刀鍛冶ですが、何故かボス討伐しています 作:そういうとこだぞ、ムラマサ!
イフールの町からやや離れた場所。石造りの巨大な要塞。見張り塔にはギルド旗がそびえ、堅牢な鉄門を越えると小さな町ほどの広さ。
かつてS級ダンジョンであったが、当時の“白銀の剣”が完全攻略し、現在は冒険者ギルド本部として活用されている。
その中の長い廊下でムラマサは一人、ギルドマスターのグレンに指定された場所へと向かっていた。
何時もの黒いライトアーマーの上に白色の袴姿に、何かを包んでいる大きな風呂敷を抱え、ただ黙って歩いていた。
そして、大きな鉄扉の前にたどり着き、そこを開ける。
その先には広い中庭が広がっていた。ただし花壇やベンチなどはない。あるのは大人数で戦闘してもなんの問題も無いくらい何もない広場。
これは庭と言うよりは闘技場と呼ぶもの。ここはギルド所有の中でも最大の訓練場なのだ。
「あれ、ムラマサさん?」
「………なんであんたも来るのよ」
更にそこには先客の姿が。
明らかに不機嫌そうなアリナ。そして、ジェイドだけでなく、白銀の剣メンバーが揃っていた。
「ムラマサさん、お久しぶりです」
白魔道士の純白のローブを着た少女。持っている魔杖ロッドよりも小柄で、くりくりした愛らしい瞳と切りそろえた前髪のせいで外見は幼女そのものだが、これでも立派な“白銀の剣”の
「おひさっす、ムラマサさん!」
黒いローブ、黒い魔杖、全身真っ黒な格好の長身痩躯の魔道士の男。やや吊り気味の猫目、ワイルドにツンツンした髪型でヤンキーのような見た目だが、性格は良い方でジェイドに負けるとも劣らずのファンがいる“白銀の剣”の
「おう、息災そうだな。ルルリ、ロウ」
「はい。あ、ムラマサさん!ギルドの新メニュー食べましたよ!ナポリタン、すごく美味しかったです!」
「あぁ、俺も食べましたよ。特にライスの上に焼いた牛肉をのせた”ギュウドン“ってやつ、美味かったよ!」
「そうか、なら考案したかいがあったよ」
ジェイドと違って、2人とはあの模擬戦以外に交流はあまり無い。だがその模擬戦後、たまにギルドで顔を合わせたら少し会話したり、ムラマサからの依頼(素材調達)を引き受けたりする位の仲になった。
「ところで、その風呂敷何なんだ?何入ってんすか?」
「あぁ、これは――――」
「揃ったようだな」
ムラマサが答えようとしたとき、ギルドマスターのグレンと、秘書のフィリがやって来た。
グレンは皆の顔を見て満足そうにしていたが、フィリの方はアリナの方を怪しそうにジッと見ていた。
そのアリナの方も、上司であるはずのギルドマスターに対しムスッと無愛想に尋ねた。
「それで、話ってなんですか?」
正直、こんな態度を取ればクビは覚悟しなければならないが、今のアリナにそんなことはどうでも良かった。
何故ならすでに、正体がバレてるからだ。
「いやぁ、こうして見るとやっぱり普通の受付嬢だよな〜。
「そんなの知った事じゃありませんよ。そんな話をするために呼んだなら、帰りますよ?私、これから実家に帰る準備するんで」
「え!アリナさん、実家帰っちゃうのっ!?」
「待て待て、嬢ちゃんは白銀に入るんだ。行くのは実家じゃないぞ」
「ふん!クビにしたければご勝手に。私は死んでも白銀には入りませんから!」
そう言い、アリナはさっさとその場を立ち去ろうとした。
「だから待てって、そもそも俺は、嬢ちゃんを無理やり白銀に入れるつもりはない。まして
「え?」
さすがにアリナも予想外だったのか、足が止まり、目もしばたいでいた。
「そりゃそうだろう。俺も元冒険者、権力に物を言わせ、いやいや白銀をやらせたって良い事は何も無い」
「……じゃあ、なんで呼んたんですか?」
アリナのその言葉を待っていたのか、グレンはニヤリと笑う。
「簡単だ、俺と勝負しろ」
「「……はぁ?」」
アリナだけでない。フィリを除く全員が、グレンの言葉を理解出来なかった。
「えっと……勝負?」
「そうだ、男らしく拳で決めようじゃないか」
「私、女です」
「細かい事はどうでも良い」
どうやら冗談でなく本気のようだ。
「俺が勝てば、大人しく白銀に入って貰うぞ。だが、嬢ちゃんが勝てば……ギルドは
「!」
「そこのムラマサと同じ扱いだ。これから嬢ちゃんが処刑人になってダンジョンに潜ろうが、副業しようが、受付嬢としての立場を脅かす事は一切しない。ギルドマスターの名にかけて約束しよう」
グレンの出した条件にアリナの目は見開いていた。その様子を、ムラマサは懐かしそうに見ていた。
かつてのムラマサも、グレンからの提案を受け、白銀の剣メンバーと模擬戦を行った。
そしてその結果、ムラマサは白銀に勝利し、刀鍛冶として好きにやっている。
アリナの方も、ただ受付嬢クビの危機を回避出来るだけではない。今後受付嬢を続けられる、それは彼女にとって、何百万の報酬より、ギルドの精鋭に指名される名誉よりも、遥かに価値あるものだった。
「どうだ?嬢ちゃんにとって悪い話じゃ―――――」
「スキル発動、
グレンの問いに、アリナは
受付嬢の立場が永遠に確約される。勝負を受けるか否か、考えるでもない。
「し、白い魔法陣に、あの
「じ、じゃあ……やっぱりアリナさんが、処刑人っ!?」
「あぁ、お前らも聞いてたのか」
後ろでロウとルルリが驚き、ムラマサが何か言ってるようだが、今のアリナにとっては、そんなことはどうでも良い。今はただ、目の前の
「そうこなくては、処刑人っ!」
嬉しそうに長年の相棒である大剣を抜刀するグレン。
互いに互いの得物の間合いギリギリに立ち止まる。敵を真っ直ぐ見据え、静かにたたずむアリナ。目の前の強敵に緊張しながらも楽しそうな笑みを浮かべるグレン。
「先に言っておくぞ、俺はそう簡単に勝てる相手じゃないぞ」
バッと外套を外すグレン。それは彼が最初から全力を出す意思表示のようなもの。
「(“現”最強の冒険者と、”元“最強の冒険者か……)」
ムラマサは、相対する2人を見ながら、以前聞いたグレンの情報を思い出していた。
――――グレン・ガリア。現役時代は最強の
“百年に一人の奇跡”と称された
「(それに相対するのは、たった一人でダンジョン攻略を成す幻の冒険者、処刑人。これは中々観物……に、なるかな?」
「俺のスキルは
その通り、相手がどんな武器を使おうと、どんなスキルを持とうと、時を止められてしまえば、歯が立たないからだ。
「さぁ、嬢ちゃん……いや、処刑人!このスキル相手に、どう戦う――――」
「フンッ!!」
「つもrブベラァッ!!??」
グレンのセリフが言い終わる前に、彼の顔面にアリナの大鎚がめり込んだ。ぐしゃりと、何か嫌な音がしたかと思いきや、次の瞬間にはグレンは闘技場の壁へとはじき飛ばされていた。
ただ吹っ飛ばされたわけではない。ズガガガ!と地面にめり込みながらはじかれ、壁に激突してようやく止まったようだ。
もし、壁が無かったら……
「「…………」」
「ま、そうなるよな」
今度はムラマサを除く者たちが言葉を失う。ムラマサはある程度予想していたのか、特に驚いた様子はなかった。
「………ぎ、……ギルドマスターさまぁぁぁーーーー!!??」
一瞬間を置き、フィリが急いで容赦なく吹っ飛ばされた上司の元へと駆け寄る。
「ギルドマスター様!ご無事ですか、ギルドマスター様!?」
「(Ω\ζ°)チーン)」
白目をむいて気絶しているグレン。まぁ、顔面に大鎚叩き込まれ、壁に激突しても死んでいないので、そこは流石だろう。
「ふ、不意打ちなんて卑怯な――――」
ブンッ!! パキンッ!
キッとアリナに睨み付けた瞬間、文字通りフィリの目の前に大鎚が振られ、彼女の眼鏡だけが地面にころがる。
「あ…………あ…………!」
「お互いに武器を抜いてるのにいつまでも喋ってるソイツがいけないでしょ……?」
フィリの目の前に立つアリナは、まさに鬼神のごとく彼女たちを見下ろし、全身から殺気をビシビシ飛ばす。
「私が勝てば……ずっと受付嬢でいられる……あとは、一時的に発生する残業さえ、無くなれば……私の理想が……!」
ブツブツ呟きながら、今まで溜め込んだ負の感情を解き放つアリナ。その姿はまさに、罪人の命を消す、“処刑人”そのものだった。
「ヒッ――――!?」
「ギルドマスター様。実力での決着を提案してくださり、誠にありがとうございます――――――」
次の瞬間、アリナの両眼が殺意に染まり、一切の躊躇なしに地面を蹴り上げる。
「そして死ねぇぇぇぇぇぇーーーー!!!」
鬼気迫る表情と一切容赦ない殺気に、本能的に危機を察して間に入り込んだのはジェイドだった。
「だからあれほど下手に挑むなって忠告したのに!?スキル発動『
「邪魔だチクリ野郎がぁぁぁぁぁ!!!」
雄叫びと共に振り回した大鎚が、ジェイドの大盾に真正面から叩き込んだ。
数々の強敵の攻撃からジェイドを守ってきた大盾は、めきぃ!と凄まじく嫌な音を響かせ、持ち主ごと闘技場の壁に吹っ飛ばされた。
「あぽくりふぁっ!?」
よくわからない悲鳴を最後に、ジェイドはピクリとも動かなくなった。
「「ジェイドぉぉぉーーー!!??」」
呆気なく吹っ飛ばされたリーダーを目の前に、ただ叫ぶしかない白銀メンバー。
そこで、ようやく身体を起こしたグレンは、その顔を青くしていた。
「嘘だろ……ギルド最強の
「む、ムラマサさん……俺の目が確かなら、ウチのリーダーが……吹っ飛ばされたように見えたんですけど……?」
「わ、私の目も……おかしくなったんですかね……」
未だに信じられず、現実逃避しようとする2人に、ムラマサはキッパリ言った。
「安心しろ、お前たちの目は正常だ。ジェイドは間違いなくアリナに瞬殺された」
その言葉に、ロウとルルリの身体から一気に冷や汗が吹き出す。
現最強の盾役が通じない。元最強の冒険者が吹っ飛ばされた。つまり、そういうことだ。
「もしかして……誰もアリナさんを……止められない……?」
ロウは気付いてしまったある事柄を呟いた時、ギロリとアリナの目が白銀の2人へと向けられる。
「「ひっ!?」」
「あんたたちも……私の、邪魔をするの……?」
ぶんぶんと、ひたすら首を横に振り、武器を背中に隠す2人。
代わりに、1人がアリナの前に立つ。
「なるほど、
ムラマサは頭を搔きながら、ルルリとロウに風呂敷を渡し、皆が恐れ震えるアリナの前に何も変わらない様子で立った。
「なによ……いくらあんたでも……私の理想のためなら、容赦しないわよ……?」
「だとしてもだ。お前が受付嬢を続けようが、白銀に入ろうが儂の知った事じゃない……だが―――――」
ムラマサの両手に、白黒の双剣が投影され、鋒をアリナに向ける。
「友人のやり過ぎを止めるくらいは、しないとな?」
ダッ!と、双剣を持って一気にアリナに斬り掛かる。しかし大鎚を横にブンッと振るい、刃を弾き返す。チラッと見れば、双剣は一瞬でボロボロになり、ムラマサは新たに双剣を投影する。
「おりゃっ!」
「せりゃっ!」
容赦ない一撃を叩き込むアリナに、ムラマサは双剣をクロスさせるように斬りかかる。
大鎚と双剣がぶつかり合う。だが、負けるのは双剣。一度ぶつかるだけで、刃はヒビだらけになるか、砕ける。そして大鎚には傷ひとつ付いていない。
だがそれでもムラマサは双剣を投影し、それを振るう。
闘技場に金属同士のぶつかり合う音が何度も響く。
「す、すごい……」
ルルリがポツリとこぼす。それもそうだ。ギルドマスターと白銀のリーダーを瞬殺した相手に対抗しているのだ。
「バカな……不意打ちとはいえ、ギルドマスター様を圧倒した彼女に……」
「そうだな。
「器用?」
「あぁ、ムラマサのヤツは嬢ちゃんの一撃の全てを受け止めてるわけじゃない。2本の剣を砕かせることで、嬢ちゃんの一撃を限りなく弱くさせ、己の最大限の力で受け流してる」
「そんなことを……」
「言うのは簡単だ。だが、あの一撃を少しでも弱められなかったらアウトだ。そこでムラマサも俺たちの二の舞いになる。だが――――」
ムラマサは未だにアリナと打ち合っている。すでに砕かれた剣は50を超えている。表情に余裕は見られないが、負ける様子も見られない。
バキンッ!
そろそろ3桁目の剣に差し掛かった時、2人は互いに距離を取る。
「……あんた、ホントに鍛治師?冒険者やってた方が向いてない?」
「その言葉、そっくりお前に返してやるよ」
そう言い、ポイッと双剣を放り投げるムラマサ。
「
ムラマサの手に、巨大な斧剣が投影される。それは、レイドボスのゴーレムを圧倒した、あの斧剣だった。
アリナも、それに対抗するかのように、両手に全力を込める。
「
「ぶっ飛ばぁぁぁーーーーす!!!」
だが、この瞬間を待っていた者が、もう一人いた。
「スキル発動、『
✤ ✤ ✤ ✤
「ん、あれ?」
気がつくと、ムラマサは1人だけ立っていた。つい先ほどまで戦っていたアリナや、グレンたちの姿もない。
あるのは、果てが見えない程の広い荒野。
そして、そこに突き刺さる
「ここって……」
こんな寂しい場所―――――
こんな悲しい場所―――――
この無限の世界を――――――
ムラマサは、知っている。ここは
「強い力同士のぶつかりが、きっかけとなったか」
ふと、誰かの声が聞こえる。アリナやジェイドたちではない。そのことは、ムラマサが一番よく知っている。
その人物は、荒野の中で、一際高い丘の上に立っていた。
日の光で姿はよく見えない。だが、その男は何も変わらない。
浅黒い肌に赤い外套を纏った白髪の男。この男がこの世界の―――
「やれやれ、結局ここに来てしまったか……いや、それがエミヤシロウの運命か……」
「相変わらずだな、お前は。やっぱりなに言ってるかよく分からん」
「いずれ分かる。それまで精々この力を鍛えるがいい。私は指図しない。ただし勘違いするな、これで、
「やっぱりよく分からん」
「ならば端的に言おう。貴様はまだまだ未熟者ということだ」
なんだ、そんなことは
「
「………」
「そして、いつかてめぇを追い抜かす。それまでそこで見てろ、アーチャー」
「言うじゃないか、青二才が」
✤ ✤ ✤ ✤
「ふぅ~……危ない危ない。ったく、お前さんたちが全力をぶつけ合ったら、いくらココでもただじゃすまねぇよ……」
よっこいしょと、立ち上がるグレン。
彼の周囲は、無音に支配されている。
ムラマサとアリナの戦いに目を奪われてるルルリとロウや、未だに気絶してるジェイド、目の前の現実に思考がパンクしそうな秘書も、全てが停止していた。
このスキルを使ったからには、グレンが負けることはない。なにせ、ここは彼の世界だからだ。
だが、今はそのような気分にはなれない。正直に言うと、命からがら戦地から逃げ延びた兵士の心地だ。
「まったく……これじゃ処刑人じゃなくて、魔神だな……」
先ほど自分の命を狙っていた少女と大鎚をまじまじと眺めるグレン。そして、それに対抗してみせた鍛治師の方へと視線を移す。
「見たことのある刀剣全ての贋作を創り出すスキル……神域スキルでなくても……こいつは使える」
次第に、グレンの顔に笑みが浮かぶ。
「この2人なら……くくっ」
ピキッ
「な――――!?」
無音の世界のはずなのに、突如聞こえた、聞こえるはずのない音。
その音源は先ほどまでぶつかり合っていた、目の前の受付嬢と鍛治師からだった。
「おい……うそだろ……まさか――――」
みし、みし、徐々にはっきり聞こえてくる何かが壊れる音。グレンはありえない予感を感じ、慌ててその場を飛び退いた。
その直後―――――
バキャンッ!!
時のひずむ異様な音を立て、2人が動き出した。
「うそぉぉぉーーーー!!??」
グレンの間抜けな悲鳴を聞き、2人の集中が乱され、互いの武器がぶつかりはしたが、ちょっとぶつかる程度に抑え込まれた。
そして2人とも不思議そうに首を傾げる。
「ねぇ、なんか今、変な感じしなかった?」
「そうだな、なんか一瞬止まった気がしたが……ま、原因はそこのギルドマスターだろうが」
「………」
ムラマサは違和感の原因であるグレンに顔を向けるが、当の本人は顔を真っ青にして、慌てて周囲を確認した。ムラマサとアリナ以外は確かに止まった状態になってる。つまり、スキルを解除したわけではない。
「俺のスキルを……破りやがったのか!?」
時の止まった光景と、完璧な無音の世界の不思議さに、アリナはようやく現状の把握をするために周囲を見渡す。
「なにこれ……止まってる?」
「ほぉ~……これが前に聞いた―――」
「そうだ……ここは俺の“観測部屋”だ……2人とも」
認めたくないが、もはやそれも意味はないと考え、グレンは説明を始める。
「この空間は大いなる時の流れから切り離され、俺以外の時は一時停止する……はずなんだが……嬢ちゃんはともかく、なんでムラマサまで動いてんだよ……」
ハァ〜…とため息をつくグレン。そこでようやくムラマサは自分の状況を把握した。
「あれ!?そう言えばなんで
「知らないわよ」
アリナの方はやはり
「くく……なるほど、そういうことか……!」
「「?」」
「分かったよ、嬢ちゃん。降参だ、俺の負けだ」
パチンッと、グレンが指を鳴らすと、無音の世界に音が戻ってきた。
「ふぅ~ん、ずいぶんあっさり引き下がるのね」
アリナ未だにグレンに疑いの目を向ける。そのグレンは、どこか晴れやかな顔を浮かべていた。
「当然だろう。力比べじゃ絶対勝てない。切り札のスキルは破られた。これじゃ勝てる気なんて一つもねぇ。なら降参するしかないだろ?」
「ギルドマスター様!!」
「な、なんだ……終わったのか……良かった〜!」
「ジェイド、しっかりしてください!」
「うっ……う~ん……」
時を止められていた者たちは、一瞬何が起きた分からなかったが、アリナとムラマサが武器を下ろしているのを見て、勝負は終わったことを察した。
秘書のフィリはすぐさま上司の元に駆け寄り、ロウは安堵にひたりながら、ムラマサから預かった風呂敷をムラマサに返しに来た。ルルリはジェイドに治癒を施していた。
「さて、嬢ちゃんのスキルだが……」
「ちょっと待て、ギルドマスター」
「ん、なんだムラマサ」
「立ち話もなんだ。いい時間だし―――――」
そう言い、ロウから返された風呂敷の包みを開く。
「
「うん!やっぱりムラマサの唐揚げサンドイッチは最高!」
「アリナさん、こっちの焼き魚入りのサンドイッチも美味しいですよ。良かったら食べま――――」
「絶対ヤダ」
「(ガ~ンッ!!)」
「このオムレツ、柔らかくて美味しいです!」
「お!こっちのオムレツ、チーズが入ってるぜ!」
「サラダがシャキシャキしてる。それにこのドレッシングは……もしかして自作ですか?良ければレシピを提供して頂けませんか?」
「いやー!ムラマサの料理は相変わらず美味いな!むしろ前より腕を上げた?お前さん、ギルド本部で料理人やらないか?」
「レシピはやるから、それで我慢しろ」
ムラマサが用意した弁当を広げ、皆食欲を満たしていた。
どうせ碌でもないことになることと、時間が掛かることを予見したムラマサは大量に料理を作り、弁当に包んで持ってきたのだ。
中身は唐揚げや焼き魚を挟んだサンドイッチに、プレーンを含めた中身が違うオムレツ、ウインナー、サラダといった定番を。デザートにフルーツを一口サイズに切ったものも用意した。
因みに飲み物はフィリに頼んで、全員分を用意してもらった。
「モグモグ……ゴクッ。ふぅ~……さて、悪かったな嬢ちゃん。勝負なんてさせちまって。実はちょっと確かめたい事があったんだ。嬢ちゃんのスキルの正体を」
「スキルの正体?」
「
「ふぅ~ん……」
「だが、あくまで仮説だ。これまで神域スキルを発芽させた奴はいなかった!だからこそ、超域スキルは現状で最も価値が高く、『時の観測者』は最強スキルになりえた」
だが、アリナは停止世界に囚われることなく抜け出した。つまり、彼女は初の神域スキル持ちと言うことになる。
「ちょっと待て。だとしたら
「それだ。嬢ちゃんはともかく、何故ムラマサも俺の世界から抜け出せたのか。単純に嬢ちゃんがスキルを破った時に近くにいたせいか。それとも―――――」
「なんだよ?」
「お前さんのスキルは、本当に超域スキルなのか」
「まあなんでもいいです。とりあえず私の平穏は確約されたので」
無関心に話を終わらせ、アリナはデザートのリンゴをかじる。
もう少し興味を持って欲しいところだが、特に指摘せずロウ、グレンもオレンジを口に放り込みながら、ボロボロになった闘技場を見渡す。
「しかし……おそろしい威力だな。壁や床も、
「そうなのか……なぁ、この欠片持って帰って良いか?いい材料に……」
「残念だが欠けてもギルド所有の物だ。だから持って帰ろうとするな」
「それよりも、だから俺は止めたんだよ、マスター」
バナナを食べ終え、大盾以外の装備品全てがボロボロになったジェイドが、不服そうに口を挟んだ。
「アリナさんの力を測りたかったのは分かるよ。けど下手に戦いを挑むなんて自殺行為だよ。今回はムラマサさんが抑えてくれたから何とかなったけど……」
ジェイドの訴えに同意するように、ロウとルルリも頷く。
「確かに。久々に死を覚悟したわ、俺」
「私もです。あ、このイチゴ美味しい」
もちろんグレンはジェイドの忠告をまったく無視したわけではない。万が一を考慮し、処刑人と懇意してるとされるムラマサを、今回呼んだのだ。
「しっかし、実際目の当たりにしてますます気に入ったぜ。その気概……そのへんの野郎どもよりよっぽどたくましいな。ムラマサといい、なんで冒険者やってねぇんだ?」
「俺もそう言ったんだ。けど2人とも今のままが良いんだってさ」
「と・に・か・く!これで私の平穏が確約されたんだからね。もう関わってこないでよ!」
ふん!と鼻をならしてグレンを睨みつけ、アリナはブドウを口に入れ、紅茶で流し込んだ。
そして、バッと立ち上がり、闘技場を出ようとした。せっかく半休取ったので、ゆっくり(ムラマサ宅で)引き篭もりたかった。
「ちょっと待った、アリナさん」
そこに、ジェイドが引き止めた。すると、たちまちアリナの目は真冬の朝よりきつい冷気を宿し、見るもの全てを凍りつかせるような低い声で吐き捨てた
「なによチクリ野郎」
「チクってないって!?むしろ止めたんだ、今回のことは―――――」
「あんたも今後は私に一切話しかけて来ないでよね!もちろん職場に押しかけるのも!」
「………アリナさん、落ち着いて聞いて欲しい」
「やだ。私帰る―――――」
「いや、今お前
「ムラマサうっさい」
「
「……はい………?」
その時、アリナの顔は、絶望に染まった。