2025年4月。春の暖かな日差しを浴びながら私は電車に揺られていた。
「私メリーさん、今××駅を通過したところよ」
携帯を取り出し相手に一言告げる。何か電話の向こうから言われていた気がするが、気にしない。
そのまま陽の光に身を任せ、終点まで目を瞑ることにした。
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「私メリーさん、今〇〇駅に居るの。お腹が空いたから、もう少ししたら行くね」
電話の向こうの相手は、ほんの少し離れた所に居るみたい。
自分の足で歩くことに億劫さを感じながらも電車を降り、構内のうどん屋さんで肉うどんを食べる。
食べ終わりお腹が満足した所でゆっくりと歩き始めた。
「あれは何かしら、板?あの人はすごいピアス」
駅を離れ、目指すアパートまで歩いている最中には色々な人や物とすれ違う。
私が楽しみにしている物の一つだ。知らない土地、世界にどんなものがあるのか。
その観点で言えばこの街はとても面白い。他の場所では見ないような派手な服装や髪形の人。
デフォルメされたキャラクター達の看板、見たこともない謎の機械……。
今日のお仕事が終わったら、暫く泊まって周りを見てみようかしらと気分が躍る。
そのためにも早く終わらせなきゃ、といつの間にか歩みが速くなっていた。
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「私メリーさん、今家の前よ。大家さんはとても優しい人ね、歩いていたら飴を頂いたわ」
『誰か知らないけど、そんな意味のない──』
アパートの前で歩を止め、口の中で飴を転がしながらまた一言。
また何か電話の向こうから声が聞こえた気がしたけど、それに意識を向ける前に電話を切ってしまった。
少し焦りすぎているのかもしれないと心を落ち着かせながら、ゆっくりと目を瞑る。
少しするとポケットの中の携帯が小さく震える。それを目印に目を開くと無防備な背中が見える。
彼女が手に持った携帯が震える。耳に当てる。
「私メリーさん」
電話越しではなく、彼女の首に左手を這わせ反対の耳元で囁く。
「今、あなたの後ろに居るの」
肋骨の間を貫くために寝かせた包丁を、背中から心臓に向かって突き立てた。
──はずだった。
「あれ……?」
「だから、意味がないって言ったのに」
服だけを傷つけ、一切体に傷を付けることが出来なかった包丁を取り落とした私を見て女性が息を吐く
「っ、一体どうして……!?」
「この街の人間は全員
「え、いや、私に聞かれても……人間って普通は包丁で刺されたら死ぬんじゃ」
「外の皆が弱いのよ」
「え、ええ?そもそも、決闘者って何……」
「そんなこと言っているけど、あなたの右腕にも、ほら」
「?」
そう言われて右腕を見てみると、そこには私の覚えのない謎のブレスレットのような機械が取り付いている。
困惑しながらそれに手を伸ばすと横から薄い板のような物が展開する。
「え、な、なにこれ!?」
「決闘者なら取り敢えずデュエルで決着を付けましょう、ほら構えて」
「え、え?」
「こう構えて、せーのっ」
「デュエル!」「でゅ、でゅえる?」
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「私の先行。手札から【レディ・デバッガー】を通常召喚」
「効果発動、デッキからサイバース族モンスター1体を手札に加える。【
「【サイバネット・マイニング】を──」
何も分からぬまま、正面に立つ女性の声を聞き続ける。
腕に付いた板のような物に女性がカードを置いたり離したりする度に、光によって作られた虚像の怪物や風景、物体が私たちの周囲に現れたり消えたりしている。
それを眺めていると、満足したのかこちらに手を差し出してくる
「あなたのターンよ。って手札は?」
「手札……?」
呆れたとため息を女性が吐くのを見て、何が呆れたかと少しずつ怒りが湧いてくる。
「何も分からない人を無理やり付き合わせておいて何が呆れたよ」
「大方そんな性格じゃあ他に遊ぶ人間も居ないんでしょう、寂しい事ね」
「だからといって妙な小細工をして怪異と遊ぼうとするのはどうかと思うけれど……あれ?」
文句を言いながら彼女を見ると、芯から驚いたような妙な表情をしていた。
「何よ」
「え、本当に遊戯王知らないの?」
「知らないって言ってるでしょう」
「決闘者じゃないの?」
「だから決闘者って何なのよ」
「えー……ごめん、デュエルディスクを付けてたから、つい」
「ディスクって、この板のこと?」
「そう。んー、じゃあこれあげる」
そう言って手渡されたのは一冊の冊子。表紙には遊戯王
中を捲ってみると、腕に付いているのと同じ板……デュエルディスクの使い方や、先ほど女性が持っていたカードのことが色々と書いてあった。
「ディスクのそこのボタンを押してみて。もうデュエルモードは起動してるはずだから」
「これ?押してみたけど、わっ」
言われたとおりにボタンを押すと、ディスクの腕に取り付いた部分の一部が展開し、中に入っていたカードの束が姿を現した。
「それがデッキで、上から5枚取り出してみて。そしたらそれが手札になるの」
「ふんふん。上から5枚ね」
「で、今回はシステムがあなたを後攻って決めたから、私が先に動いたの」
「ディスクのほうが勝手に判断してくれるんだけど、今回あなたの5枚の中には手札誘発、ええと妨害用のカードがなかったから、勝手に進めさせてもらったわね」
「なるほど、ええとこれが、モンスターで、これが魔法ね」
ルールブックを見ながら手札のカードが何を示しているのかを確認する。茶色のカードと緑色のカードばかりで、赤っぽいカードは手札にはなかった。
「一番最初の先攻側のターンだけはドローが出来ない。から、後攻のあなたはドローをしていい。1枚上から引いて」
「1枚。これも魔法ね」
「そしたら、今回私は妨害があるんだけど、使わないでおいてあげるから。ルールブックを読みながら動いてみて」
「急に投げるわね。まあいいわ、私になら簡単よ」
手札のカードを眺める。カードには色々書いてあって、正直何をしたらいいのかわからないけれどそれを聞くのは癪だから、ルールブックを読みながら決めることにした。
「ええと、通常召喚は1回まで。通常召喚に成功した場合にって書いてある効果が発動する」
「効果でフィールドに出すのが特殊召喚で、これも成功した場合に、の効果が発動する」
「1ターンで使える回数が決まってるのと、決まってないのがあって」
「速攻魔法とか、一部のモンスターの効果、あと罠カードは相手のターンや自分の効果にチェーン、チェーン……?」
「チェーンは後から発動した効果を処理していく。スペルスピードっていうのがある」
ふとルールブックと手札から目を離して彼女を見ると、微笑ましい物を見るような温かい目でこちらを見ていた。むかつく。
「……大体覚えたわ、私のターン。私は手札から──」