A.俺が読みたいネタだったから。
二度目のスタートライン
この世界へきた理由はなんなのか、そして誰が呼んだのか、そもそもなぜ
勝負から逃げ、人付き合いから逃げ、面倒ごとと見るやとにかく逃げまくってきたチキンな俺など、完全に異物でしかないだろう。だが、人生に二週目があるというのなら、今度はマトモに挑戦して、それなりに上手くやってみようと考えていた。
まず、この世界には四本脚の馬という生物は存在せず、ウマ娘と呼ばれる摩訶不思議な生物が代わりにいる。大戦中の艦船が美少女化して海上スケートしてドンパチやらかしている世界もあるので、別にこの手のネタはわりかし不思議ではないのだが、まさか
ウマ娘にはそれぞれ、固有のウマソウルと記憶を有して生を受け、本能が刺激するがままに勝負の世界へと駆り立てる。最初は散々逃げまくってきた俺への三女神様の当てつけか嫌がらせかと疑ったが、どうやらそうではないらしく、駆り立てているのは
その本能を裏付けるかのように、勝負となると──見ているだけでも──人一倍熱くなった。特にモータースポーツなど、全く筋書きのないドラマに一喜一憂させられた。そんな様子を見て、母は何を思ったのか突然俺をレース場に連れていった。サーキットの世界ではなく、ウマ娘らしい世界へ連れて行こうと思っているのだろうか。
聞き覚えのない名前のウマ娘たちが芝生のトラックを駆け抜ける様子を眺めつつ、俺は誰が勝つのかを予想しようとしたところ、いつの間にか隣にいた女性に声をかけられる。
「退屈ですか?」
「オーバルトラック1周前後で決着が付くので、若干見応えに欠ける感じ、ですかね」
「モータースポーツファンには、短すぎて少々退屈かもしれませんね」と軽く笑いつつ、足下に置いていた高そうな革製の鞄からやや分厚めの封書を取り出して手渡してくる。その封筒には、ウマ娘競争協会URAのロゴと、日本ウマ娘トレーニングセンター学園初等部入学案内願書の文字が、
「今すぐに決めろ、とは言いません。ご家族と話し合い、じっくり検討してあなたが納得する答えを選んでください」
「トレセンに行くも行かないも自由、ってことですか。ところで、なんでこんな就学前のウマ娘なんかに声をかけたんです?青田買いが狙いなら、もっといい子がごまんといたでしょうに」
「あなたには可能性を感じる、
「悲願?」と首を傾げていると、今度は手帳のページを一枚破り取り、さらさらと何かを書き込んだ紙片を追加で渡してくる。
「私の連絡先です、もし答えが決まりましたら、いつでもご連絡ください」
そう言い残して分厚い封書と元手帳の一ページを抱える俺に一礼して立ち去る緑色のスーツの女性。とりあえず、トレセンのことは後で考えるとして、次のレースを見よう。しかし、レース内容は全く頭に入ってこなかった。
次回、家族会議。