湖の求道者   作:たけのこの里派

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アニメのランサーの兄貴が強すぎてニヤニヤが止まらなかった。
戦闘描写の参考が増えてウハウハ。
ちなみにサブタイは何の意味もありません。



第九夜 薄い本的展開阻止系男子  

「サーヴァントを喪ったマスターとして、教会の保護を受けます」

「受諾した。これより教会が君の安全を保証しよう─────まさかこんなことになるとはな、綺礼」

 

 冬木市の新都、その町の外れの集合墓地付近に存在する冬木教会。

 その聖堂内部に二人の人間が居た。

 

 一人は言峰璃正。

 若き日に第三次を経験し、今回の第四次聖杯戦争の監督役として聖堂教会から派遣された第八秘蹟の司祭。

 八十の高齢ながら、その肉体を包む筋肉は彼の苛烈な修行を垣間見せる。

 何より、彼は遠坂時臣の協力者だ。

 

「いえ、自分は何も出来ずに終わった無能もいいところ」

「そう言うな。アサシンを偵察に向かわせたのは時臣君の采配。綺礼、お前には何の責任もない。何、疲れただろう。奥で休んできなさい」

「……分かりました」

 

 もう一人の名は言峰綺礼。

 璃正の実の息子であり、元は聖堂教会の異端討伐の代行者まで務めた戦士。

 此度の聖杯戦争で令呪を得てしまったが故に、時臣の弟子として魔術協会へ異動。

 その後師弟の袂を別った様に装い、アサシンのマスターとして遠坂へ協力していた。

 

 だが、その腕にマスターの証したる令呪の姿はない。

 アサシンが謎のサーヴァントを追跡中、視覚の同期を行っていた綺礼の眼には、謎のサーヴァントが一瞬で消え失せた様にしか見えなかった。

 

 その瞬間、アサシンとのライン諸共サーヴァントとの繋がり、果ては令呪までもが消え去った。

 

 使用してもいない令呪の消失。

 それはサーヴァントの消滅に他ならない。

 故に敗退したマスターとして、教会の保護を受けるべくやって来たのだ。

 

「……」

 

 与えられた、しかし綺礼の私物が溢れた部屋のソファーに座り込む。

 

「これで……」

 

 これで良いのか? 

 

 言峰綺礼は自問する。

 此処へ来たのは必定だった。

 遠坂時臣の指示でもあり、そして気遣いでもあったことも判る。

 他のマスターは自分の事も調べているだろう。

 特に綺礼が執心のあの男ならば間違いなく。

 もしサーヴァントを喪った状態で遭遇すれば、マスターとして間違いなく襲ってくるだろう。

 

 敵がマスター単体なら兎も角、サーヴァントと共に襲われれば流石の綺礼も一溜まりもない。

 故に言峰綺礼が教会へ保護されたのは最適解であると。

 

「衛宮、切嗣─────……」

 

 父にも時臣にも告げていない、綺礼の聖杯戦争に臨んだ理由。

 彼と同じ破綻した行動原理の経歴を持つ、言峰綺礼の望む“答え”を得た可能性を持つ男。

 問えば解ると、問わねばならないと。

 そう思って聖杯戦争に参加した。

 しかし接触することなく脱落。

 外出が許されない教会に居る。

 

「─────汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならん」

 

 沈黙を破ったのは綺礼でも璃正でもない、金髪紅眼の幼き英雄王だった。

 どうやら、己がマスターの元には帰らなかった様だ。

 ─────『単独行動』。

 遠坂時臣が要塞としている遠坂邸に引き籠もりながらマスターとして戦えているのは、偏にこのクラススキルが有ってのこと。

 

 それが最高のAランクであるギルガメッシュが必要としているのは、宝具の使用の際の魔力のみ。

 

 更に時臣はアーチャーに対して臣下として礼をとっている。

 縛ることなど出来はしない。

 時臣の元へ帰らず綺礼の元へ訪れるのも、ギルガメッシュの勝手だった。

 

「なかなかに面白い考えを持った人間だね。このアレイスターという男は」

「『法の書』か……かの英雄王が、その様な魔術師の言を口にするとはな。一応言っておくが、その言葉を教会で口にするなアーチャー」

「民の言葉を受け止めるのも王の仕事だよ」

「ほとほと成年時とは人が違うな、ギルガメッシュ」

 

 一度だけ、召喚に立ち会った時だけだが綺礼は成年時のアーチャー、ギルガメッシュと会っている。

 

 傲岸不遜、唯我独尊。

 こと傲慢がアレほど似合う存在を綺礼は見たことがなかった。

 それがどうだ。

 若返りの霊薬を飲んだと思えば、別人の如く様変わりしている。

 

「僕があの人の事を知っていたなら、間違いなく成長を止めてたよ」

 

 思い出すのも不満なのか、不機嫌そうに唇を尖らせる。

 

 幼少期は名君と謳われ世界を治め、青年期は暴君として国を滅ぼした。

 国という概念、人に善悪の軛を敷いた偉大なる世界王。

 如何に代行者といえど、本来一神父が対峙できる存在ではない。

 

「そういうキミは、随分と消化不良のような顔をしている」

「……」

「聖杯なんて願望器より、僕にはそちらの方が肝要だ」

 

 図星だった。

 どうやらこの小さき英雄王には隠し事が出来ないらしい。

 

「衛宮切嗣……キミは余程その男に御執心の様だ。このままで良いのかな? キミが君の本質を知る良い機会だと考えたからこそ、こんなくだらない争いに興じたんじゃないのかい?」

「何を……馬鹿な」

 

 この英霊に対して湧き上がる不気味さを感じるのは何度目だろうか。 

 人の本質を容易く見抜くその瞳は、一体何を映しているのだろうか。

 

 綺礼は聞かんとしていた問いを、黄金の英霊に対して口にする。

 

「……ギルガメッシュ、お前は私の答えを知っているか?」

「それが君の欲している答えかは解らないが、君の本質を教えるのは簡単だ。しかし、それはキミに対して不実が過ぎるだろう?」

 

 アーチャーは綺礼と対面するようにソファーに座り、覗き込むようにその真紅の瞳を輝かせる。

 

「キミ自身が手に入れ、学ばなければ意味はない。そして安心するといい。その答えが善でも悪でも、世界はキミを許容する」

 

 ─────外道でも外道なりに生きられる。

 聖杯戦争の最後に与えられる言葉を、この小さな王は既に用意していたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九夜 薄い本的展開阻止系男子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーラー、ジャンヌ・ダルク。

 彼女は大聖杯によって召喚されたイレギュラーサーヴァント。

 その異例さは、召喚形式にも及ぶ。

 

 彼女は、生きた人間を触媒に『憑依』という形で召喚された。

 故に彼女はサーヴァントでありながら、マスターを兼任する。

 勿論肉体本来の持ち主─────レティシア本人の人格はジャンヌ・ダルクとの共存に納得済みであり、両者の関係は良好である。

 

 さて、今回そんな彼女達が行き倒れた理由を述べよう。

 

 ジャンヌ・ダルクことルーラーがレティシアに憑依した場所は、フランス。

 レティシアがフランス人なので当たり前である。

 しかしレティシアは学生だ。

 聖杯戦争に参加するため、日本に彼女は赴かねばならない。

 それ故に、旅費が掛かった。

 

 尤も、それについては彼女が持つスキル『啓示』によって、聖堂教会関連の教会に辿り着き、更にスキル『聖人』によって選択したスキル『聖骸布作成』により、彼女の事情を信じさせ聖堂教会の人間から旅費は得ていた。

 

 冬木到着後は、派遣されている監督役と連携しながら聖杯戦争を管理していく予定であった。

 しかし冬木に到着した途端、彼女の『啓示』が反応した。

 

 スキル『啓示』は、戦闘に於ける第六感の『直感』とは違い、目標達成に関する事象全てに適応される。

 そのスキルが、遠坂と組んでいる教会に行かせなかったのだ。

 

 彼女は見事教会に取り込まれるのを回避したのだが、問題は生活費。

 ルーラーはマスターの肉体に憑依している為、マスターを護る必要が無い代わりに彼女(レティシア)の肉体を維持する必要がある。

 即ち本来サーヴァントに不要な食事の必要がある。

 

 旅費の残りもやがて尽き、燃費の激しいサーヴァントを抱える彼女達は容易に倒れた。

 空腹で。

 

 そんな彼女を、他の聖杯戦争陣営ではなくランスロット達が見付けたのは僥倖だった。

 彼女は、ランスロットが縮地まで使って近場のバーガーショップで山のように食品を買い、ルーラーに与えたソレを残らず平らげ、近くの公園で一息つける。

 食事代の出所は勿論間桐であるのだが、幸いにもランスロットの取り込んだ幻想種の中に金を生み出す精霊(金霊)が存在する為、金の価格が激変しない限りランスロットが金銭面で困ることはないだろう。

 

「感謝します。まさか、空腹がこれほど辛いとは思いませんでした。そろそろ、食べられるなら木の根を齧ってもいいとすら思えてきていました」

「そうならず何よりだ」

 

 それを見過ごすのは、ランスロットの持つ人道に反していた。

 

「私は……レティシアと言います。食事の件、本当にありがとうございました」

「ランスロだ。あの子は間桐桜」

「間桐─────」

 

 ベンチに座るルーラーとランスロットから少し離れた場所で、無表情ながら子狼と戯れる桜。

 彼女の御三家の一角の名に、ルーラーの顔色が変わる。

 そんなルーラーに対して、ランスロットは目を細め─────

 

「間桐の名前で反応したか。見たところ留学生だろうと思っていたが、この地の資産家のことも調べていたのか?」

「…………はい?」

 

 彼女にとって見当外れの返答をした。

 

「……失礼ですが、貴方と彼女の関係は?」

「俺は居候でな。雁夜───彼女の保護者の友人が病で動けない代わりに、彼女の面倒を見ている」

 

 啓示が反応した桜と共に居たから、てっきりランスロットも魔術関係者、若しくは聖杯戦争関係者か当事者と思ったからだ。

 

「(……本当に居候? それに、()()()()()()()()()()()()()。少なくとも聖杯戦争関係者ではない? この時期に野良の魔術師がこの街に居るとは思えない────本当に一般人?)」

 

 しかし啓示は反応しない。

 故に、ルーラーは目の前の男は無関係な一般人だと判断した。

 判断してしまった。

 

「病……ですか」

「ただの医者では何ともならないらしくてな。今俺が伝を当たっている」

「そうなん、ですか」

 

 雁夜という名には、キッチリ啓示が反応する。

 十中八九その友人がマスターなのだと判断した。

 聖杯戦争に臨む理由も、その病が関連しているとも。

 その後は他愛もない会話をした。

 どうやら彼も元はフランス生まれで、旅をしている時に就職。

 その後事故に遭い、彼の友人と出会ったのだと。

 

「君は、この後どうするつもりだ?」

「この後?」

「泊まる所、頼れる宛は有るのか?」

「…………えっと」

 

 これにはルーラーも沈黙した。

 そんな所があるのなら行き倒れてはいない。

 故にランスロットへの返答には沈黙しかなかった。

 彼はその様子を見て大きく溜め息を吐き、懐から万札を二十枚ほど取り出して、ルーラーに押し付けた。

 

「なっ……受け取れません!」

「喧しい」

 

 ズドンッッッ!!!!! と、轟音がルーラーの額から、ランスロットのデコピンによって響く。

 ルーラーがそのサーヴァントとしての能力を総動員したのか、それともランスロットの加減が絶妙だったのか。

 幸い悶える時間は少なかった。

 

「ッ!? ……ッ!!?」

「同郷の誼みだ。その金でホテルに泊まれ。それとも、まさか俺に年頃の娘が無謀にも野宿しようとするのを見逃せと?」

「うっ……!」

 

 ジャンヌではなくレティシアの人格が表に出るほどの衝撃であったが、ランスロットの有無を言わさない眼光で黙らせる。

 ランスロットのオカンマインドが発動した。

 ニュースで連続殺人犯が捕まったと報道していたが、それでも冬のこの時期に年頃の、しかも彼女の様な美少女が野宿など正気の沙汰ではない。

 

「……お人好しなんですね」

「大人として当然の事をしたまでだ。出来れば俺自身が面倒を見るのが一番だが、生憎居候の身でそれは出来んのでな」

「それでも、普通ここまでしませんよ?」

「だったら、俺が困っていたら助けてくれ」

 

 勿論サーヴァントであるルーラーが不届き者にどうこうされる訳は無いが、それを一般人だと判断した人間に言うわけにもいかない。

 故に、ルーラーはランスロットの施しを受けないわけにはいかなかった。

 

「……っ、本当にありがとうございます。この恩、必ず御返ししますから!」

「いつかな。─────シフ、桜。そろそろ行くぞ」

「うん」

「ワウッ!」

 

 桜達を呼び掛けてその場を去っていくランスロットに、ルーラーは見えなくなるまで感謝の祈りを捧げ続けた。

 

 尤も、そんなルーラーに背を向けて歩く男の心の声を、血を与えられたからこそ知ることが出来る桜達は聴いていたが。

 

『─────JKが野宿なんかして、薄い本が厚くなる展開お兄さん許しませんのことよ! どうせ雁夜の金だしなッ!!!』

「薄い本?」

「わふ?」

 

 近い内に、戦場で対峙するとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして日は沈み、戦いの夜がやって来る。

 

 冬木の街郊外の森の奥に聳え立つ、セイバー陣営の拠点アインツベルン城。

 其処に向かう、これまた美男美女が一組。

 しかし二人には異性のソレを感じられず、戦友のソレに近かった。

 

 その内の一人の銀髪の美女─────エレインは、懐から取り出した骨董品のような羊皮紙の束を本にした様な物を、愛おしげに開く。

 

「アンタ、何時も暇さえあれば読んでるな、その日記」

「何、彼が直に触れていたと思うとな。要は妄想しているだけだ」

「言い切りやがったなテメェ」

 

 青い髪に青い装束、赤い瞳に赤い槍を持った男─────ランサーがニヤニヤとからかうも、エレインは堂々と言い返す。

 開き直った女は、ある種無敵だ。

 

「(ったく、女の(ツラ)しやがって)」

 

 しかしそんな彼女に、ランサーはこれまた嬉しそうに、この戦争への戦意をたぎらせる。

 

「(湖の騎士……だったか? いい女をこんなツラにしてやがんだ。責任取らせねぇと気が済まねぇぞ?)」

「ハァ……。そろそろ準備出来たぞ」

「そうか。なら、手筈通りに」

 

 エレインは徐に地面へ手を伸ばし、当たり前と言わんばかりに影へ突っ込んでいく。

 

「使うのかよ、ソレ」

「当然だ。勝てないと思わせなければ意味はないだろう?」

 

 影の中から取り出したのは、聖骸布が巻かれた一本の槍。

 彼女の切り札。

 そして前世に於ける聖杯探索の唯一の成果。

 

「セイバーは任せた。私は大馬鹿者の相手をする」

「了解。まぁソレ使えば、アンタに勝てるのは英霊の中でも限られるだろうな」

 

 その槍を持ったエレインは、大英雄クー・フーリンと渡り合う程。

 六百六十六の命と因子を持つ獣の巣をただの一撃で屠ったソレを、魔術師とはいえ人間相手に振るう。

 準備は万全、後は実行に移すのみ。

 

「(……だが、戦場では不測の事態は付き物)」

 

 エレインはかつて己の師であり、恋慕し心奪われた愛しい男の言葉を思い出す。

 

『─────あり得ない事などあり得ない。人間が想像できる事は、全て現実でも起こり得る事象だ』

 

 あの不敗を誇ったブリテンすら滅びた。

 あらゆる外患を退けながらも、内患によって容易く崩れ去ったのだ。

 吸血鬼の王すら退けた、あの無敵のランスロットすらこの世界にはもう居ない。

 

()()には全力を尽くす。故にランサー、事を成す前に負けてくれるなよ?」

「ハッ、抜かせ生娘」

「喧しい、私はランスロット専用だ。ホットドッグ喰わすぞ」

「ちょっ!?」

 

 勿論ホットドッグに犬肉は使われていない。

 戦場を前にして喧騒は絶えず。

 それは決して慢心などではなく、二人の余裕を表していた。

 

「さぁ─────詰みと征くぞ、アインツベルン」

 

 

 

 

 

 

 

 




ケリィボコまでいけなかった件について。

取り敢えずフラグを撒いておいてみたはいいが、回収できるか不安でありんす。
ちなみに今作の子ギルは善人臭というか、麻婆をエエ感じに導く予定です。
そしてジャンヌとの会話がおかしくないか不安で仕方ない。

次回にケリィフルボッコとエレインの持ち札を全バレ話したいのですが、正直アニメのUBWが面白すぎるので、ちょっといつ書くかすら分からないstaynight編のプロローグというか導入を先に書くかもしれません。
ufotableのクオリティの高さが悪いのです。

いつもこのような趣味全開の駄文数多くの指摘、感想本当ありがとうございます(*´ω`*)

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