境界戦機 外伝:『最果てのニライカナイ』 作:野生のムジナは語彙力がない
ムジナです
ところで新しい境界戦機ですが、新主人公の苗字『知念』……これは紛れもなく沖縄の苗字です。そして明らかにイリオモテヤマネコなアイレス、もうこれは間違いなく次の舞台は沖縄でしょう。やったね!!!!
沖縄出身の身としては、このままハブられて忘れ去られるんじゃないかと思っていたので、ここでピックアップしてくれて本当に嬉しい限りです。
しかし、レジスタンス組織の名前『ヒヌカン』って……なんかダサい
火の神って書いて『ヒヌカン』ですよね? 内地の人たちからしたら神秘的な感じがあるのかもしれませんが、沖縄出身の身としてはあまりにも身近過ぎてチープな感じがあるといいますか……まあ、文化の違いですよね。
(ごめんヒヌカン様、いつも見守っていてくれてありがとうございます)
それでは、続きをどうぞ……
(水上からレールガンによる狙撃を受けたところからスタートです)
『マスター、ご無事ですか?』
「…………」
『マスター、返事を』
「ああ、生きてるよ……ッ」
コックピットの振動が収まった頃、視界全体を覆い尽くす赤い警告色の中で、ユーリの問いかけに俺は酷い耳鳴りに苛まれながらも、声を振り絞って応えた。
「ユーリ、被害は!?」
『軽微です』
「軽微……? 大破の間違いじゃなくて?」
『サー、間違いありません』
思わずコンディションデータを参照すると、確かにユーリの言った通り機体に目立った損傷は見受けられなかった。外付けしている耐圧殻の一部がやられただけで、不思議なことに本体の装甲や駆動系そして出力に深刻な異常は見受けられなかった。
『機体に発生した衝撃から受けたダメージ量を算出したところ、それは機体の理論耐久値を遥かに上回っていました』
「じゃあ何で、俺たちこうして生きてるんだ?」
『不明です。しかし、今の一撃でウィーヴァルアーマーが損傷しました。これにより我が方は深海での航行能力を喪失、これ以上の潜航は圧壊の恐れがあることから推奨できません』
「退路の1つを断たれた……それで」
俺はモニターの表示から隣に浮かぶユーリへと視線を移した。たったそれだけで彼女は俺が何を言いたいかを察し、無言で小さく頷いた。
『水中の温度変化が微弱だったことから、戦術レーザーなどといった指向性エネルギー兵器による攻撃ではないと推測。魚雷やアスロック、爆雷を発射した形跡もありません。しかしながら着弾時の衝撃から砲弾の速度を逆算したところ、秒速7000キロほどであると判明しました。これは電磁投射砲……いわゆる、レールガンによる射撃とほぼ同等の速度です』
「レールガン? 嘘でしょ、アスロックや魚雷じゃあるまいし水中の目標に対してそんなものが使えるはずがない。ということは……まさか!」
『はい。敵も"超空洞技術"を所持していると推測されます』
"超空洞技術"
冷戦時代の旧ソ連によって考案され、ニライカナイの航行システムにも部分的に導入されている技術である。早い話、この技術は抗力が強い水中を高速で進む為に、物体を丸々空気の泡で覆うことで水中での抗力を減らし速度を上げるというものだった。この技術を活用することで大型の潜水艦ですら水中を時速5800キロという飛行機を遥かに上回る巡航速度を得ることが可能とされていた。
しかし、これはあくまでも理論上の話である。
ソ連崩壊後、各国でも競うように研究開発が行われたが、超空洞の泡の発生に必要な初速、それを確保するための大出力エンジンと大量の燃料、方向転換の方法、さらには爆発的な加速の副産物である衝撃波が海中の環境や生態系に与える影響など、諸々の問題を解決できず、いずれも兵器としての実現の目処は立つことなく開発は頓挫した。
今まで直進する魚雷にしか活用できなかった技術だが、どうやらこの敵はそれをレールガンに応用しているのだろう。確かに、レールガンならば超空洞の泡を形成するだけの初速は十分に確保できる上に、弾丸を直進させるだけなので方向転換の必要もない。時速5800キロを遥かに上回る、秒速7000キロという超高速に耐えられる泡をどのようにして形成しているのかは不明だが……それよりも気がかりなことが1つあった。
「なぜ、敵はこっちの位置が正確に分かるんだ!?」
それは、敵が水中にいる俺たちをどうやって見つけたのかということである。今までは何かしら攻撃の予兆があった際には警告が発せられたのだが、しかし、これに関してユーリは首を横に振るばかりだった。
『不明です。無音潜行によるニライカナイのステルスは十分に機能していました。アクティブソナー、対潜レーダーによる索敵を受けた形跡もありません』
「まぐれ当たり、って訳じゃないよな……」
『ポジティブ。初回の攻撃が誤差修正のためのものだったと仮定した場合、敵は何らかの未知の手段を用いてこちらの居場所を把握している模様です』
「あれー? 確かに直撃だったよね? 」
海洋を悠々と航行する巨大なタンカーの近く、レールガンのスコープ越しに海中のニライカナイを狙っていたアリシアは、薄暗いコックピットの中で首を傾げた。
「何でレールガンの直撃喰らって平気なの? 水中で何かにぶつかって威力を散らされた? ん……エニグマの最新鋭兵器とはいえ所詮は試作品、まだまだ改善の余地はあるってことか。まあこの程度でくたばられたら、せっかくの準備が台無しになっちゃうしこれくらいで丁度いいし、もっと私を楽しませてよね……!」
独り言を呟きながらレールガンの銃身を持ち上げて冷却装置による排熱処理を行いつつ、モニターを操作してコンデンサーの状態を確認する。特に異常はないこととエネルギーの残量を把握し、アリシアは人差し指を唇に当てた。
「でも、あはっ……びっくりしたでしょ?」
茶目っ気たっぷりな笑みを浮かべつつ、アリシアは暗闇の中で赤い瞳を輝かせる。その視線は、相変わらず海中のニライカナイを確実に捉えていた。
「ちゃんと水中に隠れていたのに、敵は正確に攻撃を当ててきた。ソナーやレーダーも使ってないのに一体どうやって? なんて思ってるんだろうなぁ……今頃は。凄いでしょ、私の目は」
アリシアの赤い瞳がより一層強い輝きを放つ。
「私には見えるんだよね」
その表情は、凶悪な色に染まっていた。
「私の目は、全てを見通す特別な目。ほとんど感覚的なものなんだけど、この目を通して敵がどの位置にいるだとか、敵との距離はどれだけあるのかだとか……全部、お見通しなの。FPSゲームでいうところのウォールハックってやつ、つまり高性能なソナーも対潜レーダーも私にはいらないって訳よ」
薬室に次弾を送り込み、レールガンの銃身を再び海面へと突き刺す。トリガーが1段階引き絞られるとスパークと共に銃身が3つに割れ、銃口に莫大な量のエネルギーが収束する。
「さあどうするローレライさん? 私はあなたのことをずっと見ているよ。今ので耐圧殻は封じた、この私がいる限り、あなたはこの海域から生きて帰ることは出来ないよ……!」
乾いた唇を舐め、アリシアは続ける。
「それとも、このまま海の藻屑になってみる?」
『マスター、作戦行動中は常に最悪の事態を想定して行動するべきです。敵の索敵方法は依然として不明ですが、現段階ではこちらの位置を完全に把握されていると仮定して行動するべきです』
「そうだね」
『耐圧殻が損傷したことで、ニライカナイの潜行可能深度はおよそ50メートルほど上昇しました。現時点で圧壊の恐れはありませんが、装甲の耐久値は危険域です。敵の対潜攻撃への早急な対処が必要です』
「うん……」
ニライカナイのコックピットの中で、AIのユーリは淡々とした表情のまま冷静に戦況を分析していた。その一方で、俺は表面的な平静を保ちつつも内心ではすっかり弱気になってしまっていた。早鐘を打つ心臓、浅い呼吸、酸素がしっかり脳に行き渡っていないのか視界がおぼつく、額から汗が噴き出し、足腰に強い脱力感、今までにないほど死を身近に感じられる。
『マスター』
心拍などで俺の心を読んだのだろう、ユーリが目の前に移動し、小さな右手で俺の頬を触った。実体がないにもかかわらず、電気刺激によって本当に触れられているかのようにリアルな気配を肌に感じた。
「……!」
目の前に浮かぶ2つの青い瞳。海よりもなお深い色をしたその美しさを前に、定まらなくなった目の焦点が自然と吸い寄せられる。
『マスター、ご安心を』
落ち着かせるような口調で、ユーリは囁き始めた。
『確かに、敵の正体が不明であり、さらにはニライカナイの本来の運用方法であるシーステルス戦法が敵の対潜攻撃により封じられ戦術的なアドバンテージを喪失しつつあるという現状から、我が方はこれまでに類を見ないほどの危機的状況に陥っていると言えます。……ですが言い換えれば、それは複数ある行動プランの中の、たった1つを封じられただけに過ぎないのです』
視線を1ミリも動かすことなく、ユーリは続ける。
『マスター、貴方は生きています。まだ諦めてはなりません。私も本作戦までに得られた戦闘データを活用し、逼迫したこの状況を切り抜けられるよう最適解を導き出すことで、マスターの生存を第一に最大限サポートさせて頂きます。なのでどうか、自信を持って下さい』
彼女の優しげな囁き声は、聴覚を通じて体に深く染み渡るようだった。死への恐怖で荒ぶった心は落ち着きを取り戻し、改めて暗闇の中に1人孤独ではないことを実感した。
そして、こんな状況でも冷静沈着な彼女の存在が、心の底から頼もしく思えた。
「ごめん、少し弱気になってた」
そこで深呼吸すると、体は自分が思っていた以上に酸素を必要としていたのだろう、グラついていた視界がクリアとなり、奥底から力が湧き上がってくるような気配を感じた。
「生き残ろう。2人で……必ず」
『はい、マスター』
自信を取り戻した俺を見て、ユーリは小さく頷いた。
「それで、これからどうすれば良いと思う?」
『この状況下において、我々に取れる戦術オプションはシンプルに2つ……逃げるか戦うかです』
そう言うとユーリは俺の前から身体ひとつ分退き、空いたスペースに小さな2つのモニターを出現させた。その中にはニライカナイの位置座標、敵機とのおおよその距離、そして作戦海域のコンディションや海底の地形データが簡易的に立体表示されている。
『まず逃走を選択した場合のプランです。敵にこちらの位置を補足されているという想定の下、アクト1では海上の高エネルギー反応に向けて魚雷による牽制を試し、敵の対潜攻撃を可能な限り妨害します。その後、アクト2において私の選定した回避ポイントを通過して作戦海域を離脱します』
ユーリは向かって右側のモニターの後ろに立ち、半透明になったそこにニライカナイの逃走経路を示して見せた。
『しかし、この方法はあまり推奨できません。敵の攻撃に関するデータが不足しており、現状、私の選定した回避ポイントの信頼率は13パーセントほど……さらに、この海域には遮蔽物となるものがありません』
「隠れられる場所もないのか、そっか……敵は最初からこうなることを見越して、この海域に俺たちを誘い込んだってことか」
『状況的に見て、そう考えるのが妥当でしょう。武装といい戦術といい、敵は今までのオセアニア軍とは明らかに違います。マスター、侮ってはなりません』
「分かった」
ジッとこちらを見つめてくるユーリに、俺は額の汗を拭いながら2回ほど小さく頷いた。
『続いて、攻撃プランについてですが……』
ユーリは左側のモニターへと移動し、後ろから半透明の画面を操作して移動経路を示しつつ、攻撃方法に関する説明を行ってくれた。
時間に迫られている中、俺はすぐさま決断した。
『マスター、どうされますか?』
「……よし、敵を倒そう」
『サー、ステルスモード及び機能制限解除』
ユーリが静かに呟いたその瞬間、暗闇に包まれていた俺の視界がガラリと移り変わった。網膜投影された非常灯の赤い光が消え、ステルスモードが解除されると共に様々なセンサーとレーダーが稼働、CG表示された鮮明な海中の映像を始めとして、自分の視界に多くのものが映り込むようになる。
『環境センサーに感あり、海面上に高エネルギー反応……敵の第3射と予想』
「ユーリ、緊急浮上!」
『サー、アップトリム90。超空洞システムを機体前面に展開、全スラスターを下方に集中、最大船速。続いて直上の敵機を牽制します、魚雷発射管2番から4番まで解放……斉射』
ユーリの声と共に、ニライカナイの耐圧殻から3本の魚雷が射出される。照準と誘導をユーリに任せ、俺は操縦桿を引き機体を上昇させることに専念する。魚雷による牽制が功を奏したのか、俺たちは敵から一切の攻撃を受けることなく海面への接近を果たした。
『トランスフォーム始動。ウィーヴァルアーマー左右連結解除、後部耐圧装甲を直立二足歩行モードへと移行、火器管制、武器システムを潜水艦モードから水上モードへとリプレイス……完了』
機体の上半身を覆っていたウィーヴァルアーマーが中心部から左右に分かれ、機体の側面を守る盾となって、両肩部の端へとスライドする
「MAILeS『ニライカナイ』!」
『陸戦モード、コンバット・オープン』
「そうそう! それでいいのよお利口さん♪」
アリシアの判断は早かった。透視能力で海中に潜む敵の浮上を確認すると、すぐさま狙撃を中止し回避行動に移った。フロートをサーフボードかのように扱い全速力で波間をすり抜けると、つい先ほどまで彼女がいた空間で魚雷が炸裂した。
爆発の衝撃で酷く荒れる海面を巧みな操縦技術で滑るように乗り切ると、アリシアは海上の一点を見つめた。次の瞬間、海水がぐぐっと迫り上がったかと思うと、まるで海底火山でも噴火したかのように巨大な水飛沫が天高く噴き上がる。
水飛沫の中心、超空洞技術によって形成されたバブルが弾け、そこから両肩部に巨大なアーマーを装備した機体が姿を現した。黒を基調とした青いラインが特徴的なそれを見て、アリシアは獰猛な笑みを浮かべた。
「「見つけた!」」
ついに対峙することとなった紅と碧の機体。
そのコックピットの中で、敵機の姿を鮮明に捉えることとなった両者はお互いに小さく呟いた。
『敵機、シルエット検索に該当機なし。固有識別信号傍受、ライブラリに該当機あり。ライン連合製主力量産型AMAIM"ストーカー"、形状的特徴からそのカスタムタイプと推定…………いえ、少しお待ちを』
戦域全体を見渡していたユーリの青い瞳がタンカーの付近、オセアニア軍のフロートを用いて海上を高速で疾走する紅い機体を捉えた。その瞬間、彼女は何かに気づいたかのようにピクリと反応した。
『マスター、訂正致します。対象……対象はクリムゾンと断定。ウルフパックのスーパーエースが何故ここに……?』
「それってヤバイの?」
『…………』
「マズイな。赤いのは強いに決まってる……」
ライの問いかけに答えることなく、ユーリは黙ってクリムゾンの姿を凝視し続けている。敵機の分析に全てのリソースを費やしているのだろう、僅かに眉を潜め今までになく真剣な彼女の姿に、ライはここでようやく敵の強大さを感じ始めた。
「いつまで空にいるつもりかな? 悪いけど仕事だからね、無防備な自由落下中を狙わせて貰うよ!」
アリシアは機体を走らせながらレールガンを構え直し、その照準を空中のニライカナイへと向けた。
「まずはその厄介なアーマーを潰す!」
狙いはニライカナイの右肩に装備されたアーマーだった。前もってオセアニア軍の戦闘記録に目を通していたアリシアは、耐圧殻であるそれが魚雷やリボルバーライフルなどを収めた武装コンテナも兼ねていることに気づいていた。アーマーを破壊することで、潜水能力と同時に敵の攻撃力を削ぎ落とそうというのだ。
『敵機より高エネルギー反応、耐ショック用意』
「やっぱり来るのかッ!」
ニライカナイのコックピットの中にユーリの発したアラートが鳴り響き、ライが悲鳴をあげた。
「あはっ、避けられるかな!」
アリシアはトリガーを引き絞った。
3つに分裂した銃身におびただしい量のスパークが走り、出力が臨界に達したレールガンの砲門から落雷の如き咆哮と共に、超高速で砲弾が射出される。
「……!」
ライは自機への直撃を幻視して目を瞑った。まもなく轟音と共に衝撃が襲い掛かる、空気中をビリビとした振動が伝う。しかし、その威力はニライカナイを僅かに揺らしただけで、受けたダメージはライが想定していたよりも遥かに小さなものだった。
『敵攻撃、我が方へ命中せず』
ユーリが淡々と呟く。右肩のアーマー向けられた狙撃は、その先端を掠めるようにして明後日の方向へと流れてしまっていた。
「凄い……これがレールガン、俺じゃ全く反応出来なかった。よくかわせた、流石だよユーリ!」
『いえ、今の攻撃は……』
ユーリは敵の攻撃に疑問を抱いた。敵がこちらの潜水能力を削ぐためにアーマーを狙ってくるのは想定内、しかし狙撃に関するデータが不足していたため完璧な回避ポイントの選定には至れていなかった。なので最悪、アーマーの片側を潰されてても他の機能に支障が出ないよう機体各部の電圧を調整し、さらにアーマーを傾斜させることで最大限敵の攻撃をやり過ごせるよう、回避よりも防御に徹しようとしていた。
しかし、レールガンによる狙撃は機体を僅かに掠めた程度に終わった。深海に潜む自分たちを捉えた敵が、しかも最強と名高い傭兵組織『ウルフパック』に所属するスーパーエースの『クリムゾン』が、こんな至近距離で外すことがあるだろうか?
『……損傷軽微、攻撃プランの継続を推奨』
その理由について思考しかけたユーリだったが、今はその時ではないと思い直し、有利なポジションを確保するべく移動を開始した。
「あれ? 外れた。何でだろ……って、対潜モード、切り替えるの忘れてたからか。あちゃー、なんて初歩的なミスを……これじゃプロ失格って言われても仕方ないね」
外した理由を即座に導き出したアリシアは、残念そうに苦笑いを浮かべつつ、レールガンに装填されていたマガジンを通常弾が込められたものと交換、対潜弾入りのマガジンを右肩のシールド内に収める。
「はー、危ない危ない……これが絶対に外しちゃいけないシチュエーションとかだったらヤバかったかもね。慣れない装備とはいえ、油断は禁物ってことか」
排熱処理と狙撃モードの切り替えを行いつつ、レールガンの薬室に次弾を送り込む。その間、上空のニライカナイはバックパックのブースターを吹かしてクリムゾン機の真上を通過するように滑空を始めた。
「まあいっか前向きに考えよ……そうだよ、この程度でやられちゃ勿体ない。もっと私を楽しませてよね!」
アリシアは敵機の降下地点へと視線を送った。そこには両肩のアーマーを脚部へとスライドさせ、水上戦闘形態へと移行したニライカナイの姿があった。降下中にコンテナから取り出していたのだろう、組み終えた対艦リボルバーライフルを装備している。
「ユーリ、主砲散式!」
『サー、対AMAIM戦闘用意』
ライは対艦砲の照準を真紅の機体に向けた。その間、ユーリはリボルバーを素早く空撃ちさせ、散弾の収まったシェルを薬室内にセットし終える。
『照準固定、命中率75.3パーセント』
「当たれ!」
ライはトリガーを引き絞った。
大口径の砲門から放たれた無数の破片が、鉄の暴風となってクリムゾン機へと殺到する。高い威力かつ広範囲に渡って被害を齎すそれは、先の戦闘においても10機以上のブーメランを葬り去ってきたほどだ。並の装甲では耐えられまい。
勝利を確信するライだったが、その期待は悉く打ち砕かれることとなった。
「……え?」
ライは言葉を失った。
今まさに無数の破片がクリムゾン機の装甲をズタズタに引き裂こうとした、その瞬間……クリムゾン機がマントにも似た左肩の装甲を翻すと、機体の周囲に屈折した空間が出現。破片が空間の内部に到達するとまるで魔法でも発動したかのように破片の軌道が逸れ、その威力を完全に背後へと受け流されてしまった。
「散弾が効かない!?」
『これは……電磁シールド? まさかそんなものまで……』
「くっ……もう一度!」
立て続けに散弾を放つも、やはり屈曲する空間に到達した瞬間に破片の軌道を逸らされて、あえなく無効化されてしまう。
必殺の一撃を打ち消された事実に打ちのめされる中、クリムゾン機が静かにレールガンを構える。ライは咄嗟に身構えるも、3つに分裂した銃身から弾丸が放たれることはなかった。
「……撃ってこない?」
『恐らく、我々がタンカーを背にしているからでしょう。レールガンでは威力があり過ぎて、高確率でこちらの装甲を貫通します。その際、貫通弾によって船体が損傷するのを避けてのことかと……』
「なら、こちらがタンカーを背後にしている限り、一方的に攻撃できるってことか」
『そう考えても良いかと、しかし……』
ユーリはそこで口を噤ぎ、背後のタンカーへと振り返った。ここで攻撃してこないということは、タンカーはこちらをおびき出すための囮ではなかったということだ。無論、そういう意図もあったのだろうが、クリムゾンには用済みとなったタンカー諸共こちらを攻撃できない理由があるとでもいうのだろうか?
先ほどの攻撃といい、どうもクリムゾンは本気でこちらを撃墜しようとしていないような節がみられる。
その理由について、一瞬で13もの可能性を弾き出したユーリだったが、情報が不足していることもあって、そのどれもが仮説の域を出るものではなかった。それらを伝えるのはかえってマスターを混乱させるだけだと判断し、これらに関する思考を停止した。
『敵機が右側より回り込もうとしています。レールガンの射線を確保する為の行動であると推測、マスター、常に自機と敵機およびタンカーの位置関係を意識して下さい』
「分かった、敵を牽制する」
リボルバーに装填された散弾を撃ち尽くしたこともあって、ライは対艦用の通常弾を放った。命中箇所次第では一撃で艦艇を沈められるだけの威力を持つ砲弾、だがクリムゾン機から放たれる電磁波の影響を受けると、あっさりと背後に逸らされ無力化されてしまう。
「駄目か!」
諦めきれずに2発、3発と立て続けに砲弾を放つも無意味だった。その間、クリムゾンは海面を滑るように移動し、こちらの攻撃など御構いなしといった様子で大きく回り込み、ゆうゆうとレールガンを構え直した。
『解析完了……クリムゾン機の兵装は一度の使用に莫大な量の電力を必要とし、さらにはレールガンの弾丸もシールドの干渉を受けてしまうことから、どうやら電磁シールドとレールガンは併用出来ない模様。さらに大気中へ放出されるエネルギー量の変化から、電磁シールドの発生はごく短時間のみと推測……』
戦闘のイニシアチブを握るべく、ユーリはクリムゾン機の兵装を解析し、そこから最も有効的と判断される戦術を導き出す。
『レールガンの取り回しの悪さ、さらにはベース機である射撃戦に特化した"ストーカー"の機体的特性を考慮。よって、弾幕と格闘を織り交ぜた継続的な攻撃が有効と判断します』
「分かった、ガントンファーを試す!」
ライはリボルバーライフルを折り畳んで右の武装コンテナに収容し、左の武装コンテナからハンドガンにも似た2丁の火器を取り出し、それを両手に保持する。
ハンドガンのバレル下に硬質ブレードを組み合わせた近接戦闘装備、通称 ガントンファー。ハンドガンは低威力ながらも取り回しの良さと速射性から高い制圧力を発揮し、耐久性に特化した硬質ブレードは斬撃よりもトンファーの如く殴打による敵機の粉砕を目的とした、まさしく遠近両用の武装だった。
「おっと、初めて見る武器だね……」
ニライカナイが取り出した新しい武装を見て、アリシアは右への展開を中断して完全に動きを止めた。
『敵機が静止、今です』
「ああ、このまま接近戦に持ち込む!」
ライは機体をクリムゾン機へと直進させつつ、両手のハンドガンを斉射した。その全てが電磁シールドによって弾道を逸らされ無力化されるが、絶え間なく続く銃弾の雨に、クリムゾンもレールガン発射のタイミングを完全に見失ってしまう。
「そこッ!」
そして、ライはクリムゾン機のワンインチ距離へと接近を果たした。増速した勢いのまま、クリムゾン機の紅い装甲めがけてガントンファーの刃を叩きつける。それは電磁シールドによって直撃する手前で防がれるも、先ほどのように攻撃を逸らせるだけの出力はなかった。
『敵機のシールド出力低下を検知。このままクリムゾン機のレールガンを破壊し、対潜攻撃能力を削いで下さい』
「貫けッ!」
全スラスターを一点に集中し、クリムゾン機の電磁シールド突破を試みる。そして、間も無くシールドは煙のように搔き消え、防御手段を失ったクリムゾン機は距離を取ろうと後方へ逃げるも、ライがそれを見逃すはずがなかった。
「うおおおおお!!!」
再びワンインチ距離にまで詰め寄り、レールガンの長い銃身めがけてガントンファーを振り下ろした。強靭な刃に加速力を相乗させたその一撃に、叩き壊せないものはなかった。
「ハッ、甘いね!」
肉薄するニライカナイを前に、アリシアはニヤリと笑った。瞬時にレールガンを横に構え直すと、銃身下部のクリアパーツが何やら光を帯び始めた。
『マスター! 緊急防御!』
「ッ!?」
ユーリの警告でライは殴打を中断し、咄嗟にガントンファーの刃を目の前に交差させて防御姿勢をとった。次の瞬間、アリシアはレールガンを大剣の如く横薙ぎにし、例のクリアパーツをガントンファーに衝突させた。
「なっ! 銃架が剣に!?」
「狙撃機だからって、接近戦が出来ないと思った?」
レールガンの銃身下部に秘匿されたクリムゾン機唯一の接近専用装備。銃身を安定させる為の銃架を兼ねたそれを、本来の用途である銃剣(バヨネット)として作動させていた。
「因みに、それだけじゃないよ?」
「こ、硬質ブレードが……」
次の瞬間、バヨネットとブレードの衝突部に眩い輝きが生まれた。閃光と高温がブレードの刃を侵食し、高い耐久性を持つにも関わらず徐々に刃こぼれを起こし始めるガントンファーを見て、ライは悲鳴をあげた。
「ユーリ! これは一体……!?」
『敵は近接格闘兵装にアーク放電を応用したギミックを内蔵している模様。刀身部分に超高温のプラズマと高圧スパークを発生させることで、こちらのブレードを蒸発させているようです』
「くっ……なら一旦距離を取る!」
「あはっ、逃がさないよ!」
ライはクリムゾンから距離を取るべく、アーマーのスラスターを逆噴射させた。それに対し、アリシアはフロートを増速させ、レールガンを振り回しながらニライカナイの追撃を始めた。
今回の境界戦機の新作が発表されるということもあって、沖縄を舞台としているっぽいので(当然のことながら)新しく設定が追加される事もあり、残念ながら本作『ニライカナイ』の設定とズレが生じてしまうのは明らかでしょう。
今からでも本編に合わせて変えられる部分は変えようとは思いますが、場合によってはどうあがいても本編と絡められないような感じになってしまうかもしれないので、ここまで頑張って書いてきたので少し寂しいですが、そうなった時は仕方ないです。『ニライカナイ』は境界戦機のパラレルワールドとかIFストーリーとして見て頂けるとありがたいです。
それでは、また……