湖の求道者   作:たけのこの里派

18 / 52
最近よく感想返しに心折れてる気がする(確信)
返信できなかった方は申し訳ない。毎回楽しく拝見してます。
ネギまの方も結構出来上がった来たけど、当初の優先順位が反転したる気が。

でも人気の方のが速く描けるのは仕方がないと開き直りました。

というわけで今回はすべてのサーヴァントを描写します。


第五夜 八時だよ! 全員集合!!

 倉庫街のコンテナの重なり合う影で衛宮切嗣はワルサーWA2000を構えながら、AN/PVS04暗視スコープ越しで乱入者を眺めていた。

 

『我が名は征服王イスカンダル! 此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した!!』

 

 堂々過ぎて最早阿呆の領域になっている、自身の真名の暴露。

 自己主張が激しいとか、そういうレベルではない。

 あのルーラーですら呆け顔だ。

 

「あんな馬鹿に世界は一度征服されかかったのか?」

 

 どうやらサーヴァントの独断なのか、戦車の上に乗っている二人の男が顔色を真っ青にして絶叫している。

 内一人の顔は知っている。

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。

 

「チッ」

 

 思わず舌打ちをする。

 ライダーの構図は切嗣の戦法にとって最悪に等しい。

 あの戦車が宝具だとすれば、恐らく弾丸は届かないだろう。

 空から乱入した事から、飛行も出来ると見て良い。

 

 切嗣の戦法は、サーヴァント同士が戦っている最中にアイリスフィールに気を取られている敵マスターを狙撃すること。

 もしくはサーヴァントとマスターを分離してマスターの撃破だ。

 

 だがあの様にサーヴァントとマスターがくっつかれたら切嗣には手出しができない。

 空を飛ばれたら論外だ。

 

 問題はそれだけではない。

 ルーラーという、聖杯自身が召喚したイレギュラーサーヴァント。

 

 ペナルティとやらの概要は分からないが、一般人への被害を恐れているのだろう。

 これで敵を一般人諸共殺害する方法は難しくなった。

 勿論、魔術の一切絡まない方法ならばまだ可能性はあるだろうが、しかし可能性に過ぎない。

 

 それに聖杯戦争に世界の歪みが生じる可能性があるなど、切嗣には見過ごせる話ではない。

 

 そしてエレイン・プレストーン・ユグドミレニア。

 聴こえた話の内容を鑑みるに、セイバーと面識があるようだ。

 年月を重ねた魔術師ほど、その恐ろしさは増す。

 1500年前もの過去、現在とは比べ物にならない神秘が溢れていたであろう時代の魔術師だ。

 その力量はキャスタークラスのサーヴァントに匹敵するだろう。

 

 幸いなのはセイバーと既知であること。

 セイバーからアイリスフィール経由で情報を聞き、戦術の練り直しになるが、何も分からないよりマシだろう。

 よって現状はまだ切嗣が動くモノではない。

 だが─────

 

「─────どうやって、イリヤの事を……」

 

 銃を握る掌に、冷や汗が滲むのを切嗣は自覚した。

 同時に、不味い、とも。

 

 衛宮切嗣は機械ではない。

 勿論人間なのだが、本当の暗殺者というものは機械の如き無機質さを有している。

 切嗣はそれを模す事は出来るが、成る事は決してできない。

 出来るのならばそもそも正義の味方など、聖杯を望みなどしない。

 

 いや、以前のアインツベルンに訪れる前の切嗣ならば、限り無く機械に近く成ることも出来たかもしれない。

 だが、今は無理だと断言できる。

 現に、娘の事を敵が知っているというだけでこの様である。

 

 今の内に殺しておくか?

 

 切嗣の脳裏に浮かび上がる選択肢を直ぐ様否定し、それが安易な逃避だと切って捨てる。

 

 勝たなければならないのに。

 最愛の妻を代価にしているというのに、ここで負ければ最愛の娘すら喪ってしまう。

 

 衛宮切嗣は、世界を救済しなければならないのだから─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五夜 八時だよ! 全員集合!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をやっているかライダァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!???」

「何を考えてやがりますかこの馬鹿はぁぁあああああああッッッ!!!!??」

「はっはっはっはっ、喧しい」

 

 バチンッッッ!!! と、ライダーの巨腕が繰り出すデコピンが二人の額を捉え、吹っ飛ばす。

 

 ─────憐れ。

 この場にいる殆どの人間がその思考を同じくした。

 ルーラーは十字を切っている。

 

 聖杯戦争に於けるサーヴァントの真名の看破は、最も防がなければならないものの一つ。

 

 何故ならサーヴァントは全てが歴史や神話、伝承に伝わる英霊。

 例えばジークフリートだった場合、不死身の力はその背中だけ適用されない。

 例えばアキレウスならば、神の加護はアキレス腱だけ適用されない。

 伝承に伝わるからこそ、その死因は、弱点は瞭然なのだ。

 

 だがこのライダーのサーヴァントは、それを自ら勝手に暴露(バラ)したのだ。

 そんなサーヴァントのマスターの心境は、彼等の形相を見れば察する必要すらない。

 特に酷いのがケイネスだ。

 先程までは生徒と一緒に叫んでいたのだが、なまじ失敗と縁がなかったのか許容量を超え、顔面が崩壊している。

 

 食べ終わったカップ麺をゴミ箱に捨てて漸く観戦に加わろうとしている同じ馬鹿なら、こう述べるだろう。

 

『─────FXで有り金全部溶かした人の顔』

 

 特にその行動をするであろうと、予め知っていたランサーなど、憐れでならないと、感じるしかなかった。

 少なくとも、

 

「ブッ、くく、むぐぅ……ゴホっ! ブはッ」

 

 頑張って笑うのを必死に堪えて失敗してる自分のマスター程、気楽にはなれなかった。

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……、矛を交えるより先に問うておくことがある─────」

 

 ─────ライダーが言ったのは、つまり勧誘だった。

 自分の下に付き、その上で自分に聖杯を譲れと述べたのだ。

 

「さすれば! 余は貴様らを盟友として遇し、世界を征する快悦を共に分かち合う所存である!!」

 

 極めて得意気に言い放つ。

 断られると思っていないのだろうか。

 

「クックックックッ」

「…………」

 

 ランサーは笑ってはいるが、セイバーにいたっては青筋を浮かばせている。

 

「─────確かに、俺自身に聖杯に捧げる望みなんざねぇ。ソコのセイバーは兎も角、俺は聖杯戦争それ自体が目的だからな」

「ほぅ?」

 

 そのランサーの言葉に、少なからず驚きの声があがる。

 聖杯戦争で聖杯が要らないと言うのは、聖杯を求めるサーヴァントにとっては考えられないことだからだ。

 

 ランサーの望みは強者との戦い、其れだけである。

 故に聖杯戦争に召喚されれば殆ど叶ったも同然だ。

 

 

 尤も、正史や平行世界に於いては、その願いが叶わないという状況が多発する羽目になるのだが。

 

『ランサーが死んだ! この人でなし!』

 

 この場にすら居ないどこぞの馬鹿が、誰にも聞こえない心の声で突っ込みを入れる。

 

「だがよ、マスターには絶対に譲れねぇ願いがある。アンタを優先してやる理由は無ぇよ」

「……、主に捧げる忠節か?」

「そんなんじゃねぇよ。良い女が頑張ってんだ、手を貸したくなるのが男ってモンだろ?」

「むぅ……」

 

 ランサーの言葉にライダーが呻く。

 極めて共感できる答えだったからだ。

 

「ランサーのマスターよ! お主はどうだ?」

「残念ながら私が傅き身を委ねるのはこの世界で……いや、世界の外側を含め唯一人のみ。それに私の願いは世界征服(そんなもの)と同列に扱ってもらいたくないな」

「ほぅ? ではお主の願いとは何だ?」

戦場(ここ)で口にすることではない。滑らせたいのなら酒でも用意するんだな」

「おぉ! それは道理だ!! そうだのぅ、ならばセイバー─────」

 

 ライダーはこの場においては二人を言葉で従えるのは不可能と判断し、セイバーの方を見て─────諦めた。

 

「─────どうした征服王? 戯言を述べたてるなら早くしろ。まぁその頃には、貴様は八つ裂きになっているだろうがな」

 

 先程から殺気しか無い。

 完全にキレていた。

 これではどんな言葉を投げ掛けたところで逆効果にしかならないだろう。

 その殺気にウェイバーが正気を取り戻したのが幸いか。

 

「ソコのルーラーとやらは」

「私は聖杯戦争において完全中立。有事の際以外で、貴殿方の戦い自体には一切関わることはありません」

 

 当然だろうが、ルーラーも断った。

 

「ぬぅ……こりゃー交渉決裂かぁ。勿体無いなぁ、残念だなぁ」

「らいだぁ、どうすんだよぉオマエ、征服とか何とか言いながら総スカンじゃないかよぉ」

「はっはっは。いやぁ『ものは試し』というではないか」

「そんな理由で真名バラしたのか!?」

 

 悪びれもなく頭を掻くライダーにウェイバーが突っ込みを入れるが、その言葉に遂にケイネスが限界を迎えた。

 

「あびゃー」

「先生ッッッ!?」

「オイオイ情けないぞマスターよ、この程度で音を上げる様ではこの先保たんぞ?」

 

 精神面からマスターを殺しに来るサーヴァントなど想定すらしていなかったのだろう。

 だがサーヴァントをただの使い魔扱いすれば待っているのは王のビンタである。

 しかしそんなくだらないことで令呪を使うのは、粉微塵に粉砕されたなけなしのプライドが許さなかった。

 

 英霊は奴隷(使い魔)ではない。ケイネスは認めた。好敵手(エレイン)と出会ったことで、ケイネスは認めることが出来た。

 

 征服王イスカンダルはその事実をケイネスに刻み付けたのだ。

 そして、刻みすぎたのだ。

 

「まぁなんだ、折角こんな機会に出くわしたのだ。全員纏めて征服せずにはいられんかったのよ」

「は?」

 

 ウェイバーはライダーの言葉の意味が分からなかった。

 だが、その答えは直ぐ様出る。

 

「セイバー、それにランサーよ。うぬらの真っ向切っての競い合い。まことに見事であった。あれほどの清澄な剣戟を響かせては惹かれて出てきた英霊が、よもや余一人だけということもあるまいて」

 

 ビクリ、とウェイバーとアイリスフィールの肩が跳ねる。

 ライダーの言っている意味が理解出来たからだ。

 

「おいこら! 他にもおるだろうがッ!? 闇に紛れて覗き見しておる連中は!!」

 

 ライダーの声は最早怒号に近かった。

 

「聖杯に招かれし英霊ども! 今ッ!! ここに集うがいいッッ!!!!」

 

 セイバーとランサーの、大英雄の剣戟はそれほどまでに見事だった。

 ならばこそ、英雄としての矜持を持つものならば、己のように誇るべき真名を掲げて現れるのが英雄だろうと。

 

 

「─────なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れッ!!!」

 

 

 衝撃波に近い、ライダーの咆哮の様な煽りは、ビリビリと周囲に響き渡る。

 

 それを見ても、聞いても。暗殺者故に誇りなど持ち合わせていないアサシンは姿を見せず。

 

 そして、ライダーの挑発に乗った、というよりは面白がった者が、黄金の礫を集めて身体を創るように実体化したサーヴァントが姿を現した。

 

「何……!?」

 

 その姿を見て、エレインの目が見開かれる。

 

 

 

 

 

「────────────あははは、凄い啖呵ですねライダーさん。それに声も大きい」

 

 

 

 

 

 

 其は、黄金の子供だった。

 その服装は現代風のソレであり、ノースリーブのダウンジャケットを身に纏っている。

 

 特徴的なのは、黄金の髪と爬虫類の様に縦に割れた瞳孔の紅瞳。

 何より身に纏うそのカリスマは、ライダーすら上回っていた。

 

「でも残念ですが、セイバーさんやライダーさんもそうであるように、僕も王としての矜持があります。誰かに仕えることはありません」

「ほぅ、やはりお主も王であったか。まぁ当然であるわなぁ。その滲み出る王気(オーラ)、この征服王に全く劣っておらん」

 

 目の前の小さな幼い少年は、大王すら超える王だという証だった。

 

「……チッ、最悪だな」

 

 エレインが思わず愚痴を漏らす。

 当然だろう。唯でさえ最強の存在、が更に強固になったのだから。

 

「おや、お姉さんは僕の事を知っているんですか?」

「少なくとも真名はな。英霊の召喚に使う触媒を手に入れる為のルートを探れば、簡単に知れる。特に御三家なら丸分りだ。そして世界で最初に脱皮した蛇の脱け殻の関係者など一人しかいないからな、英雄王ギルガメッシュ」

 

 エレインの言葉で、周囲に戦慄が走る。

 この世界の神秘は、古ければ古いほどその力を増す。

 

 神話の英雄は神の存在した時代に生まれている、ただそれだけで過分な神秘性を有する。

 後に神や神の一部となったヘラクレスやカルナなどがその最たる者だろう。

 

 目の前の少年は、原始の英雄譚の主人公。

 あらゆる英雄の原典。

 原初の神殺しの王である。 

 

 それが敵として存在するという事実の重さは計り知れない。

 そして自ら国を滅ぼしたギルガメッシュだが、幼少の頃は名君として国を統治していた。

 

 『らんすろ日記』という別次元の知識を得たエレインだからこそ知ることだが、ギルガメッシュの最大の弱点は強すぎるが故のその慢心。

 だが名君として名を馳せた少年時代のギルガメッシュに、そんなものは存在しない。

 

 ギルガメッシュの全ての能力を有しながら、決して慢心しない。

 場合によっては撤退すら受け入れる度量の広さ。

 

 らんすろ日記にはこう記されている。

 ─────子ギル最強説。

 

「全く、最古の英雄をどう御すつもりだったのか。遠坂時臣は何を考えていた? まぁどうせ召喚した時点で勝ちだとか、後の事はあまり考えてなかったんだろう?」

「あはははー、僕のマスターはうっかり性ですから。まぁ、色々あって大人の僕は僕に丸投げしたんですけどね」

「それは遺伝だと聞いている。まぁ今代の当主はそれが顕著らしいが……もし貴様と同格のサーヴァントを誰かが召喚した場合の被害を考えていないのか」

 

 ギルガメッシュの同格のサーヴァントといえば、例えば施しの聖者カルナ。

 核攻撃に例えられる対国宝具を持つ彼が、それ以上の対界宝具を持つギルガメッシュとぶつかれば冬木など日本諸共消し飛ぶだろうに。

 

管理者(セカンドオーナー)としての自覚があるのか? 奴は」

「いやー、ぐうの音も出ない正論ですね」

 

 遠坂邸で、一人の魔術師が膝を突いた。

 

 勿論遠坂時臣である。

 綺礼は無自覚に笑みを浮かばせながら、エレインとギルガメッシュの会話を一字一句漏らさず伝えていたのだ。

 魔術師として誇りを持っていたからこそ、彼らの会話は突き刺さった。

 

 まぁ召喚された成年体のギルガメッシュは、現代の堕落加減に嫌気がさして若返りの霊薬を用いて幼い自分に(聖杯)の回収を全て任せたのだが。

 遠坂時臣のせめてもの救いは、子ギルがかなり寛大で自重も融通も利く人物であったことだろう。 

 しかしこれで五騎が集まったのだが、それで終わることはない。

 セイバーの未来予知に匹敵する直感が、己の危機を察知した。

 

 それが、自分にとって決して忘れられないモノだと気付きながら。

 

「─────ッ!!」

 

 直後、宝具と見紛う程の巨大な赤雷がセイバーを襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、倉庫街から少し離れた浜辺で、ローブの様に変化した外套(フード)を深くかぶり顔を隠した男が、その赤雷を見た。

 

「…………」

 

 顔を隠した男は何も語らずに、その場へと向かう。

 

『……気まずい』

『いや、寧ろ会ってやるべきじゃないのか』

『だって敵前逃亡よ? 軍属としては銃殺モンだよ銃殺モン』

『はよ行け』

 

 混沌は、深まるばかり。

 

 




全員が顔見せするとは言っていない()

一体、誰が子ギルの登場を予想しただろうか(感想見ながら)
ちなみに子ギルなのは演出上の都合がかなり大きいので、そこらへんはご了承くだせい。
ちなみに自分は「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」の子ギルを参考にしております。ご注意をば。

それと活動報告に弱音を吐きました(そんな報告をするな)
良かったら意見を頂ければありがたいです。

修正or加筆点は随時修正します。
返信出来ないかもですが、感想待ってまする(*´ω`*)














しかしそろそろ他の作品も描きたくなってきやがったぞぅ。
HSDDとか。

追記

皆さんの感想や意見から、素直に今の作品の完結を目指そうと思います(´・ω・`)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。