刀鍛冶ですが、何故かボス討伐しています   作:そういうとこだぞ、ムラマサ!

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「……あ………あ………」

膝から崩れ落ち、絶望に打ちひしがれるアリナ。

彼女の目の前には、オレンジ色の一軒家。

しかしその屋根は一部壊れ、家の中も、人形サイズのゴーレムが暴れていた。

「ウソ……まだ……ローンが……三十年も………」

そんな彼女の呟きはお構いなしに、ゴーレムは暴れ続けた。

プルプル震えるアリナ。しかし、スゥーと立ち上がると同時に、彼女の手には、大鎚が握られていた。

「あのクソクレーム………殺ス




ゴーレム討伐戦

 

 

『ゴァァァァァァァァーーーー!!!』

 

怒りを感じさせる咆哮をあげるクレイゴーレム。

 

ムラマサが傷付けたはずの身体は、殆ど修復されていた。

 

「ったく、人が苦労したものを……」

 

「まさか、自己修復能力持ち!?」

 

「その通り!」

 

ゴーレムの肩の上で、元凶たるスレイが、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「コイツには“核”がある。それをブッ壊さねぇ限り、幾らでも自力で修復する。てめぇらじゃコイツは倒せねぇんだよ!」

 

ヒャハハハハ!と笑うスレイ。

 

”核“を壊さない限り続く自己修復。流石はレイドボスだけある。ジェイドたちが挑み、処刑人が倒したボスは遺物(レリック)により強化されたとはいえ、治癒能力までは持っていなかった。

 

そう考えると、厄介な相手になる。何処にあるか分からない”核“を壊すまで、どれだけ時間が掛かるか

 

「(それまで俺が保つかどうか……)」

 

チラッとムラマサの方へと顔を向けると、別の意味で驚いた。

 

「(ウソだろ……この人――――)」

 

 

全く動じていなかった。

 

 

「……ハァ、やれやれ面倒だ」

 

口ではこんなことを言ってはいるが、闘気に満ちた目は真っ直ぐクレイゴーレム()へと向けられ、剣を握る力は緩めていなかった。

 

「(この人、勝つ気満々だ……一体何処からそんな自信が……)」

 

「ジェイドさん!ムラマサさん!」

 

そこに、応援に来た冒険者が数人駆け付けた。これで幾らか戦いやすくなるはず

 

「チッ、雑魚が増えたか……おい、クソ刀鍛冶!さっきはやってくれたな、お返しだ」

 

「っ!」

 

「なにを――――!?」

 

「クレイゴーレム、この街を地獄に変えてやれ!!」

 

スレイの指示が下ると、クレイゴーレムは力を溜めるように身を縮こませる。

 

『ガアアァァァァーーー!』

 

咆哮と同時に、ゴーレムの全身から幾つも岩の破片が四方へと飛び散った。

 

広範囲攻撃か、飛散した破片はムラマサたちや冒険者、街中に降り注ぎ、瞬く間にあちこちで悲鳴が聞こえる。

 

しかし、それだけではなかった。

 

破片が粘土のように柔らかくなったと思いきや、たちまち人形を形成し、人間サイズのゴーレムとなった。

 

「なにっ!?」

 

「分裂したのか!?」

 

「ヒャハハハハ!こりゃ、大変だな?街全体が戦場になっちまった!」

 

「くそ、スレイめ……!」

 

「ふざけたことしてくれたな……!」

 

苦々しく顔を歪めるジェイドと、殺気増々な顔になるムラマサ。

 

分裂した人型ゴーレム、スモールゴーレムたちが暴れれば、冒険者たちはその対応に追われる。これではますますクレイゴーレムの討伐がしづらくなり、最悪の泥仕合になるだろう。

 

「さぁ、始めようぜ!戦争(殺し合い)を!!」

 

「悪いが、晩飯の支度がある。とっとと終わらせるぞ、投影開始(トレース・オン)

 

ムラマサは双剣を手放すと、新たに別の剣を投影する。いや、剣と呼ぶべきものなのか、ジェイドには分からなかった。何故なら、見た目は全く剣に見えなかった。

 

「岩?」

 

そう、それは巨大な岩を削り出して作られた、斧のようにも見える無骨過ぎる斧剣だったのだから。

 

「いくぞ、ゴーレム(デカブツ)。頑丈さは充分か?」

 

 

 

一方その頃 

 

 

イフール・カウンター事務室

 

「あああもう、うっさいなぁ……」

 

ムラマサたちが死闘を繰り広げていることを知らないアリナは事務室で1人、書類を睨みつけながら仕事をしていた。

 

クレイゴーレムが暴れてる大広場からそこそこ近いイフール・カウンターは彼女を残して皆避難し、もぬけの殻だ。

 

それなのに彼女が残って仕事をしている理由、それは

 

「あんのクソ上司ぃ、何が『午前中のクレーム報告書の作成、今日中によろしく』よ!まったく助けに来なかったくせに!」

 

もちろん上司の命令なんかより、自身の安全確保が優先だ。だが、アリナは知っている。  

 

こういう類いの書類は、後回しにすると必ず詳細を忘れることを。そして作成に時間を取られ、定時帰宅は消え、忌々しい残業が待っているのだ。

 

故に、のんきに避難してる場合ではないのだ。

 

「クソ上司……いつか覚えてなさいよ……!」

 

『ガアアァァァァーーー!』

 

上司への恨みごとを吐くと、広場から咆哮が轟く。それに連なり、人々の悲鳴も。

 

「……ずいぶん騒がしくなったわね……?」

 

流石にアリナは外の様子を伺った。

 

細目で広場の方を見ると、巨大なゴーレムが無数の岩の破片を飛散させていた。その肩には、昼間の悪質クレーマーのスレイの姿が見えた。

 

どうやら彼の仕業だと、すぐに分かった。

 

「ま、頭のイカれたクレーマーだし、何をしてもおかしくないわね」

 

日々厄介な”お客様“の相手をしなければならないアリナは、冷静にその様子を眺めていた。

 

どうせすぐに冒険者たちがゴーレムを討伐してくれるだろう。何しろ此処は冒険者の街イフールなのだから。

 

それにあの広範囲攻撃。見た限り特に普通に岩を飛ばしているだけで、大したことではない―――――

 

「ん、ちょっと待って……あの先って………!」

 

飛散した岩の幾つが、よく知る方向へと飛んで行った。そこは閑静な住宅街、アリナの自宅がある区域だ。

 

「は…………?」

 

 

 

 

「……あ………あ………」

 

膝から崩れ落ち、絶望に打ちひしがれるアリナ。

 

スキルを使い、人外の脚力で幾つもの屋根を蹴って自宅へと向かった。

 

近づく度に嫌な予感が膨れ上がり、そしてその予感は的中した。

 

なんてことのないオレンジ色の一軒家。

 

しかし、いびつな煙突が屋根に突き刺さっていた。いや、煙突ではない。

 

クレイゴーレムが放った岩の破片だった。

 

「う………うそ………うそよ……………」

 

大切な我が家に突き刺さっている岩は、むくむくと人型になり、彼女の自宅内に入り込んだ。

 

「……………………」

 

呆然とする彼女の前で、スモールゴーレムは暴れ、窓ガラスは割れ、家具は壊され、扉は外に吹っ飛ばされた。その暴力音は自宅の悲鳴そのもののように聞こえた。

 

大切な我が家に突き刺さっている岩は、むくむくと人型になり、彼女の自宅内に入り込んだ。

 

「……………………」

 

呆然とする彼女の前で、スモールゴーレムは暴れ、窓ガラスは割れ、家具は壊され、扉は外に吹っ飛ばされた。その暴力音は自宅の悲鳴そのもののように聞こえた。

 

「うそ……まだ……ローンが……三十年も………」

 

そんな彼女の呟きはお構いなしに、ゴーレムは暴れ続けた。

 

プルプル震えるアリナ。しかし、スゥーと立ち上がると同時に、彼女の手には、大鎚が握られていた。

 

そして、瞳には憤怒の炎が燃え上がっていた。

 

「あのクソクレーマー………殺ス

 

 

 

 

 

大広場

 

 

「ヒャハハハハハ!雑魚冒険者が幾ら集まっても無駄なんだよ!」

 

スレイの笑い声に呼応するかのように、スモールゴーレムたちは、応援に来た冒険者たちに襲いかかる。

 

なんとかスモールの攻撃を躱し一撃を与える。するとスモールたちはたちまち崩れ落ちるが、そこにクレイゴーレムの一撃を受けてしまい吹っ飛ばされる。そこに回復役(ヒーラー)たちが治癒を施す。

 

後衛役(バックアタッカー)は街中なので派手な魔法は使えず、あまり威力の高くない魔法でスモールたちを攻撃するしかない。戦う場所が悪すぎる。

 

それでもジェイドは何か策はないか模索し、クレイゴーレムの敵視(ヘイト)を取り続ける。

 

だが、そこに背後からスモールが近付いてることに気付かず

 

「ジェイド、後ろだ!」

 

「しまっ―――――」

 

他の冒険者の声でようやく気付いたが、すでにスモールの拳はジェイドを捉え――――

 

「おらっ!」

 

ドン!と、ジェイドの眼の前でスモールが岩の斧剣でペシャンコにされた。

 

「無事か、ジェイド」

 

「あ、ありがとうございます、ムラマサさん……」

 

「礼はまだ早い。それよりも、まだいけるか?」

 

ムラマサは真っ直ぐジェイドを見つめる。その目はやはり、諦めを感じさせない強い目だった。

 

「はいっ!まだまだいけます!」

 

正直に言えば、そろそろ限界だ。だが、そんな目で見られたら、意地でもやってやろうという気になる。

 

「なら、もう少し耐えてくれよ!」

 

そう言い、ムラマサは斧剣を肩に担ぎ、クレイゴーレムへと向かい走り出した。

 

「みんな、ムラマサさんの援護を!!」

 

ジェイドの呼びかけに、冒険者たちは何とか力を振り絞る。

 

前衛はスモールたちをムラマサに近付けまいと一切を引き受け、後衛は魔法でクレイの周囲にいるスモールたちを退かす。

 

そしてジェイドは、何度目かの幻惑魔法でクレイゴーレムの視線を誘導する。

 

「チッ、性懲りもなく。潰せ、クレイゴーレム!!」

 

だが、スレイもそうはさせまいと、クレイゴーレムを無理矢理ムラマサの方へ向かせ、攻撃の指示を出す。

 

『ゴァァァァァァァァーーーー!!!』

 

クレイゴーレムが今度は片腕に鉱石を生み出し、まるで巨大なハンマーを作り出す。そして、ムラマサにそれを振り下ろした。

 

「憑依経験、共感完了……投影装填(トリガー・オン)

 

だがムラマサは奥せず止まらず、岩の斧剣に記録されてる秘技を、その手で振るった。

 

全工程投影完了(セット)――――是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)

 

 

刹那――――

 

 

9つの閃光がクレイゴーレムを捉えた。それにより、岩の巨体は頭部とそれぞれの腕と足を半分に、胴体を4等分、合計9つに割れた。

 

「なにっ!?」

 

「なんだ、いまの……」

 

スレイやジェイド、他の冒険者は驚愕を隠せない。何故なら彼らの目には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

彼ら、いやムラマサも知らない。これはとある世界の英雄が、とある怪物を倒すために生み出した秘技。全ての斬撃が一つに重なって見えるほどの”ハイスピードな九連撃“なのだ。

 

「いだっ!?」

 

ゴーレムの肩から落ち、地面に尻餅をつくスレイ。それを見たジェイドはすぐさま取り押さえようとしたが、九つに裂けたはずのゴーレムの欠片が動きだしたのだ。

 

「まさか、今のでもまだっ!?」

 

「は、ヒャハハハ!なかなかだったが、所詮刀鍛冶!冒険者さまの真似事をしてるヤツが、レイドボスを倒せるわけねぇんだよ!」

 

徐々に修復するゴーレム。だが、その姿を見てもムラマサの表情は変わらなかった。むしろ笑みを浮かべていた。

 

「いや、おかげで”核“の位置はだいたい分かった」

 

「えっ!」

 

「な、なんだとっ!?」

 

先程の攻撃は、単に”核“の位置を見極めるため。あわよくば仕留めるつもりだったが、充分。

 

今度は確実に仕留める、と思っていたが、その必要はなくなった。”核“など関係なく倒せる者が来たのだ。

 

 

ドオォン!!と何かが、修復されたばかりのクレイゴーレムの腕にぶち当たった。

 

『グルアァァァァァァァァーーーー!!??』

 

修復されたばかりの腕を引きちぎられ、悲痛な悲鳴をあげるクレイゴーレム。そのまま巨体はグラリとその場に尻餅をつく。

 

「こ、今度はなんだ!?」

 

もはやから笑いも出来なくなったスレイ。人々の視線の先、千切れた片腕の上に、ふわりと外套の裾を翻し、何者かが着地する。

 

小柄な体型だが、頭から外套をかぶり、巨大な大鎚(ウォーハンマー)を携える者。ムラマサとジェイドがよく知る存在。

 

「ま、まさか……!」

 

「あれって……処刑人か!?」

 

「なんでこんなところに!?」

 

「攻略が行き詰まったダンジョンに出るんじゃなかったのか!?」

 

処刑人の事に気付いた冒険者たちは、フードをかぶる大鎚使いに注目する。

 

だが、当人はまるで関心はなく、無言で足場にしていたゴーレムの片腕から下りた。

 

「よし、終わったな」

 

「え、何を――――」

 

「言った通りだ。アイツが出た。これでこの騒動は終わりだ」

 

 

 

「………」

 

「ヒャハハハハ!こいつはいい。ギルドが血眼になって探してるヤツじゃねぇか!てめぇをぶっ潰せば、ギルドの、メンツも「うるさい」まるつぶ……え?」

 

ズカズカとスレイとゴーレムに歩み寄る処刑人。

 

 

 

「な、1人でやるつもりか!?無茶な――――」

 

「辞めとけ」

 

応援に行こうとするジェイドを、ムラマサは肩を掴み止めた。でなければ

 

巻き添えを受けるぞ(潰されるぞ)

 

「えっ?」

 

 

 

「私の癒やしを……」

 

「は、なに言って―――――」

 

「………あの家は……私の……数少ない………癒やしの空間………」

 

「な、なんの話だ……?」

 

一歩一歩近付きながら、何かブツブツ呟く処刑人。その姿に、スレイの中に、徐々に恐怖が膨らむ。

 

ゴーレムも、千切られた腕を修復しているが、眼の前の強者(処刑人)にピクリとも動けなかった。

 

「オアシス……私の………天国を………よくも………よくも……よくも……」

 

ビリビリ感じる殺気と怒り。外套がユラリと揺らいだ瞬間―――――

 

「ぶっ殺すっ!!」

 

激しい怒気と共に地を蹴り上げ、ひとっ飛びでゴーレムの頭上に飛び上がり、大きく振りかぶった大鎚を、空気を唸らせ、勢いのままにゴーレムに叩き付けた。

 

ドゴンッ!!と鈍い音がする。本来物理攻撃に耐性があるはずのゴーレムに、あっという間に全身にヒビが入る。

 

「なっ!そんなっ!?」

 

 

 

「なんて攻撃力……」

 

処刑人…いや、アリナの姿を見て、改めて驚愕を受ける。彼女の外套は本当にただの身元隠しのためのもの。大した防御力はない。レイドボスでなくとも、普通の魔物の一撃でも受けたら致命傷だ。

 

だが、彼女にはそんなの関係ない。その前に叩き潰せば良いだけだからだ。

 

「ムラマサさんといい、なんなんだ………」

 

「おい、(オレ)はあんな化け物じゃねぇぞ」

 

 

 

「私の楽園を破壊した罪……万死に値する……地獄で永遠に悔い改めろ」

 

ジェイドの驚きなどつゆ知らず、アリナは怒りのままに大鎚をゴーレムに叩き込む。

 

ゴーレムの左腕は千切り飛ばされ、右足は潰され、左足は砕かれ、右腕は肩を残し消えた。

 

「そ、そんな……こんなことって……!?」

 

慌てるスレイのことなど知らず、外套をはためかせ、空中で大鎚を振りかぶる。

 

「死んで詫びろ……このデカブツがぁぁぁぁーーーー!!」

 

アリナの怒りの一撃が、ゴーレムの頭部に叩き込まれた。その衝撃は、大広場全体に響き渡り、冒険者たちを揺らした。更に、ゴーレムの頭部、その中に隠された”核“は胴体にめり込み、悲鳴をあげることもなく、塵となり霧散していった。

 

 

「終わった……?」

 

 

「俺たちがあんなに苦労したゴーレムを……」

 

 

「あんなの有りかよ……」

 

 

「これって、夢……?」

 

 

応援に来た冒険者たちはあっけらかんとなる。その気持ちはジェイドはよぉーく分かる。それだけ彼女の力は絶大なのだ。それにより、彼はストーカー化してるのだから。

 

すたん、と着地したアリナは、そんな冒険者たちに目もくれず、残されたスレイのもとに歩き出した。

 

「く、来るな……来るなァァァーー!?」

 

頼みのゴーレムを失い、もはや抵抗という抵抗が出来なくなったスレイ。

 

「何者なんだよ、てめぇ!なんだその力は!?ありえねぇ、ありえねぇ!ホントに人間かよ!!」

 

「他人の……」

 

「へっ?」

 

ボソリと何かをつぶやくアリナ。そして

 

「物を壊しては、いけませんって……」

 

「あ、あぁ……!」

 

スレイの目の前に辿り着いたアリナは、すっかり血の気の引いたスレイに、ゆらりと大鎚を振り上げ、立ち止まる。

 

「教わらなかったか……この――――」

 

「たすけ―――――」

 

「くそクレェマァァァァァァーーーー!!」

 

 「たすけてぇぇーーー!!??」

 

 

 

「アリナ」

 

 

 

めごんっ!!と街中に打撃音が轟いた。

 

シュウウウ……と土煙をあげ、スレイが…いや、スレイのすぐ横の石畳に大きく陥没していた。スレイは意識を彼方に飛ばされ、下半身に臭い臭いを漂わせ、濡らしていた。

 

フゥ〜…と息を吐くアリナ。彼女の頭をフード越しに撫でる者が

 

「よく我慢したな、偉いぞ」

 

「うっさい……子供扱いすんな、ムラマサ……」

 

 

 

「私の……おうち……」

 

「うわ〜、これはヒドイ」

 

「なるほど、それで参戦したのか……」

 

夕暮れの赤色に染まるイフールの住宅街。アリナは半泣きで道ばたに膝を抱えてうずくまり、ムラマサとジェイドはボロボロになったアリナ宅を見上げていた。

 

クレイゴーレムによる復旧作業は既にあちこち始まっていた。もう夕方であるが、木材や工具片手に土木技師たちがあちこちで忙しく駆け回っていた。

 

しかし、クレイゴーレムを大広場で足止めし、()()に討伐されたので、街の被害は最小限に済んだ。スレイもすぐに街に駐屯していた騎士団によって拘束、地下牢に投獄された。もちろん、冒険者ライセンスは剥奪。だが、そんなことはアリナにとってはどうでも良かった。

 

「グスン……おうち………」

 

「こりゃ、派手にやられたな……」

 

「あぁ、これはとても住めたもんじゃないな」

 

鼻をすするアリナ、正直街よりも、何より目の前の我が家が一番守りたかったものだったのだ。 

 

「うぅ……明日からどうやって生きていけばいいのよ………仕事で疲れた心と体を……何処で癒やせば良いのよ……ローンがまだ三十年もあるのに……」

 

あんまりよ…と嘆くアリナ。そんな彼女にどう声をかければ良いのか分からないジェイド。暫し何か迷うかのように考え込み、そして意を決してある提案を出した。

 

「アリナさん………こ、今夜!!俺んち、泊まるか!!」

 

「ムラマサのとこに泊まるに決まってんでしょ。ふざけたこと言ってる暇があるなら復旧作業手伝いに行け」

 

「………はい?」

 

ポカンと固まるジェイドの前で、すぅと立ち上がり、パンパンッと土を払うアリナ。

 

「そういうことで、良いわよね?」

 

「あぁ、良いぞ」

 

そして何事もないかのように、あっさり快諾される光景に、流石に頭が再起動された。

 

「ちょちょちょちょちょっとちょっと待った!!??」

 

「なによ?」

 

「どうかしたか?」

 

「いやいやいやいや!!なんで俺はダメですが、ムラマサさんはオッケーなの!?」

 

「自分の行いを振り返りなさい、ストーカー野郎。あんたんとこに泊まるより、断然マシよ。寧ろ美味しい料理食べれるし、役得かも」

 

「コイツと比べられるのは不本意だが、後半は嬉しいな」

 

「いやいや!年頃の男女が同じ屋根の下で過ごすなんてどうなんだよ!?」

 

「あんな提案出しといて、何言ってんのよ。それに、ムラマサのとこに泊まる事なんて()()()()()()()()()()()

 

「………えっ?」

 

「そういえばそうだな……2回ほど泊まった事あったな」

 

「そう言う事だから。それじゃ、私はこれから残業だからね」

 

(オレ)も晩飯の買い出しに行かないとな」

 

「はい……お気をつけて………」

 

ジェイドの魂を感じさせない声が、住宅街に静かに消えていった。

 

 

 

 

 

ムラマサ宅 キッチン

 

 

「さて、そろそろアイツ(アリナ)が来る頃だし、サクッとやるか」

 

いつものエプロン姿で準備万端のムラマサ。今日からアリナが泊まるので、今日の晩ごはんだけでなく、暫くの食料も買い込んだ。

 

それと、彼女から美味しいものを期待されているので、それに答えねば料理人()でない。

 

「さてと、まずは――――」

 

取り出したのは、先ほど市場で買ってきた、一匹のメスと多くのオスが共に群れをなす、“ギャルゲーサーモン”のオスの切り身。因みにメスは身よりも、その卵の方が絶品とされ、たった数粒だけでもアリナに新しい家を一括で買える位の値段をする。

 

この切り身に、調理用の酒を少しと、両面に塩をふる。これは生臭さをとるためのもので、5分ほど放置。時間が経ち、切り身から水分が出てきたら、調理用紙でよく拭き取る。その後、塩コショウで味付けをする。

 

玉ねぎと人参を薄くスライス。食べると生気が回復し、ポーションの原料にも使われる”ヤルキノコ“はほぐしておく。

 

ここで、また調理用の紙を用意。ただし今度のは大きく広く使用する。

 

紙の中心に、、玉ねぎと人参、細かく砕いたコンソメの粉をふりかける。その上にヤルキノコとギャルゲーサーモンをのせ、最後にバターをその上にのせる。

 

食材をのせたら、それを包むように四方を折り込む。これをフライパンに並べ、蓋をし、弱火で15〜20分蒸し焼きに。

 

「そんじゃ、その間にサラダと汁物でも作るか。それとオマケも――――」

 

 

 

20分後・・・

 

 

「おじゃましま~す」

 

丁度良いタイミングで、残業を終え、着替を持ってきたアリナがやって来た。

 

門を抜け、本邸の扉を開けると、何やら良い香りが、疲れた彼女の食欲を湧かせた。

 

「これって……コンソメ?スープかしら……?」

 

「お、来たか」

 

そこに、キッチンからムラマサが出迎えてくれた。

 

「荷物は居間に置いてくれれば良い。とりあえず、もうすぐ晩飯出来るから、机に並べるの手伝ってくれ」

 

「りょうか〜い」

 

言われた通り、アリナは居間に荷物を仮置きし、食器類や、既に出来たサラダやパンを居間に運んでくれた。

 

その間、蒸し焼きにした鮭をフライパンから取り出し、紙を広げ、パセリを添えて、皿に盛り付ける。

 

「よし、完成っと……」

 

 

 

居間

 

 

「ほら、晩飯はギャルゲーサーモンの蒸し焼きだ。どーぞ」

 

ホワッと紙の中から香ばしい香りが漂う。この香りだけでもおかずになりそうだ。

 

「へぇ~、焼くんじゃなくて蒸したんだ……」

 

鮭の蒸し料理なんて、あまり見たことも聞いたことないので、ついマジマジと見てしまう。

 

「それじゃ、さっそく……」

 

フォークで鮭と野菜を一口サイズにとり、口に運ぶ。

 

口に入れた瞬間に、あの香りと味が口を占領し、まるで溶けるかのような柔らかい食感。

 

「美味しい……良いじゃない、この味付け」

 

「このままでも良いが、コレも試すか?」

 

そう言って出したのは、小皿に薄緑色のソースのようなものがのっていた。

 

 

 

10分ほど前・・・

 

 

「前に試した“コレ”を使ってみるか」

 

取り出したのは、緑色の根っこのような形をしたもの。遠い島国で採れるという”ワサビ“と呼ばれる山菜だ。マスタード並に辛いが、これが中々イケる。

 

これをすりおろし、マヨネーズと、同じ島国で使われてる”しょう油“と言われる調味料を混ぜて完成。

 

 

 

「今回試しに作ってみたんだが、また違った味が楽しめると思うぞ」

 

「なるほど……」

 

そう言われては、試してみるしかないと、スプーンで特製ソースをとり、鮭にかける。そしてまた一口、口に運び入れる。

 

「っ!!」

 

マスタードに似た鼻を抜けるような辛さ、だが病みつきになりそうな旨さ、ソースをかけるだけで、料理が別ものへと姿を変えた。

 

「良い……これ凄く美味しいっ!!」

 

そう言い、次々と蒸し焼きの鮭や副菜のサラダ、スープが消えていく。

 

「そうか……それは良かった」

 

 

 

 

 

別side

 

 

「ここに出たのか、処刑人は」

 

「そう聞いております」

 

クレイゴーレムが暴れた大広場。まだここには復旧作業が行われておらず、まるで戦場の跡地のようだった。いや、レイドボスとの戦闘で、これだけの被害で済んだのは奇跡だろう。

 

そんな場所に2人の男女が訪れていた。

 

1人はひっつめ髪に、銀縁眼鏡をかけ、いかにも秘書官らしい格好をした女性『フィリ』。

 

もう1人は短く刈り上げた頭に、鋭い目つきに浅黒く焼けた肌。皺があるものの、ガッチリとした体格の初老の男性『グレン・ガリア』

 

「白銀のジェイドもそうですが、どうしてあなたたちは処刑人などという不確かな存在に固執するのですか?優秀な攻撃役(アタッカー)はギルドに多く在席してますし、一度は諦めた『ムラマサ・ソーディアス』もおりますよ」

 

「ムラマサは、アイツとの勝負に負けたから、望みはほぼない。まぁ、諦めてはないがな」

 

グレンの足元の石畳。そこには九つの抉られた跡があった。報告によれば、ムラマサによるものらしい。

 

「それと処刑人だが、とんでもない可能性を秘めてるからだよ」

 

「……神域(ディア)スキル、ですか」

 

「まだ分からねえけどな。だが、確かめる価値はある。だから、今のとこ俺もジェイドと同意見だ。奴を白銀に入れたい」

 

「はぁ~……分かりました。あなたの判断に任せます、()()()()()()()()

 

そう言いながらフィリは下がり、冒険者ギルド最高幹部のギルドマスターは、夜闇に向けて、己が力を行使する。

 

「イフールを守ってくれたことは感謝するが、姿を現したのは運の尽きだったな処刑人。恨むなよ―――――」

 

右手をかざし、その名を唱える。

 

「―――――スキル発動、『時の観測者(シグルス・クロノス)』」

 

 

Sido Out

 

 

 

 

 

ムラマサ宅

 

 

「はぁ~、スッキリした……」

 

夕食後、前に泊まった時に使った空き部屋に荷物を置き、予め用意してくれていたお風呂で今日の疲れを洗い流していた。

 

浴室も木材で囲まれており、街の公共入浴場とはまた違った安らぎを得られた。

 

タオルで髪に残った水滴を拭き取りながら、部屋に戻ろうとした時―――――

 

カンッ!  カンッ!   カンッ!

 

何か鉄を叩く音が聞こえる。今日の復旧作業は終わっている。だから外で作業している人間はいない。

 

それに音源はこの邸内から。となると場所は、アリナは心当たりがあった。

 

 

 

カンッ! カンッ! カンッ!

 

「………」

 

ムラマサはひたすら鉄鋏で掴んでいる細長い鉄の棒に、大鎚を振るい、長方形に延ばす。

 

カンッ! カンッ! カンッ!

 

「フゥ〜……」

 

片手に持っていた大鎚を置き、長方形に延ばした鉄の棒を半分に折り畳む。そして再び大鎚を振り上げ―――――

 

「やっぱりいた」

 

そこに、寝間着姿のアリナがひょっこり顔を出した。ここは邸内にあるムラマサの工房。夕食の片付けが済んだムラマサは、ここに来ていた。

 

「アリナか……」

 

「お風呂、先に頂いたわよ」

 

「そうか、(オレ)も丁度今から寝るンだが――――」

 

「大鎚片手に何言ってんだ。ウソつくならもう少しマシなウソつけ」

 

ハァ〜…と、仕方なく作業を続けるムラマサ。

 

カンッ!カンッ!と鉄の棒を打ち続け

 

「何か用か、風呂ならそのままに――――」

 

「工房から音が聞こえてね。せっかくだから見に来た」

 

「……邪魔だけはするなよ」

 

そう言い、ムラマサは続けた。

 

時間はそう長くない、聞こえるのも鉄を打つ音。だがそれでも、アリナにとっては、なかなか新鮮で、安らかな時間だった。

 

 

 

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