左前脚の爪を破壊されたティガレックスは、その怒りをぶつけるように攻撃を仕掛けてくる。残された右前脚の爪で岩石を抉り飛ばす。
「くそっ!」
ターゲットであるグレンはすぐさま回避行動を取る。しかし、ティガレックスはグレンを逃そうとはしない。大きく一歩踏み込むと回転攻撃を繰り出してくる。これは紙一重の差で横っ飛びに成功した。しかし、これでは埒が明かない。
「そうはさせません!」
この状況を打開しようと動いたのはソラだった。
ヴァルキリーファイアの銃口が火を噴く。頭部に着弾した二発の弾丸は数秒の後、爆発を起こす。その威力に気圧されたティガレックスが大きく怯んだ。
「助かった!」
「どういたしましてです!」
ソラが撃った弾丸はLv1徹甲榴弾。爆発性のある素材から作られる弾丸で、着弾点で爆発する仕組みになっている。
その徹甲榴弾の影響もあるのか、ティガレックスは口から涎を垂らしている。疲労状態に陥ったのだ。その証拠に、突進の方向転換に失敗し大きく体勢を崩している。
この疲労状態はヴァイスたちに大きな好機をもたらす。ティガレックスが体勢を立て直すまでの一瞬の隙でそれぞれがダメージを与えていく。ようやくティガレックスが立ち上がった時には、既に大きな痛手を与えられていた。
ティガレックスが傷を付けたハンター達に牙を剥く。だが、意思に反して身体が言うことを利かない。ティガレックスは再び転倒してしまう。
クレア、グレン、ソラの三人が更なる攻撃を仕掛ける。ヴァイスは、今度は鬼哭斬破刀・真打で斬るのではなく、ある物を地面に仕掛けた。
懐に飛び込んでいた剣士の二人が同時に距離を取る。二人が退いた隙間から見えたのは無造作に転がっている生肉であった。空腹状態のティガレックスは迷うことなくその生肉に齧り付く。無論、それがヴァイスの仕掛けた罠だとは到底思いもしなかっただろう。
「ガアアアアアアアァァァァァァァッ……!?」
生肉を平らげるのに夢中になっていたティガレックスの動きが突然止まった。金縛りにでもあったように身体が小刻みに震えているのがわかる。
「かかった!」
「よし、畳み掛けよう!」
クレア、グレンが好機とばかりに武器を振るう。動けないティガレックスの正面から、ソラがLv1徹甲榴弾を撃ち込む。
ティガレックスの食べたのはただの生肉ではない。マヒダケに含まれる強力な麻痺性の毒を生肉に塗り込んだシビレ生肉だ。
ティガレックスに生肉を食べさせるには空腹状態を誘発しなければならない。その時を待って、ヴァイスはシビレ生肉を今まで温存しておいたのだ。
クレアとグレンがティガレックスに肉迫してダメージを与える。互いに斬り、あるいは叩き、なるべく多くのダメージを与えようと武器を振るい続ける。しかし、これだけダメージを与えてもティガレックスの体力は底知れない。
「ガアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!」
身体に纏う痺れから解放されたティガレックスが回転攻撃を繰り出す。避ける術のなかったクレアとグレンが攻撃を喰らってしまう。
「くそっ……!」
グレンは、尻尾で打ち付けられ、痛む場所を押さえながら何とか立ち上がる。クレアも同様だ。疲労状態にあっても、ティガレックスに無防備な姿を見せ回復薬を使うことは出来ない。
「皆さん、目を瞑ってください!」
追撃の恐れを考えたソラが射撃を中断し閃光玉を投擲する。
「ソラさん、ありがとう!」
「いえいえ、どうってことないですよ」
賢明なソラの行動に感謝しつつ、ダメージを負った二人は回復薬を使用する。ソラは、ティガレックスに攻撃をしようとはせず、様子見で終えるようだ。
閃光玉の効果が切れた。視力の回復したティガレックスは、視界に入ったグレンをターゲットにする。へビィバグパイプは担いでいたため、回避するのは容易い。だが、グレンが動き出そうと振り向いた瞬間、今までグレンの背後にいたヴァイスと目が合った。
地面に仕掛けられた二つ目のシビレ罠。近くに置かれている大タル爆弾を積んだ荷車。おそらく、ティガレックスの目が眩んでいる間にヴァイスが移動させたのだろう。当然、その二つを見ればヴァイスが何を考えているか理解できる。
グレンは、走り出す。疲労のため速度の鈍っている突進だとはいえ、その速度は人間の走る速度を遥かに凌駕する。もう少し。もう少しでシビレ罠が仕掛けてある位置に到達する。
シビレ罠を横に避ける余裕はない。グレンは、シビレ罠を飛び越えるような形で身体を投げ出した。身体が地面にぶつかる寸前、ティガレックスの悲鳴が聞こえてきた。無事に囮役を全うしたグレンは、安堵する余裕などなくすぐに体勢を立て直す。
ヴァイスと駆けつけたクレアが大タル爆弾の配置を終えていた。グレンが見たのは、ソラが大タル爆弾を今まさに撃ち抜こうとする瞬間だった。
装填されていた弾丸はLv1通常弾。威力に欠けるその弾丸であっても、撃ち抜かれた2つの大タル爆弾は凄まじい爆音と爆風を撒き散らすことに成功する。
爆発音の余韻が響き渡る中、黒煙の向こうからティガレックスのシルエットが浮かび上がってくる。これで倒せるほど甘い相手でないことは承知している。だが、確実に追い込んでいるのは確かであった。
顔面に一筋の傷跡が深々と走っている。耳のようなものは跡形もなくへし折れてしまっている。見るも痛々しい無残な姿であった。
「ガアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
それがティガレックスの怒りを買った。血管が浮かび上がり、口から吐く息が白く染まる。
数十分前、ヴァイスたちパーティーを一瞬で追い詰めたティガレックスの怒り。特に、ヴァイスを除く三人は警戒の色を濃くする。
「来る!」
身を屈めたティガレックスは空いていた距離を一気に殺し飛び掛ってくる。着地点にいたクレアとグレンが咄嗟に回避する。ティガレックスも一度ならず二度までも飛び掛ってきた。狙われたのはソラだったが、飛び上がる寸前に生じた風圧にグレンの身体が流される。
「くそっ! もう効果が切れたのか!?」
演奏効果の風圧無効【小】がこんな時に切れてしまった。立ち回りを考えれば再び発動させたほうがいいだろう。他の演奏効果も、もういつ効果が切れても不思議ではない。だが、グレンには演奏を行えるほどの余裕がなかった。
「ゴアアアアアァァァァァァァァァァッ!」
凄まじい速度で繰り出される攻撃の数々。これをどうにか封じなければ演奏どころではない。回避するだけで精一杯なのだ。
刹那、閃光玉が弾ける。投擲したのはヴァイス。それは、この隙に演奏を行えという意味だ。
グレンが演奏を行っている間、ヴァイスは鬼哭斬破刀・真打で斬撃を繰り出す。ソラもLv3通常弾で援護する。苦労しながらもティガレックスの尻尾を狙っていたクレアは、シャドウサーベル改を全力で尻尾に向かい振るう。
グレンが演奏を終えたときには、既に閃光玉の効力は切れていた。加えて、怒り状態も解けていない様子である。しばらくは耐え凌ぐしかない。
ティガレックスに肉迫しているのはヴァイスのみ。そのヴァイスを蹴散らそうとティガレックスは大きく息を吸い込んだ。先ほどクレアたちを容赦なく吹き飛ばした桁違いのバインドボイスを繰り出すつもりらしい。ヴァイスがバインドボイスの影響が及ぶ地帯から飛び出すのと衝撃波のような咆哮が届いたのは同時だった。
咆哮を発している間は、ティガレックスは身動きが取れない。動かぬ標的目掛けソラはペイント弾を装填し狙撃する。バインドボイスの余韻が残る中、ペイントの臭気が確かに漂ってくる。
しばらく耐え凌いだ結果、ティガレックスの身体に浮かんでいた血管が消えた。ここに来て怒り状態がようやく解けた。
「よし、これなら!」
怒り状態ではないティガレックスに食い下がることはクレアたちにも出来る。隙を付いて、背後からシャドウサーベル改を一閃する。
飛んできた岩石を回避しながらグレンがティガレックスの頭部を狙える位置取りをとる。太刀や片手剣では不可能な気絶をさせようとしているのだろう。
「ソラ! 援護を頼む!」
それはライトボウガン使いのソラにも言える。一部の弾丸にはモンスターを気絶させるものがある。それが先ほど使用した徹甲榴弾なのだ。
「任せてください!」
弾倉からペイント弾を取り出し、残っていた二発のLv1徹甲榴弾を装填する。狙いを定め一発。続けてもう一発。着弾の後、爆発が起こりティガレックスは一瞬グレンから気を逸らした。
狙撃してきたソラに向かって飛び掛ろうと両脚に力を込める。
「お前の狙う相手はこっちさ!」
裂帛の気合いと共にグレンが上段からヘビィバグパイプを叩きつける。衝撃に耐え切れなかったティガレックスの身体が地面に崩れ落ちた。
「ガアアアアアァァァァァァァァァッ!?」
必死に体勢を立て直そうとティガレックスは足掻く。だが、うまく身体が動かず体勢を立て直すのに時間を要してしまう。
それは、ヴァイスたちには好都合なのだ。グレンとソラが続けて頭部を狙い、クレアが右前脚、ヴァイスが尻尾をそれぞれ攻撃する。特に、気刃大回転斬りを喰らった尻尾への負担は大きいだろう。
他のモンスター同様、ティガレックスの尻尾も切断が可能だ。尻尾の切断に成功すれば、いくつかの攻撃のリーチが短くなる。そうなれば、流れは更にこちらに傾くはずだ。だからこそ、クレアはシャドウサーベル改で苦労しつつも尻尾を狙っていた。
今回も同様に、ティガレックスの背後からクレアが接近する。しかし、ティガレックスはそれを読んでいた。その場で回転攻撃を繰り出し、クレアの接近を許さない。回避することが不可能だったクレアは何とか盾で攻撃を防ぎきった。体勢を立て直したときには、ティガレックスは突進してしまい距離が開いてしまった。
「くっ、やっぱり難しい……」
リーチの短い片手剣で緩慢な動きをし続ける尻尾を狙うのは、やはり他の剣士の武器に比べて不利な部分がある。
閃光玉で動きを止めるべきだろうか。的確な数は把握できないが、幸い閃光玉は手元に多く残っている。
片手剣は抜刀したままアイテムを使用できる。盾を装着している右手をポーチに突っ込み閃光玉を探す。だが、すぐにその手をポーチから引き抜き、逆に盾を構えた。直後、三方向に飛ばされたうちの一つの岩石がクレアに飛んできた。
スタミナをごっそりと削られ、体勢を崩す。ティガレックスも、まだクレアに目をつけている様子だ。そして、突進を繰り出してくる。
「回避は……、出来ない!」
そうなれば、やはり盾で攻撃を受け止めるしか方法はない。だが、直前にスタミナを削られている以上、完全に防ぎきれるかどうかは微妙なところだ。閃光玉を投擲しようにも、ポーチを弄っている間に突進の餌食になる。
「くっ……」
衝撃に備え、身体に力を入れる。
しかし、衝撃は襲ってこない。変わりに、目蓋を通して眩い閃光が走った。そっと、閉じていた目蓋を開ける。
目の前に目を眩ませているティガレックスの姿。そして、閃光玉を投擲したソラの姿。ソラが咄嗟に閃光玉を投擲したのだ。その二つが視界に入ると、クレアは頭で考える前に身体が動いていた。
閃光玉の効力も短い。急いでティガレックスの背後に回り込みシャドウサーベル改を引き抜いた。
ソラもクレアを援護する。斬裂弾と呼ばれる弾丸を装填し、ソラは狙撃を行った。
徹甲榴弾は、ハンマーなどという打撃系の武器と同じくモンスターを気絶させることができる。それと同じように、この斬裂弾はモンスターの尻尾を切断することの出来る弾丸だ。
クレアのシャドウサーベル改とソラの斬裂弾。この二つの攻撃がティガレックスの尻尾に集中する。
「ゴアアアアアァァァァァァァァァァァッ!」
くるりとクレアに向き直ったティガレックスが二連続で噛み付きを繰り出してくる。回避しそこねたクレアはダメージを受けてしまう。
「くそっ! 俺が援護を!」
咄嗟に、グレンがティガレックスに接近しヘビィバグパイプで叩きつける。と、そこにソラから水が差される。
「あまり熱くならない方がいいです、グレンさん!」
「っ……!」
言われてみればその通りである。グレンは、すぐに距離を取り安全圏へ脱する。
仲間を援護しようとはいえ、そこで冷静さを欠けば自身がダメージを食らってしまう。さすがに、援護するということに慣れているソラだ。
「ごめん、助かった」
「いえいえです」
短く言葉を交わし再びティガレックスへ接近する。
今度は、ティガレックスの一瞬の隙を付いて懐に飛び込むことに成功した。反対側からヴァイスも斬り込んできた。ティガレックスが二人に気を取られないようソラも援護を再開する。
しかし、ティガレックスもこちらの思う壺というようには動いてくれない。ソラの援護も虚しく、ティガレックスは回転攻撃を仕掛けてくる。ぎりぎりの間合いで回避できるが、判断が遅れれば直撃は間逃れない。やはり、閃光玉で動きを止め、一気に畳み掛けるのが得策な判断なのかもしれない。
「やっぱり、一筋縄じゃ行かない」
閃光玉を投擲しながら、クレアが噛み締めるように呟く。
ティガレックスが手強いことは承知の上だった。そして、クレアやグレンは、実際に対峙してみて力の差を思い知ったことだろう。
ここで立ち止まっては駄目なことはわかっている。苦戦してでも前に進まなくてはならない。それを、今回改めて痛感した。自身の力の無さに苛立ってきそうな自分がいる。
「はあぁっ!」
感情を剥き出しに狩猟をしていては危険極まりない。そんな感情を無理やり押し込みシャドウサーベル改を斬り下ろす。
閃光玉の効力も僅かながらではあるが弱まってきている。ティガレックスの視力が回復する時間も早くなってきた。着実に追い詰めているものの、それと同時に、こちらの状況もだいぶ苦しくなってきているのだ。
クレアとグレンが距離を取ったが、ヴァイスはその場に粘った。
突き、斬り上げ、斬りつけという基本の型を数回続け、斬り下がりで一旦退く。やはり、気刃斬りは使わない。いずれにせよ、この狩猟でヴァイスは太刀使いの奥義と言ってもいい気刃斬りを数えるほどしか繰り出していなかった。
一方ヴァイスは、鬼哭斬破刀・真打を鞘に収めティガレックスの様子を見る。ティガレックスは、ヴァイスに飛び掛ろうかという素振りを見せた。それを先読みしていたヴァイスは安易に回避する。
地面に着地したティガレックスに剣士の三人が接近する。
クレアが尻尾に斬り込み、ヴァイスとグレンが左右から前脚にダメージを与えていく。二人は、尻尾の切断を試みようとしているクレアの援護をしているのだ。
「わたしも手伝います!」
やはり、片手剣による尻尾の切断には高い技術が必要になる。ソラの援護が加われば、多少は切断しやすくなるはずだ。
「ありがとう、ソラさん!」
クレアの感謝の言葉に答えるようにソラが笑顔で頷く。そして、すぐに表情を引き締め狙撃に集中する。
ここにヴァイスの支援があれば、どれほど楽なのだろうか。だが、ヴァイスは尻尾の切断をクレアたちに任せているようである。ならば、そのヴァイスに応えうる働きをするまでだ。
「ガアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!」
ティガレックスも動き出す。
方向転換すると、前脚を狙っていたグレンに向かって噛み付く。距離を取ろうとしていたのが功を奏し回避は容易かった。だが、予想外だったのは、ティガレックスが再び二連続の噛み付きを繰り出したことだった。
「わっ!?」
身体を捻り、咄嗟の回避に成功する。
あのままその場に止まれば、身体の一部分がティガレックスの鋭利な牙に引き千切られていたに違いない。そう考えるだけで背筋に冷たい汗が流れ落ちる。
「大丈夫ですかっ!?」
ソラも珍しく声を張り、グレンの身を心配する。そのせいか、斬裂弾が一発、尻尾に命中することなく空振りに終わった。貴重な斬裂弾だが、それでも無駄にしたのは一発だけで済んだのが幸いだ。
そして、グレンも自分の身が無事であることを告げる。
「ああ。ソラ、大丈夫だよ! 俺のことは大丈夫だから狙撃に集中してくれ!」
「わかりました。任せてください!」
既に、ティガレックスはその場から移動してしまっていた。こちらが間合いに入る前にティガレックスの方が動き出すことは明白だった。
短く吼え、ティガレックスが突進を始める。派手に砂煙を上げながらヴァイスとクレア目掛けて突っ込んでくる。互いに抜刀していなかったため、緊急回避をするまでもなかった。だが、またこれで間合いが開いてしまった。
「くっ、これじゃ埒が明かない!」
やはり、尻尾という一点を狙うならば、相手に行動されては厄介だ。クレアが閃光玉を投擲しティガレックスの動きを止める。手元に残っている閃光玉の数はわからない。だが、今は使い惜しんでいる状態ではないのだ。
「てりゃあぁっ!」
体重を乗せシャドウサーベル改を振り下ろす。斬って、斬って、とにかく斬る。幾度となく、ティガレックスの尻尾にシャドウサーベル改の閃光が走った。ソラも加勢し、追い討ちをかける。
そして、渾身の力を込めた一撃を繰り出す。
「行けっ!!」
今までとは全く違う手応えがシャドウサーベル改を伝わり感じた。片手剣の刀身の何倍もあるティガレックスの尻尾が、クレアの一撃によって見るも無残に斬り落された。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!?」
悲痛の叫びを上げるティガレックス。数歩前のめりに倒れ込んだ後に体勢をようやく立て直したティガレックスの姿は、先ほどまでとは違い衰弱したように見えた。
確実に追い詰めてはいる。だが、まだ決定打にはなっていない。その証拠にティガレックスの双眸が怒りに染まる。身の毛が弥立つようなその咆哮は、この身を傷つけたハンター達を喰らってやろうという意思表示でもあるようだった。
ソラは自分とティガレックスの位置関係を確認する。仮に自分を狙うならば、突進か岩石投げ。他の誰かに狙いを定める可能性もある。怒ったティガレックスは厄介だ。どんな動きをしようとも対応できるよう身構える。他の面々も同様だ。
「ゴアアアァァァァッ!」
しかし、ティガレックスは、その場で飛び上がったかと思うと再び地上に降り立ってくることはなかった。エリアを移動していったらしい。
「さあ、今の内に体勢を整えておくぞ」
誰もが呆気に取られ、言葉を失った。ティガレックスが消えていった空を見上げていたが、ヴァイスの一声で、皆が現実に引き戻された。
武器の切れ味は落ちてきていた。このタイミングで砥石を使えたのは幸運と言える。他にも回復薬や携帯食料など、各々がそれぞれ準備を整える。
「怒ったモンスターでも、あんな風に襲い掛かってこない場合もあるんですね」
「長く狩猟をやっていればそんなこともあるさ。疲労していれば、怒り状態であっても睡眠を取ることもある」
クレアの言葉にヴァイスが素っ気無く返す。
冷たい反応のように思えるが、普段の狩猟中のヴァイスだ。最低限の緊張を保っているためにこういったやり取りも少なくはない。
「行きましょう。ティガレックスはエリア7に移動したようです」
ペイントの臭気からグレンがティガレックスの移動した場所を割り出す。
ヴァイスもグレンに承諾し、鬼哭斬破刀・真打を鞘に収めると移動を開始しする。
目的はあくまで捕獲。その鍵を握るソラは、捕獲用麻酔弾がポーチにあることを確認してからあとに続いた。
乾いた風に乗って漂ってくるペイントの臭気を辿り、四人は灼熱の砂漠地帯を後にする。先ほどまでのティガレックスへの反撃は、着実に光明へと繋がるはずだ。