話数:60話(第一部まで)
オリ主:
メインキャラ:今井リサ、松原花音、丸山彩、青葉モカ、上原ひまり
本編リンク:未投稿につき、なし
アルバイトを続け、結果として様々な縁を結んだ男、
「おはようございます」
「あ、おはようございます、大雅さん!」
「おはよう、彩」
そして季節は春へと変わり、学年が一つあがっていた。大雅はファストフード店へと向かうとそこには丸山彩が私服姿で事務所の椅子に座っていた。
アイドルとしての活躍が目覚ましく、そのせいでアルバイトにあまり入れない日々が続いた彩だったが、オフだったために大雅に会いに来ていた。
「今日もバイトですか?」
「ああ、彩は休みか」
「はい」
「そっか」
「──だからちょっとだけ、甘えていいですか?」
大雅は頷くと少し左右を見渡してから座ってる頭にゆっくりと手を置いてふわふわな髪質の気持ちよさを感じつつ撫でる。彩はその手の優しさに堪えきれないとばかりに頬を緩めた。そのまま目を閉じ、受け入れていた彩だたったが、少しして微笑みつつ声を出す。
「今日は大雅さんの家、行っていい?」
「……もちろん」
「じゃあ、先戻って色々準備してますね」
「おう、そっちに誰かいたら一緒によろしくな」
「はーい」
そう言って彩は立ち上がりもう一度だけ撫でられるべく一歩近づき、大雅もまた今度はその頬を撫で彼女の期待と愛情に応えた。そのまま彩は踵を上げ、アイドルとしてではなく一人の女性としての、だが世の男性全てを恋に堕としてしまいそうな表情で唇を重ねた。ドラマのワンシーンのような長いソフトキスに大雅は最初こそ驚いたが、受け入れ、そして彼もまた笑みを浮かべた。
「彩……」
「はい、続きはおうちで、ですよね?」
「ごめんな」
「ふふん、私は待てる女なので!」
「そっか」
胸を張った彩に、大雅は苦笑いをしながら手を振り送る。一応は誰かいないかと気をつけていた大雅だったが、ふと後ろに気配を感じて振り返ると、そこにはニヤニヤと笑みを浮かべる上原ひまりと、ニコニコと笑みを浮かべる松原花音の二人が立っていた。
「お兄ちゃん、今ちゅーしてた~?」
「ひまりちゃん、あんまり言うと……」
「……ひまり、今日は帰り一人で帰れよ」
「なんで!」
「なんでだろうな!」
「ふえぇ、ふ、二人とも……」
「私もお兄ちゃんに甘えたいのに~」
そう言って抗議の声をあげつつなんだかんだと腕を組み甘えるひまりを花音は慈愛の表情で見つめていた。そしてふと、先程大雅が帰り一人で帰れよと言ったことが気になり、問いかけた。
「大雅くん、今日シフト確認しに来ただけだよね?」
「ああ、けどこの後コンビニの方寄ったら予定ないからさ、ひまりがそれを知って迎えに来てほしいって」
「花音さんはもうおしまいなんですよ! ね、花音さん!」
「う、うん」
「そうだったのか、じゃあ待ってるから一緒に帰ろうか」
「あ、ありがとう……嬉しい」
ふわりと花が咲くような笑顔に、大雅どころかひまりも釣られて笑みを浮かべた。今日の予定は五人が大雅の家に集まり、進級祝いを開くということで大雅はそのために休みを取っていた。ひまりが手を振って後で構ってねと言い残して去っていき、再び、今度は花音と二人きりになった。
「花音」
「……ここは、恥ずかしいから」
「彩はめちゃくちゃ甘えてきたけどな」
「それは彩ちゃんだから……なんて、ふふ……」
「言えてるな、花音がここで彩みたいに甘えてきたら面白いかもな」
「うん、でも……着替えたら、ちょっとだけ」
花音はそう言って、更衣室に向かいながらちらりと大雅に振り返った。その表情が妙に艶っぽいことに気付き、大雅は少しだけ身構えたが、花音はやや意地の悪いような笑みでからかうような言葉で大雅に自分を意識させた。
「──覗いたら、ダメだからね」
「の……っ! そんなことしないからな」
「ふふ、信じてるからね」
そう言いながら、扉を閉め
「ふえぇ……」
「おっと、ごめん……」
「……覗いてたの?」
「信じてるんじゃなかったのか」
「そうだった……大雅くんになら、視られてもヤじゃないけど」
「そういうのよくないと思うんだよな、見られて嫌じゃないって言ってもここは家じゃないんだから」
「うん……んしょ、じゃあ帰ろ」
「おう」
花音はファストフード店を一緒に出て、そのまま彼と腕を組む形で歩いていく。大雅と二人きりで道を歩くのも思えば花音にとっては少し久しぶりに感じるものだった。
今ここにいる全員とサイテーな道を歩いていきたい。その言葉を聞き届け、新しい気持ちで大雅に接してからまだ一ヶ月ほどではあるのだが、その中で彼の心境が劇的に変化していることを花音は見抜いていた。
「なんかさ」
「ん?」
「大雅くん、堂々とするようになったよね」
「そうか……いや、そうなんだろうな」
「前は、誰か一人って思ってたから、触るのも怖い……みたいな感じだったけど」
「……花音は本当によく見てるんだな。でもそれって、きっとみんな気づいてるんだろうな」
「そうだね」
だからこそ彩もひまりも隠すことなく堂々と甘える。それは前よりも明確な男女としての関係を前に置いたものであり、花音もまたそれを利用しているからこそ、更衣室の一件で大雅を
「あ……大雅くん」
「なんだ?」
「お別れ前に、私にも……キスして」
「改めて言われると、すごく恥ずかしいな」
「ん……っふふ、すきだよ、だいすき……♪」
アパートの前でそんな万感の想いの籠もった唇とそれに負けないくらいの好きという言葉に見送られ、大雅は今度はコンビニへと歩いていく。まるで散歩だな、なんてことを思いつつ、ふと自分が少し太ったことを思い出した。具体的には
「おつかれさまで〜す、そろそろ来る〜って頃だと思ってた〜」
「出迎えごくろう、モカ」
「んへへ〜、たっくんで癒やしぜんか〜い」
「はいはい、リサしかいないからって甘えすぎ」
「そうだよモカ! アタシの我慢も考えといてよ!」
「いやで〜す」
コンビニの裏口から入り、事務所の扉を開けるといきなり、青葉モカから熱烈な歓迎を受ける。そんなモカをあやしつつ、リサの様子を伺うと、どうやら引き継ぎする予定の店長が別の要件でオーナーに呼ばれているというモカからの情報を受け、大雅は貼り付き離れない彼女を引き剥がしつつ、リサに声を掛けた。
「手伝うけど」
「いいよ、そこのひっつき虫に残業させるから」
「もしかして〜、それあたしのことですか〜?」
「他に誰がいるのカナ〜?」
「あれ〜、さっきまでご機嫌で鼻歌交じりだったのに〜」
「お前のせいだろ」
ツッコミを入れつつ、それでもと引き下がった大雅だったが、リサは頑なに大丈夫と譲ろうとはしなかった。そんなに頼りにならないかと落ち込んだ彼に、モカはコンビニで買ったであろうパンを机に置き、座っている彼を優しく抱きしめる。人の考えることを察するのが上手いモカは常に大局、大きな流れを視ており、リサの気持ちも大雅の気持ちを汲んだ上で、大雅に優しい言葉を紡ぐ。
「リサさんはさ〜、たっくんにちょっとでも休んでほしいんだよ〜」
「……そんなこと言ってもだな、今ピンチになったら」
「うん、だからここにいて、ど〜しても、ダメだったらへるぷーって呼ぶから〜、それまで待っててね〜」
「いいのか、そんなことで」
「そんなことが、大事なんだよ〜」
普段の、人を食ったような表情とは違った、幼馴染ですらなんとなくでしか知らない青葉モカの表情に、大雅は頷いた。そこでモカはまたいたずらっ子のような笑みを浮かべて、待っててね〜と言い残して戻っていった。
本当はバイトの癒やしであるはずだった。アルバイトを掛け持ちして、そうでなければ生きていけないのにも関わらず、そのせいで刻一刻と削れていく自分を、維持するためのある種の装置のようなものだった。
リサの世話焼きも、花音の優しさも、彩の元気さも、モカの話やすさも、ひまりの甘えも、全部がそうだった。けれど、プライベートでの関わりが増え、それがどんどんと広がっていく中で、彼女たちもまた、自分がいるからと言葉にしていることに気づいた。そして、自分がそんな癒やしという装置だった彼女たちに愛情を持ってしまったことを知ったのだった。
「そういう意味でも、サイテーだな俺って」
「なーにブツブツ言ってるの?」
「リサ……」
「ウズウズしてるところ悪いけど、多分大雅の出番ないよ」
「な、どうして」
「他の人がヘルプで来てくれるって、いやぁ、マジで助かった〜」
このままいつまでかわからない残業なんて絶対嫌だからね、とリサは笑い、それから幾ばくもしないうちにヘルプの二人がやってきてリサとモカは退勤することができた。ちょうどその頃、ひまりからバイト終わったよ〜と連絡が届き、大雅は今からリサとモカを家に届けてから向かうと返事をした。
「ひまりから?」
「ああ、終わったってさ」
「そ、おにーちゃんも大変だねぇ、さっきまでファストフード店だったんでしょ?」
「いいよ、最近構えてなかったし」
「そっか」
「たっく〜ん、あたしも構われてないよ〜」
「はいはい、だから事務所で抱きつくなって」
「最近は〜、なんていうんだろうね〜、モカちゃん、愛が抑えられないんです〜」
「それはまた家で爆発させてくれ」
「そーする〜、けどモカちゃんは一旦おうちに戻るので〜」
てっきり一緒に大雅の家に向かうと思っていたため、大雅もリサも驚くが、モカは間食のパンがないと死んでしまうと言って比較的近所の家まで大雅が送り届けることになった。リサと一緒に玄関前で別れて、来る時に気をつけろよと一言残すとモカは唐突に再び抱きつき、今度は長い長いキスで返事をした。
「──っはぁ、それじゃあリサさんは〜、たっくんに途中で襲われないよ〜に、お気をつけて〜」
「も、モカ……」
「えへへ〜、やっぱ我慢できなかった〜」
びっくりするほどに頬を染め、艶やかな微笑みをしたモカに大雅は心臓を跳ねさせ、そしてそのせいで妙にリサとの間に気まずい雰囲気が流れ始めてしまっていた。その状況に危機感を抱いたのは、他でもなくリサの方だった。リサはゆっくりと二人の間にある距離を詰め、手の甲を僅かに触れさせることに成功する。
「リサ?」
「手……つ、繋いでもいい、でしょ?」
「……なんか、リサの照れてる姿、安心する」
「は、なにが?」
「いや、最近……ああそういう関係として前に進んでるんだなぁって実感したんだよ。彩も、花音もひまりも、モカも」
「そだね」
「けどリサだけは、ほら、恥ずかしがるだろ? 路上でキスなんて絶対にしない」
「し、しないよ!」
けれどモカは遠慮なくしてくるし、恐らくひまりも同じだ。彩はあくまで外では自分がスキャンダルになってしまうというリスクがあるだけで、花音は大雅を強く求める姿を他人に見せないことを信条にしているだけ。恥じらいの感情で、前とそれほど変わらない表情でいるのはリサだけだと大雅は感じていた。そしてそれが、安心してしまえることも。
「でも……でもアタシだって、大雅と……キスくらい、したいよ」
「してないわけじゃないだろ?」
「そうだけどさ……もっと、大雅と恋人なんだーって思いたいっていうか」
「リサ……」
指を絡めた恋人繋ぎをしつつそれでも無茶ばかりをして世話を焼かれていた頃の大雅と、世話を焼き続けていた頃のリサとは関係は明確に変わっていることもまた実感していた。以前ならリサが途中で恥ずかしがるような内容の話題も、手を握りつつ求めてくる。恋人としての触れ合い、愛の伝え合いを求めていることに気づいた大雅は、自分の家の玄関の前でリサに提案した。
「ここでキスするか」
「……いや、だってここも一応誰かに見られる場所だしっ、というか、は、早くひまりでも迎えに行ったら!」
「リサ」
「ちょ、ちょっと大雅……」
恥じらいドアを開けようとするリサに対して、大雅は後ろから抱きしめ、少しだけ強引に唇を奪う。リサはもちろん、大雅としても初めての行動であったため、心臓が飛び出そうなほどに緊張と恥じらいを持ってはいたが、その無謀とも言えそうな行動はリサの理性の枷を外すには充分すぎた。一度では、一瞬では足らないと口を開け、二度目を誘い、際どいところにも触れる大雅の手を受け入れてしまう。
「……バカ大雅」
「こうでもしないと、リサは逃げるからな」
「バカ」
リサにとっては数時間にも感じる、たった数分の睦み合いは終わり、最後に一度だけ真正面を向いて大雅の唇を首に手を回して受け入れる。恥じらいが既に大雅への想い、触れてほしいという欲求に上書きされたリサは、少しだけ熱っぽい表情で彼を見上げ、それからそのまま表情を隠すように顔を彼の胸板に埋めた。
「ひまりに怒られちゃえ……」
「怒られてでも、リサに触れたくなったんだよ」
「触り方、え、えっちだった……本当に、バカ大雅」
「ごめん」
「怒ってない」
「じゃあ、ありがとう?」
「それは変態すぎるからヤダ」
「難しいな」
「大雅が悪いんだから」
だがこの行動でモカによってモヤモヤしていた気持ちがすっきりと晴れたリサは、一歩離れ、ゆっくりと指を絡めてそれを解くようにして離れていった。それを合図に大雅はひまりを迎えに行くために振り返った。
──彼は贅沢でサイテーな道を歩いていく。その道は困難が多く、たくさん彼女たちを泣かせることになるし、苦しませることになる。ただ、それでも大雅はその先にあるであろう「みんなで前に進んだ未来」に想いを馳せ、緩む頬をごまかすようにして歩き出した。
今では多分思いつきもしない「ハーレム」だと思います。なんとなくみんな好きだからみんなヒロインで誰か選ばなくていいや、みたいな。まだまだ話作りも経験も浅く、大したものを書いた自覚はありませんが、当時は原作の「総合評価」でソートすると上から二番目に来るような、たくさんの声をいただいた作品でもありました。
個人的にはここで「青葉モカ」のキャラ像は一番考えて、考え抜いているので当時の考察を引用している場面も多い気がします。流石にどこぞのモカのように病んでませんが。
次回はついにラスト「ーWindーあの日の笑顔をもう一度」の投稿になります。これが本当にバンドリにおける全ての始まりです。お楽しみに!