浮島から、シキの本島のメルヴィユへと到着してからのことを話そうと思う。
まずのところ状況は最悪だった。
ココヤシ村へと戻るための方法を一通り考えた。
まずはシキから単純に逃げる方法。
無論、力ずくで逃げても逃げるだけなら通常の身体能力が高く、スーロン化やエレクトロでさらに飛躍的に元々高い身体能力にブーストをかけられる私に分があるだろう。
この方法をとるなら、ココヤシ村での住人を当初から無視して取っていた。
みんなを人質に取られている以上はこの方法は取れない。
次に考えつくのは、海軍での助力を乞うこと。
メルヴィユに着いてしまった今、原作でもこの島は秘境の島とされており、シキによって島自体を浮かされているため海軍での発見は無理だと考えている。
見つけたとしても、空を飛ぶ船なんて登場したのはシキの島とエネルの方舟くらいのものだろう。
月歩で飛んでくるにしても、団体でくることは考えられず、単体戦力で勝利の可能性があると考えられるのはそれこそ大将などの突起戦力だけであろう。
連絡を取る手段もなく、この方法も建設的ではないだろう。
後のところは、シキが油断したところで倒し切るか。
そんなところであろう。
いつ頃になって頭に舵輪が刺さるのかは知らないが、現状のほぼ全盛期シキにどこまで通用するのか。
現状は勝てる見込みは薄いと感じているのが正直なところだ。
こいつを捕まえる時もガープとセンゴクが2人がかりでインペルダウンに放り込んだのに、私個人で倒し切れるなんて夢のような話はないと思っていいだろう。
私個人に関しての扱いもシキより話があった。
1、歯向かうな。村人を1人ずつ殺す。
2、メルヴィユ島内での医者とシキの手下を鍛えろ。
3、怪しい行動をしても村人を殺す。
4、逃げるな。逃げようとしたら村人を殺す。
とのことだ。
私自身の怠慢や慢心が招いたことは理解している。
わかっていたら、もっと対策を講じなくてはいけなかったことも理解しているが、この状況は正直に辛かった。
この世界に来てからの自分は非常に恵まれていて、人の温かさや、周りの人に非常に救われていたことはわかっていた。
世界に1人で、血のつながった人も1人もいない状況でここまで生きれてきたのは、周りの温かさに恵まれてきたことで寂しい思いも癒されながら生きてくることができていた。
それが、全部なくなったのだ。
ベルメールやナミやノジコ、ゲンさんも、シェルズのみんなも、仲の良かった海兵や鍛えてくれたガープもみんないなくなったのだ。
私個人の動きで、みんなを守れることは良かったと思っている。
私が頑張ればみんなが幸せに生きられることは嬉しく思っている。
それでも、もう会えないんだって思うと不安と寂しさと、虚無感と。
押し潰されそうだった。
シキの前で睨んでやるぐらいが、今の私にできる精一杯だった。
唯一の救いだったのは、この体が貧相だったことで女としての扱いを受けなかったことだろうか。
浮島での時もメルヴィユの時も両脇にはグラマラスな体型の女性を侍らせており、私もそこに入るのかと絶望していた時に「ベイビーちゃんにはそっちは期待してねえよ。子ども体型には興味もねえ。」とのことだった。
違う意味で腹が立ったわけだが、怒る元気もなかった。
メルヴィユ到着すると、島内にはシキの住まう邸宅のほかに周辺に村が存在していた。
私に与えられたのは、邸宅内にある埃を被った掘っ建て小屋であった。
中も掃除もされておらず、壁も朽ち始め、カビも繁殖している。
どうやらシキが支配する前に、この地にも村がありその名残だと言っていた。
私に勝手な行動をされると困るため、邸宅より監視しやすい距離。邸宅内で信用できない人物を飼うわけにも行かないため、こちらの土地であるらしい。
唖然とした表情を浮かべる私の表情を見て「嬉しいだろ?ジハハハッ!!」と高笑いしてやがったあいつの顔は一生忘れることはないだろう。
監視も日替わりで着くとのことも報告を受けた。
ここまでされたらお手上げである。
私にできることは、シキの命令に従いながら何年かかるかわからないシキが衰退していくのを待つほかなかった。
ここまでが、到着してすぐのところまでだ。
メルヴィユでの日常も非常に不快であった。
私個人に振られる仕事は大まかには、医者としての立ち回りと教官としての立ち回りはもちろん強要された。
鍛えたくない海賊に自分の知識を引き継がなくてはならず、怪我をした人材がいれば昼夜問わず叩き起こされ、処置を強いられる。
これはまだいい。元々、船医に近い状況にはいたこともあるし、海軍ももちろん鍛えてきた経験もあったために仕事としてはされている部分が多いため、多少の辛さはあるものの想定していた。
私の仕事は、当初はそれだけのものだけだろうと考えていたのだが甘かった。
このシキの実質支配下にある島では、村村から若い人々と人質に取り、労働を強いることで反乱の芽を定期的に摘むことで島内での治安を維持している。
私は若い人々を村から搾取してくる役回りを命じられた。
頻度としてはそこまでの頻度で赴くわけではない。
一緒に育ってきた子どもであろう、大切に育ててきた家族だろう。
可愛い我が子だろう。恋人だっているかもしれない。
そんな子たちを村から無慈悲に連れていかなくてはならないのだ。
「あなたも家族はいるのだろう!!大切だった気持ちも知っているだろう!!なぜ、ワシらから大切な家族を奪っていくのですか!!」と叫ばれたこともある。
「いや!!連れていかないで!!私の命よりも大切なのよ!!」
と涙ながらに、腰に組み付いてきた母もいた。
「俺の息子を返せよ!!!」
と、農具を振りかぶり勇敢に立ち向かってきた父もいた。
連れていかねば、私の家族の命が失われる恐怖と村人の悲痛な表情や怒りからの眼差し。板挟みにされる状況で私は心身共に疲弊していった。確かに、庇って嘘ついて連れていかなかったこともある。
その際には、Dr.インディゴの実験室まで連れていかれ村の人間での人体実験をしている現場に立ち会わされた。
村の人間もこうなるぞと脅しだったのだろう。
体も自分で見る限りでもわかっていたのだが、食は細り、ガープと鍛えた身体の筋肉も落ち、自慢だった身体能力も維持することも困難だった。
仙豆を食えばいいと考えたこともある。
ただ、こんなおかしい豆を持っているとバレることは避けなくてはならず、飯も吐き、摂取をできていない私の状況も監視のものが見ているのに元気一杯なんて姿を晒すことはできないのだ。
飯も喉を通らず、見る見るうちに憔悴していった。
最近は作った簡易的な点滴で栄養を補給し、生命を維持している始末である。
これがシキの島に来て一年間の私だ。
原作が開始されるまで、あと15年と言ったところだろうか。
外界での近況は新聞での状況確認も、でんでん虫での外界との交流も遮断されているため全く情報は入ってこない。
これではシキを倒すどころか、それ以前の問題だろう。
ただ、驚いたことが一つだけあった。
生命の危機に体が瀕したからなのか否かは見当もつかないが、周りの生命力は敏感に感じ取れるようになった。
周りの生命力から動きや、状況を予想することも少しずつわかってくるようにもなった。
今思えば、これが見聞色なのだろう。
私の見切りやエレクトロでの擬似見聞色ではなく、本来の見聞色が初めて理解できるようになった。
見聞色がわかってくると、ガープにボコボコにされてなんとなく感じていた自身の生命力もより深く感じ取れるようになったりと少ないながらプラスに働いたことが、唯一の救いと言ってもいいだろう。
今になって思うのは、ナミは一番可愛い時期だったなとか、ノジコはベルメールのいうことちゃんと聞いているかなとか幸せだった頃の記憶とココヤシ村に戻りたいと言った願望だけだった。
あぁ、貧乳も育ってくれると思ったのにこのざまだよ。
こんな状況でもシキは何も言ってはこなかった。
もう一年といった期間で、私個人で教練していた海賊もそこそこの実力をつけ、また技術を教えることもできるようになってきていたからだと思う。
こういった現代武術は日々修練と言われる通り、一年やそこらで完成する技術ではないのだが海賊なんて生活をしているものに、忍耐力や真面目に取り組むなんて気持ちもあるわけがなく、極めた気持ちでいっぱいなのかもしれない。
ここ一年は日常を過ごすので一杯一杯だった。
ただここまでが私の計画だった。
まともに戦ってシキを倒せるわけもない。
ただまともな状況で私がいなくなったら、逃げたと思われて村人を殺すとか言い始めるだろう。
あれは私がいる居ないに関わらず「見せしめだ!!」とかなんとか言って殺すのは確実にやる。
そんな中考えついたのは、まともじゃないと思われればいいのだと閃いた。
これはこちらにきてから半年ぐらいの時だ。
憔悴していたのは本当、しんどかったのも本当。ご飯が喉を通らなかったのも本当。
これを利用しようと考えた。
監視の目を盗んでの作業は簡単だった。
こんだけの状況であるからして、監視の目も緩みつつあったからだ。
しんどい体で掘っ建て小屋の地下を必死に掘った。
人1人が最小限暮らせるぐらいの範囲は必要だった。
人1人が暮らせる範囲を掘り終わったら、そこに明かりや生活で必要なものを監視の目を盗んで最低限搬入した。
食料問題は、腰の巾着で生まれてくる豆で最悪どうにかなることを考えると気は少し楽だった。
監視には、点滴や憔悴している様をまざまざと見せつけ、反抗する気力や体力はもうないことをアピールし、たまに奇声を上げて狂乱している状況なども印象付けた。
最後の仕上げとして、薬の実験をすると監視に言いつけ、島から捕まえてきたとカゴに囚われた猿をインディゴの保管しているものから持ってきてもらった。
一年の時をかけて、ついに計画を実行に移した。
長かった。
本当に長かった。
監視には、ダフトグリーンの研究をインディゴより仰せ使っている。
毒薬を扱うため、外に出ていることを推奨すると言ったら自分の身も大事なのだろう。外で待っているから、終わったら声をかけるようにと外に出ていった。
私は地下に自分で掘った穴を隠している床板を外し、もらってきていた猿のうち、自分の身長に近い猿を部屋に解き放つ。
そして、今できる中での最大限のエレクトロを部屋に放った。
木製の掘っ建て小屋である我が家は、エレクトロでの電熱で盛大に燃え上がっていく。
外から「おい!!何をしている!!」と流石に火の手が上がっている家に入る気はないのか、遠巻きに声が聞こえる。
「もう私はここで生きたくないの!!!あなたも死にたくなかったら離れることね。ダフトグリーンも広がっていくわよ。」
声をかけると、ヒィイ!!と怯えながら離れていく監視の足音を聞き、私は地下へと潜った。
火の手は、小屋を焼き尽くす程度には上がっていたことも確認し、猿は逃げられないように足を縛っておいてある。
上が燃えている以上、穴の中に飛び火しても怖いため、穴の入り口を一時的に塞いだ。
酸素の兼ね合いもあるため、燃え終える頃にはもう一度穴を開ける予定である。
ここで重要なのが、表面上は燃えている小屋と人型の死骸で私だと考えるか否かであるが、結局半年を超えてから憔悴している私を確認するためにわざわざシキや幹部が出向いてくることはなく、海賊の兵士ごときが医術の知識なんて持っているはずもない。
大丈夫だろうと踏んでいた。
入口付近で外の音に耳をしばらく澄ませていると、外からの音が聞こえるようになってくる。
小屋も燃え終わり、監視やその他の兵士たちの会話が聞こえた。
「おい、あいつは本当に死んだのかよ。」
「だろうよ。触りたくねえけどそこに死骸があるだろう。半年ぐらい、飯も食わねえし気味の悪い顔しながら、わけわかんねえこと叫んでたし。死んでくれて助かったわ。」
言い残すと、さして確認することもなく足音は遠ざかっていく。
そこで一旦、外の空気を取り込むために入口をもう一度開けた。
これで一旦だが、私は死んだことになってくれると思う。
むしろそうなってくれと願いを込め、穴の中に戻る。
現在で遠くに逃げて仕舞えばどれだけよかったのだろうかと思うが、今の貧弱な体じゃさして遠くまで行けずに息切れや下手したら気絶してもおかしくない。
ここで失敗すれば一生買い殺されてしまいだろう。
また村人の恨みも相当買っている故に、村人に遭遇することも望ましくない。
計画の当初としては、穴の中で筋力や能力をできる限り戻すことを目標にしていた。
どんなに体をいじめ抜いても、仙豆を食えば治る。
仙豆半分でもある程度の回復は見込める。
1日に1個生まれる。
仙豆は2週間程度で腐ってしまうようで、14個のストックまでだがストックもある。
これで急ピッチで肉体改造に励むこととしていた。
心配なのがスーロン化薬はこっそり作る以上、2個が限界だったこと。
2回までしか変身できないことだ。
満月であれば限りではないが。
ここからの日常は、筋トレと足音がしたら静かに過ごす、穴を埋めるとの工程の繰り返しだった。
考えていた通り、頭のおかしい死にかけのやつを確認するぐらい暇ではないらしく、幹部一向が現れることはなかったことや小屋の廃材もそのまま片付けられることもなかった。
地下での暮らしがほとんどで、穴からこぼれる光を頼りに日数を数える限りは1ヶ月程度は繰り返していただろうか。
急ピッチで進めた肉体改造は以前の状況までとはいかないものの、ある程度まで戻すことに成功した。
やはり絶望した日常や自由に動けない日常ではなく、目標が見えてくると人間動くことのできる動物だと実感した。
急ピッチで進めたため、ストックの仙豆は食べきってしまって満腹感は抜けないものの、体は軽くなった。
日が暮れるのを確認し、穴から島の森へと全速力で移動した。
またエレクトロなんて目立つものは使えないが、邸宅の端に位置していることもあり、別に障害になるものもあるわけでもなく、ミンクの本来の身体能力や浮遊能力を持つ私としては、柵も障害になり得ず、悠々と森へと行き着いたのであった。
計画の第二段階としては、他の島に移ることである。
この島の浮遊の状況は、シキが就寝する時は流石に能力を発動し続けるのは難しいのか、海へと下が着水するのだ。
海軍対策なのか、着水する位置は毎度違う風景であったが、近くに島があることも多々ある。
これは根気強く待つ必要があった。
ただでさえグランドラインとかいうよくわからない海で、遭難して死ぬなんて状況は避けたかった。
ただ数日の間、森の獣を追い払いながら待っているとようやく近くに島の見えるところに、着水をする日が訪れた。
島の方角や距離を確認し、さっさと島の海岸まで移動し、浮遊で島を脱出した。
一年という助けも来ず、希望の薄いメルヴィユから、やっとの思いで脱出したのである。