードブルが到着したようだよ」

「アカン! ウェイターさんに舐められん様、ビシッとした態度取んぞ! オグリ!!(ビシッ!」

「むっ! そうだな、キー坊!!(ビシィッ!」

 

 そうしてテーブルに前菜を並べる際にキメ顔で待機していた熹一とオグリの姿にウェイターが笑いを堪えている事に当の二人が気付かなかった様を見て思わず吹き出しそうになった奈瀬とクリークであったが出された野菜料理に舌鼓を打つと場の空気はすっかり落ち着き、それを感じ取った熹一が申し訳なさそうな顔と共に頭を下げる。

 

「悪いのォ…二人の美人さんを放っておいて妹と話し込むなんぞ本日のガイド失格やな 勘弁したってや」

「キー坊の言う通りだ 今日は二人に楽しんで貰うのが目的だというのに私達だけで盛り上がってしまってすまない」

「いえいえ~、私は仲良しの兄妹さんって見てて嬉しくなるから構いませんよ?」

「僕もクリークと同じ意見さ 片や『怪物』と呼ばれたウマ娘であるオグリキャップと片や『ナチュラル・ボーン・ファイター』と呼ばれた格闘家、宮沢熹一の見せる貴重なオフショットなんだ ファンであればお金を出しても見たい光景だろうね」

「………」

「? どうしたんだ? キー坊」

 

 奈瀬の言葉に突如黙ってしまった熹一に『何か失言があったか』という思いを感じた彼女は熹一にフォローを入れるべく口を開いた。

 

「いや、済まない 僕が何か気に障る事を言ってしまったのなら謝罪するが……」

「ちゃうねん、奈瀬ちゃん 気に障ったとかやなくてな……ワシの“二つ名”って他に何か無いんかと思ってな?」

「…え?」

「確かに…お父さんは名前そのままの『静かなる虎』だし、『史上最強のモラリスト』なんかもあるな 尊鷹おじさんに至っては『高潔なる鷹』、『バトル・キング』、『ナバホ族のチャベス』、『土竜甚五郎』と様々な呼び名がある」

「お、オグリさん…それって最後の方は二つ名じゃなくて“偽名”だと思うんだけど…?」

「せやな あのオッサンは顔と名前コロコロ変えすぎて今じゃ自分が『宮沢尊鷹』って自覚があんのかどうかも分からんからのォ…」

「僕の父や六平さん、昔の知り合いの前では流石に“変装”をしないモラルは残っているようだが…それに君達や君達の父である静虎さん、叔父である鬼龍さんには流石に“家族”として振る舞っているだろう?」

「そう言えば鬼龍も『怪物を超えた怪物』やら『悪魔を超えた悪魔』やら呼ばれとんのやったな そのクセ、ワシ等が今日の観光案内するのを何処から聞きつけたのか自分が出資しとるホテルの招待券送ってオグリと一緒にドレスコードの為に半ば監禁しよったんやからワシからしたら『厄介を超えた厄介』ってヤツやで」

 

 現在、自分達が居るホテルが中央で恐れられている男である宮沢鬼龍の厚意に依る物である事を知った奈瀬が驚きの声を上げる。

 

「なっ! このホテルは“あの人”が出資しているのかい!?」

「あの不良中年には『男には試練を、女には愛を』って信条があるからな 『女性のエスコートで最後に回るホテルは最高クラスを用意しているんだろうな?』なんて言われて言葉に詰まっとると小バ鹿にした顔でホテルの招待券と一緒に採寸の為の監禁コースや 本音を言えば、感謝はしとるが普段から迷惑掛けられとるから気持ちも半減やな」

「お金は鬼龍おじさん持ちだったからな ドレスコードも『今後中央で使う機会もあるだろう』と言われて払って貰ったから採寸は窮屈だったけど有難く頂く事にしたよ 二人の服も気に入ったら持って帰って良いそうだぞ?」

「あらあら~、そこまで気を遣って頂いたんですね…本当、何て感謝すれば良いのか」

「…デザイン的にも幅広く使える一品の様だね こちらに気を遣わせ過ぎない配慮には有難いが……」

「借りを作りたくないんやったら返却してくれて構わんから気にせんでエエよ んな事より…ワシの“二つ名の話”についてや 『ナチュラル・ボーン・ファイター』以外に何かないんか?」

 

 話題が意外と気遣いの出来る男、宮沢鬼龍の話へと移行しそうになっていたのを軌道修正した熹一が己の二つ名候補を尋ねるも周りの美女三人は首を傾げるばかりであった。

 

「…僕も宮沢熹一の名を知ったのはハイパー・バトルだったからね その時の“ナチュラル・ボーン・ファイター”が記憶に焼き付いてるんだ 『生まれついての格闘家』というシンプルさは良いと思うが……」

「シンプルさやったらオグリの“怪物”が一番(いっちゃん)分かりやすいやん? ワシもそれ位がエエねん」

「私も自分の異名は強そうで気に入っているが……昔、東京に行った時に由美子おばさんからは『スポンジの様な吸収力』と言われていたし“スポンジ”と言うのはどうだ?」

「いや…“スポンジ”宮沢熹一って格闘家としてはどないやねん…? これまで以上に対戦相手から舐められそうなんやが……」

「確か、TDKでは“技のデパート”と呼ばれていたのも以前に映像で観たので知っているが…それだと不服かい?」

「奈瀬ちゃん、それもワシが今より未熟な時やったしもうちょいイイ感じのないかのォ…?」

「…あっ! 前に私の実家で子供達に披露してくれた武術は『カッコイイ』、『アクションスターみたい』ってとーっても盛況だったんですよ えっと、あの武術の名前は……」

「それだクリーク! “灘・真・神影流宗家”宮沢喜一…うん、とっても格好良いぞ」

「いやのォ、それも堅苦しい思っとんねん……要はな、ワシも二つ名に拘っとんのはオグリ(お前)と並んだ時に“収まりが良い”のがエエんや タマの“白い稲妻”みたいな感じでな」

 

 一向に決まらずに候補を出す面々に申し訳なさを覚えた喜一が僅かに恥ずかしさを滲ませた表情で己の内心を吐露すると、初めの内は呆けた様子であった三人が口元に手を添えて笑い出してしまったので喜一は益々居心地が悪そうに頬を掻いた。

 

「…ま、そうなるわな 悪いのォ、エエ年こいてこない子供(ガキ)みたいな事言ってしもうて…忘れてくれや」

「ハハハッ…いや、笑ってしまって申し訳ないね だが、そういう理由なら“相応しい二つ名”が思い付いたよ クリークもそう思うだろ?」

「うふふ…はい、トレーナーさん キー坊さんはオグリさんのお兄さんなんですから、“怪物の兄”…これがピッタリだと思いますよ」

「そうか…“怪物の兄”宮沢喜一、か」

「良いんじゃないか? 私はこれからキー坊が人にそう呼ばれると思うとすごく嬉しいよ」

「そ、そうか!? いや、今日はホンマにありがとな! 良い二つ名貰えてワシもメッチャ嬉しいわ!!」

「何、今日の観光ガイドの礼になったのなら僕等としても助かるね」

「はいっ! 案内してくれたお二人が笑顔になって貰えて本当に良かったです!」

 

 その後は次々に来るコース料理に舌鼓を打ちながら四人は世間話やレースの事、今日起きた出来事を語り合い、デザートを食べ終わる頃には来た時以上の穏やかな空気感でレストランを後にした。

 

◇◇◇◇◇

 

「お、オグリキャップさんとスーパークリークさんですよね!?」

「私達ファンなんです! サイン頂いても良いでしょうか!?」

「…ああ、構わないぞ! いつも応援してくれてありがとう!」

「…はい! 私達が走る今度のレースも応援よろしくお願いします!」

 

 レストランを出て少しすると食事中には自粛していたであろうファンに囲まれたオグリとクリークは僅かばかり困惑の表情を見せていたが、互いの相方にアイコンタクトを取って了承を得ると直ぐに笑顔を見せてファン達に向き合っていた。

 

「…二人とも今日は疲れただろうに、流石のタフさだな」

「クリークちゃんも見事なモンや 前に子供の世話しとった姿は見たが最後までニコニコしてんのは精神的にも肉体的にも頑丈って事やからな オグリに負けんタフな娘でワクワクしとるわ」

 

 妹、オグリキャップの新たな宿敵(ライバル)になりえるであろうウマ娘、スーパークリークの潜在能力(ポテンシャル)に胸の高鳴りを感じる熹一に対し、彼女のトレーナーである奈瀬は不敵な笑みを見せる。

 

「今度の出走、クリークは京都だから当たる事は無いというのに気が早いね それ以前に今度のレースではオグリキャップには注意しなければいけない相手が居るんじゃないかい?」

「…“メジロアルダン”は流石、名門の娘だけあって試合運びが上手いな けど…何やろな、あの子を見とるとワシと闘り合った時のガルシアやジェットみたいな“命を燃やしとる”感覚を思い出すんや」

「…そうか 中央で彼女を見た時には宮沢さんに対して“熱”を感じる視線を向けていたが…案外ファンなのかもしれないよ?」

「それはどうか分からんが、ワシが前に感じた“舐めとらん視線”があの子からの(モン)なのは間違い無いわ そう意味でも要注意人物なんやが、それ以上にワシが気にしとんのは……」

「“イナリワン”か…確かに彼女の爆発力は周りを見ても抜きん出てはいるが、宮沢さんの様な“闘う人”から見ても気になる所があるのかい?」

「前に練習を見せて貰った時やが、アイツの脚からチラッと“炎”が見えたんや 親父(おとん)の使う幻魔、“飛炎地獄”みたいな直接脳内に映り込む様な感じでな ありゃあ、本人が意識しとるか分からんが“領域”に入っとるわ」

「…それは驚いたな 彼女の狐面に併せた、さながら“狐火”と言った所か…だったら今度のレース、決着はまるで予想が出来ないね」

 

 大井からの刺客、イナリワンが“領域”に入っている事を知らされた事によって今後の展開を考える為に顎に手を添える奈瀬に熹一が先程の彼女を真似する様に不敵な笑みを向けた。

 

「ワシかて尊鷹と闘り合った時、お互いに“領域(ゾーン)”に入ったが地力が上の相手だろうと勝ちを拾えたんや 結局、勝負事は今まで積み重ねた(モン)の他に“不確定要素”が入り込むからな…その中の一つに“見守ってくれる人”の存在が()る 精々、お互いハラハラしながら“見守ろう”やないか?」

「…それもそうか 結局、勝負の場では孤独だからな…送り出した以上は信じて見守るしかない 当たり前の事だが、改めて言語化されると色々と考えてしまうね」

「クリークちゃんも奈瀬ちゃんがそう思ってくれとるのが分かっとるから一途に信じてくれとるんやろ? トレーナー冥利に尽きてハッピーハッピーやん」

「…そうだね であれば、お互いの“シンデレラ”の行く末を見守ろうじゃないか “怪物の兄”、宮沢熹一さん」

 

 新たに付けられた“二つ名”を呼ばれた熹一は満面の笑みを見せたが、それはホテル最上階の夜景と相まって『絵になる姿』であったと奈瀬は感じていた。

 そしてファンの対応を終えて戻って来たオグリとクリークが熹一の姿を見掛けると奈瀬と同じく感嘆の息を吐く。

 

「何だキー坊、夜景が似合って格好良いじゃないか」

「はい、そうですね~ これなら女の子にもモテモテじゃないですか?」

「ほ、ホンマか!? いや、こない年でもそういう褒め方されると照れるのォ!!」

「…どれ、そろそろ僕達も部屋へ戻ろうか」

 

 褒められた途端に“三枚目”に戻ってしまった熹一に三人の美女は呆れた様な表情を見せるも彼を伴って今度こそ戻る為にエレベーターへと足を運んだ。

 

「二人とも、私とキー坊はこれで帰るが明日は温泉にでも浸かってゆっくり身体を休めてくれ」

「有馬、みなと、白川と色々あるが泉質の一覧はメールで送っておくから好きなトコ回るとエエわ」

「分かった 度重なる気遣いに痛み入るよ」

「オグリさん 今日の事は本当に感謝してますけど、今後のレースでは全力でお相手お願いしますね?」

「当然だ! その時は万全の状態で競い合おう、クリーク!」

 

 こうして本日の熹一とオグリの神戸案内は終了し、帰り道でも様々な話をした奈瀬とクリークの二人は満足気な表情でホテルの部屋へと戻って行ったのだった。

 

 

 

 オマケ

 

 部屋までの帰り道にて───

 

「そういや、“四大幻獣”って奈瀬ちゃんのチームの世話になっとるのは聞いてたが…迷惑掛けてへんか?」

「サポートに入ってくれている“四大幻獣”か…彼等四人もクリークを始めとしたチームメンバーの事を想ってよく面倒を見てくれ…いや、偶に面倒を掛けられる事もあるかな」

「…四人共悪いヤツってワケでもないんやが、アイツ等は前職が前職やから全体的に“雑”やもんな マトモに人前に出せんのはシャノンとかチコ位やろ?」

「バッキーは体が大きすぎるし、ジョニーは顔が怖すぎるからな…私も初めて見た時には圧倒されてしまったがクリークは大丈夫だったのか?」

「いえ、初めて見た時見た時はビックリしたけどすぐに慣れちゃいましたよ むしろ最近はバッキーさんやジョニーさんのドジな所が可愛く思えて来ちゃいましたね~」

「…マジか クリークちゃんは器がデッカイのォ……」

「“それ”が彼女の強みの一つだと思ってはいるが…時折、不安に感じる時もあるよ」

 

 

 オマケ2

 

「“領域”の入り方…?」

「一流と呼ばれたウマ娘が持ち得る“領域”だが、それこそ発動方法は人それぞれだからね 個人差を知りたかったからこの際と思い質問させて貰ったが…構わないかい?」

「うん、いいよ そうだな…私の場合は走っている最中に接戦になると『負けたくない』って思いが溢れて来て…何時の間にか入っている、らしい」

「…『らしい』と言うのは自覚が無いという事かな?」

「オグリは尊鷹と同じく自己催眠を掛けて“領域”を発現させてるらしいからな 本人からしたら知らん間に入って気付いたら勝ってるパターンが多いらしいで」

「…尊鷹さんとキー坊さんも確か“領域(ゾーン)”って似た様な状態に入れるんですよね? それは私達ウマ娘の物とはどう違うんですか?」

「ワシ等の場合、入った時は『心が幽体離脱しとる』って言えばエエんかのォ…空に居る自分が地上に居る自分を見下ろして尚且つ自分でも動かせるって感じなんで、ウマ娘の言う『必勝の感覚』とは多分見え方が違うわな」

「格闘家の言う“領域(ゾーン)”の感想は初めて聞けたね…それも発現方法は追い詰められる事が条件なのかい?」

「尊鷹は自由に入れる様やが、ワシは死にかけるまでボコされんと発現せんな 最近は生身の相手だとそこまでのピンチにならんから支部道場に居る戸田亜相手のスパーリングで自分を追い詰めて発現頻度を上げる練習しとるわ」

「“ロボット相手”でないと練習にもならないか…最強になった格闘家の悲哀を感じるね」

「終わりの見えない道を誰に強制された訳でもなく突き進むんですから、キー坊さんってやっぱり凄い方なんですね」

「キー坊は誰もが夢見る“最強”と言う称号が色褪せない様に日夜頑張ってるんだ でも、無茶が過ぎると私達も心配だから程々にして欲しいとは思っているよ」

「流石に若い頃と違って死にかける程の無茶はやらんわい けどな…己の強さを錆び付かせたら、いざって時に大切な家族を守れんからのォ…その為には日々精進せなアカンねん」

 

 『領域の入り方』から始まった話が『最強である理由』に変わり、話を終えた“怪物の兄”にその場に居た三人は家族として、アスリートとして、求道者として尊敬の眼差しを向け、それを受けた本人は照れくさそうに人懐っこい笑顔を浮かべるのであった。

 

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