「こちらでお待ちでいらっしゃいます。」
ドアについているドアノックを、トントンっと4度ほど鳴らすと先ほど浴場で遭遇した現皇帝様の声で「入って良いよ!」と声が響く。
絢爛な装飾を施されている扉を開くと、ハンコックら姉妹に、背丈が小さな妙齢の女性。
加えて現皇帝様が映画でしか見たことのないような、どっしりと大きい椅子に腰をかけ待っていた。
「よくきたね。待っていたよ。」
さっき会いましたよね、、とか言ったら気まずい場所になるんだろうなぁ。
先ほどお忍びでこっそり会いにきたとか話していたし、現在も目の奥で気まずいような焦って居るような雰囲気も感じて居るため、流石にこの場は話を合わせておこうと思う。
「この度はいきなりの訪問に、急ぎの対応をしていただき誠に感謝いたします。私の方も事前に連絡でもできればよかったのですが、意図せず今回の訪問となってしまったところがあり、このような形での訪問になってしまいました。」
「良い良い、余も娘たちの命の恩人にそこまでの礼儀を求めようとは思っていないからね。お婆様もそうだろう??」
隣でうなづき同意する妙齢の女性。
現実で見ると、なんか本当に豆みたいに小さいわね。
主人公がマメって言っていた理由がわかるわ。
ちょっと漂うコメディやギャグ臭に先先代の皇帝が、この方で大丈夫だったのだろうかと明後日の思考にシフトしてしまいそうな脳を慌てて現実に引き戻す。
「そうじゃニョ。気にしてはおらん。そニョ方には一度ちゃんと会っておきたいと思っていたのじゃ!」
「そういうことで、私もにょん婆も気にしていないよ。むしろハンコックたちは嬉しそうに待っていたぐらいさ。今は、ハンコックは怒って居るようだけど。理由はわかるかい?」
目線を現皇帝様からはずし、そばにいるハンコックに目線向けると不機嫌そうな表情を隠そうともせずにこちらを睨みつけている。
私、あの時なんかしたんだっけ。
思い返すも仙豆で奴隷紋を消し、センゴクさんに後処理をぶん投げこっそり帰ってきたぐらいである。
「いいえ、何か怒られるようなことをした覚えは全くないわ。ハンコック様と呼んだら良いかしら、何かあなたにしたのだったら謝るのだけれど、何かしてしまったのかしら。」
「あの時!!!!其方は何も言わずに出航しておった!!!!皇女たる妾の了承もなく、勝手に挨拶もなく出て行きおった!!!!!それのどこが何もしてないと申すのだ!!!!!!!」
ふしゃあ!!と威嚇する猫を思い出すように雰囲気や表情も含めて、全力で私怒っています状態のハンコック。
そりゃあ勝手に助けて勝手にいなくなったのは私だけど、そこまで怒ることなのかしら。
「まだわからんと言った顔をしておるな!!説明してやる。海軍本部なんて娯楽や楽しいものなんてあるはずもなく、訓練の様子を眺めて帰る日を待ち侘びておった。その時に、妾が美しいからいけないのだが、見学をしている妾たちを発見した海兵より勧誘を受けた。海兵にならないかと。だが妾たちは誘拐されて解放されたばかりだ。それは心細かったものよ。」
「無論、センゴクたちやガープらの後ろ盾があったから、そこまで過激なものではなかったがそれでも相当な数の海兵から勧誘をされたことを今でも覚えて居るぐらいだ。」
「そんな中、唯一同性で信じることのできる人間で思い浮かぶのは、其方だった。皇女として礼も言わなければならないこと、ソニアやマリーも其方に会うのを楽しみにしていたから、ひとまず待ったものよ。まさか挨拶もなしに、それも早朝に出ていくなんて思わん故にな!!!!!!」
「礼も言わせず、感謝もさせず。もう会えないと泣くソニアとマリーのお守りも押し付け出ていった其方のどこに覚えがないと抜かすのだ、馬鹿者!!!!!!!」
話すハンコックの息はかれ、ゼイゼイと息を漏らす姿にまあまあと宥める現皇帝。
マリーとソニアも後ろにはいるが、こちらの耳と尻尾を見てキラキラさせて居る姿は時間が経って居るにも関わらず初対面の頃を思い出す。
相変わらず、子供は好奇心の塊だ。
これは世界に関わらず共通することなんだろう。
「そういうことらしいよ?で、会うつもりもないもんだと思って余も慰めていたんだけど。それで、どうして今更になってくる気になったのか。どんな理由でとか、詳しい話を聞いても良いかな。流石に何の理由もなしに、わざわざこのくるのも出るのも、危険な島に来たなんてこともないと思うんだ。」
さて、ここからが大変だよ全く。
どこまでの内容を話したら良いのか、隠すべきところの良し悪しとか。
話し合いでの駆け引きなんてやったことがないのだけれど。
「一応話しておくけど、余は嘘を言ったらわかるし娘の恩人を疑うなんて礼を欠くことなんてしたくないんだ。できるだけ正直に話してくれることを希望するよ。悪いようにはしないから、素直に話してくれるかな。」
釘を刺されましたっと。
他に頼れるところは、現在の状況では存在していないからここで敵と排除されてしまうことや、見放されてしまうことは打算的に考えても危機に他ならない。
それにただ推しに嫌われる状況も避けたい気持ちもあり、包み隠さず状況の説明をする。
金獅子のところから、決死の思いで逃げ出したこと。
死んだことになって居ると思われること。
ココヤシ村が人質になっており、生きて居ることが知られればココヤシ村に残してきた家族にどのような行為を行うのか考えもつかないこと。
できれば、死んだままの状況でシキを打倒できる力を身につけていきたいこと。
よって海軍には頼れないこと。
「なるほど。かの有名な金獅子から逃げてきたってことだ。そりゃあ、余も警戒するぐらいの力量を持っていても不思議じゃないか。お世話になってから、親交のあるガープさんとかセンゴクさんから死んだかもって聞いていたんだけど。」
「センゴクさんやガープさんはなんと?」
「余から礼を言いたいから、面会の話を通してくれないかなってしばらく連絡入れていたんだ。その最中に、海賊に攫われたって言われて。有名な海賊で神出鬼没だから、探すってなっても難しいって聞いていたぐらいかな。」
ギョッとした表情で皇帝の顔を見るハンコック姉妹。
「母上!!!!!何故、そんな大事な話を妾に言わずに処理していたのだ、今会えて居るから良いものの黙認して良い話ではない!!!!!」
「それはじゃな、お主らのことを考えていたのじゃニョ。奴隷から帰ってきて、やっと立ち直ったお主らに話すなんて人の親だったら出来ないことじゃ。わかっておやり。」
怒りの表情のまま、胸ぐらを掴まんとする勢いで現皇帝に近づいていくハンコックにすかさず先先代のフォローが入る。
「ごめんよ。また憔悴した娘の顔なんて見たくなかったから余もいうに言えなかったんだ。」
話す現皇帝の顔と雰囲気から、自分を本当に心配しての行動だったのがわかったのか、我に返り落ち着くハンコック。
「話を中断してごめんね。ここに流れ着いたのはわかった。それで、君は今後どうしていきたいって考えているの?」
「はい、もし可能であればしばらくここアマゾンリリーでお世話になりたいと考えています。現在でもともと私が持っていたほとんどの人脈での連絡や、連絡手段が絶たれていますし、頼れる人材も多くない。申し上げたとおり、生きて居ることが明るみに出ることも望ましくないからという理由もございます。」
人を見透かすような目線で話を聞いている皇帝。
先ほどのママ友のような会話や雰囲気とは、想像もつかない。
「確かにこの島であれば、他国との国交も最小限で肝心の海軍は非加盟国で立ち寄ることもほとんどない。君の望む条件にはピッタリだね。だけど、君を国に匿うのであれば金獅子がもし偽装に気付いた時にここにくる可能性があるわけだ。違うかい?」
「確かに仰る通りです。ただ私は可能性は低いと考えております。」
「その理由は?」
人の上に立つ人というのは、自由奔放で天真爛漫な場合が多いとよく聞く。
ただ、時には人を切り捨てられる非常さも必要だって話だ。
ここで切り捨てられたら、次の島への渡航だっていつになるかの予想もできない。
踏ん張りどころだ。
「私が脱出の計画を企ててから、シキ自ら私の様子を見にくることがありませんでした。それは、私の訓練方法や心構えなどが海賊の強化という一点において致命的に合わなかったことがあると思われます。私の持つ武術は、勤勉にかつ継続的な稽古を長い期間をかけて練磨していくことで実っていく技術です。だが、海賊の多くは手間は少なく得るものは大きい方がいいと言った思考のものが多い。」
「確かに練磨できれば強くはなるのでしょうが。怠慢を働くものの方が多かったシキの管轄の海賊では、当初考えていた成果はあげられなかったと思っております。次点で求められたのが、医学的技術や知識。こちらは書物を読めば身につけることができることから、重要度は高くありません。」
「最後に、戦闘員としての私も魅力に感じていたように感じておりましたが痩せ細った、狂気する私を報告で聞いていたのであれば到底戦えるなんて考えもないでしょうと考えております。」
表情を変えずに、こちらを見据えてくる目線に了承が得られるのか否かが不安になる。
「その内容だったら、確かに話して居る通りかもしれないね。たとえば、金獅子の情報や機密を知っていて口封じでなんてこともないかな。」
「全くないとは言い切れません。」
ううむと口に手を添え考え始める現皇帝。
「サクラよ。恩人には申し訳ないが、反対じゃぞ。こんな爆弾みたいな人間をここに置いておくなど島のもニョたちニョ危険にも繋がってくる。」
まあ、当たり前に反対されるよなぁ。
私でもこんな爆弾みたいなやつ置いておきたくはないもの。
「うーん。隠していてもしょうがないかな。婆様もハンコックも重要な話をする。おーい、スイレン!戦士長を隣の部屋に呼んであるから呼んできて!!」
叫ぶ皇帝に。周りにいるものも怪訝な表情で皇帝を見ている。
先先代様もハンコックも姉妹も。
スイレンさんは、相変わらず無表情なのでわからないけれど、すぐに先ほどの戦士長を呼んで戻ってきた。
「連れて参りました。私は外に出ていた方がよろしいでしょうか。」
「いや、スイレンにも関係のある話だからここにいて欲しいんだ。」
集まったねとハンコックと先先代、スイレンに戦士長、そして私を見回し話し始める皇帝様。
「みんなには報告していなかった話がある。ここ数年、この島で消息不明になった人がいるって話が上がってきて居るんだけど、戦士長、間違いないかな。」
はい、とうなづく戦士長を確認し話を続ける皇帝。
「そうだよね。みんなに話していなかったんだけど、最近島民で帰ってこないとかいなくなったとか、原因もわからずに消息がつかめなくなった人たちがいたんだ。」
「そして、消息がつかめなくなってしまった人が出始めた時によくわからない話も出始めたんだ。人が降ってきたとか見たことない島が近くに出たとかそんな話さ。島サイズの海王類なんてこの近くでは、少ないけれど現れることもある。見間違ったんだろうと話したさ。人が降ってきたなんて、悪魔の身を食べた人ならあり得ることだしね。」
「ただ、それがどんどんと増えてきている。島民は実力的にも海王類如きに遅れをとるような鍛え方はしていないし、海に落ちたとて生きて帰ってこれる実力の持ち主だっていたんだ。流石に不思議に思うよね。」
スッと、見透かすような表情から少しずつ表情が変わっていく。
「原因を究明していたら、今度は娘たちの誘拐だ。原因さえ究明できていればって、あの当時ぐらい自分を恨んだことも何も情報がつかねない状況に苛立ったこともなかったんだけど、今回は置いておこう。ただ娘たちに聞いた話だと、海辺で釣りをしていた時に突然目の前が真っ暗になったと。意識を取り戻した時には、目隠しをされててしばらく状況はわからなかったそうだ。」
「もちろん、小さいながらもその辺の兵士や海王類に全く抵抗できないほど娘は弱くはない。不審に思った余は、最後に娘たちを目撃した報告があった場所を必死に探し回った。なにかないかと。手がかりでもあればと。」
「見つけたのは、鋭い刀傷の海王類。島民で海王類を倒すとなれば、主力は弓になってくる。剣での可能性がないわけではないけど、不思議と島民のものではないような気がして、確認したけれど島民に覚えはないと。フェン殿、一つ聞いてもいいかい?」
どんどんと、皇帝様の表情は曇っていき、そして怒気のような殺気のような。
近くにいるだけで臨戦体制をとってしまうような、心の弱い人なら倒れそうになるだろう濃厚なオーラは放たれる。
これが俗にいう覇王色。
くっそ!!こんなところで味わいたくなかったわ!!!
めっちゃ重圧じゃないの!!!!
気を抜けば、すぐにでも飛んでしまいそうな意識を必死に繋ぎ止め周りを見ると、幼いマリーやソニアはすでに意識はなく、戦士長やスイレンも苦悶の表情。
先先代はさすがと言ったところか、苦悶の表情ではあるものの受け流しており、ハンコックもひとまず耐えている。
「金獅子は人の売買なんて金儲けをしていたなんて話は聞いたことないかな?」
「・・・ッしていたと思います!」
必死に話すこちらの表情に気づいてくれた先先代様が、抑えてと諭してくれたおかげでマシになったオーラに力が抜けてしまいそうになりながら、足に力を入れ直す。
「まさかサクラよ。そういうことなニョか。」
「婆様。そういうことさ。余の島民は娘くらいまでとはいかないけれど、外から見れば整っている子らは多いよ。それに政府非加盟国だ。昨日も行方がわからなくなったとの報告も来ている。これだけ条件似合って居るんだ。」
「許さないよ、金獅子。余の島民に、余の家族に。娘の命の恩人まで。何人奴隷になって居るのか、どれだけの苦痛に悩まされて居るのか考えるだけで感情が溢れそうだ。」
怒髪天といった言葉はこういった状況や表情で使うのだろう。
最初に会った時の柔らかな表情からは思いつかないぐらいに歪められ、目を合わせることですら恐怖を感じてしまうくらいの状況である。
気を強く持っていなければ足は震えだし、歯はカチカチと音を立てるだろう。
「いいよ、フェン殿。ここに住んでも。ただ力を貸してほしい。センゴクさんやガープさんに評価され、金獅子までが欲しいと考えるほどの技術を。医術の知識を。そして娘を治した不思議な力やフェン殿の戦力を。」
「余は金獅子を許さないッっ!!!!!!!!!!」