モンスターハンター ~流星の騎士~   作: 白雪

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EPISODE45 ~及ばぬ力~

 エリア10での攻防は続く。

 今までのモンスターとは違い、ティガレックスは通常でも暴れまわるような動きをする。その動きに対処するのに四苦八苦し、様子見とはいえなかなか攻撃を仕掛けられずにいた。

「ガアアアアアァァァァァァァァァッ!」

 ティガレックスが時計回りに高速で身体を捻る。ティガレックスの巨体が遠心力の力に上乗せされて飛んでくる。

「くっ!?」

 右手に構える盾で何とかやり過ごすことの出来たクレア。だが、想像以上の破壊力に現実味が薄れていく。

 目の前にいるティガレックスは、今まで対峙してきたモンスター以上に獲物を捕獲しようと執拗に襲い掛かってくる。これが、飛竜種に分類されるモンスターの力なのだ。

「わたしが援護するです!」

 ヴァルキリーファイアの銃口からLv2通常弾が撃ちだされる。速射された弾丸全てがティガレックスの後頭部に命中する。

 低い唸り声を上げながらティガレックスがソラを睨みつける。両者の視線が交錯すると同時、ティガレックスが前脚を振り上げ飛び掛ってきた。後退しても巻き込まれる。そう判断したソラが真横に回避行動を取る。深入りしているつもりはないが、こうやってギリギリの立ち回りを強いられている。すぐ体勢を立て直さなければ、また攻撃を仕掛けられるという手に負えない状態だ。

「くそっ! 速い!」

 何とか食らいつこうと試みるグレンも吐き捨てるようにそう言う。

 二本ではなく、四本の脚を駆使しティガレックスは獲物を追い詰める。強靭な脚力は例え激しい動きにも対応し、安定感がある。何か一瞬の隙で体勢が崩せればいいが、今それが上手くいくほどの強運は生憎持ち合わせていない。

「閃光玉でも、完全には動きを止められないし……」

 つい先ほど、グレンは一度閃光玉を使用してみた。その効果は確実に得られた。だが、ティガレックスは動きこそ止まるものの、その場で噛み付きだの回転攻撃だのを繰り出すのだ。闇雲に繰り出されるそれらの攻撃を回避するのはおそらく至難の業。こんな方法では後半まで持たない。

 ちらりとヴァイスを一瞥する。彼は幾度となくティガレックスを討伐してきたハンターだ。何か参考になるものが欲しい。

 だが、その期待も儚いものだった。ヴァイスは、ティガレックスと対峙し始めて斬撃を浴びせた回数は少ない。相手の攻撃を回避しつつ斬撃を浴びせるのが定石の太刀では、こういった場面では大きな強みになる。そう、ヴァイスは巧みな太刀捌きでティガレックスの攻撃を余裕を保ちながら回避して見せる。

 つまり、この状況を打破する策は自分で導き出すしか他はない。

 一体どうすれば。三人の思考が交錯する。

 だが、ティガレックスは自問する時間を与えてくれるほど甘い存在ではない。目に入ったクレアに向かって岩石を飛ばす。咄嗟の判断でクレアは盾を突き出し直撃を間逃れる。

「今は、そんなことは気にしなくていい!」

 相手の動きに付いていけないなら、せめて相手の動きを観察し行動を見切ることが先決だ。

 グレンに背を向けているティガレックス。本当ならばヘビィバグパイプで殴りつけたいところだがそれを堪える。反撃を食らわないようにするためだ。

 案の定、ティガレックスがこちらに向き直る。怪しく輝く鋭利な牙を剥き出しにティガレックスがグレン目掛けて飛び掛ってくる。武器を納めた状態のため回避するのはそこまで困難な話ではない。横っ飛びで回避に成功する。

 一度はグレンを見失ったティガレックスであったが、またすぐにグレンを視界に捉え低い唸り声を上げる。

 クレアとソラが援護を試みるがティガレックスはお構いなしに動き続ける。突進の体勢に入る。しかし、グレンは問題なく回避する。そして、こちらも反撃に転じようと背後から接近する。だが刹那、そう考えた自分の油断を呪う羽目になる。ティガレックスは突進を終えた直後再び突進を繰り出してきた。さすがにこの行動が読みきれなかったとは言いがたい。

「なっ……!?」

 虚を突かれたグレンは対処が遅れてしまう。回避しようと身体を動かした時にはもう遅くティガレックスの突進に巻き込まれていた。

「うわっ!?」

 身体中に激痛が走る。今までのモンスターとは比べ物にならない、強大な破壊力を持つ突進だった。そのまま背中から砂漠に打ち付けられ肺の中の酸素が一気に吐き出される。

「グレンさん!」

 その声が安否を問うものと、まだティガレックスに狙われているという意味を合わせ持つことは何となく理解できた。ティガレックスが開いた距離を詰めようと飛び掛ってくる。間一髪で回避できたが、体力を回復させなければかなり辛い状態だ。

 弱った獲物は優先して狙う。それがティガレックスの行動であった。逃げる余地さえ与えようとはしない。

 だが、その動きを呆気なく止めたのは他でもない、ヴァイスであった。一瞬の隙に懐に飛び込むとそのまま気刃斬りを繰り出したのだ。比較的肉質の軟らかい頭部に斬撃を集中させるとティガレックスは苦しげに咆哮する。

 そのままヴァイスは距離を取り、ティガレックスを上手いこと誘導する。

「先に拠点へ戻れ!」

 ヴァイスは、ティガレックスの気を惹いている内に拠点へ戻る指示を出した。無論、グレンたちにはその指示に従うしか選択肢はない。

「は、はい!」

 返事をするやいなや、ティガレックスに気がつかれないよう急いでエリア10を去っていく。

 その様子を確認したヴァイスはペイントボールを投擲し、難なくティガレックスを撒くことに成功した。

 

 

 

「はぁ……」

 大きなため息をつきながら、グレンは拠点に設けられているテントに横になる。緊迫していた雰囲気が徐々に解かれ、失われていた現実味が込み上げてくる。

 ティガレックスは予想以上に強敵だった。執拗に獲物を狙う執着心、それを可能にする運動能力。どちらも、これまで見たことがないほど強大なものだった。クレアも同感なのか、拠点に帰って来てから無言を貫いている。

 そこに、ヴァイスが姿を現した。まるで、何事もなかったの様な平然な顔つきで。

「無事に帰ってこられたようだな」

 そう言って、ようやくヴァイスの身体から力が抜けていく。

 鬼哭斬破刀・真打を鞘から引き抜き砥石に当てる。切れ味を回復させ鞘に収めようとする最中、ヴァイスは口を開いた。

「クレア、グレン。二人とも力みすぎだ」

 ヴァイスに名指しされた二人は予想外だったのか納得できない表情だった。

「えっ……、そんなに俺たち力んでいるように見えたんですか?」

「自分では力んでいるつもりはなかったんですけど」

 口をそろえて二人が言う。ヴァイスも、そんなことだろうと思っていたのか肩をすくめる。

「まあ、自覚がないのも無理はない。奴が今までに比べ手強いことは確かだ。それをどうにか対処しようと力んでいる様に俺には見えた」

 言われてみればその通りである。自分の動きが出来ないことに焦り始め、どうにかしようと対処法ばかりを考えていた。ヴァイスはそのことを言っているのだろう。

「焦る必要なんてない。今までどおり、少しずつ自分たちのペースに持ち込んでいけ」

 それに答えるように二人は首肯する。

 本当のことを言えば、ヴァイスには二人が力んでいる本当の理由が大方検討がついていた。二人ともソラのことを心配し無意識にどうにかしようと試行錯誤するうちに気が狂ってしまったのだろう。他人を心配する心がけは結構だが、それでペースを乱し狩猟で怪我をされては意味がない。心配するその心がけが大きな代償を生み出してしまうのだ。

「ソラも引き続き援護を頼む」

「はいです」

 やはり、この場をまとめる統制力もヴァイスは持ち合わせている。クレアにしてみれば、彼は弟子として、仲間として、とても尊敬できる存在だ。彼の弟子で本当に幸せだとつくづく思わされる。

 四人はそれぞれ体勢を整える。Lv2通常弾が多少消耗気味のソラだが、支給品で支給される分を足せばまだまだ心配の必要はない。今度は、再びLv3通常弾を選択する。

 支給された四つのクーラードリンクを均等に分け準備は整った。ペイントの臭気からしてティガレックスはエリア3に移動したようだ。今回は大タル爆弾Gなどの道具も持っていき、本格的に体力を削り取りにいく作戦だ。

 四人は、足早にエリア3を目指す。

 

 

 

 沼地が広がるエリア3。標高も低く、洞窟から湧き出ている水が流れ込み幾分涼しくなった。

 ヴァイスたちがエリア3に足を踏み入れると足早で逃げ去っていくアプトノスの後姿が見えた。内一匹のアプトノスをティガレックスは捕食している。ティガレックスの牙がアプトノスの皮を引き裂く生々しい音がこちらにも聞こえてくる。聞いているこっちもぞっとする。

 今度はこちらから仕掛ける。ソラがLv3通常弾を装填したヴァルキリーファイアの引き金を引く。着弾と同時にティガレックスがピクリと動きを止める。それを合図にヴァイスたちも散開する。

 アプトノスの亡骸を蹴散らし、ティガレックスが突進してくる。直進するだけの突進は回避するのは容易い。だが、先ほどの予想外の動きに備えソラは更に距離を取る。

 予想に反してティガレックスはそれ以上進路を変更することはなかった。慎重にそれを確認し背後からクレアが斬り込んだ。ジャンプ斬り、斬り上げ、斬り下ろし。手数で勝負する片手剣では様子見ではこれくらいの斬撃を与えるのがクレアの中では基本だ。

 冷静にグレンも演奏の体勢に入る。防御力強化【小】、風圧無効の演奏を終える頃にはティガレックスも次なる行動を取っていた。向かって正面にいたヴァイスに噛み付こうと赤く染まった牙が唸る。しかし、ヴァイスも落ち着いた様子でこれを回避する。

 そこから鬼哭斬破刀・真打を引き抜きティガレックスの右脚目掛けて斬撃を放つ。太刀の特性と巧みな技量を用いてティガレックスを翻弄する。

 移動斬りでヴァイスが立ち位置を変える。すると、ティガレックスは誘い込まれるように突進を繰り出し空振りに終わってしまう。

 突進を終えた時にはちょうどクレアが正面にいる形になった。正面に立つのは危険と判断しクレアが後退する。そのクレアをティガレックスは追いかける。クレアを正面に捉えると体勢を低くし身構える。そして、クレア目掛けて突っ込んでくる。

「くっ! ダメ、避け切れない!」

 走って回避するのは不可能。クレアは咄嗟に盾を構えガードの体勢に入る。

 しかし、所詮人間とモンスターの力関係だ。ガードに成功しても受け止められる衝撃には限度がある。受け流せなかった分の衝撃がクレアの身体に走る。

「なんて、強さ……!」

 ヴァイスが言っていたように、ティガレックスはこれまでとは桁違いの強さを誇る。一つの落ち度が命の危機に繋がってしまいかねない。

 グレン、ソラの二人がティガレックスの気を逸らそうと奮闘する。が、ティガレックスは執拗にクレアに迫り続ける。ティガレックスが先に折れるかクレアの体力が先に尽きるか。時間の問題に思われた。

「クレア!」

 自分の名を呼ぶ声。それは背後から聞こえてきた。

「こっちに誘き寄せろ!」

 声の主はヴァイス。彼は、ティガレックスがクレアに気を取られているうちにシビレ罠を仕掛けていた。どうやら、クレアを囮にティガレックスをシビレ罠に誘導しろといのだ。

「は、はい!」

「わたしたちも手伝うです!」

 ティガレックス相手にクレア一人で誘導するのは危険である。ここは仲間で連携して上手いことシビレ罠に誘導すればいい。

 ソラが立ち位置を変え、ティガレックスの正面から狙撃する。クレアとグレンも連携しティガレックスとシビレ罠との距離が縮まっていく。

 ティガレックスが体勢を低くした。突進を行う合図だ。狙撃してきたソラを排除するつもりのようだ。進行方向にいたソラはそこから外れ、クレアとグレンは巻き添えを喰らわないよう一旦退く。そして、ヴァイスの思惑どおりティガレックスがシビレ罠に突っ込んだ。途端にティガレックスが痙攣したように小刻みに身体が震えていた。

「かかった!」

 言うが早いか、四人が一斉に攻撃を仕掛ける。

 頭部に斬撃を放つのはヴァイス。今まで封印していた気刃大回転斬りをここで繰り出す。

 クレアは尻尾を狙う。ジャンプ斬りから斬り上げ、斬り下ろす。更に水平斬り、斬り返してから回転斬りと練習どおりの連撃が決まる。

 グレン、ソラは共に前脚を狙う。鋭い爪目掛けてグレンはヘビィバグパイプを叩きつけ、ソラはLv3通常弾で狙撃する。

「ガアアアアアアァァァァァァァァァァッ!」

 シビレ罠の効果が切れ、四人は瞬時に距離を取る。ヴァイス以外はティガレックスの背後に回りこむ構図だ。

 ティガレックスもシビレ罠から解放され自由になる。すると、ティガレックスはいきなりバックジャンプをした。その動きは俊敏で、気がついたときにはティガレックスが三人の背後に回り込む形になった。やられる。そう覚悟した。

「なっ……!?」

 だが、ティガレックスが視界に入った途端、三人は身動きを取ることも言葉を発することも出来なくなった。

 頭から両腕にかけて、複雑な形を描く血のように赤い模様がティガレックスに浮かび上がっていた。否、あれは血管だ。血管が浮かび上がり、まるで模様のように見えているだけだ。

 ぎらつかせる鋭い双眸。口から漏れる息は微かに生臭かかった。そう、これがティガレックスの怒り状態――。そして、真の力――。

「奴から離れろ!」

 この動きもヴァイスからは聞かされていた。どう行動すればいいかも心得ている。それにも関わらず、心の奥底からこみ上げる恐怖が三人の思考を、身体をも凍りつかせてしまった。

 まずい、とようやく理解したときにはもう手遅れだった。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 頭上から発せられた桁違いの咆哮。それは、例えるのならば音の衝撃波であった。耳がどうこうの問題以前に全身に鋭い衝撃を受けた感覚が走り、気がついたときには身体が宙を舞っていた。

「今のは、何なのです……?」

 何とか立ち上がったソラは無意識にそんな言葉を口にしていた。

 予想していたものとは全く違ったもの。確かにあれはモンスターが使う咆哮の一種であった。しかし、そのどれもが聴力に対する影響のみであった。だが、ティガレックスの咆哮は衝撃波となって鞭のように身体に打ち付けられた。

 見ればクレアとグレンも同じように吹っ飛ばされていた。体力を回復したいのは山々だが、ティガレックスに無防備な姿を晒せば狙われるに違いない。

 刹那、辺りに閃光が走る。ヴァイスが閃光玉を投擲し、回復できる隙を作ったのだ。

 その間、ティガレックスは接近されないよう闇雲な攻撃や咆哮を繰り返す。ヴァイスも斬り込むことは考えず傍観することを決め込んだようだ。

 閃光玉の効果が消え、ティガレックスが視力を取り戻す。怒りの矛先を向けたのは視界に入ったヴァイスであった。

「ガアアアアアアアァァァァァァァ!」

 ティガレックスが動き出す。その動きは今まではとは比べものにならなかった。何故なら――。

「速い!?」

 そう、怒り狂ったティガレックスは感情を剥き出しに襲い掛かってくる。人間で例えるなら、力の制御が困難になり、自我を忘れ感情に任せて暴れまわるという状態だろうか。

 咄嗟の回避行動でヴァイスが突進を回避する。だが、ティガレックスは回避されても関係ないようだった。次なる標的を定め再び突進を開始する。

「狙われてるぞ、ソラ!」

 その標的はソラ。ソラは狙撃を試みようとヴァルキリーファイアを構えていたが、ティガレックスに狙われていることに気づき回避行動を取る。間一髪で突進を回避すると再びヴァルキリーファイアを構えスコープを覗き込む。

 今までの行動から見れば正しい動きだったかもしれない。そのソラの読みをティガレックスは覆した。

 ティガレックスは突進が空振りに終わり静止すると思われた。しかし、ティガレックスは急激な方向転換でソラを真正面に捉える。

「っ!?」

 これも、ヴァイスから指摘があった行動だ。冷静に考えればわかっていたことだが、それはもう言い訳に過ぎない。

 回避することもままならず、ソラはティガレックスの突進の餌食になる。

「ソラッ!」

 この場にいた誰もが背筋を凍らせた。

 ガンナーの防具は剣士に比べ耐久性に劣る。それ故、受けるダメージも剣士に比べ深刻で、剣士では耐えられる一撃がガンナーでは耐えられないというケースがある。

 真っ先に駆けつけたグレンがソラを助け起こす。

「何とか、大丈夫です……」

「あ、ああ。よかった。だけど――」

 そう、依然としてティガレックスは暴れまわっている。

 クレアがティガレックスの気を惹きつけようと背後に回りこむ。そして、シャドウサーベル改を一閃させようと左腕を振り上げた。

 ティガレックスはそれを許さない。時計回りに回転しクレアを蹴散らそうとする。クレアもガードで踏ん張り、斬撃を浴びせようとガードの体勢を解いた。

 しかし、それはティガレックスに通用しなかった。先ほどのものとは程遠いが、それでも強烈な咆哮を放つ。身体が勝手に動き自然に耳を塞いでしまう。無論、同時に無防備な姿をティガレックスに晒すことになる。

 ティガレックスが咆哮を終えた。もう動き出すのは時間の問題である。その途端、クレアはある衝撃によって身体が飛ばされていた。

 訳がわからず頭が混乱したまま派手に尻餅をつき地面に叩きつけられた。一体何が起こったのか確認しようと顔を上げた。そこに、ティガレックスの噛み付きを紙一重で躱すヴァイスの姿があった。

「えっ……」

 自分がどういう状況に置かれているか理解した瞬間、やってきたヴァイスに促されエリアを移動することになった。

 辺りを見渡すがグレンとソラの姿が見当たらない。どうやら二人は先にエリアを移動したようだった。

 クレアは、複雑な心境に囚われる胸を押さえながらヴァイスと共にエリア3を去っていった。

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