湖の求道者   作:たけのこの里派

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また感想返しで心折れたぜ……。



番外編
Fate/EXTRA 月にて踊る斬神の神楽


 ────────男の話をしよう。

 

 剣士と名乗るには余りに飛び抜け、騎士と名乗るには余りに精神がそぐわぬ男の話を。

 

 男がいる場所が、青き星の何処でもない虚数の海底だと気が付いたのはいつ頃だろうか。

 漆黒の貴族服と闇色の外套に身を包んだその男は、そんな異常な状況に対して奇妙に首を傾げるのみであった。

 かつて世界の外側に弾き飛ばされた―――――正確には自分から根源の渦に突っ込んだ際の感覚に似ており、覚醒したばかりだというのに意識を閉ざそうという感覚に襲われる。

 

『なんぞコレェ』

 

 凛々しく、憂いに彩られた美貌に反し、その思考は能天気なそれ。

 そんな問いに答えるように、虚数の海が男に答えを与えた。

 

 月の聖杯ムーンセル・オートマトン。

 太陽系最古の遺物。

 地球の誕生から全てを克明に観察・記録すること。全ての生命、全ての生態、生命の誕生、進化、人類の発生、文明の拡大、歴史、思想――そして魂。

 全地球の記録にして設計図にして神の自動書記装置。

 

 七天の聖杯(セブンスヘブン・アートグラフ)

 それによって構成される、霊子虚構世界『SE.RA.PH(セラフ)』。

 

 元々は異星の文明が地球の生物を記録する為に設置した観測機だったが、「地球の全てを余す所なく観測するには、地球の全てを掌握出来る程の性能が要る」という考えによって、情報だけで宇宙の物理法則を書き換えられる程に収束された光を中枢に蓄えた、万能の器と化した。

 

 この虚構の大河は、そんな聖杯が己の担い手を選ぶため開催される聖杯戦争、そこに出場するには不適格な英霊が廃棄される、云わば月の裏側と言える無限の廃棄場だった。

 

『……あぁ、成る程EXTRA時空か。そして此処はAUOがブチ込まれてたトコな』

 

 その知識が切っ掛けで忘我に放り投げていた記憶の断片を引っ張りあげ、己の状態を把握する。

 

 月の聖杯戦争。

 規格外のアーティファクトと、それを手に入れんとするマナと魔術を喪った魔術師(ウィザード)。そして彼等と共に聖杯を掴まんとする、セラフによって完全再現された英霊(サーヴァント)達のトーナメント。

 

『確かザビーズが立川の聖人相手に頑張る話だっけ?』

 

 大体合っているが、根本的に間違っている事を指摘する者は此処には居なかった。

 

 当然だろう。

 その月の聖杯に、聖杯戦争には不要と断定され裏側に封印されているのだから。

 理由は簡単。先に男が脳内で垂れ流していた様に、この男が参戦した時点でマスターの力量に関係無く勝利が確定する────という、どうしようも無い物だった。

 

 原初の英雄王が財宝によってその力が依存される様に。

 この男は如何にマスターが未熟でも、あらゆる英霊を斬り捨てる程の力量を持っていると判断されたのだ。

 

 ────そんなことはない。

 

 己は未々未熟であり、そんな己を倒す者は数多く居る筈だ。

 そう男は否を唱えるも、虚数の海に返答は無く。

 というか有るわけがなかった。

 

『……抗議は何処にすれば良いのだろうか?』

 

 男の知識の中で、ムーンセルに直接文句を言いに行くのに適した場所。

 通常のサーヴァントならば、聖杯戦争の最中にムーンセルの管理AIにでも聞けるのだが、如何せん男は封印された身。

 気軽に質問できる相手が居ない。

 

『居ないんだったら、此方から向かえば良いんじゃね?』

 

 ────そうだ、京都行こう。

 そんな軽いノリで男は漆黒の刃を抜き、虚数の大海を切り裂いた。

 目指すは月の聖杯が座す、本来聖杯戦争の勝者のみが辿り着ける熾天の座。

 男の目的は一つ。

 

『そこでヤクザばりの抗議をしてやるのだ────ッ!』

 

 ムーンセルの失敗は、男の技量とその吹き飛んだ思考回路をそのまま完全に再現してしまった事に他ならない。

 

 

 

 

 

 

番外編 月にて踊る斬神の神楽

 

 

 

 

 

 

「────『刃世界・終焉変生(ミズガルズ・ヴォルスング・サガ)』」

 

 初手にて万象を終焉に帰す、極限の斬撃が無限に広がる虚数の海を両断する。

 本来無限を両断しようが何の意味も無いが、この斬撃は幕引きの一撃。

 虚数の海は有り得ぬことに一瞬で干上がり、問答無用で廃棄用の世界を砕き尽くす。

 

 そして虚空を当然のように踏みつけ、次元すら跳躍する領域の縮地でもって月の中心、聖杯へと突き進む。

 

 勿論、ムーンセルはその男の行動を察知。

 四〇四光年障壁と呼ばれる、全長3.82205348×10^15Kmの空間と思わせて実際は何百年かけても突破できない無限距離が作られている。

 そんな中枢への無断侵入者を防いでいる絶対の防壁が、男の前に立ち塞がるが────

 

「薄いぞ」

 

 男の斬撃に距離など無意味。

 幕引きの一撃に間合いという概念は無く、更に極めた彼のその振るう刃全てが終焉を与えるご都合主義の刃(デウス・エクス・マキナ)

 男に対して防御という選択肢は死路でしかなく、故にムーンセルは男のデータを削るという選択肢を選んだ。

 

 しかし時間があれば兎も角、縮地という次元を跳躍する術を持つ男は己が削られていくのを完全に無視して、目的地へ全力で駆ける。

 

 そもそも男が熾天の座に向かおうと考え、それを防壁で止めようとした時点でムーンセルは詰んでいた。

 男と戦うには男の力を削り合い、奪う類いのものでしか相対する事はなく、そもそも防衛という時点で極めて不利。

 こと単騎で攻めることに関して、男は余りに長けていた。

 

 月の聖杯は戦争を前に一人の手に落ちる。

 それはムーンセルが諦めるほど、確定した未来だった。

 ただし、

 

「────」

 

 それは、男の戦力のみを計算した場合のお話。

 後一息で熾天の座に届く寸前、男の卓越した知覚能力は一つの事象を捉えた。

 

 場所は月で行われる聖杯戦争のマスターが、そのマスター権を得る為の最初の試練場の学園。

 其処で余りに見覚えのある少女が、下駄箱の様な場所で倒れる瞬間を男は認識した。

 

「桜?」

 

 すると男は足を止める処か踵を返し、何を思ったか少女の元へ走り出したのだ。

 

 ムーンセルは理解できなかった。

 その倒れた少女はムーンセルが用意した管理AIに過ぎず、外見も元となった人物のモノで男の知人では無い。

 そしてそんな彼女はムーンセルにすれば幾らでも替えの利く、それこそ「石ころ」程度の価値しかなかった。

 

 しかし男は彼女に向かった。

 何故?

 真実万能の釜、至高の願望器を前に、何故振り返る? あまつさえ背を向けて走るなど。

 そんな疑問も、男の本体を良く知る者ならば、簡単に答えるであろう。 

 

 ────ソイツは真性の馬鹿なのだ、と。

 

 そんな事は知るよしもなく、ムーンセルは疑問を提示しながら男のデータを削り続ける。

 少女を気遣うが故にムーンセルによる削除は進み、太極の具現は崩れ去り膂力も大幅に落ちてしまう。

 

「……『己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』」

 

 しかし男が呟いた瞬間、ムーンセルは男を見失った。

 正確には、ムーンセルの脅威を見失った。

 男は己の最大の武器を封じる代わりに、その隠蔽用宝具によってムーンセルから男を脅威とする認識を無くしたのだ。

 

 弱体化した男は、己の現状など興味が無いように、消滅寸前の少女を抱えて、保健室に直行する。

 その後少女はAIとしての矛盾に苛まれながらも、己を救った男とのほんの僅かな時間をシステムを弄ることで繰り返し、そんな許されざる甘美な記憶をバックアップに封じ込むだろう。

 

 廃棄されるべきサーヴァントである彼が、何等かの方法で熾天の座に至ろうとも、異常を察知したムーンセルが削除する可能性は高い。

 

 何故なら、幾ら彼とは言え弱体化した今の状態では、熾天の座に居座る哀れな残骸と、ソレに慈悲を与える救世主と戦うのに、己を隠蔽して得物も出さずに勝つのは流石に不可能だからだ。

 そして勝つのは己の廃棄用サーヴァントとしての正体をムーンセルにバラす事と同義。

 

 ムーンセルは、救世主に勝った男を即座に消去するだろう。

 故に『恋』を知りAIの枠組みから超越した彼女が、男を救わんと月を掌握するのは必然であり────。

 

 結果的に見れば、どう足掻いてもムーンセルが詰んでいた事に変わりが無いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 男は校舎を歩く。

 180はあった体躯は少年のソレに縮み、歳も20代の美丈夫から14歳ほどの少年となっていた。

 肉体を構成するデータの大半がムーンセルによって削られたのが原因だ。

 

 しかし己の宝具によって認識データすら隠蔽した。

 『己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』。

 

 抑止力すら欺くこの宝具は、ムーンセルの眼を容易に欺いた。

 故に彼は、その存在をムーンセルが許容する異物と化している。

 

 即ち、聖杯戦争に参加するマスター候補として。

 

「……さて」

 

 ────どないしよ。

 

 しかし、男には目的が無かった。

 先刻までの保健室での管理AIの少女との語り合いで、己の疑問は解消されてしまった。

 即ち、男が月の裏側で廃棄封印されていた理由。

 

『────えっと、ソレは恐らく神霊に匹敵するサーヴァントと判断されたからではないでしょうか? 事実、神霊をサーヴァントとして召喚する事は出来ませんし』

 

 つまり、己より強い存在は居るが、しかし自身は聖杯戦争を行う規準に合わなかった。

 ボクシングで無差別級の試合でも無い限り、ライト級とヘビー級のボクサーがマッチングしないのと同じ様に。

 

 男はそう解釈した。

 そんな具合で、男が無理に熾天の座に向かう理由は無くなってしまった。

 元よりそこまで死に物狂いに目指す目的でもなかったのだから。

 

 しかし、そうなると本格的に目的が無い。

 軽く学園に存在するマスター候補を見回ったが、しかし未だに記憶を取り戻したマスター候補は居らず、何より月の聖杯戦争の勝者となりうる『アムネジアシンドローム』を発症した人間を元とした少年、又は少女は存在しなかった(・・・・・・・)

 

『なしてザビーズ居らんのよ。どないすんのコレェ』

 

 果たして、此れはどうするか悩む事態である。

 今から熾天の座に向かうのは、スペックの劣化が激しすぎる為不可能。

 いや、もしかしたら根性で突破する事もひょっとしたら可能なのかもしれないが、不粋だからやるべきではないと判断した。

 ではどうする?

 

 学園の校舎を回り、男曰くザビーズを探すついでに生徒達を見て回ったが、どうやら選別初日なのか記憶を取り戻したマスターはやはり居なかった。

 尤も、先刻少女が男との時間を繰り返していた時に感じた視線の主(・・・・)とは、本能的に鉢合わせにならない様に立ち回ったが。

 

「……戦うか」

 

 そして結局、聖杯戦争に参加する事を決めた。

 結局、男は戦う事しか能がなかった。

 ぶっちゃけた話、男が弱体化した今頼れる術は己の技量のみ。

 ムーンセルの眼を欺く為に隠蔽宝具を使っている代償に、本命たる『無毀なる湖光(アロンダイト)』が使用できない。

 しかしソレもまた一興。難題だが挑む価値はある。

 

 仮に勝ち抜き聖杯を手に入れたとして、心底の願いなど無いが、ソレはその時考えれば良い。

 「アストルフォが女だったら良いのに」とか、「聖杯戦争の参加者の生存」でも「一個の生命として受肉」だろうと何でも良い────と。

 

 そんな風に考える間に、男は目的地へと足を踏み入れた。

 

 ソコの入口はただのコンクリートの壁に見え、しかし男が正面に立つと突如扉らしき穴がポッカリと空いていた。

 

 ソコはマスターを選出する予選の出口。

 本選会場へ向かうマスター候補にとって最後の関門。

 

 扉は暗い廃棄場にあり、其処には一体のつるりとした肌の人形が立っていた。

 

【────ようこそ、新たなるマスター候補よ】

 

 何処からともなく声が響く。

 

【それはこの先で、君の剣となり盾となる人g】

「要らん」

 

 謎の声の主の助言らしきものを切り捨て、何の躊躇もなく扉の奥へと歩みを進めた。

 扉の先にあったのは教会の様な荘厳さを感じさせる、丁度戦える広さの部屋だった。

 

「…………」

 

 部屋の中心に立つと、背後からカタカタと音を立てて先程の人形が男を屠らんと襲い掛かってくる。

 

 本来マスター候補だけでは太刀打ちすることは不可能であり、先程の人形を用いて現れる敵を倒すか、この場に於いてサーヴァントを召喚することによって、候補から脱しマスターになる権利が与えられるのだ。

 

 ソレに比べて、男は従え操る人形を不用と捨て、本来ならば絶体絶命の状況と言える。

 

 だが如何せん、男は規格が違った。

 幾ら弱体化しようとも、男は月の裏側で廃棄封印されるほどのサーヴァント。

 この様な人形、ガラクタ以下の脅威も無い。

 

 男は剣士である。

 刀を以て敵を斬る。

 しかし現状では刀を抜くことは出来ない。

 なら、どうするか?

 

「────」

 

 人形は殴ろうとした男を見失い、歪な拳は空を切る。

 ソレ処か、そのまま上半身だけがズルリ、と地に落ちる。

 人形の背後で残心を取る男は、素手で人形を切り裂いていた。

 

「切りが無いな……」

 

 人形を瞬殺した男は、しかし再び現れた人形を見て嘆息した。

 しかしまぁ、現状の弱体化した身体のならしに丁度良いか、と割り切りながら二体目の人形を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 現れる人形を次々に切り裂き、倒していく男の姿を、彼女は視ていた。

 その戦う姿は余りに流麗であり、まるで壇上で踊る役者のように美しかった。

 

 ソレを観て、惹かれた者が居た。

 舞う様に戦う男を観て、焦がれた者が居た。

 男にとって、聖杯戦争を共に戦う相棒たるサーヴァント。

 それは────────

 

 青と銀の甲冑を着た見目麗しい少女

 重厚な全身鎧の白銀の騎士

 剣を携えた男装の少女

 妖艶な半獣の女性

 禍々しい鎧に身を包んだ槍持つ昏き少女

 

 ────────さぁ、月の聖杯戦争を始めよう。




欠片男「……遮られた」

と云う訳で、本編の龍之介の描写に詰まった&衝動的にextraを描きたくなった為の突発的番外編でした。

プロローグのみなので、サーヴァントすら決まってません。候補は以下の四名です。

候補
 セイバー・アルトリア
 セイバー・モードレッド
 セイバー・ネロ・クラウディウス
 キャスター・玉藻の前
 ランサー・アルトリアオルタ

と、以上が候補です。
赤セイバーとキャス孤はextra勢として。青セイバーとモー、乳上は縁者としての選択肢ですな。

どのサーヴァントを選んでも、ゲームでは弱体化したサーヴァントが徐々に力を取り戻す話が魔力供給は十分だけど弱体化したらんすろを元に戻していくお話になります。

らんすろの弱体化スペックは以下となります。

ステータス  スキル
 筋力:C    剣技:EX  
 耐久:E    無窮の武練:A+
 敏捷:A     自己暗示:EX 
 魔力:A     信仰の加護(偽):EX
 幸運:A++   異形の毒:EX
 宝具:A(EX)  縮地:A+   

ステータス的にはフランスの竜殺しと同じレベルですね。神霊クラス以上からの弱体化としたらこんなもんですかね。

ステータス回復は、立川の聖人戦には第六法以外の能力が元に戻る感じですね。まぁ本格的に描くにしても、色々変更あると思いますが。
まぁどっちにしろ第六法無しじゃ輪廻転生アタックはアロンダイト抜かないと防げないので、ザビーズと同様削除不可避です。
つまりCCC編不可避です(無慈悲)
CCC編じゃあ、大欲界系痴女さん戦には第六法も完備状態で戦えるかなーとか妄想しました。

アルトリアがサーヴァントならガウェインとの勝負が熱くなるのと、乳上がサーヴァントならガウェインが精神ダメージがマッハとなります。
モードレッドがサーヴァントならガウェインと衝突不可避。だからと云ってネロや玉藻でも、らんすろが原因で空気悪くなりますね。
ハッハァ! ロリコンは消毒だぁ!!

アルトリアがサーヴァントになったら、初々しくイチャイチャしようと試みるセイバーと変態紳士視点のらんすろが見られます。
モードレッドがサーヴァントになったら、終始モードレッドがわんこみたいに尻尾振りまくり飼い主と忠犬が見れます。
乳上がサーヴァントになったら、拗れまくった結果反動でシッポリとイチャイチャ爛れたおねショタが見られます。

赤セイバーとキャス孤はゲーム通りですかね。

とまぁ突発番外編でしたが、本編は五割ほど出来ているので、出来次第更新させていただきます。
問題はネギまがなぁ……。
中々忙しくて進まないのなぁ。

キチンと、感想返せるか分かりませんが、感想待ってます。


※追記
勘違いさせて申し訳ありませんが、アンケートではありません。

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