[ウマ娘×TOUGHシリーズ] オグリ家と宮沢家との日常シリーズ 作:日常系好き
「オグリん、“それ”どうなん? 美味いんか?」
「うん、“ご当地限定の饅頭”だがクルミが入っていて美味しいぞ タマも良かったら食べるか?」
「ええって…さっきからその調子でお裾分けするんでウチのお腹はもうパンパンなんや 量はあるけど“電車の次の時間”までは食い切れるやろ? ウチの事は気にせず食べててええよ」
「むっ…分かった しかし済まないなタマ、今日は私の遠出の誘いに乗ってくれて」
そう言って次の饅頭を口にしたのは“怪物”オグリキャップとその姿を眺めていた彼女の親友でもあり宿敵でもあった“白い稲妻”タマモクロス。
身長差の為か凸凹に見えるも妙に絵になる二人が現在腰掛けていたのは“駅構内のベンチ”であり、長期休みに入った際に購入出来る乗り放題の切符を使って日帰りの小旅行を行っていたのである。
「イヤ、かまへんって ウチもなんやかんやでヒマしとったし、切符代も『娘に付き合ってくれるなら』って静虎のオッチャンが出してくれたからな こうやってたまには何も考えず景色を眺めんのも“オツ”ってもんやで」
「…そうか 私としては気ままに電車で移動して立ち寄った先で美味しい物を食べるのが楽しかったのだが…タマも楽しんでくれていたのなら良かったよ」
「しっかし…タイミングとしてはそろそろ“大勝負”も近いのに『小旅行へ行こう』言うんやから、オグリんは相変わらずのマイペースやなぁ……」
「私も別に気を抜いているという訳ではないんだが…“青春1〇きっぷ”もそろそろ購入期限が近かったから折角だし、タマと『青春したいな』って思ったんだ」
「…気持ちはまぁ、嬉しいんやけどな オグリんは“青春”言うても、この切符に年齢制限ない事は分かっとる?」
「勿論だ いくつになっても青春が出来る様に制限が無い事は分かっているが、学生時代に味わえる青春は“今だけ”だからな それを他でもないタマと一緒に味わいたかったんだ」
「…ウチも引退して厳密には学生やないんやけど、確かに走る事ばかりが青春やないしな そういう気遣いしてくれとるんやったら、今日は有難く楽しませて貰うわ」
付き合いの浅い他人からは『何を考えているのか分からない』と言われている親友の気遣いを感じられた事に口角が緩むのを止められなかったタマは気恥ずかしさもあって無言でオグリの持っていた饅頭をひったくるとそのまま自分の口へ放り込んだ。
「あっ!? 何をするんだタマ! さっきは『いらない』って言ったじゃないか!?」
「モグモグ)急に食いたくなったんでしゃあないやん……うん、確かにクルミがアクセントになってイケるわ」
「全く…(モグモグ」
「…悪かったな せやけどそろそろ次の電車が来る時間やし、数減らそうと気ぃ使ったって事で勘弁してや」
タマの言う通り構内に設置されている時計は次の電車が来る時間を指しており、それに気付いたオグリは慌てた様に残りの饅頭を口にし始めた。
「本当だ、これはいけないな……(モグモグ」
「だからって今のタイミングで全部食べる必要はないんやけどな……ホイ、そないリスみたいにホッペ膨らませんとお茶でも飲み?」
そう言ってタマが放って寄越したペットボトルを受け取ったオグリが口の中の饅頭をお茶で流し込むと丁度と言ったタイミングで次の電車が見えて来たのであった。
◇◇◇◇◇
手ぶらとなった二人が到着した電車へ乗り込むと中は閑散としており、車両に居た人数は数人といった様子であったがその中の一人は“長物を持った若い男”が居り、タマがなるべくその人物から距離を取ろうとした所、逆にオグリは近付いて行く。
初めは止めようとしたタマであったが親友の迷いの無い足取りに“知り合い”である事を察してそれ以上は何も言わずにオグリに付いて行くことを決めた。
そして自分の意を汲んでくれたタマの対応にオグリは彼女の方を向いて笑みを見せた後に“目の前の男”に向き直り、向かい合わせになるように座席へと腰掛けたのであった。
「…ウマ娘が“快速列車”に乗る 別段、可笑しい事でもないのに自然と笑みが零れてしまいますね」
「…久しぶりになるのかな 私の事を覚えているか?」
「ええ、覚えてますよ 最近では隣のお嬢さんを含めてテレビや新聞で目にしない日は無い程の有名人ですからね 世間の評判で言えばキー坊よりも上なんじゃないですか?」
「世間の評判なんて直ぐに移り変わっていく物だから別段、興味は無いな それよりも私と競った相手の心に残る方がずっと良いよ “薔薇丸”…君がキー坊の事を忘れていない様にな」
オグリの言葉に彼女の兄である宮沢熹一との闘いを思い出したのか苦笑交じりの微笑みを浮かべたのは“九条薔薇丸”、円月流剣術師範を務める彼はかつてハイパー・バトル日本予選終了後に熹一と一戦交えた結果、己の中に燻っていた劣等感と歪みが打ち払われたという経験を持つ。
オグリの隣に腰掛け、目の前の男がその様な事情を持つとは知らないタマは彼女に対して説明を求めていた。
「…オグリん、そろそろ説明してくれへんか この兄さんって何
「お初にお目に掛かります、タマモクロスさん 私の名は九条薔薇丸と申しまして、かつては……」
「キー坊がハイパー・バトル日本予選を終えて帰りの電車に乗ってた時、日本刀を超えた“超日本刀”…だったか? それを電車内で振り回してキー坊を斬ろうとした人なんだ」
「…イヤイヤイヤ、そんなん“辻斬り”やん」
オグリから語られた薔薇丸の所業にタマの顔は青ざめ、身体は自然と何時でも逃げられるように距離を取り始める。
「い、いえ…違うんですよ? あの時はむしろキー坊が挑んで来たのを受けた形であって……」
「私も当時はビックリしたんだ 和香ちゃんから『予選が終わったから迎えに来て』と言われたから指定された駅で待っていたんだが、次の連絡では『電車内で刺されたから病院に来て』だからな…思わず全速力で病院へ向かったよ」
「…改めて、心配されたご家族である
「別に薔薇丸には怒ってないよ キー坊が君と闘いたかったから喧嘩を売って、君がそれを買ったという形だったから…私が怒っているのはキー坊に対してだけだ 病院に着いたら『こんなん何時もの事やん』なんて笑っていたから思わず、本気で睨んでしまった」
「…あの時、オグリさんには初めてお会いしましたが“圧”が本当に凄かったですよ 隣に居た帯刀右近さんからは『キー坊と同じ“信心”と“慈悲”のオーラを纏えど怒ってるのか攻撃性を意味する“赤色”の割合が多い娘でやんスね』との評価を受けて思わず二人でこの身を震わせてしまいましたからね」
「あー…静虎のオッチャンが退院する直前に
「あの時私が怒ったのは今でも間違いだとは思っていないが唯一失敗だと思ったのはあの後、和香ちゃんからは『本気で怒らせたら恐い子なんだ』と思われてしまった事くらいだな」
「いえ、それは…」
「せやな、そら…」
『間違ってはいないな』という感想をお互いに胸に秘める事にした薔薇丸とタマであったが思いを共有した事によって“初見の相手”という壁が取り払われ、二人の間には妙な連帯感が生まれていた。
「…事情は理解したわ で、薔薇丸サン 今日はそない“長物”持って何処へ行っとったん?」
「ええ、今日は円月流の師範としての出稽古で遠出をしていたんですよ 勿論、今持っているのは木刀で“超日本刀”なんて物騒な物では無いのでご安心を」
「確かに…竹刀袋で中身は見えないけれど“それ”には危険は感じないな だから私も近付けたんだけど……」
「ある意味で、今日は話し掛けて貰えて助かりましたよ ウマ娘という生まれながらの“強者”とこうやって会話出来るのは得難い経験ですからね」
「…薔薇丸はまだ“弱い人”が嫌いなのか?」
「勿論です 私は変わらず“弱さ”を嫌います…が、それは“強さ”を得る為には必要な存在ですので、傍に置く事は許してはいますがね」
そう言って笑みを浮かべた薔薇丸にオグリは安堵の表情を見せた。
「そうか…それなら良かった」
「闘う際の切っ掛けは“金銭”でしたが、闘った事で自身の歪んだ心構えやずっと畏怖を抱いていた父との関係に変化をもたらしてくれたのです キー坊からは金銭では得られない良い経験をさせて貰いましたよ」
「なんや、アンタもキー坊のファンなんか 今メッチャ、キラキラした顔してんで?」
「…そうかもしれませんね ただ、人の褒め方が大変下手な男だとも思ってますよ」
「分かる! 分かるわ!
「…何だ、思った以上に話が分かる方に出逢えたようですね」
「私だってキー坊の話題なら尽きないぞ 二人共、混ぜてくれ」
その後も熹一の話題で会話を弾ませた三人であったが電車が次の駅に止まると何人かの入れ替わりがあり、その中には柄の悪い男達の姿も確認できた。
その男達はオグリ達から離れた場所に居ながらも何やら彼等の近くに居た年若い女性に声を掛け始めたのであった。
「い、嫌っ! ───ください!」
「オイオイ、そんな事─── 俺達と一緒に───」
「俺なんて手を使わずに───を動かす芸を見せてやるよ」
距離があり過ぎる為かウマ娘であるオグリやタマにも会話の全容は聞き取れなかった物の“禄でもない内容”である事は感じられたので男達の横暴を止めるべく、無言で立ち上がろうとした二人を薔薇丸が持っていた長物で制する。
「おやめなさい、二人共 あなた達は世間では有名人に当たるんですよ? “あんな連中”に関わるだけでイメージダウンに繋がるのは知っているでしょう」
「…知った事じゃない 私は“自己満足”で生きてるんだ あんな横暴を黙って見過ごすなんて出来ないぞ」
「オグリん、アイツ等見た感じ格闘技を“結構”かじっとるで 幸いにも引退した身や、ウチが“お話し”して来たるわ」
自身の指摘に耳を貸す気の無い二人に薔薇丸は静かに息を吐き、落ち着けとばかりに代案を提示する。
「…私とて『放っておけ』なんて言うつもりはありませんよ 昔も今も、変わらず“ああいう手合い”は嫌いでしたからね 私のような者が相手をするのがスジというものです」
「薔薇丸…良いのか?」
「剣術道場の師範なんやろ? そっちこそ立場は大丈夫なんか?」
「お気遣い無く、あの程度の相手なら過剰防衛なんて発生しませんよ 私は次の駅に着いたら奴等を駅員さんに突き出しますので、二人はそのまま電車を使った休日を満喫してください」
そう言って二人の代わりに立ち上がり、男達の所へ向かった薔薇丸は二言三言相手と話し合うと男達の目的を理解したのか瞬時に持っていた木刀で制圧を始め、それが終わると宣言通り悪漢達と被害者女性を伴って停車した駅から降りて行くのだった。
「ひゃー…見事なモンやな 確かにアレ位強かったら口裏合わせて正当防衛で納められそうやん」
「話していて心にも大分余裕が出来ていたからな…薔薇丸みたいに“弱い心”を知ってる人なら是非ともトレーナーになって欲しいのだが、タマはどう思う?」
「…ええんとちゃうか? 本人の気持ち次第やろうけど、ウチも“ああいう人”がトレーナーやってくれるんなら面白そうやと思うけどな」
「タマはキンちゃんみたいに“弱い心を克服した強い人”が好きだからな 薔薇丸の事も気に入ってくれると思ったよ」
「まぁ…せやな ウチかて負けん気を皆が評価してくれとるけど、これでもナイーブな乙女心持っとんねん 心を奮い立たせる事の大変さは分かってるつもりやし、それが出来るヤツはイケ好かんヤツだろうと尊敬に値すると思ってるよ」
「…そんな強いタマが私もキー坊も大好きなんだ 改めて、今日は一緒に出掛ける事が出来て良かったよ」
オグリから向けられた真っ直ぐな親愛に電車へ乗り込む前と同様の気恥ずかしさを覚えたタマは視線を景色に移し、話題を変える事に決めた。
「……オグリん 景色も代り映えせん様になったし、次は海にでも行って見んか?」
「えっ!? タマも分かってるだろ? 私は泳ぎは得意じゃ……」
「分かっとる、海で泳ぎたいワケやないって ただ…何となく“夏の終わりの海”を見たくなっただけや」
「…分かった ちょっと待っていてくれ、今から海に行けるルートを探してみよう」
自身の口から出た思い付きに嫌な顔一つせずに携帯を使って路線変更のルートを探す