あたし、見ちゃいました。
何を見たかって……それはもう、もう……!イケナイものを……!
あたし、ラントリス・シュヴァレイクは王宮仕えの魔法使いです。リオンさまからもう……ぷ、ぷろ……こくはく!みたいな誘いを受けて、身分不相応にもここで過ごしています。勿論仕事は100%……いえ、1000%でやっています!が、独学なため至らない所があるのは事実。リオンさまは王族なので最高級の魔法教育を受けているらしく、いつでも質問していいと言われています。なので今執務室に向かっているのはそのため……いえ、いえ嘘をつきました!本当は昨日の事を聞くため……あの!同衾の詳細を!知るためです!!
リオンさまの近衛騎士、アリアレットさんは獣人です。深夜まで起きていると月に照らされ張り切ってしまい朝まで眠らないらしく、それは仕事にとっても健康にとっても良くないという事で夜間の防衛はこのあたしが努めさせてもらっています。防衛魔法を展開するだけですけどね。ですが少し高度なものを使うので、毎夜毎夜魔法をセットしに向かうわけです。……その時に見た、ああ、ア、アレ……リオンさまとアリアレットさんの同衾……しかもしかも、強めのハグもしてたんですよ!?何か、何かある可能性が極めて…………主従、男女、禁断のこ…………!?!?
……と、兎に角!!その確認のため!!あたしは執務室の扉に…………あれ、もうついて……こ、こころの準備が……!!! い、いえ、待ちましょう。そう、待つのです……心の準備が出来るま
「ラントリス? 何か用事?」
「ひゃふぃぃぃっっ!? り、リオンしゃまっ!?」
な、なんで後ろに……!? いえ執務室から出て行うお仕事もあるでしょう……た、タイミングが良すぎましゅっ!!
「そ、しょしょそそれはっ……!お、お聞きしたい事がありましてぇっ……!」
「そうだったんだ。何かな……と、その前に。ラントリス、クマすごいよ? ちゃんと寝た?」
か、顔近ぁ……!? 肌白ぉ……はっ!? 気を確かに持たないと!に、匂いも違うものが混ざってますしぃ……!
「い、いえ……それはとにかく!お、お部屋でお願いしたいのですが……」
「いいよ? ほら、入ってきて」
お、お邪魔します!!!!
「で、何が聞きたいの?」
……よし、よし、心の準備は出来ました。覚悟は出来ました……行きます!
「このルーンが上手く起動しなくてぇ……」
な、何を言ってるんですかあたしは!!まさか聞くのが怖い!?そそそ、そんなわけっ……!
「ああそれは……難しいよね。実はコツがあって……」
わわわわぁっ……!頭の中に言葉の意味が入ってこないぃ……!男女が2人きりなんてぇ……!!
「……やっぱり、具合悪い? 大丈夫?」
「お、お気になさらずぅ……!」
先ほどは日和ましたが……もう負けません!!あたし、行きます!!
「えっと……じ、実はまだ……」
「いいよ?」
「好きな人とかいらっしゃるのですか!!」
なんで!なんで日和ってるんですかあたしぃぃ!!……けっこう攻めてますねこの質問?
「……好きな人……君たちは皆好きだよ?」
「そういうのじゃなくてぇ……!!」
……つ、次こそは……!次こそは聞いて……!
「リオン様ーーー!!!」
「アリアレットさん!?!?」
執務室に飛び込んできたアリアレットさんはすごい勢いでリオンさまへ飛びつき……顔を顔にスリスリしながら血走った目で言葉を投げ掛けます。
「さあ!!さあさあ!!癒され」
「うわわっ!!離れろアホ!!」
片目をとろんとさせながらもげしげしと蹴り、突き放そうとして余計に強く締められて……獣人に力で勝てるわけないですもん。
「あ、あのぉ……」
「あ!……スゥ-……失礼しました……」
あ、引きました。あたしが目に入ってなかったんですね……そんなに夢中なんだ……
「じ、じゃああたし戻りますので……ごゆっくり……」
「……ラントリス? 聞きたいことはあれだけ?」
……っ。……本当、この方に隠し事はできません。ですが……
「いえぇ!? ありません、よぉぉ!?」
……今この状況で聞ける訳ありませんから!!
……男女の仲、と言うやつなのでしょうか。アリアレットさんに向ける表情は、あたしに向けるものと違う気がします……あの顔を向けられちゃまずいのでは?という気もしますけど。……それに、仲がとてもいい様子……幸せなら、それで良いんですけど。……やっぱり何か、胸が痛みます……
「何か、暗い顔でありますね?」
視線を下げると、翡翠のような瞳が目に入りました。……ルシレーヌさん……
「……はい……」
「リオン様の事でありますな?」
「なんで……」
思わず声に出てしまいました、見透かされてる……
「まあ、わたしは参謀ですので。それぐらいは簡単であります……何が、あったのですか?」
リオンさまに言えなかった分を言うように、舌が滑るように洗いざらい全て話してしまいました。
「ほうほう!それは良いことを聞き……いえ!しかし……アリアレット殿も大胆でありますなぁ……同衾を迫るなど……なるほど寝かしつけ……」
小声で聞こえないところもありましたが、本当に同意します。執務室であんなにべったりするなんて……臭いが移るのも納得です。
「こ、ここここ、恋人だったりするんでしょうか……?」
「ありえませんな」
!!?!???!?
「リオン様は自分より小さい女性が好みだと調査結果が出ていますからな」
!!!!!!!!!
そうなんですか!?!?
「間違いないことは明白。わたしの事をずっと目でおってるのバレバレであります。」
なるほど……つまり!!
「はい……アリアレット殿と男女の仲である事はありません!何故なら!わたしがそういう仲では無いからであります!!」
……!!!よかっ……たぁ……!!何故だか分かりませんが、胸の中が安心感で満たされていきます。……本当によかった……
「しかしラントリス殿……そんなことを気にするとは、やはりリオン様が好きでありますな?」
「えっ……いやいやいやいや!!あたしはただ従者として」
「言い訳無用!ふふふ、健闘を祈っておりますよ。親愛なる同僚として、我らが王を狙う恋敵として!」
……こい、がたき……恋……りり、リオンさまと恋人……??……ふぁぁ……
「ラントリス殿!? ラントリス殿〜っ!!」
ちょっとあたしには……刺激が強すぎますぅ……!!
起きたら夜になっていました。……気絶したのをルシレーヌさんが運んでくれたみたいですね。ちゃんとお礼しなくちゃ……それより……そろそろセットの時間ですね。器具を持って、リオンさまの寝室に向かいます。今日は色々もやもやが晴れていい日だったと思います。それに……こ、ここ、恋……多分、あの方に手を引かれた日からずっと…………ようやく自覚できました。いえ、自覚していたのに目を背けていただけかも知れません。…………王子と、ただの魔法使い。物理的な距離は近いですが、あらゆる物が遠い。……頑張らなくちゃ、ですね。……寝室に着きました。扉をノックし、ドアノブを回します。
「失礼しまぁす……防衛魔法のセットをしに……」
「ほら大人しく寝かしつけられるであります!!悪いようにはしな……あっ」
「えっ」
ルシレーヌさんが……もがくリオンさまを抑えこみながら纏わりついていて……???
「ラントリス!?助けて!!」
ラントリス:赤毛に金の瞳の美少女。144cm。恋に恋する恋愛くそ雑魚なのに脳を焼かれてしまったので最早その想いから逃げられない。