VRMMOで遊ぼう! 作:between してう and 至
ディアベルは三人の内の一人をステラに任せてもう二人と戦うことを決意する!
ところが、その二人のうちの一人はクソザコナメクジで一瞬で倒せてしまった。それに困惑するディアベルの首元に"最強"の刃が迫る────!
第n話:最強との距離
「うん、いいね。本当に良い。キミ、
「実家の古武術をちょっとだけ、ですけどねっ!」
今戦っているプレイヤー、ヒナゲシさんはこのゲーム最強のプレイヤーと呼ばれている。
ステラがパクっ……参考にした魔法剣士という戦い方を考えたのはこの人だし、それを本当に使いこなせているのもこの人だけだと言われている。
正直僕としてはステラも魔法剣士の動きを完全にできてるんじゃないか?なんて思っていたのだけど、どうやらそれは間違っていたようだ。
「じゃあ、ちょっとレベルを上げていこう」
ヒナゲシさんがそう言うなり彼の姿が突然消えて、
「……っ!」
僕の体に新しいダメージエフェクトが二つ追加された。
急所を守る体勢をしていなかったら多分普通にクリティカルを二箇所やられていた……!
仮想現実の中で出る筈のない冷や汗が背中を伝ったように錯覚する。
「うん、見た感じSTRやDEF、AGIには全くステを振っていない、と。魔力ならもう魔法を使ってるはずだし……。消去法的にキミのビルドはHP極振りかな」
「……正解です」
「合ってたかぁ。じゃあその上に考察を重ねよう。 多分なんだけどさ、キミはキミのユニーク精霊……、ステラちゃんだっけか。あの子とHPを共有してるよね?」
「っ!?」
──── なんで分かったんだ!?
驚きからか少し構えに力が入ってしまう。
「その表情を見るに多分正解みたいだね。……なんでバレたのか分かんないって感じかな? うん、教えてあげるよ」
この間に攻撃するなんて野暮な事はしないでね、なんてことを言いながらヒナゲシさんは解説を始める。
あの桃髪の槍使いのプレイヤーをステラが倒して2vs1の構図になればこっちが有利になるってことは彼も分かってる筈ではあるのにどうしてこんなことをするのだろう。ありがたくはあるのだけど。
「まずボクがそれに気付いた最大の要因はステラちゃんのHPが高すぎるってことだね」
「まさか僕と戦ってる間ずっとあっちの戦いも見てたんですか……?」
「うん、勿論。魔法剣士に大事なのは『空間把握能力』だからね。というかまず彼女のビルドの大元を作ったのはボクだからね。彼女がどれくらいの技量でレタネアくんと戦った場合どうなるかとかくらい見なくても分かるよ? ま、要するに彼女が普通のプレイヤーならレタネアくんにとっくにキルされてるはずなんだ」
「成程……、あの槍使いの人も相当な腕をしてたってことですか……」
「いや、レタネアくんは合理的なステ振りをしているけど別に対人は上手くないよ。うん、単純にステラちゃんが彼女自身のスペックに頼りすぎなだけ。魔力のステータスとかも多分彼女のはボクよりも高いっぽいのに勿体ない」
「…………」
ステラ……、お前……。
まだ戦っている彼女の方を見ると、ステラは攻撃が届かない空中から桃髪の槍使いの人に向けて『必殺技』を放とうとしていた。
それを見て古い対戦ゲームのオンラインで度々現れたというチーター、もしくは負けそうになったからゲームの電源を切ってノーコンテストにする子供を幻視したのは多分僕だけではなかっただろう。
「ま、とにかくそれでボクはステラちゃんが普通のプレイヤーの極振り以上のステータスをしながらも何らかの下駄を履いてるって事までは分かったわけだ。別に『ユニーク精霊ってやつだからそういうもんなんだ』で納得しても良かったんだけど、それだと明るみになったら運営大炎上どころの騒ぎじゃないからね。多分なんらかのデメリットがあるんだろうなって思ったわけでね」
「キミのステータス割り振りが最終的な決め手だったね。ステラちゃんが今いるのは多分、同じHPゲージを共有してれば一人扱いになるからこのイベントに二人で参加できる、みたいな感じなのかな」
「…………」
「沈黙ってことは肯定ってことだね。レタネアくんもそろそろ死んじゃうだろうし……。うん、折角だしキミたちを相手にしての総評みたいなのも言っておこうか。まずキミ、多分
プレイヤー1人に使うには過剰火力とも言えるステラの
「それでステラちゃんに関してだけど、キミは彼女という存在を活かす上手いビルドをしたと思うよ。うん、HP共有という致命的なデメリットがあることで許されてるステータスしてるNPCを高HPで使えるってのもテイマーという職業を基準として評価するならとても良い」
「……ありがとうございます」
ヒナゲシさんは実に上機嫌なように見える。口もよく回っているようだ。
「でもさ、ディアベルくんのビルドって面で見ると────、」
鎌を振るおうとするステラを見て「そろそろあの必殺技みたいなの終わるかな?」なんて呟きながらヒナゲシさんが二の句を継ごうとしたその時、空に大輪の
「ふふふふふふふ、はっははははっ!」
何が起こったのか分からず呆然とする僕とステラ、消えていく桃髪の槍使いのプレイヤー。そして腹を抱えて爆笑するヒナゲシさん。
「いいよ。うん、最高だ、レタネアくん。本当に最高だ!! うん、折角だしここからは戦いながら解説しよっか」
一頻り笑ったヒナゲシさんはそのまま刀を抜いて、此方にその切先を向けて笑顔でそう言った。
その瞬間、ヒナゲシさんの纏う空気が変わった。
──── 本気で来る!
彼はまるで挑発でもするかのように、こちらにゆっくりと歩いてくる。
「ステラ! 回復したら二人で行くよ! 空中から援護して!」
「わかった!
一足踏み込めば僕の
──── その時の僕は一つ致命的な勘違いをしていることに気付いていなかった。
その動きは実に無駄が無く、そして最善の一手だった。
「えっ……」
「ステラッ!!」
響く衝撃音、更に減るHP、空を飛んでいた筈のステラが地面に叩きつけられ、彼女がいた
「うん、空って実は安置じゃないんだよね」
まさか魔法剣士の基本の動きである直線の高速移動で空を飛んだ?
「あくまで理論値でできるって動きだった筈じゃ……」
「理論値でできるならできるまで練習すればできるからね。それじゃ話の続きといこう」
ゆっくりと地面に降り立ったヒナゲシさん。優しい口調とは裏腹に刀を構える姿はただただ恐ろしい
「まだっ、
「タイミングが悪い。
再度回復を試みたステラの動きをヒナゲシさんは刀で攻撃することで止めて、魔術で彼女を吹き飛ばし、そしてそのままヒナゲシさんは彼女に追撃を仕掛ける。
彼女とヒナゲシさんが僕からどんどん遠ざかっていく。
このままじゃ負ける、とステラは判断したのか彼女も直線高速移動でその場を離脱して僕の方に移動しようとしたのだが、それも予備動作の段階であっさりと止められた。
HPがどんどん減っていく。
なんとかステラの方に行こうとするも
「うん、さっきの言葉の続きを言おうか」
離れたところからヒナゲシさんが声を張り上げて説明を再開する。
「ボクが思うに……、うん、多分ディアベルくんにステラちゃんは必要ないんだよね。君一人が普通のステ振りをした方が絶対に強いと思う。ステラちゃんはステータスとか必殺技こそ強いけどディアベルくんにとっては外付けの弱点みたいなものだろうし」
────っ!
「ボクがわざわざ説明をして遅延をしたのもキミを相手にするよりもステラちゃんをキミから引き剥がして倒した方が安全だって判断したからだし」
「そんなことない、私はベルの……!」
激昂するステラ、頭に血が上ったのか真っ向から彼女はヒナゲシさんに斬りかかった。
「はい、
その一撃も簡単に避けられ、再度ステラは吹き飛ばされる。
「魔法剣士やるならもっと広い視点で色々見なきゃ。ボクが話してる間とかも動けただろうになんで即動こうとしないのさ。練度が足りてない。スペックに頼りすぎ。ディアベルくんのリソースを使ってる以上最低限の働きはしようよ」
……言葉こそ強いがヒナゲシさんに怒っている素振りはない。にこやかに、心から惜しみながら彼はアドバイスを続けている。
「というかステラちゃん、まずなんでキミ魔法剣士やってるのさ。前衛としてなら今のステ振りでもディアベルくんの方が強いのに。HP共有してるならディアベルくんにリソース割り振って、キミは前衛に出ずに後ろから魔法打ってた方が合理的だと思うんだけどなぁ……」
僕とステラの距離はおおよそ数十メートル程度。なのに、それが絶対に届かない距離に感じてくる。
「うん、ビルドは個人の自由だからいいんだけど勿体ないなぁ……って。思っちゃうんだよね。ステラちゃんが最低でもボクくらい魔法剣士を極めてくれたらまた話は変わってくるんだけど」
話を続けながらもヒナゲシさんは攻撃の手を緩めない。
もうHPは数ドット程度、あと一撃攻撃を受ければそれだけでおそらく僕とステラは死ぬ。
「うん、まぁ言いたいことはだいたい言えたかな。レタネアくんのアレが無かったら勝負は分かんなかったって言われるのも癪だし回復の時間くらいはあげるけど……、まだやる? それとも諦める?」
その言葉は僕ではなくステラに向けられたものだった。
「ここまでコケにされて引き下がれるわけないでしょ!
僕とステラのHPが殆ど回復する。 勝負は実質的な仕切り直しの状態へ。ただ、その後の結果 ──地面に転がり続けるステラと減っていくHP──── を僕は見ていることしかできなかった。
「あー、よく考えたら弱い方だけを狙い続けるって卑怯って言われるようなムーブだね。うん、でもこれバトルロワイヤルのイベントだしその方が合理的だし仕方ないよね」
ヒナゲシさんの最後の一撃はそんな気の抜けた言葉と共に放たれた一閃だった。
なんの言い訳もつかない、完全なる敗北だった。
追記:この作品にコメディタグを付けてたことを投稿一時間後に思い出しました。
一応次話からは元のノリに戻ります。