[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ 作:日常系好き
リムジン、一般人からすれば一度は乗ってみたいと思える高級車も状況によっては絶対に乗りたくない存在へと変貌する。
実質、この車内に居る珍しくも険を放つオグリキャップの母とその母を気まずげにチラチラと覗き込むオグリ、その原因である“一人の男”に視線を送っていたのだった。
「オグリ…私達は“ウマ娘” いざとなったらアンタと私でドアを蹴破って脱出するからね」
「うん…けどお母さん、私は大丈夫だと思うけど…」
「ククク…やはり静虎の嫁は随分と気が強いな だが安心しろ、俺は“男には試練を 女には愛を与える”のが流儀だ 間違ってもお前達親子に危害を加えないと約束しよう」
「それはどうも 久しぶりにお会いしたけれど相も変わらず静虎さんと同じ顔で静虎さんが言わない事を仰るのがお上手ですね」
「いや、お母さん 鬼龍おじさんだぞ? あんまり邪険にしたら可哀そうじゃないか」
「ふんっ…オグリの言う通りだ お前達のような良い女を閉じ込めているあの狭い鳥籠から出してやっているのだから感謝の言葉一つでも欲しい位よ」
「私達にとってはあの家で十分満足しているのでお気遣い無く そもそも、いきなり家にやって来て辺りを見回すなり、外に停めてあるリムジンを指差して『良い所へ連れて行ってやる』なんて怪しさしかありません オグリが付いて行かなかったら…」
母の頭を抱えた様子に流石のオグリも申し訳なさを覚えていた…。
「ごめんなさい、お母さん…でも鬼龍おじさんは確かに悪人だと思うが、おじさんなりに私達を大切にしてくれているのは信じられるんだ」
「それは分かっているけど、この人の場合やる事がいつも極端で外からトラブルを持ち込んでくる所為で宮沢家の男の人達がどれだけの迷惑を被ったか…」
「はっ 面と向かって俺に対し言いたい放題とは、やはりお前達親子は最高だな! ちなみに伝え忘れたが、この車内は電波遮断されているから連絡は取れないと思え」
「ほら見なさい! オグリ、多少の怪我は覚悟の上でこんな車降りるよ!!」
オグリ「待ってくれお母さん! 鬼龍おじさんはトレーナー業をやってると聞いたしその為の車なんじゃないか?」
「その通り、流石はオグリだ と言ってもトレーナー業は俺が手掛けている事業の一つでこの車は用途に分けて使っている、というのが正解だな」
「あなたがトレーナーをやっているのは知っています 実績を上げている事も…」
「フンっ 現役の頃に俺と出会っていたら、お前を更なる高みに引き上げていただろうな」
「…その可能性も、あったかもしれませんね」
「お母さん?」
「オグリ、トレーナーの適正と人間的な相性はイコールでは無い事をアンタも競技者になった今、感じているでしょ?」
「いや私は…でも、周りでそういう話を聞いた事はあるよ」
「例えば…私の場合、静虎さんが熹一にしている様な指導を受けたとするとまず断念するか、やり遂げたとしても二度とこの人の指導は受けたくないと思うのは間違い無い」
「でも、私だったらきっと耐えきって、継続して見せるよ」
「そうね、アンタならきっと出来る けれど静虎さんと結婚したいかって言われるとどう?」
突如振られた話題にオグリは熟考し、そして決断を下した。
「お父さんと結婚………うん、考えられないな」
「は───っ 今の言葉、録音して静虎に聴かせてやったら爽快だろうなっ!」
「鬼龍さん、私にとってはアナタが“そういう相手”だって言いたいんですよ?」
「くくく その気丈さ、惜しいな 静虎の妻でなければ本気で口説いている所だ」
「生憎ですが、私は多情な男より一途な男の方が好みですから」
「そうだぞ鬼龍おじさん、いい大人なんだからお母さんの事は諦めてくれ」
「ふんっ オグリよ、俺は悪い大人だ…が、それでお前等が傷付くのであれば諦めてやるよ…ふむ、着いた様だな」
「…結局、アナタは私達をどこに連れて来たかったんです?」
「降りれば分かる 着いて来い」
「お母さん…ここは────」
「お肉の直売所…?」
「お前等の家を見回した時に鍋とすき焼き用の具材を確認したからな 俺が奢ってやろうと思って此処へ連れて来たんだ オグリよ、たらふく肉を食わせてやるぞ」
「本当か!? ありがとう────」
「いえ、確かにお肉がまだ足りないとは思っていましたがアナタに奢って貰う謂れはありませんので私達で購入します」
「はっ 生憎だがこの店はお前らの手持ちでは到底足りないぞ 大人しく俺に奢られるがいい」
「…何が望みですか?」
「何、お前等の夕飯に俺も招待して欲しいだけだ 静虎と金時に俺の財力を見せつけてやろうと思ってなぁ」
「何ていう理由…」
「お母さん、私も財布は置いて来てしまったから今回は…」
『目の前の男に借りを作ってしまう』苦渋に満ちた母親の顔を確認し、鬼龍は勝利を確信した笑みを浮かべる。
しかしその時────
(店の自動ドアが開く音)
「何だオグリ、お母さんと一緒か それに鬼龍まで…こんな所で会うとは奇遇だな」
「尊鷹おじさん! おじさんこそどうしたんだ、ここはお肉屋さんだぞ!」
「この店のマスターとは昔から懇意にしていてな 最近、この辺りに猪が出ると相談を受けて必要数狩り終えたので肉を届けに来たんだ」
「! あの、尊鷹さん…そのお肉を安く分けて貰う事って出来ますか?」
「別に構わないが…何だ、結構な量になるが牡丹鍋にでもするのか?」
「はい! よろしかったら尊鷹さんも夕飯をご一緒にいかがですか?」
「おお、それはありがたい 迷惑で無ければ是非ともご一緒させて貰いたいな」
「小声)お母さん、すき焼きの材料しか無いけど大丈夫なの?」
「小声)ええ、味噌と生姜はまだたくさんあるから大丈夫」
「鬼龍、お前は何しに此処へ? 二人が良ければになるがお前もこの後、夕飯をご馳走になるか?」
「いや俺は…これから、用事があるんだ」
「そうか しかしお前立派なリムジンに乗ってるな 急ぎの用事で無ければ二人を家まで送って行ってやれ "男には試練を 女には愛を与える"のがお前の流儀だもんな」
鬼龍「ふんっ 当たり前だろう…」