二度目の生は祝福とともに   作:刹那・F・セイエイ

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入学案内願書のヒミツ

入学案内願書の封書に刻まれる文字の色は銀、金、虹色の三種類あり、刻まれた文字の色でどこから手に入れたかがおおよそわかるようになっている。

銀:一般の学校やトレセン学園各校から取り寄せ
金:スカウトに来た中央トレセン学園生徒会から手渡し
虹色:URA上級幹部(トレセン学園理事長秘書)が常に一封ずつ保有しているが、()()()()()()()()()()()()


東京(フチュウ)京都(フシミ)

 緑色のスーツ姿の女性に声を掛けられて以降、その日は取り立てて注目する選手も見いだせず、すべてのレース行程を終えて家路に着いたのだが、俺はもらった封書を自室で広げてひとり悩んでいた。封書の中にはそれぞれ、『東京ウマ娘フチュウトレーニングセンター学園初等部入学案内願書』と『京都ウマ娘フシミトレーニングセンター学園初等部入学案内願書』の二校の書類が一式揃っており、おそらくはどちらかを選べ、といったところだろう。

 できれば今の家から近いフシミトレセン学園に行きたいのだが、もしも両親がレベルアップを目論んでいた場合、フチュウトレセン学園に放り込まれる可能性もある。栄誉なのだろうが、非常にありがたくない話だ。結局悩んでも答えは出ず、その日の夕飯となった。

 

「ライス、トレセン学園に入らない?」

「トレセン学園に?なんでまた……」

 

 形式こそ違えど、レースの世界に関心があると思ったのか、夕飯の時に母がそんな提案をしてきた。どうやら、緑色のスーツ姿の女性から封書をもらったことを把握しているらしく、何をもらったのかとか、中に何が入っていたのかとかを興味津々に聞いてきた。最初の方こそニコニコ顔で聞いていた母だったが、話が進むにつれて次第に表情がこわばっていくのがわかった。そして、もらった封書に刻まれた文字の色について言及したところ、突然両親の態度が急変した。

 

 「トレセン学園の入学案内願書は銀色の文字で刻まれている、他の色なんてあり得ない」と糾弾する父に対し、「中央トレセン学園生徒会から手渡される入学案内願書は金色の文字で刻まれているけど、虹色はさすがに聞いたことがないわ」と訝しむ母。そうなると、あの虹色の文字で刻まれている入学案内願書はおそらく、トレセン学園の中枢、もしくはURAの上層部に位置する幹部クラス以外が所有、配布することを許されない特別な封書なのだろう。そうでなければ、あの特注品らしい緑色のスーツの説明がつかない。

 

「ところでライス、その入学案内願書はいったい誰からもらったの?」

「緑色のスーツのお姉さん、一応連絡先もくれた」

 

 そういって差し出した連絡先のメモを引ったくり、突然電話をかけだす母。封書を渡してきた相手に心当たりでもあるのだろうか、などと考えていると、話し終えたのであろう母が子機を片手にこちらへ神妙な面持ちで近づいてくる。………えーっと、何かご用で……?

 

「ライス、どうやら相手さんはあなたをご指名のようよ。出てあげなさい」

 

 どうやら電話の相手──おそらく入学案内願書を渡してきた緑色のスーツのお姉さん──は俺をご指名らしく、是非とも話をしてみたいのだという。それならそれで、こちらも期待に応えねばならない。電話向こうのお姉さんの期待に応えるべく、俺はスピーカー状態の受話器を受け取り応じることに。

 

「はい、お電話変わりました。ライスシャワーです」

『こんばんは、ライスシャワーさん。日本ウマ娘トレーニングセンター学園理事長秘書の、駿川たづなと申します。本日お渡しした入学案内願書の件、早速ご家族と話し合いしてくださっていらっしゃるようですね』

「話し合いしてるというか、母に話題を振られたから答えているというか。今のところそこまで話題は進んでないって感じですね」

東京(フチュウ)京都(フシミ)、究極の二択ですからね。そう簡単には決まらないでしょう……って、そういう意味じゃなさそうですね』

 

 たづなさんの苦笑混じりの返答に、こちらもついつられて笑ってしまう。はい、そうなんです。入学案内願書の内容以前に、封書に刻まれた文字の色で軽く揉めてたんです、などとは口が裂けても言えず、なんとか当たり障りのない返答を返そうと無い知恵を必死になって絞る。

 

『ですが、これはあなたの物語です。いっそのこと、この場で答えを決めてしまうというのも、悪くないと思いますが?』

「………随分、思い切ったことを言いますね。ですが、それもまた悪くありませんね」

 

 もっとも、頭の切れは先方の方がだいぶ上手のようで、誘導するかのようにして先手を打ってくる。だが、話がしやすくなったのは確かなので、俺はそのことに感謝しつつ、この場でハッキリと答えを返しておく。

 

「スカウト、ありがとうございます。京都ウマ娘フシミトレーニングセンター学園に入学させていただくので、もし機会があれば、またよろしくお願いします」

『機会は待つものではなく、自分で作るものですよ?とかいう話はさておき、フシミに入学ですね?多大なるご活躍、期待しております』

 

 『それでは』と言って電話を切られたのだが、これで目的は果たせた。フシミトレセン学園に入学、これさえ果たせばあとはどうにでもなる。もらった願書に必要事項を書いて送付すれば、これで晴れてフシミへの入学が確定となる。

 

「あなた、本当にこれでいいの?もう少し真剣に考えてから決めた方が……」

「ううん、これでいい。いずれにせよ、答えは決めなきゃならなかったからそれが早まっただけだよ。確かにF1の世界に興味はあったけど、たぶん走るべきは道路の上(ターマック)じゃなくて芝生の上(ターフ)のはずだから」

「やっぱり、私の子ね。というよりは、ウマ娘の本能から逃れられなかったって感じかしら?」

「ウマ娘の子はウマ娘ってことだね、やっぱり血が騒いでしょうがないよ。けど、オビヒロ*1じゃなくてよかった~」

「ライス、今からアサヒカワ*2送りにでもしましょうかぁ?」

「勘弁して、寒いの苦手」

 

 ほとんど電話の勢いで決めたようなトレセン学園入学に対し、どこか心配そうに声を掛ける母。だが、答えは夕飯に呼ばれる前から決まっていたようなモノなので、ほとんど最終確認のようなものだ。もう話についていけない父をほったらかして、ウマ娘同士で盛り上がる。成績こそ芳しくなかったものの、それでもフチュウにスカウトされた──もとはオビヒロからのスカウト組だという──に相応しい走りは残していたという。

 

「ともかく、フシミに行くのね?頑張りなさい」

「うん、行ってくる。フシミのウマ娘として、結果を残してくる」

 

 フシミへの入学、これで二度目のスタートラインへと立った。頂点を目指すストーリーは、ここからスタートだ。

*1
北海道ウマ娘オビヒロトレーニングセンター学園

*2
オビヒロトレセン学園の分校のひとつ。他に東にキタミ、西にモンベツ、南にハコダテがある。




次回、入学式。
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