つい先日、海軍での配属されるにあたりの研修を終え、シェルズタウンの配属になった。
軍部での仕事で新兵に割り振られる仕事は主に、3つ。
新兵として、戦力になるために必要な体づくり。
また戦闘になった際のための武術や戦闘訓練。
そして、支部内での雑用。
主に新兵のうちは、3つの仕事を行い、武功や功績(海賊を捕まえる、将校などの上官に認められるなど)を残したものから、本部への栄転や支部内での昇格に繋がっていく。
オレも例に漏れず、雑務や筋トレなどの日常を繰り返していた。
そんな中、いつものように支部内部の掃除を終え、筋トレのメニューを消化していく。
(毎日筋トレばっか。別に掃除なんてしたって楽しいわけじゃねえし)
普通は配属後からすぐに戦闘訓練から行われていくのが、通常だ。
もちろん、ここ以外の配属になった同期は連絡を取るとすでに戦闘訓練をしていると話していた。ただ、ここでの戦闘訓練は体ができていないと危険を伴うといった理由から、支部配属後は主に筋トレと雑用から行なっていき、体が出来上がっていると判断されたものから戦闘訓練がメニューに追加されていく。
若くして海軍の門を叩いたために、必要な体ができておらず、こちらでも同じ時期に配属された他のもとは続々と戦闘訓練に移っていく中でも私は配属されてから半年は経っているものの、まだ戦闘訓練の声はかかっていなかった。
途中でもちろん焦って、担当の上官に話してみたこともある。ここでは担当上官からの訓練でさえ、許可制だからだ。
「そっか。戦闘訓練したいのかぁ。焦る気持ちもわかるけど、フェンさんがOK出してくれないと僕にはその権限がないからなぁ。一応掛け合ってみるけど期待しないでね」
そういって、外部顧問殿に掛け合ってくれたようだったが即刻却下されたそうだ。
(なんでオレだけずっと筋トレなんだよ。意味がわかんねえ!あ゛ぁー!イライラする!)
当初、シェルズタウン配属の連絡をもらった時は飛び上がって喜んだ。
イーストブルー界隈での海軍の噂なんて良い噂はなく、賄賂や腐敗の情報もしばしば漏れているようで新聞にもたびたび汚職事件として報じられていることもしばしば。
そんな中で海軍に入る希望としては自身の実力を鍛えたいからとか、今のイーストブルーの海軍の状況を変えたいとか、同期は話していた。
幼い頃から線が細く町のガキ大将にバカにされていたこともあり、オレも自身の実力を鍛えるために海軍の門を叩いたのだった。
シェルズタウン支部の話は噂程度ではあるが、チラホラと耳にすることがある。
『シェルズタウン所属の兵の練度がやばい』『あそこで訓練を行ったものは、ほとんどが海軍本部所属のエリートになるらしい』『外部顧問いるらしいが、人の皮を被った鬼らしい』とか様々だ。
ただ、シェルズタウン支部からは悪い噂がでないことと、非常に高い教練を受けられるとの話も聞いていた。
より高い戦闘能力を身につけたい私にとって、シェルズタウン勤務は吉報だったはずだった。
(それがこれだもんな。来る日も来る日も筋トレと雑用。シェルズタウンじゃないところの方がよかったんかねえ)
はあ、と一つため息も出てくるものだ。
今日こそは今日こそはと待ってはみたものの、待てど暮らせど声は一向にかけてもらえない。
(外部顧問官どのとか敬ってやがるけど、変な帽子被ったただの女じゃねえか。馬鹿らしい)
考えながら、雑務や筋トレを行なっているとふと見慣れた背中が目に入る。
かの有名な顧問官殿が目の前を通りかかった。
「なぁ、あんたが外部顧問官殿だろ!なんで俺だけ、ずっと雑用なんだよ!さっさと訓練に入れろよ!」
「おい、新兵!フェンさんになんてこと言うんだ!今ならまだ間に合うから、謝罪と業務に戻れ!」
「フェンさん!こいつには言い聞かせときますから、新兵の戯言と聞き流してやってもらえませんか!」
顔を真っ青にした担当上官が間に入って、外部顧問官殿に頭を下げていた。
(こんな女に頭下げて情けなねえな、こいつも!)
「外部顧問官殿なんて、こんなクソガキみてえな雑魚じゃねえかよ!くだらねえ、こんな教官についているお前らも全部雑魚なんだろうな!」
周りにも、同じく雑務をこなしている海兵の面々が沢山いた。
そのため、喧嘩っ早いものはすでにこちらに目を向け、みる限りでは血管も浮き出ており、今にも拳を振るってきそうな形相である。
またその他の海兵も不快そうな顔を向けていた。
「あなた、今年配属の新兵だったわよね。雑務と筋トレに飽きてきたってところかしらね。そんなに言うんだったら良いわよ。戦闘訓練してあげるわ。担当上官の君は、監督不行き届きでしばらく教練の量、3倍ね。」
「新兵くんも戦闘訓練に入れるから、今日の訓練メニューは模擬試合にしましょうか。担当くんは新兵の彼を訓練場に連れてきてね。じゃあね元気な新兵くん。また後で、訓練場でね」
話すだけ話して、離れていった。
「はあ、君も元気なのは良いけど勘弁してよ!なんで、こんな子の担当になったんだろ!もー!僕の訓練3倍で済んだから良いものの、これフェンさん以外にやってたら、君だけじゃなくて僕も一生下っ端とかあり得るんだからね!」
通常の訓練は、以前上官に聞いた際には組手や支部周囲のランニングでの周回(重りつき)だそうだ。
訓練3倍は重りの量3倍だったり、組み手時も付けなくてはいけないだったり、重りつけたまま組手で相手に勝たないと終了とさせてもらえなかったり、その時々によってバージョンがあるらしい。
上官には申し訳ないことをしたと思うところもあるけれども、内心ではホックホクだった。
念願の戦闘訓練である。
練度が高いと言われるシェルズタウンの戦闘訓練なんて配属当初から気になっていた。
外部顧問がクソでも、他に教官がいて高度な訓練を行なっているものと睨んでいた。
外部顧問官がいなくなってからは、確かに周囲からイライラしている雰囲気や、目線は感じるものの、通常業務へと戻っていった。
そして、今日の戦闘訓練は午後からの予定であったため、お昼を過ぎ戦闘訓練を行う訓練場へと向かう。
「今日のフェンさん、機嫌直ってたら良いなあ」
「あの新兵が余計なことするから!今日の訓練は憂鬱だわ、まじかぁ」
「担当上官も担当上官よね。ちゃんと躾けておいてほしいものだわ!」
様々な言葉が周囲から飛んでおり、上官は俯き、肩身を狭そうにしている。
流石にいっときの感情で振り回してしまったこともあり、声をかけようと近づくと
「・・・・・後輩の手前、済んでよかったとか言ったけど、いつもの訓練でも死ぬのに・・3倍だって・・・今日死ぬのかな・・・」
ボソボソとずっと呟いている。
流石に気味が悪く、声をかけることはできなかった。
訓練場に到着してみると、すでに顧問官殿が立っていた。
「本日の戦闘訓練は、私vs支部選抜メンバーでの戦闘訓練を行う!また選抜されたものは途中リタイアは許されず、倒れたまま立ち上がれなかったものは上官や担当と共に、訓練3倍とする。嫌だったらすぐに立ち上がって向かってくること。例の新兵くんも、今回の選抜に加えるからそのつもりで」
メンバーは、この支部の中でも屈強な面々から選ばれていく。
名前を呼ばれていくわけではなく、普段の支部内での実力から選抜されるらしい。
支部内の将校のメンバーも一通り選抜され、支部での精鋭20人(支部内の総計は200人程度)が前に出る。
その中に混じってオレも参加した。
「選抜されなかったメンバーは、まずは支部周りのランニング20本と終わったものから見取り稽古よ!実力が高いもののスキルをしっかり盗むように!選抜されたメンバーは、戦闘時間は全体で1時間。今から5分後に開始とする。メンバー内での作戦を練りなさい。以上。5分後に開始とする!」
「今日は、5分しかない!さっさと作戦を練らないと、フェンさん気合い入ってんぞ!」
中でも一際真面目そうな海兵の一言で、作戦会議が始まった。
一応のこと、担当上官も戦闘技術は支部内ではある程度の位置に収まっているようで精鋭の中に選抜されていた。
「今日の訓練は問題がいくつかある。フェンさんの気合が違う時点でやばい。そして、いつもリタイア可なのにリタイア不可もやばい。さらにさらに、交代も通常の訓練とは違い失われたやばい」
通常の訓練では、ランニングに向かったメンバーは交代要員で残され、戦闘不可になったものからチェンジされ、交代制で訓練は行われるらしい。そして自己判断で不可と思ったらリタイアありとのことだったが、今回どちらも不可というものは、非常に気合が入っている時のみらしい。
「内容から20人全員で向かっていって体力を浪費し、全員が戦闘不能になることが一番まずい!フェンさんに勝つことは不可としても、フェンさんが満足しなければ、今後の訓練がどうなっていくのかも想像がつかない。よって、5人1組としての4つの組みを作り、入れ替わりでの戦闘が望ましいのではないかと提案する」
「待ってくれ、5人ではフェンさんに瞬殺されて終わりだ!手加減はしてくれるだろうが、体力回復の時間が取れないのではないか!」
「なら、10人1組として2交代制ではいかがだろうか!」
「しょうがない、2交代制が妥当であるか。各自、今回ももちろん勝利を狙っていくが、可能である限りは最低交代まで5分程度は粘りたい!できる限りは各々で時間を稼いでいくことを念頭に置いてくれ!」
「「「はい」」」
「新兵くんは担当上官もメンバーにいただろう。彼と共に動くように」
作戦が練り終わる頃には、5分と設けられた時間もあっという間に過ぎていた。
「作戦会議は終わったようね!じゃあ時間も経過したことだし、早速訓練に入りましょうか」
行って、初めてわかるものは多すぎた。
1時間なんて持つはずがなかった。
後から聞いた話だが、ミンクという種族で猛者が跋扈するグランドラインでも新世界の種族だそうだ。
本人は話さなかったそうだが、戦闘中に戦闘訓練(模擬試合)で帽子が落ち、本や資料などより種族を見たことがある海兵がいたためバレたそうな。
ものの5分もかからずに、最初に挑んで行った10人は伸され、焦って向かっていった残りのグループも同程度の時間で伸され、立ち上がる力も残らず、1時間の半分どころか15分程度で完膚なきまでにやられた。
かくゆうオレも、
「あれ、新兵くん。なんで倒れてるの、まだ動けるでしょ?」
立ち上がっては顔面に拳を入れられ
「あんなにガキって馬鹿にしてたのに、もう動けなくなったの?ダサいねえ」
立ち上がっては、ボディに蹴りを入れられ
「私って雑魚なんだよね、じゃあ新兵くんはナメクジかなんかなのかな」
また立ち上がっては、何メートルかわからないぐらいの距離を吹き飛ばされる。
あの幼女のような体からは考えられないほどの膂力から繰り出される打撃の数々は、心を折るには十分すぎるものだった。
(あぁ、馬鹿だったわ。勝てるはずねえわ、そりゃ)
支部に在籍している屈強な男たちもコテンパンにされ、また名ばかりの外部顧問官ではなく、別の教官なんていうものは存在しなかった。
(種族がちげえ、才能がちげえ、運動能力もちげえ。勝てる要素が一つもなかったじゃねえか。情けねえのはおれの方だ。)
担当上官は自分の進退もそうだが、自分の身を案じてくれた状況も浮かんでくる。
(これ、分かってたから言ってたんだよなぁ。ほんとに申し訳ないことしたわ。)
流石に自分よりも体格も小さい女の子に負けると思っていなかった背景もあり、体も心もボロボロだった。
体力も伸されてから指一本動かすことも上手くいかないぐらいだ。
(情けねえな、ちっさい頃からやられっぱなしで。母ちゃんには心配かけっぱなしだ。ようやく海軍に入って、少しは強くなれるって思ってたのに、こんだけ筋トレしてもこのザマだよ。)
(田舎に帰って、母ちゃんと畑耕して過ごすしかねえのかな。)
そう思った矢先に隣から声が聞こえてくる。
「・・・・おい、新兵さんよ・・・」
隣から、声が聞こえる。
隣にいたのは、訓練所に移動する際に愚痴をこぼしていた海兵の中の一人だった。
「・・・さっきは愚痴聞こえてたろ。悪かったな。入ってきた当初はよ、ヒョロヒョロのガキが入ってきたと思ってた。それが、半年でいい体格になりやがって・・」
「・・・今日、フェンさんに何回へばって倒されたよ」
「・・・5回ぐらいすかね。・・・」
そう返すと、隣の海兵は自分と同じくらいボロボロの身体を起こし、立ち上がる。
「おい、お前ら!聞いたかよ!今日初めての新兵がフェンさんの打撃食らってよ、5回も立ち上がってるらしいぞ!」
「そりゃあ、根性のある後輩がきたもんだなぁ、おい」
「将来有望な後輩だわ。今度嫁に貰ってもらおうかしら!」
今まで自分と一緒に寝ていた海兵たちが、次々とボロボロの体を起こして、1人、1人と立ち上がっていく。
「息の良い新兵が入ってきたもんだと、オレァ感心したからよ!ここらで先輩の意地、見せなきゃなんねえな」
誰1人として、寝たままになっている海兵はいなかった。
「生意気な後輩で、僕も絶賛苦労してますけど。自分の後輩の尻拭いもできない上官には、なりたくはないですからね」
「良い後輩もったじゃねえか。良い海兵になるぞ、そいつ」
「僕に対する嫌味ですか。今まで、雑務をこなしててくれたように。これからももう少し大人しくしててくれるとありがたいですがね」
あんだけの迷惑をかけたのに、上官もみんなと同じように立ち上がっていた。
そして、会議の時に一際目立っていた真面目そうな上官より全体に声がかかる。
「諸君!気合の入った後輩に、上官の意地を見せねばならん!」
「「「おう!」」」
「敵はまだまだ余裕そうな顔をしているな」
「「「おうっ!?」」」
「非常に腹立たしいが余裕そうに、こちらの状況を敵は見ている模様だ」
「ただ我々は新兵の見本となるべく、一矢報いなくてはならない」
「覚悟はいいか、諸君!!!!」
「「「「おうっ!!!!」
「一斉に突撃!!!いくぞ!!」
「「「「お゛ーっ!!!!!」」」」
その後、見事にやられました。
フェンさんは強かった。
戦闘訓練はその後はランニング組が帰ってきて、今日のところは解散となった。
立てないメンバーはランニング組で体力あるものに担がれ、寮へと帰っていった。
運んでくれようと声をかけてくれた人もいたが、訓練場で考えたいことがあると断った。
オレはしばらく訓練場で体力が回復するまで寝ていた。
「やっぱり。こんなところだろうと思った」
フェンさんだった。
みんなが撤収した後、誰もいないことを確認していたのにいつ戻ってきたのだろうか。
「不思議そうな顔ね。あなた、訓練からずっと寝てたでしょ。担当上官が『新兵が帰ってきておりません、訓練後から誰も見ていない状況であります』って私のところまできたわ。」
「もう夜中よ、こんなところじゃなくて早く寮に戻ってゆっくり寝なさい。」
あたりを見渡してみると、昼の明るさはなくすっかりと暗くなっていた。
フェンさんの手にはランタンが握られており、それを渡される。
「私は人より夜目が効くから大丈夫だし、これもってさっさと帰って。担当上官も心配してたわ」
「はい。でも、いいんですか」
「何がよ。」
「オレ、フェンさんに生意気な口聞いたし、上官にも迷惑かけました。本来だったら解雇とか田舎に帰れって言われるもんだと」
「別に気にしてないわ。そんなこと言う暇あったら、担当上官に顔見せてしっかりと謝ってきなさい。あんたの上官、あの後も疲れているだろうに『今回の件は、私の監督不行き届きで監督責任であります!罰則は私で全部責任を負います故、減免措置をいただけないでしょうか!』とか言って、ずっと私に謝ってきたわよ。私は外部顧問で権限も何もないのに。」
少し微笑ましい内容を話すように、少し笑いながら話してくれた。
「あなた、いい上官持ったんだからしっかりと訓練に励みなさい。それに私の攻撃に5回も起き上がったのは新兵では初めてよ。海軍に向いてるわ」
「しょうがないわね。立てないなら担いで行くけど、悪く思わないでね」
そう言うと膝の裏に手を回され、もう片方は背中に回される。
(ちょっと待って、男でかつ知り合いの多い支部内の寮までこれで行くの!?)
「勘弁してください!オレ、担がれて戻るつもりないですから!!ごめんなさい!では失礼します!!」
少し楽しそうなフェンさんを尻目に走って帰った。
担当上官にはこっぴどく叱られたが。
以後、フェンさんとは仲良くしている。
思っていた以上に、フェンさんは優しく万能だった。
戦闘がつよいのは、訓練でよく分かったが常日頃から医学書を読んでいることから、医学知識に精通し、時には重症の患者でも病気じゃない限りは次の瞬間には全快で帰ってくることもしばしばあった。
ミンクの力というのはそんなに万能なのだろうかと不思議に思うこともあったが、フェンさんだしなと納得した。
また能力もエレクトロとかいう電気バリバリの能力も見せてもらったが、あれは凄まじく、後日英雄ガープと試合をしているところに遭遇したが、手加減されていたことを改めて実感した。
(オレもいずれは、フェンさん超えて守ってやれるぐらいに強くなってやるからな)
そんなオレは、現在ガープ中将の船に乗っている。
フェンさんとの試合を眺めている時に呆然と突っ立っていたら
「この状況を見ても、怯えずに一歩も引かずに見ているとは将来有望だな、こいつ。もらっていってもいいかフェンよ」
「私の部下じゃないわよ。あんたが海軍のお偉いさんでしょうが、海軍で決めてよ」
「そうだった!おい、オレと一緒に来るか!すごい強くしてやるぞ!」
流れからガープ中将の船に乗ることになったのだった。
別れ際にフェンさんからは
「あのジジイ、手加減って言葉知らないから困ったらボガードさんを頼りなさい」
とありがたい言葉をもらい
訓練問題当時の上官よりは
「上官として誇らしいよ!中将は、気分屋って有名だけど栄転おめでとう!」
(シェルズタウンでの配属になって、運が良かった。フェンさんより強くなってちゃんと恩返しするからな!)
当時、フェンはこれで私のことは忘れてさっさと帰れジジイと思っていたことを彼は知らない。