キンさんとベル 作:エビ揚げ
ベル・クラネルには兄弟はいない。
しかし兄のような存在はすぐそばにいた。
(うわぁ〜っ…ここがオラリアかぁ…!)
『なかなかの繁盛ぶりだな。さすが世界の中心』
ベルが降り立った都市の名は迷宮都市オラリオ。
巨大な
そんな都市の道のど真ん中で目をキラキラさせるベルは側からみればおのぼりさん丸出し。通行の邪魔ですらあったが住民達は慣れっこである。何せ毎日のように都市外から観光客が出たり入ったりしているのだから。
が、彼らの目的は観光ではない。
『それじゃあ俺たちでも入れそうな【ファミリア】を探そうぜ…まあ、多分門前払いされるだろうけどな』
(ちょっ、怖いこと言わないでよキンさん!)
都市の繁栄を大きく担う職業———『冒険者』
手っ取り早く稼ぐならこれ、ただし命の保証はない。
うまくいけば英雄だって夢じゃない。
その謳い文句は英雄談に触れ、祖父から英才教育を受け育ったベルが一も二もなく飛びつく代物である。
(とにかく!絶対に強くなって……ハーレムを!)
『あー…まあ、過程はともかくそんな結果になるなら万々歳だなぁ。へへ、ニヤニヤしてきた』
少年は期待を胸に。そして少年の側で
***
キンさんこと俺、『キング・クリムゾン』はベル・クラネルのスタンドだ。
まだベルの年齢が一桁台だった頃にイタズラ好きな神が
なぜそんなことがわかるかと聞かれたら、その『DISC』に俺が入ってたから。
偶々異世界から俺の魂が飛んできて、暇すぎた神が前世の俺の記憶を読み、『キング・クリムゾンwwバカつええww地上に落としたろwww』というノリでキング・クリムゾンが顕現するDISCを地上に落としたんだが、そのキング・クリムゾンの素体に俺の魂が使われちまったもんだから今でも輪廻転生せずにベルのスタンドとして生きながらえている。
ただ、スタンドになるために魂の大部分を使ったのか前世の記憶はうっすらとしか残っていない。
一応ここが異世界であること、自分がジョジョ5部のボスの能力になっていることは覚えているがそれ以外はてんで思い出せないのだ。
「うう……まただめだった」
『あぁ。通算何回目だろうなこれ。14?』
「多分もっとだと思う…」
だがまあ、思い出せなくてもいいかな。
このちょっと頼りないご主人様を支えるのに前世の記憶なんてあってもなくてもそう変わらん。
それに下手に記憶ある方がホームシックになってやばいだろう。絶対に帰れないし。
「他の人にもキンさんが見えたらいいのに。そしたらきっと入れてくれるファミリアだって…」
『いやその場合俺だけ採用みたいなややこい事態になりかねんぞ。だから見えなくて正解』
「うっ」
元がバトル漫画の能力なだけあって見た目はかなり強そうだからな、俺。ただ何故か今は殴る蹴るくらいしかできんけど。何かしらの条件…それこそファミリアに入るとかで時飛ばしが解放されるといいが…。
『まあ、そう落ち込むなよベル。ほら、捨てる神あれば拾う神ありって極東の諺であるくらいだしさ。きっと入れてくれるところも見つかるって』
「…うん。もう少し頑張ってみる!」
…さて、そんな都合のいいこと言ってみたが、果たして本当に拾ってくれる神なんているのかな?
***
都市に来てから6日後。
いよいよまずいことになってきた。
一応生活資金はまだ数日宿に泊まれるほど(騙されそうになったが)は残っているものの、流石に何処かに加入して住み込みさせてもらわないと俺たちは野宿しなくてはならない。
俺はスタンド。
飯は食わんでいいが、ベルはそうはいかない。
断られ続けた今のベルはメンタルが絶不調。
この状態で野宿なんてしたらどんな病気にかかっても体が生きる気力を取り戻せず最悪の事態になるだろう。
「………」
『おい、ベルそっちは路地裏だぞ。どんな輩が潜んでるかわからんし、今の俺じゃちと守りきれるか分からん』
スタンドのパワーは主人の精神エネルギーによって左右される。絶不調の今では全力なんてものは出せそうにない。精々一般成人くらいか。
それでもこちらの姿は見えないから負けはしないだろうが、複数人いた場合はそれも怪しくなってくる。
数打てば当たるという諺もある。
人数が多いとその確率も上がっていくだろう。
「ごめん、ボーッとしてて…」
『ひとまず今日もダメなら一旦金銭を稼ぐ方向にシフトしよう。屋台の手伝いとか、とにかく宿に泊まれる日数を増やすんだ』
「うん」
顔色が悪い。こりゃあ悪循環だな…。
自分の管理すらできない少年を仲間にしたいと思うような酔狂なファミリアはこれまでの経験から極めて少ないことがわかっている。
それに、周りも気にせず声に出して俺と話しているあたり、本当に心がキツイんだろう。こういう時保護とかを司る神様あたりがいれば1発で解決するんだが…流石に都合が良すぎるか?
「おーい君、そっちは路地裏で危ないぜ?誰かと話すならもっと明るい場所の方がいいと思うなぁ、ボクは」
「え——あだっ!?」
あっ、後ろから話しかけられてよほど驚いたのかステーン!と振り返った勢いで転けた。
「おいおい大丈夫かい?」
「あっ…はい、すみません。ちょっとビックリしちゃって」
俯瞰して見ると、光景は一種の宗教画のようだった。薄暗い路地に座り込む少年に、温かい光と共に手を差し伸べる少女。
ベルは気づいてないが、おそらくこの少女は女神様なのだろう。魂状態の俺にはヒシヒシとその存在感が伝わってくる。それにあの世で直接神様と話したこともありなんとなく誰が神なのかはわかってしまうのだ。
そして、これはなんの根拠もないただの憶測だが…。
『ベルベル。この人神様。ファミリアに入れてもらえないか聞いた方がいいぜ』
(ええっ!?神様なのこの人…、いやこの方…!?)
この出会いは『運命』なのではないかと感じる。
「あのっ、もしかして…あなたは神様、なんですか?」
「!……いかにも!ボクの名前はヘスティア。
「すごい…本当に神様だった…!」
凹凸が噛み合うかのような、この神様に拾われることを待ち望んでいたかのような。物語の歯車が回り出す、そのような瞬間。
「ふふ、1発でボクを神だと見抜いた君は中々見る目があるようだし、ボクの眷属…ファミリアに入って見ないかい?」
「入ります!入らせてくださいっ!」
「食い気味ッ!…あー、いいのかい?まだボクのファミリアなんかで」
「光栄ですよ!むしろ僕みたいなやつでも入って大丈夫ですか!?」
俺は、この出会いにふさわしい言葉を知っている。きっと元になった言葉は違うのだろうが。それでも送らせてもらおう。
『《主神と眷属は惹かれ合う》———きっとお前は、この神様に出会うのが決まってたんだぜ。運命でな』
まあ。
ルンルン気分のベルの耳には届いていないようだが。
あららヘスティア様と一緒にスキップなんかしちゃってぇ。有頂天だなこりゃ。
さて、もうベルは大丈夫だろうし俺は暫く引っ込んでいようかな。流石に神様がそばにいてちょっかいをかけるような輩なんてのはいない。
きっと次起こされる場所は【ヘスティア・ファミリア】の
どんな拠点なのか思いを馳せつつ俺は目を閉じ、ベルの中へと引っ込んだのだった。