静まり返っていた密林は、突如としてその沈黙を失った。
何処からもなく耳障りな鳴き声が轟いたかと思うと、視界の中に幾つもの“青”が横切った。それから間を置かず、密林は奴らの魔窟と化した。
「ギャアアアァァァァァァッ!」
「オオォォォ、オオオォォォォッ!」
鼓膜を劈く鋭い鳴き声が、辺り一帯から巻き起こる。
周囲を見渡しても、そこに逃げ場は無い。既に奴らの包囲網に陥ってしまっている。
「くそっ、囲まれてる!」
「こんなに多くの数は相手に出来ないぞ!」
「救難信号は――!? 救難信号はまだなのっ!?」
荒れ狂う密林に響く言葉も、冷静さを欠いた、恐慌さを帯びたものばかりであった。
その中でも、この現状を打破しようと既に動き出している者たちもいる。
だが――、
「倒しても倒しても埒が明かない!!」
「どれだけのランポスが集まって来てるんだよ、畜生!」
例え迫り来るランポスをねじ伏せようと、追手は限りなく現れる。こちらがランポスを討伐していくよりも、新手が出てくる勢いが遥かに勝っているのだ。
「少しでも、持ちこたえられれば……っ!」
そうは言うものの、状況は最悪だった。
絶えず現れ来るランポスたちの勢いに圧倒され、既にこちらは疲弊していた。
動ける者は、今も尚、己の武器を振るってこれを切り抜けようと一心不乱だった。だが、その者たちの中にも徐々に地面に屈する姿が増えていっていることも事実だ。このままこの場にいる全員が力尽きるのには、それほど時間を要さないであろうことは明白であった。
「くそっ!!」
――もう駄目だ。
そうして諦めかけたその時、一匹のランポスが派手に宙を舞った。地面に叩きつけられたそのランポスは、か細い鳴き声を上げてから二度と起き上がることはなかった。
突然の出来事に、この場にいる全員が、そしてランポスたちでさえもそちらに顔を向けた。
幾多の視線の先に佇んでいたのは、右手に大剣を握る重装備の男。その大剣の刀身からは、今し方切り裂いたであろうランポスの鮮血が滴り落ちていた。
それを目撃したランポスたちの眼の色が、一瞬にして怒りに染まる。
「ギャアアアアァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
感情に任せて狼狽したランポスたちが、弔い戦だと言わんばかりにその男目掛けて突撃する。
迫り来るその頭数は数知れない。しかし、男は怯む様子など微塵も感じさせない身のこなしで大剣を横一文字に薙いだ。その一捌きで、近接したランポスたち全てをいとも簡単に蹴散らしてみせた。
「……」
兜から垣間見える鋭い眼光に、屯していたランポスたちもたじろぐ。しかし、我に返ったランポスたちが、再度群れを成して男を捕らえようと飛び掛かった。
だが、男も淡々とした動きでそれらを対処し、手に持った大剣を振り抜きランポスたちを圧倒する。
まさにそれは、圧倒的力量差。現状を表すのにはこの一言で事足りてしまう。
そうして一方的な状況がしばらく続いた後、ランポスたちもようやく観念したのだろう。生き残っていたランポスが逃げるように自らの巣穴に潜り込んでいった。
それからその場に訪れたのは、不気味で居心地の悪い沈黙。しかし、その沈黙を破ったのは、泰然自若とした男の声色だった。
「――大丈夫か」
その声に応えるように、倒れ込んでいた者たちものろのろと立ち上がる。
「な、なんと、か……」
「ありがとう、ございます……。アヴィ、さん……」
周囲から呻くように聞こえ始めた人の声。
改めてそれを聞いた男は――アヴィは短く息を吐き出した。
「どうやら、全員無事なようだな」
辺りを一瞥してみてから、アヴィが言う。
惨状は見るも無惨なものであったが、それでも全員の無事は確認出来た。それがせめてもの救いと言っていいだろう。
しかし、だからと言って安堵するには尚早すぎた。
そう。こうしてこの場所がランポスの大群に襲撃されたように、他の場所でも同じ事態が起こっているのだ。
それを具現するかの如く、上空に向かって幾つもの赤く染まった煙が立ち上っている。それと同時に漂ってくるペイントの臭気がアヴィの鼻孔を貫き、それが更なる焦りを触発する。
「やって、くれたな……」
地面に横たわるランポスの亡骸をその視線で射貫きながら、アヴィが呟く。
彼の言葉の裏に宿るのは、奴らに対する憤怒。しかし、そこにどれだけの感情を抱こうと、この状況が解決するわけではない。もちろんそれはアヴィも承知していた。
「……動ける生徒は、怪我を負った生徒の介護を。ここに長居するわけにもいかない。なるべく早く拠点へ戻れ。それまでは気を抜くな」
そうして周囲に促すと、アヴィは地面を蹴った。
この場に残って負傷した生徒を介護したいのも山々ではある。しかし、幸いこの場所は拠点に隣接したエリアだ。応援もすぐに駆け付けてくれることだろう。
しかしそれ以上に、アヴィは空に立ち昇る赤い煙――救難信号に意識を傾けていた。
ここからでも目視で確認出来るように、密林の至るエリアから救難信号が発信されている。場合によっては、ここよりも更に悲惨な事態にまで進行している可能性も否めない。
それはつまり、早急な対処を行わなければならないということになるのだ。
腹の底から煮え滾る怒りを押し殺し、アヴィは救難信号を目当てにその場に急行した。
「――お、おい。どうなってるんだよ、これ!?」
エリア2に到着するや否や、知れずとノエルの総身も粟立つ。
いや、それも仕方ないことだった。先ほどまで静まり返っていたその場所が、今はランポスたちの大群で溢れ返っている。
丁度エリア2に居合わせていたパーティーの面々も応戦しているものの、後方から見ても明らかなほどに状況は芳しくなかった。
また、エリア中央付近にはペイントの実を使用した救難信号が既に設置されており、上空に向かって赤い煙を立ち上らせている。
「くそっ……!」
そうして改めて上空を仰いだ時、四人は思わず絶句する。
――空が赤い。
上空に立ち上る救難信号は、エリア2から発せられるものだけではなかった。密林の至る所からその赤煙は舞い上がり、まるで上空を覆い隠すような形になっていたのだ。
一言で表すならば、異常。それを思った時、ヴァイスたちも言葉を失ってしまったのだ。
「救難信号を発信したとしても、これだと対処出来ないわよ……!」
発せられた救難信号を確認したルークとアヴィは、既に対処を行っているだろう。だが、この密林に居合わせた実力のあるハンターといえば、その二人に絞られるということになる。
エリア2と同じか、或いはそれ以上の事態が他のエリアでも起こっていると想定すれば、現状はたった二人でとても対処し切れるものではない。
「……ヴァイス」
「あぁ、分かっている!」
アーヴィンがその名を呼ぶと、ヴァイスも迷うことなく鉄刀を鞘から引き抜いた。
ルークとアヴィで対処し切れないと言うならば、何としても時間を稼がなければならない。それを実行する手段はただ一つである。
ボーンシューターを構えたアーヴィンがLv2通常弾を装填する。彼に続いて、ルナとノエルもそれぞれツインダガーとアイアンガンランスを構える。
「行くぞ。何としても耐え抜くんだ!」
その言葉を皮切りに、ヴァイスを始めとする剣士三人がランポスたちの大群の渦中に躍り出た。
新たに現れた獲物たちを前にして、ランポスたちもより一層好戦的になる。
「ギャアァァァァァッ!」
周囲から巻き起こった鋭い鳴き声。三人は一瞬にして、ランポスたちの包囲網に捕らわれる。
「邪魔だ、どきやがれ!」
しかし、怯えている暇などない。こうなれば、力任せに包囲網を突破するまでだ。
そうした荒ごなしを得意とするノエルが先陣を切る。アイアンガンランスを前方に突き出し、そこから立て続けに二発の砲撃を繰り出す。それだけで複数のランポスたちが後方に吹っ飛んだ。
ヴァイスとルナも彼に続く。迫り来るランポスたちの攻撃を掻い潜りながら鉄刀を、或いはツインダガーを一閃する。
アーヴィンの後方射撃も的確な援護となり、四人は何とか纏わりついてきたランポスたちを全て討伐した。するとその頃には、地面に屈する生徒の姿も多くなってきていた。
「まずいな」
「ええ。ですので、僕たちも出来る限りの手助けをしましょう」
アーヴィンの言葉に頷き、四人は一旦散り散りになる。そして、未だに立ち上がれなかったり、怪我を負ったであろう生徒の元へと急いだ。
「おい、大丈夫か?」
ヴァイスが声を掛けると、座り込んでいた少年が顔を上げた。その表情は苦し気なものであったが、ヴァイスの言葉に僅かな笑みを浮かべて見せた。
「……俺の方は大丈夫だ。でも、他に怪我をしている奴もかなりいるんだ」
「あぁ、分かっているさ……」
そう言ってヴァイスが奥歯を噛み締める。
今一度周囲を見渡してみれば、ヴァイスたちと同じように動ける生徒はそう多くはなかった。少なくない生徒が痛手を負っているようであり、思うように身体を動かせないような生徒の姿も見受ける。
その者たちをすぐに介護するか、安全な拠点に連れて帰らなければならない。
しかし、ここを訪れた者を易々と見逃してくれるほど、自然は甘い存在ではない。このタイミングになって、敵の第二波がエリア2に到達する。
「くそっ、また来やがったのか!?」
そんな声が次々と巻き起こり、まだ動ける生徒は再びランポスたちに挑み掛かって行く。
こうなってしまえば、ヴァイスたちもまた応戦しなければならない。
「ここは俺たちで何とかする! そのうちに、怪我人を安全な他のエリアに逃がしてくれ!」
「でも、それだとヴァイスたちは――!」
「俺たちなら大丈夫だ! 今は俺たちよりも、他の仲間を心配するべきだ!」
ヴァイスの放った言葉に、少年も反論出来ずに押し黙る。
ヴァイスは少年の返答を待たずして、新手のランポスの群れに飛び込んで行く。
「はああぁぁぁぁぁぁっ!」
これ以上、被害を拡大させるわけにはいかない。そのためには、何としてもヴァイスたちがここで踏みとどまなければならなかった。
それは他の三人も理解しており、共に応戦する。
しかしそれでも、いくらランポスを地に平伏せさせようと、新手は次々と現れる。
「はぁっ、はぁっ……! まだ、現れるって、いうの……!?」
スタミナを消耗したルナが息を切らせながら、未だ現れ来るランポスたちを睥睨する。
「あともう少しのはずです! それまで、どうにか耐え抜きましょう!」
「そんなことは分かり切ってるっての!」
疲弊の色が見えてきた三人をアーヴィンが励ますと、ノエルが意地を張るように彼の言葉に答えた。
アイアンガンランスを突き出して、一匹のランポスを吹っ飛ばす。続けて手元の引き金を引き、砲撃で以て接近してきた更なるランポスをまとめて蹴散らす。
そして、ガンランスの最大の一撃である竜撃砲を撃ち込もうと、ノエルがアイアンガンランスのリミッターを解除して、そして引き金に手を掛けた。
「いい加減、失せやがれ!」
裂帛の気合いと共に、アイアンガンランスの矛先が雄叫びを上げる。刹那、轟音を撒き散らしながら竜撃砲がその銃口から放たれると、ノエルの前方に屯していた無数のランポスたちが、風に吹かれた人形のように宙を舞った。
その一撃が決定打となった。どうやら、ノエルの繰り出した竜撃砲で討伐したランポスたちが最後だったようだ。
再び訪れた静寂に、辺り一帯から安堵の溜め息が聞こえてくる。
「皆さん、大丈夫ですか?」
共にランポスに挑んた生徒たちの安否をアーヴィンが確認する。彼らは四人以上に疲弊している様子だったが、それでも大きな怪我を負ったわけではない。
また、先程まで動けずにいた生徒たちも、他の面々の協力もあってエリア2から脱出したようだった。
「何とか、なったか……」
ヴァイスもやっとのことで気を緩め、鉄刀を鞘に納めようとした。
しかし、そうしようとしたヴァイスの動きがぴくりと止まる。勁風と共に流れてくるペイントの臭気とは別に、生物特有の生臭さがヴァイスの鼻孔を突っ切った。
「まだだ! 気を抜くな!」
想定していた最悪の事態が迫っていると理解した時には、ヴァイスは既に声を上げていた。
そして、赫怒とした咆哮が轟いたかと思うと、巣穴と思しき場所から身体の一回り大きいランポスが姿を現した。
そいつの姿を目撃した途端、その場は再び狼狽の声に包まれる。
「ドスランポス!?」
誰からでもなく、そいつの名を叫ぶ。
――どうして、こんなところに?
そんな疑問を抱く者さえ、既に存在しなかった。
ドスランポス。このランポスの大群の指揮を執る群れの長であり、自分たちを窮地に追い遣った張本人である。
あれだけのランポスの大群だ。それを率いる長が密林に潜んでいることは、無意識のうちに理解してしまっていた。
だが、現状をどれだけ理解していようと、目の前の戦況が覆されるわけではない。
先ほどまでランポスを相手取っていた生徒も、ドスランポスを相手にする体力は残っていない。ドスランポスとまともに対峙出来る者は、この場にはヴァイスたち四人しか残っていなかった。
「ルナ! ノエル!」
ヴァイスが二人の名を呼ぶ。
言われるまでもない。既に二人はヴァイスの意志を読み取っていた。
「りゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
雄叫びを上げた二人が、ドスランポスに挑み掛かる。その二人の前に、ドスランポスも立ち塞がる。
「ギャアアァァァァァァァァァッ!」
しかし、二人の身体にも疲労は蓄積していた。華麗な体捌きで攻撃を掻い潜ったドスランポスが反撃してくる。ノエルは大盾でガードしたが、防御の術が無いルナはその一撃に吹き飛ばされる。
「うぐっ!?」
苦し気な悲鳴を漏らしたルナの元に、ヴァイスが駆け付ける。しかし、ルナは「大したことはない」という様子ですぐに立ち上がる。
本人が無事だと言うなら、ヴァイスもそれ以上の心配はしなかった。アーヴィンの援護を受けてヴァイスがドスランポスに肉薄し、上段から鉄刀を振り下ろす。
通った一撃は、微かな手応え。
しかし、例え浅い一撃であったとしても、自身に牙を向けた相手をドスランポスは逃さない。ヴァイスの背後に回り込んだドスランポスがその牙を唸らせる。
「ヴァイスの後方、来ています!」
背後からアーヴィンの声が飛んで来る。
ヴァイスもまた、言われるまでもなかった。自身の背後にドスランポスが迫って来ているのは承知の上で、ヴァイスは身を翻し斬撃を繰り出した。予想だにしなかった一撃に、ドスランポスも悲鳴を上げる。
「やってくれたわね!」
ドスランポスの見せた一瞬の隙を突いて、ルナが一気に肉薄した。
全身の気を集束し、それをツインダガーを通じて解き放つことで鬼人化する。
身躯を躍らせると、己の限界を超越する双剣使いの剣舞――鬼人乱舞を放つ。迅雷の如き一瀉千里の無数の紅い軌跡が、ドスランポスの身体を斬り刻む。
「てりゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
上段から振り抜いた二筋の軌跡がドスランポスを捉えた時、その身体が後方に吹き飛んだ。
しかし、この程度で向こうが倒れてくれるとは誰も考えていなかった。派手に吹っ飛ばされたドスランポスであったが、何事もなかったかのように立ち上がると、鋭い視線を再び向けてきた。
「まだか!?」
ノエルもまた、現状に苛つきを隠せず荒い舌打ちをする。
ヴァイスたちがドスランポスを討伐する必要は無い。多少の時間を稼げれば、それで構わないのだ。
だが、ドスランポスはそんなことに構いはしない。こちらを討滅しようと全力で挑み掛かって来る。
そして、ヴァイスたちもまた、これまでの疲労が蓄積している。一見して有利に見える状況ではあるが、実際はヴァイスたちはかなり苦しい位置に立たされているのだ。
だが、この奔流にヴァイスたちが飲み込まれては、被害は甚大なものになってしまうだろう。それだけは何としても避けなければならない。
「あともう少しの辛抱だ! それまで、何としてでも耐えるぞ!」
「あぁ、そんなことは言われなくても分かってるぜ!」
ヴァイスが仲間を鼓舞し、それに各々が答える。
ノエルも力を振り絞る。開いていた距離を詰め寄り、アイアンガンランスを突き出す。が、その一撃は鋭い金属音を立てて弾き返される。
「洒落
だが、その一撃が弾かれようとノエルは譲らない。怒気の帯びた台詞と共に、アイアンガンランスから砲撃を撃ち放つ。
するとそこへ、後方からアーヴィンの声が飛ぶ。
「退いて下さい、ノエル!」
今度はノエルも、アーヴィンの言葉に素直に従って一旦距離を取る。
ノエルが安全圏にまで後退したことを確認したアーヴィンが、ボーンシュータ―の引き金を引く。頭部に着弾した一発の弾丸は、時間を置いてから爆音を撒き散らして弾け飛んだ。
アーヴィンの放った一発――徹甲榴弾は、ドスランポスに抜群の効果を示す。
「キィアアアアアァァァァァァァァァッ!?」
その絶大な威力に、ドスランポスの身体も大きく仰け反る。しかしそれでも、ドスランポスは地面に踏み止まって見せた。
「徹甲榴弾をまともに食らっても、まだ動けますか……!」
その表情に珍しく動揺の色が見え隠れしたアーヴィンであったが、すぐに気持ちを切り替える。
空薬莢を弾倉から取り出し、Lv2通常弾を再び装填する。スコープを覗き込み横っ腹に銃口を向けると、躊躇うことなく弾丸を撃ち出す。
その援護を受けて、ヴァイスもドスランポスとの距離を詰めた。
上段から振り抜いた鉄刀は、しかしドスランポスの鱗に呆気無く弾かれる。ヴァイスにしても、それは予想外の事態であり、大きく体勢を崩してしまった。
「ヴァイス!」
「――っ!?」
名前を呼ばれて頭を持ち上げた時には、ヴァイスの身体はドスランポスの影に飲み込まれていた。
――避けられない。
それを悟ったヴァイスが身構える。
しかし、いつまで経っても衝撃はやって来ない。その代わりに遅れてきたのは、辺りを塗り潰す白い閃光だった。眩い閃光が弾けてから間を置かず、ドスランポスの悲鳴が鼓膜を貫いた。
「これは、閃光玉――!?」
自らの視界も閃光に飲まれてしまったため、たった今何が起こったかは定かではない。だが、瞼をも射貫いてくるようなこの閃光にはヴァイスも覚えがあったため、これが閃光玉だと判断出来たのだ。
閃光が収まり、ゆっくりと瞼を持ち上げた時、そこには一人のハンターの姿があった。
S・ソルZシリーズを身に纏い、蒼の長槍――プロミネンスソウルを携える男。その男の一突きで、ドスランポスは後方に吹っ飛ばされている様子が視界に飛び込んで来た。
「ギャアアァァァァァッ……」
起き上がったドスランポスも、この男には到底敵わないと判断したのだろう。先程までの威勢は何処かに消え失せ、そそくさと巣穴へと逃げ込んで行った。
一瞬のうちに起こった出来事に、ヴァイスたちも理解が追い付かない。
しかし、男がプロミネンスソウルを肩に背負い安堵したかのような息を吐いた時、ようやく彼らの頭も冷静さを取り戻してくる。
「散々な事になってしまったね……。ともかく、四人とも無事かな?」
兜の下から聞こえてくる聞き慣れた声に、四人は頷く。
「他のエリアの状態はどうなんですか?」
「運が良かったとも言うべきか、みんな無事だよ。さすがに多少の怪我は免れなかったけれどもね」
そこまで言って、男が兜を脱ぐ。兜の下から現れたのは、ヴァイスたちのクラスの担任を務めるルークであった。
そのルークの言葉に、四人はようやく胸を撫で下ろす。
「はぁ、一時はどうなるかと思ったぜ……」
ノエルの発言に、ルークも申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。
「それについては私たちが謝罪するよ。とにかく、こんな事態になってしまったことだから、本日の演習はこれまでだ。既にみんな拠点に戻って来ている。君たち四人も、拠点へ戻ろう。……それと、ありがとう。被害がこれ以上に拡大しなかったのは、君たちの頑張りもあってこそだ」
そう口にしたルークの目の前で、アーヴィンが首を横に振る。
「今回に至っては、このような変則的な事態なので対処が追い付かなかったのも致し方ありません。決して先生が気に病む必要はないと思いますよ」
「ははっ、相変わらずアーヴィン君には励まされるよ」
そこで初めて、ルークの表情に少しばかりではあるが笑みが見られた。
それを見たヴァイスも、何とかなったんだなという実感がようやく湧いてくる。
「それじゃあ、拠点へ戻ろう」
ヴァイスの言葉に、ルナ、ノエル、アーヴィンがそれぞれ頷いた。
静寂に返った密林の中、彼らはゆっくりとした歩調で拠点を目指すのだった。