話数:27話(特別編込み)
オリ主:
メインキャラ:白鷺千聖、弦巻こころ
本編リンク:完全削除済み
様々な騒動があり、夏の告白があり、そして再び八月が目前に迫っていた。困難を乗り越えた
もとより彼にのんびりという言葉は存在しない。亮太は騒がしくも忙しい時間の中にいた。
「絶好のバカンス日和だな、千聖」
「そうね」
「この青い海に青い空、しかも広いペンション、こんな贅沢そうそうできねぇもんな」
「ええ」
「……んだよ、ノリわりーな」
「私だってあなたみたいにはしゃぎたいわ。これがバカンスで、亮太と二人だったらどんなに私ははしゃぐのかしら、自分でもわからないわ」
「なぁ、千聖……いい加減機嫌直せよ」
「嫌よ、絶対」
そっぽを向いた彼らは現在、所謂「恋愛リアリティショー」という番組のロケをしていた。何回かの記念である特別編ということで遠方、沖縄の海とペンションでの撮影に、事務所から抜擢されたのは千聖と亮太だった。この時点で暗黙の了解として恋愛禁止があるアイドルをそこに出演させることに対して既に青筋を立てていた千聖だが、よりによってその期間は千聖と亮太がこころに無人島へのバカンスを招待されていたところだっただけに、彼女の機嫌の悪さは最高潮だった。
「燃やすわ、あの事務所」
「自分の所属事務所だろ……あと俺の所属でもあるからな」
「このまま二人でフリーになって思う存分バカンスしたいわ」
「過激なバカンスだな」
パラソルの日陰で涼みながら、二人は撮影を始まるまでの時間を過ごしていた。リアリティと言いつつ、台本が全てないわけではない。厳密にあるわけではないが、その場の雰囲気やノリで撮影で起こったことを、カメラの回っている場面を切り抜き、時にはこちらの方が
「……あんまり素を出すなよ」
「なんでよ、まだ撮影前よ」
「それでもカメラを回されてる可能性があるんだよ、そういう番組だからな」
「悪趣味」
「それには同意する」
千聖はそういう番組を見てこなかったこととパスパレの活動で忙しかったことも重なり、イマイチピンと来てなかったが、亮太は情報収集をした上で撮影に臨んでいた。そして亮太も知らない話ではあるが、本来なら千聖だけが出演するところを急遽として亮太にも出演してもらうことで、彼の言葉に従うならば姫を守る
「さて、んじゃあ仕事をしますか」
「……よくもこんなノリ気になれるわね、最悪、番組の話題作りに私が
「そこは、俺にお任せあれ、プリンセス」
「キザなのは嫌いよ」
「はいはい、任せな」
それから、撮影が始まり自己紹介をする。彼女の他にもアイドルや売り出し中の女優や俳優もいて、千聖にとっても知り合いがいるのはほっとするべきところだった。
その中で朝霧亮太は名乗った上で、堂々と
「正直、子役ん時に憧れだった千聖さんと去年共演してさ、その時から気になってて、今回はチャンスかなって」
「おいおい、宣言早くないか?」
「疾きこと風の如し──なんてな、恋も軍略もおんなじようなもんだろ?」
「わぁ、だって白鷺さん!」
「……え、ええ、そんな風に思っていてくれてたのね」
亮太の歯に衣着せぬ言葉と、千聖の驚いたような照れを隠すようなリアクションに周囲も盛り上がりを見せる。これからの沖縄の海を舞台にした共同生活において、少なくとも序盤のキーパーソンが決まった瞬間でもあった。しかも相手が子役時代には共演したこともある同事務所の帰国子女と、女優としてでなくアイドルとしても活躍するトレンドを歩く芸能人の組み合わせということもあり、番組側は彼らにカメラを向けることになった。
「早速、番組側も俺と千聖のカップリング作りで話進んでるな、ここまで計画通りで助かる」
「まさか、そのためにあんなことを言うなんて、思わず本気でドキドキしてしまったわ」
「いい作戦だろ?」
輝くような笑顔に千聖も心底嬉しそうに微笑みを浮かべる。既に不機嫌だったはずが、その心には亮太からアプローチをされたという恋のキラメキに踊っていた。なにより言葉に嘘がないことを知っていることが千聖の言葉を弾ませていた。
──作戦とはいえ、既にこの番組の中心が千聖と亮太になりつつあるのだから。
「それじゃあ亮太、頑張って私をオトしてみせてね」
「嬉しそうに言うけど、どうせ無理ゲーなんだろ?」
「もちろん、私は安い女じゃないことくらい、あなたが一番よくわかっているでしょう?」
「そりゃあな、いつも振り回されてるし」
既にスタッフが帰ったことを確認した状態で、千聖と亮太は抱き合う。誰にも見せない瞬間こそが、彼らにとっての本当の恋愛をしている瞬間なのだから。
そのまま、撮影はつつがなく終わり、なんだかんだと言いつつ二人はカメラが回っていようといなかろうと沖縄を楽しんで戻ってきた。
「あ〜、おっかえり〜!」
「ただいま、日菜ちゃん」
「お、おかえり亮太くん!」
「おう、ただいま彩」
「お二人とも、第一話見ましたよ、大胆な始まり方でネットの反響もすごいッスよ!」
「リョータさんの恋、応援したくなってしまいました!」
「いいね、応援よろしくなイヴ」
設定では八月の真ん中、ということになっていたが撮影日は七月末、帰ってきた日には第一話が放送される日だった。翌日になり事務所に顔を見せた二人をパスパレのメンバーが囲むと、千聖は今更思い出したようにスマホでエゴサーチをし始める。珍しい行動に彩が驚きの表情を見せるが、亮太は苦笑い気味だった。
「多分荒れてるぜ」
「はは……まぁ予想通りッスね」
「さ、サーチ方法変えれば大丈夫だから!」
「なるほどね、メイン客層にはウケてるけれど、パスパレのファン層には懐疑的な声が上がってる、と」
大和麻弥がそれを力なく肯定する。番組のメイン客層は恋愛を楽しみたいために肯定的な声が多く、自他ともに認めるイケメンである亮太が放った千聖へのチャンス発言に羨ましいと声もあるのに対して、ファン層からは明確な拒絶反応が多かった。方針どころか楽曲にも徹底して恋愛系列を排除しているパスパレのメンバーでもある千聖が口説かれ、いきなりまんざらでもない反応をしたことに嘆きの声も多くあった。
「いいわよ、もう私の中では終わっているのだもの」
「後一回か二回は炎上すると思うぜ」
「嫌な予言しないでよ〜、私は割と楽しみに見てるのに〜」
「あはは、あたしはあたしの目で見た千聖ちゃんとりょーくんがいいかな〜」
「あんまり見てると千聖に怒られるけどな」
「そうよ、私と亮太だけの世界なのだから」
そんな風に微笑み、牽制した千聖を亮太は宥めていく。亮太が日本に帰ってきてからの数ヶ月と、そして一年で負けず劣らずの騒がしい日々を送ったことで、二人の絆はより強くなっていた。安定し、変わったと言われる中で、だが亮太と千聖だけの世界になると二人は相変わらずの関係に戻っていくのだった。
「どうした?」
「今日は、亮太の家に行ってもいいわよね?」
「もちろん、って言ってもロケ中も散々甘えたクセに──わかってるよ」
彼女の脳裏にあるのは、今度はパスパレのPVのロケがあるということ、そこまで時間を使うわけではないが、それまで結構な時間を二人で過ごせたのに急に離れなければならないということに対して、千聖は寂しさを感じてしまっていた。誰も見ていない二人きりの空間で、白鷺千聖は、朝霧亮太のみが知る表情をした。
「あなたも来てくれたらいいのに」
「千聖の麗しい水着をたっぷり拝んだせいで、目が潰れちまうよ」
「潰してあげましょうか? あなたの眼球ってどんな味がするのかしら?」
「……コエーこと言うなよ」
「冗談よ」
「女優の冗談よ、ほどアテになんねーものはない気がするぜ」
冷や汗をたらしつつ、故に千聖のわがままを亮太は拒否できなかった。身体を寄せてくる千聖を抱き寄せ、背中に振れる。頭を撫でるのは髪が崩れるから家で、と決めていた。
そして、彼がキザで甘い言葉を吐くのは、家でないところで千聖が甘えたがっている時だけだと決めていた。
「今夜は一緒に踊るかい、プリンセス」
「ええ、あなたの上でたっぷり、踊らせて」
「下ネタはやめろ、事務所で」
「あなたの言葉選びがそうさせるのよ、ナイトさん?」
「……しゃーねぇな、ロケ、なんとかするよ」
「暇なのね」
「……素直じゃねーなぁほんとに」
「そこが好きでしょう?」
「俺は素直な千聖も愛してるけどな、どっちも白鷺千聖だ」
「なら、私を独り占めしてね、亮太」
それはどうだろうと亮太は苦笑いをする。芸能人を独り占めは絶対にできることではない。それは亮太が千聖をということでもあり、千聖が亮太をということでもあった。リアリティショーでの二人の結末がどうであれ、それを誰かが祝福しようと呪詛を吐こうと、彼らの結末は最初から二人は結ばれているだけなのだから。
「そういえば、あの無能事務所、よりによって最新シングル、夏と素顔がテーマなのよ」
「……は?」
「しかも彩ちゃんと私のダブルボーカルで」
「……俺も移籍かな、そろそろ。弦巻嬢に新規プロダクションでも立ち上げてもらおうか」
「あら浮気? 前事務所の所属アイドルと社長の二股だなんて、大胆ね」
「怒るな、冗談だよ」
「亮太の冗談はわかりにくいのよ」
「役者なもんでな」
先程の仕返しをされ、千聖は拗ねた顔をする。その後、千聖はしばらく亮太の家に入り浸り、そして写真集の撮影を無理やりねじ込んだ亮太は見事にパスパレのロケにつきあわされ、アイドル五人の水着に囲まれるという見事に千聖の心を愛情とヤキモチで満たすことになった。
一部界隈では放送が終了した瞬間にトレンドに入る程の賛否両論を生み出した恋愛をリアリティショーの話題がまだ火を浴びているうちに千聖が更新したブログは、様々な意味で話題をかっさらっていくことになる。
『──次のシングルでは私もボーカルに参加させてもらいました、海で開放的になった私たちの新曲、楽しみにしてくださいね』
結局は騒ぎになるほどでもなかったが歌詞にあった「ふつうの女の子に戻ります」という部分に対して過剰に反応するファンがいたくらいだったが、世間での注目度は高く、事務所としても作戦成功という形で締めくくられたのだった。
「まぁ本当に女優もアイドルも忘れて遊ばせてもらったけれど」
「パスパレでな」
「そして事務所は作戦成功というより怪我の功名というべきね」
「それは同意するけどな」
強かな千聖に対して、亮太は誰もいない道を歩きながら、一ヶ月前の美しい星空を見ながらの言葉をもう一度再現していく。そっと手を繋ぎ、カメラの前で彼が唯一、絶対に嘘ではなく、自分のリアルだと確信できた言葉を。
「俺は千聖が好きだ。ずっと一緒にいたい。アイドルとか役者とか関係なく──俺の傍にいてくれ」
「……亮太、ええ、私も素直な気持ちで、あなたと一緒にいたい。あなたの傍にいたい」
──唇を重ねる。ドラマの芝居のようなキスに万感の想いをこめて。
朝霧亮太と白鷺千聖は、こうして番組から生まれたカップルとして知られるようになる。それによってそこそこの仕事が舞い込んでいるはずの事務所は何故か別れるように勧告してきたのだが、それに対する二人が何をしたかというのは、また別の話ということになる。
原点にて割と底辺、それがこの作品です。残念ながらもう既に原本が残っていないのでPDFにしている猛者が数名確認できているところです。私はもってません。話としても処女作ですのでかなり単純で、帰国子女の亮太が千聖と再会して、こころと出会って二人の間をふらふらするカスみたいな話です。最初からなに書いてるんだ。
ちなみにマルチエンディングを採用しており、最終話はこころと千聖の両方の話がありましたが、個人的には千聖ルートを気に入って採用しています。
他にもこの作品が生まれた経緯とか、どうして千聖とこころだったのかとか、とっても言いたいことがありすぎてあとがきではとても書ききれませんので割烹にでも書いておこうとおもいます。
それではここまで読了ありがとうございました! 新作の「恋するバンドガールと見守るバンドマン」もよろしくお願いします!
黒マメファナ