[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ 作:日常系好き
「…邪魔すんぞ」
とある日の昼下がり、普段よりも腰を庇った動きをしながら施術室に来訪したのは中央でオグリキャップの担当を務めるベテラントレーナーである六平銀次郎。
そんな彼を椅子に座って出迎えたのは現役の格闘家であり現在、中央の施術師を務める宮沢熹一であった。
「おっ! 六平のオッチャンやん、何や腰でも“いわし”たんか?」
「ったく…ご明察だ、バカタレ 静虎は居ないのか? 施術の腕で言えば
「……痛いトコ突くのォ 生憎やが今、
「何、それでもそこ等の連中よりも腕は確かなんだ この際“女連れでヘラヘラしてるヤツ”で妥協してやるよ」
「えっ!? いえ、六平トレーナー! こ、これは…その……」
そう言って六平がからかう様に視線を向けたのは熹一の近くに居た自身の知り合いでもあるウマ娘、ベルノライトであった。
視線に慌てるベルノを手で制した熹一は
「オッチャン…ベルノちゃんは“気の施術”に興味があったんで話聞きに来ただけやし、あんまからかってやんなや それに…ワシがヘラヘラしとんのは“普段通り”やしな」
「んな事だろうとは思ってたよ だったら…折角だしベルノのヤツにも気の施術ってのを“実演”して見せてくれ」
「おうっ、そうさせて貰うとするかのォ…ベルノちゃんもそれでエエか?」
「は、はい! お二人共、よろしくお願いします!」
こうして始まった灘の活法である“気の施術”であったが、一見するとただの指圧に見えるそれはゆっくりとだが確実に六平の患部を癒していくのをベルノは見て感じ取っていた。
そして施術が終わると軽く体を伸ばす六平は己の身体から痛みが消え、軽さすら覚える感覚に満足そうに笑みを見せる。
「グッグッ)…相変わらず、見事なモンだな 昔、尊鷹がやってたのを見てる立場だったのが、まさか自分が体験するとは……俺も年を取ったって事か」
「へっ、そんなん腰が曲がるまでウマ娘を輝かせる為に働いたって証拠やん 自虐しとる割にまだまだ身体の“芯”には活力が漲っとったで?」
「…お前は口が軽くていけねぇな 『秘すれば花』って言葉を知らねぇのか?」
「ナハハッ! ワシは生憎、低学歴でな!
「ふふっ…熹一さんって感覚でお話しする時が多いですけど、本質を突く時も多くて…それで人を怒らせちゃう事が結構ありますもんね」
「つまり、“デリカシー”ってのが無ぇんだよ 俺が今まで関わった宮沢家の連中にも…オグリのヤツにも多かれ少なかれそういう所があったし、格闘家ってのはそういうもんなのか?」
「まぁ…灘の男ってのはベクトルが違うが皆、“正直”に生きとるしな オグリもそんな環境で育ったからある意味、申し訳ないとは思っとんのやで?」
ほんの少しの気まずさを含んだ表情を見せた熹一にベルノが慌てた様子でフォローを入れる。
「い、いえ! 別にそれが悪いというワケでは無く、そんなオグリちゃんや熹一さんの性格が私は好きなんですよ」
「…確かにな 勝負事において“気遣い”ってのは時に邪魔になる時がある その上でねじ伏せた相手への敬意を忘れないお前等兄妹の事は俺も嫌いじゃねぇさ」
「……何や二人とも、ワシ等の事そないストレートに褒めてくれるとメッチャ嬉しいやん ちょっと待ってな! 確かこの前、岩手に行って来た時の土産
二人の言葉に感動した熹一は笑顔で奥へ移動し、お茶請けを探し出すとお茶の用意を始める。
そんな熹一の姿を見ると釣られて笑顔になる二人であったが六平の方は何処か寂しげな様子であり、それに気付いたベルノが恐る恐るといった様子で声を掛けた。
「あの…何かありました?」
「…ん? いや、顔に出ちまったか 別に大した事じゃねえさ ただキー坊のヤツから『岩手』っ言葉が出てよ…昔に先輩トレーナーから聞いた“戦場帰りのウマ娘”の話を思い出しちまった」
自身の若い頃に聞かされた逸話を思い出して目を細める六平に人数分のお茶を淹れて戻って来た熹一が神妙な顔をしてそのウマ娘の話題を続ける。
「実はな、ワシのご先祖…当時の灘神陰流の
「何だよ、そうだったのか…そういや、昔に尊鷹が言ってたな『私の使う武術は本を正せば軍の裏仕事に使う物だった』ってな」
「“軍”……という事は“彼女”は軍人さんだったんですか?」
「…まぁのォ ワシもジイちゃんからの又聞きでしかないが、そのヒトはウマ娘らしく気性は穏やかで争いなんぞ好まんかったらしいがお国からの徴兵は断れんし、放っておけば故郷が火に包まれると聞けば黙ってられんかったんやろ 大勢の兵隊さんと一緒に戦地に向かったんじゃ」
「…結果はヒデェ物でな 敵軍が優先的にウマ娘を狙って来た所為で若いのも含めて大勢が亡くなったらしい 理由が『敵地にウマ娘という労働力を残す訳にはいかない』って理由でな」
「そんな……」
六平の語る戦争の歴史に思わず口元に手を当てるベルノであったが、そんな彼女に熹一が淹れたお茶を差し出す。
「戦争…争う事の“才能”はウマ娘よりもワシ等人間の方が圧倒的に上や しゃあけど、下手に共生しとる関係の所為で巻き込まれるウマ娘側からすればたまったもんやない そのヒトもそんな地獄を生き延びた結果、“たった一人”で故郷の土を踏む事になったんや」
「……ただ『“走れて”、“家族の傍に居たい”だけ』って娘が周りの熱気に煽られて戦場に行ったんだ それが“時代”だと言えばそれまでだったが、俺にその話をした先輩の目は納得なんて欠片もしちゃいねぇのは見てりゃあ分かったよ」
「ワシのご先祖も同じ気持ちだったんやろうな “軍の暗殺者”って立ち位置でありながらも戦場で亡くなるウマ娘の姿に心を痛めたのか、その後の技の開発では“殺法”よりも“活法”に力を入れる様になった…特に、ウマ娘関係のが戦後に増えたのがその証拠やな」
「…熹一さんのご先祖様って“彼女”とはどういう関係だったんですか?」
「ジイちゃんの話では『戦場でたまたま顔を合わせただけの関係』だったらしいわ 故郷の事をどんな時でも楽しそうに語るヒトだったようでな その姿に救われてたらしく、終戦後に彼女が故郷に帰るって話になると護衛とかこつけて着いて行ったそうなんや」
「…俺の先輩もその一人らしいな 彼女のファンは軍内でも結構居たようで、生き延びた以上は何としても故郷の土を踏ませたいと何人かの兵士が里帰りへ着いて行ったそうだ」
「そうだったんですね…」
“彼女”が故郷に帰れた話に胸を撫で下ろすベルノに対し、六平と熹一は互いに視線を合わせて言い辛そうに“その後”の顛末を語る。
「結果としてだが…彼女はその後、暫くして亡くなっちまった 主に補給部隊として戦地を駆けまわっていたが、その時の幾度かの負傷がもとになってな……」
「そ、そんな……」
「ワシのご先祖も当時の活法技術で手を尽くしたそうなんやが、思った以上に傷が深かったらしいんや 徐々に衰弱していく中でこっちの心が折れそうになる所を逆に励まされるなんて話を聞いた時には心底『強い
「……最後の言葉は『戦争も終わって、これからは
「そんな事があったからなんやろな…ワシ等、灘の
二人がかつて聞いた昔話を語り終えてすっかり温くなったお茶に口を付けるとその場は何とも重苦しい空気が包み始める。
暫く黙っていたベルノであったが、突如手元のお茶を一気に呷ってカップを置くとその様子に驚いていた二人に真っ直ぐな視線を向けて質問をする。
「つまり…お二人は“先人の志”に感じ入って今の立ち位置に居るって事なんですよね?」
「……まぁ、それもあるな 勿論それが全てじゃねぇが、心の片隅に置いとかなきゃいけねぇ話ではあると思ってるさ」
「……
熹一と六平が僅かな思考状態に入った後に出された答えにベルノは目に涙を浮かべると座っていた椅子から立ち上がり、二人の手を取った。
「私…嬉しいです! 今の時代が平和になったというのもありますけど、その時代で“志を受け継いだ人達”がこの中央に居てくれるのがとっても嬉しいんですっ!」
「おぉ、そうか……小声)おいキー坊、ベルノのヤツこういう話で目を輝かせるタイプだったのか? オフでの付き合いはオグリに次いでお前が多いんだから分かんだろ?」
「小声)イヤ、オッチャン…ワシもベルノちゃんの“こんな姿”初めて見たわい けど…他人のサポートを嫌な顔一つせず出来る優しい娘っ子なんやし、この反応にも別段驚きは無いのォ」
「小声)…そうか」
小声で会話する二人に気付いたベルノは今の状況に恥ずかしさが勝ったのか、慌てて掴んでいた手を離す。
「あっ! い、いえ…申し訳ないです……」
「何、気にすんな 大概、年寄りの昔話なんぞ退屈なモンだと相場が決まってる中でそこまで感じ入ってくれるなら“当時を生きた連中”もちったぁ、報われんだろ」
「中央にはベルノちゃんみたいに今の昔話を聞かんでも自然と“助けるヒト”も現れとるからな ワシ等みたいな“闘う人”は競技者を含めたそんな連中を…皆を守るつもりなんで安心してくれや」
「…お二人共、ありがとうございます」
「暴力を学んでる人間が良識を忘れん為には“守るヒト”が必要不可欠やからな そういった意味では
「歴史の授業なんざ本来は教師の領分だが、今日は
「腰を治しに来て若
「ウルセェぞ、キー坊 喧嘩の腕は家族の中で“最強”なんだろうが施術の腕はまだまだなんだ、そのすぐに軽口言う癖も含めて早く精進するこったな」
そう言ってその後も軽口を叩き合う“怪物の兄”と“魔術師”にベルノは微笑ましい目を向けていたが、それに気付いた二人は気まずげに咳払いをする。
「…まぁ、何だ おいキー坊、茶がすっかり温くなってんだ 淹れ直してくれや」
「…せやな 折角やし、
「あっ…でしたら、私も何かお手伝いしますね」
「せやったらベルノちゃん、すっかり菓子を出し忘れたんで用意してくれんか? そこのテーブルに岩手の土産は用意したんで、好きな
「はいっ! 分かりました!」
熹一からの指示を受けて彼が指差す方のテーブルへ向かうベルノ。
其処には“サルナシの加工品”や“雑穀を使ったバームクーヘン”等の様々な種類の菓子が用意されており、『この中には“彼女”の好む物もあったのかな?』という思いと共に彼女のお菓子選びが始まったのであった。
オマケ
「ズズッ)…そういやだがキー坊、宮沢家の中で『活法が一番得意なヤツ』って誰なんだ? 尊鷹や静虎からは『鬼龍は私よりは下手だ』って話は聞いた事があるが、マジなのか…お前も含めるとどうなのかが気になってな」
「ズズッ)…“下手さ”は明確に比べた事は無いから分からんが、多分ワシ等の中で一番活法の才能があんのは“オグリ”で…次いで“龍星”やろな」
「えっ!? オグリちゃんと龍星さんも“気の施術”って出来たんですか?」
熹一の淹れたコーヒーを口にしての会話であったが、ベルノは熹一の答えに口元に当てていたコーヒーカップを離してしまう。
「オグリは何となく分かるが…次が龍星か 前にアイツと少し会話しての感想だが、結構な“理屈屋”だったな…“気”なんて傍から聞けば胡散臭い
「…らしいで? 気の“総量”はオグリが圧倒的に上やったが“応用”は龍星の方が上手い
「…確かに 龍星さんって最初は見た目で怖がっていたんですけど、よくよくお話ししてみると“私達側”なのかなって思えて親近感が湧いたんでした」
「T大の理科Ⅲ主席合格なオツムしとったらしいが、本人のそういう“知りたがり”な気質が評価に繋がっとんのやろな オグリなんかは“何となく”で大体を理解しとるからそう意味でも真逆な二人やのォ」
妹と従弟の気性の違いを語る熹一に気になっていた事を思い出した六平はコーヒーカップをテーブルに置き、目の前の男に質問をする事にした。
「所でキー坊よ、今日はそのオグリが休暇なんだが…何処に行ったか聞いてねぇか? 休暇前に『タマと一緒に旅をして来る』とは言われたんだが、メンタルに問題があったとは思えねぇし…本当にただの旅行なんだよな?」
「…
「はい、間違いないです 私も先日、購入するのを手伝いましたから」
「…何だよ、オイ 俺のチームにはマイペースなヤツも多いが、
「オグリちゃん、何でもない事も真顔でよく言いますからね……」
「それと“強さ”を取っ払うと何処にでも居る純朴娘やからの…そういう姿にファンが惹かれるんやろ、“ワシ等”みたいにな」
そう言って快活な笑みを浮かべた熹一に六平もベルノも肯定の微笑を返し、その後も“怪物”の話に花を咲かせるのであった。
今回話に出たウマ娘の元ネタはちょっと調べると出て来る有名な軍馬です。