モンスターハンター ~流星の騎士~   作: 白雪

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EPISODE23 ~期待の若者たち~

 ドスバギィの狩猟を終え、二人がユクモ村に帰還する。

 そんな中、ヴァイスがふと思いを馳せる。

「そうか。もう二ヵ月前になるのか……」

 ポツリと呟いたヴァイスに対し、クレアが小首を傾げる。

 そんな彼女を見る限り、その事はあまり意識していないのだろう。ヴァイスはそう理解して苦笑いを浮かべる。

「俺とクレアがここで初めて会った時の話さ。それがもう二ヵ月前の出来事なんだ」

 そこまでヴァイスが言うと、クレアの方もようやく理解に至る。そして、ヴァイスと似たような心情を抱いては、その時を反復するかのように頷く。

「本当にあっという間でしたね。あの日がつい昨日のことのように思えてしまいますよ」

 二ヵ月前。それはあの日、クレアがヴァイスに対して、自分を弟子にしてほしいと願い出た時のことだ。

 日付だけを見て言えば、その時間は長いようで短いものだろう。だが、師弟関係となってから経過した時間の流れは、体感では驚くほど早く過ぎ去ってしまった。

 そんな一瞬で過ぎ去った時の流れの中で、二人は様々な狩猟を経験し、クレアに至っては多くのことをヴァイスに学んできた。遠い出来事のようにも思えてしまうあの日に交わした誓いは、クレアを、そしてヴァイスをも成長させてくれていた。

「お二人がそう感じるのは、それだけ熱心に狩猟に取り組んできたという証拠だと思いますよ」

 二人のやり取りを眺めていた受付嬢が、報酬を渡しつつそんな発言をする。

 確かに、それには一理ある。そして、ヴァイスにとってそれを促したのがクレアという弟子の存在だった。

 自らの目指す高みへ。その願いを叶えるために。クレアという少女は、必死になってヴァイスに付いてきて、そして多くの事を学習しようとしていた。

「私にとっては、本当に勉強になる二ヵ月でしたよ」

 クレア本人もそれは自覚していた。

 まだまだ未熟であるクレアにしてみれば、様々な狩猟の中で多くの難題にぶつかってきた。しかし、それでもクレアは強大なモンスターに屈することなどなかった。

 技術的な面では、クレアはまだまだ発展途上だ。だが、その不屈の精神は、ヴァイスをも驚かせるものがあった。

「俺にしてみれば、何とも妙な気持ちだ。こうしてクレアと師弟関係になるなんてな」

 ヴァイスもそうして、様々な思案に入り浸る。

 偶然か必然か。そんな二人の運命が交差して、二人は師弟という関係を結んだ。それを改めて思った時、運命の気まぐれというものにつくづくと神秘を感じるのだ。

「でも、後悔はしていないんですよね?」

 僅かに笑みを浮かべつつ、クレアはそうやって意地の悪い質問を投げかけてみる。対して、彼女の師匠は「当たり前だ」と口元を緩める。

 クレアを一人前のハンターに育て上げるのだと決意した。そこに存在するのは、むしろ彼女のその先の姿への期待なのだ。だから、後悔などするはずがない。

 それを聞いたクレアも、今度は満面の笑みを浮かべる。自分がどれだけ期待されているかを改めて知ったとき、彼女自身も更に精進しようと意気込むことができる。それこそがクレアの強さだった。

「それでは師匠。私はこれで失礼します。お疲れ様でした!」

 ご機嫌な調子で挨拶をして、クレアが足早に集会浴場を去って行った。

 その後ろ姿を見送ったヴァイスも「相変わらずだな」と短く息を吐き出す。

 さて、これからの時間はどう過ごそうか。そんな事を頭の中で考えを巡らせていると、不意に後方から声が掛かる。その声の主はギルドマネージャーであった。

「よぅ、チミ。調子はどうだい?」

 相変わらずの調子で問いかけてくるギルドマネージャーに、ヴァイスも慣れたように会釈をする。

「ええ。ドスバギィの捕獲も無事成功しましたし、俺もクレアも満足しています。調子も何ら問題ないですよ」

「ひょひょっ。そいつはいい事だ」

 ヴァイスから近況を聞いたギルドマネージャーも、二人の活躍には十分満足している様子だった。また、クレアに対しては、最近はギルドマネージャーも大きな期待を寄せているのだという。

「チミのおかげで、クレアも良い経験ができている。このまま着実に行けば、彼女が一人前になるのも時間の問題かもしれないねぇ」

「それは俺が保証しますよ」

 ギルドマネージャーの言葉に、ヴァイスが迷わず頷く。すると、ギルドマネージャーも頷き、自慢の口髭を弄ぶような動作をする。

「ほぅ。チミもなかなか大きく出るじゃあないか」

「そうは言いますが、爺さんも俺同様――いや、もしかしたらそれ以上にクレアには期待しているでしょう?」

 軽い調子でヴァイスが尋ねてみると、ギルドマネージャーも陽気な様子で首肯する。

「それは当然さ。もちろん、アタシはチミにも期待しているぜ。なんせ、将来有望な若者たちなんだからな」

「それは恐縮なことですね」

 それこそ素っ気ない口調でヴァイスは返すが、ギルドマネージャーもそんな彼の胸の内を見透かしていた。そのヴァイスの様子を見て、ほくそ笑むような表情を浮かべる。

「期待していると言えば、先日紅葉荘にとあるハンターが訪れてきたらしい。何でも、チミに会って話をしたいそうで、わざわざやって来たそうだ」

「俺にですか?」

「うむ。その類の話の相手となれば、チミ以外に該当する人物はいないだろうに」

 そこまで言われて、ギルドマネージャーの表情が指す意味をようやく悟る。

 ギルドマネージャーのこの反応はクレアの時――弟子にしてほしいと乞われた時と同じ雰囲気だ。となれば、その人物がしたいという話の内容も“その類”なのだろう。つまりはそういうことだ。

「えぇ、でしょうね。俺以外には該当者はいないですから」

 ギルドマネージャーの言葉を自ら反復しつつ、ヴァイスが踵を返した。

 集会浴場を出ようとする前に、「詳しいことはレーナに聞いてくれ」というギルドマネージャーの言葉が背中に投げかけられた。それを確かに受け取った証拠に溜め息を一つ残し、ヴァイスが集会浴場を後にする。

 石段を下っていき、村の入り口に設置された鳥居が見えてくる頃には、目指す紅葉荘がすぐ目の前に映る。

 暖簾を潜って中に入ると、カウンターの向こうでレーナが自らの仕事をこなしていた。その挙措は如何にも宿屋の看板娘に相応しく、手慣れた手つきであった。

「あら、ヴァイスさんじゃないですか。こんにちは。どうされたんですか?」

 ヴァイスが扉を閉めると、カウンターの向こうからレーナの顔がひょいと出現する。手元にあった書類の束をそこに置くと、レーナはこちらに歩み寄って来てそう尋ねた。

「実は、爺さんから俺に会いたいハンターがいると聞いたんだ。詳しいことはレーナに訊くよう言われたからここに来たんだが……」

 そこまでヴァイスが言うと、レーナがポンと手を打つ。その様子を見る限りでは、どうやら思い当たる人物がいるようだ。

「なるほど。それなら多分グレンさんですね。今はここに宿泊してくれているんですよ。少しだけお待ちになってもらえますか? グレンさんは今部屋にいると思うので、あたしが呼んできますね」

「そうなのか。そういうことなら頼むよ」

 レーナが二階に続く階段を小走りに上がっていく。彼女の姿が見えなくなってから間を置かず、レーナとグレンと呼ばれるハンターと思しき話し声が僅かに聞こえてきた。

 そうして二人の会話が途切れてからしばらくして、レーナが戻ってきた。

「お待たせしました。グレンさんはもうすぐで来ますよ」

 レーナが言い終わったのと重なるように、そのハンターの姿が露わとなる。

 ゆっくりとした歩調で階段を下りてくると、ハンターはヴァイスの前で直立する。

「ヴァイスさん。こちらがグレンさんです」

 ――グレン。そう呼ばれたハンターが律儀に一礼する。

「初めまして、ヴァイスさん。グレン・グリークと言います。武器は狩猟笛を使っています」

 真剣さ、そして緊張が籠った声色でグレンは自らの名を名乗った。

 彼のその姿は、正直言ってヴァイスの予想を凌駕した。

 凌駕したという意味では、それはグレンの容姿だった。どちらかといえば少年という表現が相応しい顔立ちと雰囲気。

 栗色の髪はきちんと手入れを施しており、綺麗に切り揃えられている。

 ヴァイスの視線を堅固なまでに受け止める紫水晶(アメジスト)の双眸。そのどれもが、ヴァイスの予想とかけ離れている。

 そこから徐々に視線を落としていく。

 現在のグレンの装いはペッコシリーズと呼ばれる防具で統一されている。

 鮮やかな色彩の身体と、独特な鳴き声で知られる彩鳥(さいちょう)クルペッコ。派手な見た目と色合いはそのままに、使える素材をふんだんに用いて補強を加え、その長所は生かしておく。

 どこかの民族衣装とも思えるその防具には、『風圧無効』や『笛吹き名人』といった特殊なスキルを備えている。

 そして、このペッコシリーズの実力を余すことなく使用できる武器こそが狩猟笛だ。

 相手を斬ることに特化した太刀や凡庸性のある片手剣と比較すると、この狩猟笛の扱いは複雑だろう。しかし、振り回せば破壊力抜群の鈍器に、演奏すれば仲間をサポートする援護役を行うことのできる優れものだ。

 その狩猟笛をどれだけ自分のものにしているのか。早くもヴァイスは、グレンという名の少年の実力がどれほどものなのかということに興味を抱く。

「ヴァイス・ライオネルだ。宜しく頼むな、グレン」

 そうしてヴァイスが右手を差し出すと、グレンもその手をしっかりと握り返す。

「えぇ。よろしくお願いします」

 もう一度グレンが一礼すると、二人は握手を解く。そしてグレンをしっかりと見据えたまま、ヴァイスは本題を切り出そうとする。

 しかし、ここでレーナが二人に席を勧めてきた。立ち話もなんだからということで気を利かせてくれたのだ。

 お茶を淹れて二人に差し出すと「あたしもご一緒して大丈夫ですか?」と二人に問いかけてきた。二人はそれを快く承諾して同席を促す。そして、レーナが席に着くのを待ってからヴァイスが改めて口を開いた。

「見る限りでは随分と若いな」

「今は十八です。それでも、ハンターでの経歴で言えば一年もありませんよ」

 十八という年齢でハンターをしているなら、それは勿論若い部類に入る。しかし、言動や雰囲気を窺う限りでは、若いからといって血気盛んな性格というわけでもなさそうだ。

 なるほどな、とヴァイスは頷き、そして本題を切り出す。

「さて、グレン。俺に会いたいということでユクモ村を訪れたらしいが……。それは間違いないんだな」

「はい。その通りです」

 そこまで確認して、ヴァイスがふむと頷く。

「もしよければ話してくれないか。どうして俺に会いたいと思ったか、その辺りを具体的に」

「それはただ単純な理由です」

 それだけ言って、グレンは一旦間を置いた。そして大きく息を吸い込むと、意を決して自らの想いを口にする。

「ヴァイスさん。俺は自分の力がどれほどなのか知りたい。だからあなたには、俺を採点してほしいんです」

 今一度ヴァイスを真っ直ぐに見据え、グレンはそう言い切った。

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