湖の求道者   作:たけのこの里派

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連続投稿三回目。
連投は一先ずこれで終わりですね。

賛否両論あるでしょうが、どうぞ。


第十七夜 悲痛の果ては

 復讐者(アヴェンジャー)のサーヴァント、モードレッドは苛立ちを隠そうともせずにエレインに噛み付いた。

 

「嘗めてんのか? 何で手前にそんな事言う必要がある。こちとらお前の頸を炭にするのを我慢してるんだ、これ以上イラつく戯れ言ほざいてんじゃねぇ」

 

 殺意の暴風。

 今まで抑え込んだ物が溢れ出た様に、ソレはエレインとセイバーに向けられていた。

 彼女が今まで抑え込んでいた狂気が鎌首を傾こうとした時。

 

「いいやアヴェンジャー。聴かせて貰わねばならない」

 

 復讐者を押し留めたのは、そのマスターだった。

 如何に対魔力に優れていようとも、三画全ての令呪が揃っている氷室にモードレッドは逆らうことは出来ない。 

 

「おい……何のつもりだ氷室。まさかあの売女との問答を続けさせるつもりか?」

「私はまだ、汝が聖杯を何の目的に使うのか聴いていないと言っている。ソレが私の承服できぬことならば……悪いが、私の持てる手段は使わせて貰う」

ギネヴィア(・・・・・)

「答えろモードレッド(・・・・・・)

 

 己がマスターにすらその牙を剥いた狂犬は、しかし令呪すら輝かせ始めた氷室。

 常人ならば肝を潰す殺気に、しかし氷室は目を背けること無く睨み付ける。

 ソコには不退の意思があった。

 

「私はあの時、1500年前に汝がブリテンを滅ぼした時、何も出来なかった。だが今は、私と汝はマスターとサーヴァント」

 

 サーヴァントを御すのは、マスターの義務である。

 

 そんな氷室の不動な姿勢に、盛大に舌打ちして頭を掻き毟り。

 観念した様に、そして堂々と己の願いを口にした。

 

「オレの目的は、ランスロットを救済する(すくう)事だ」

 

 その目的に、反応せざるを得ない存在がこの場には居た。

 氷室(ギネヴィア)はその言葉に動揺を隠せず、モードレッドの殺気にすら耐えきった表情が崩れる。

 

「サー・ランスロット……」

 

 アイリスフィールはチラリと、夫のサーヴァントであり、己の騎士を見やる。

 その名の騎士は、この王にとって決して無視できぬ物なのだから。

 

 アーサー王伝説にて円卓最強の騎士。

 誉れ高き湖の愛し子。

 

「叛逆の騎士が湖の騎士を慕う、か。成る程、なれば伝説の月斬りは正しかった訳だ」

「正確には鏡像化された擬似的な月だがな。尤も、ランスロットが居なければ今のヨーロッパは存在しなかったことは確かだ」

 

 ユーラシア大陸全土を覆ったであろう破壊の月光。

 ソレを断ち切ったランスロットは間違いなく世界を救っていた。

 

「だが……彼を救う(・・)? 救うと言ったか、畜生」

「そう言ったぞ売女。────オレが王になる」

 

 それは、過去に対する宣戦布告だった。

 

「何故あれほど優れた騎士王は国に滅ぼされた? オレが唆した程度で何故、あぁも容易く裏切られた?」

 

 モードレッドが知る限り、アーサー王は完璧に見えた。

 正しき治世と正しき統制の元、出来うる限り臣民を救っていた。

 にも拘らず、その果ては臣民による恩を仇で返す結果に終わった。

 それは何故か────

 

「嘗められていたんだ。恐怖が足りなかった。騎士道などと己の感情を優先し、国ではなく己の自尊心のみを護る塵共が思い上がる時点で明白だ」

 

 騎士を統制するには騎士道など不要。

 騎士の国たるブリテンを根本的に否定する言葉だが、確かに騎士ほど政治に向かない人種も少ないだろう。

 

「民という国を護ってきた王に対してなんら恩義すら持たない閑古鳥共を、王の為に喜んで命果てる兵士に仕立て上げ────『あの時』の状況を覆す」

 

 圧政を以て民草を支配し、その命全てを以てして一人の男を救う。

 その場の面々は、復讐者に相応しいアヴェンジャーの憎悪を見た。

 そして、アイリスフィールは思わずモードレッドの手段の意味を問い掛けるように呟く。

 

「貴方はランスロット卿の為に、国と国民全てを生け贄にするつもり……!?」

「一度ランスロットを踏み台にしたんだ。ならランスロットの踏み台になることに何の躊躇がある?」

 

 古今東西様々な暴君が存在する。

 例えば己の欲を満たすために万里を支配した王がいた。

 例えば民の欲を満たすために万里を征服した王がいた。

 

 しかしソコには確かに、国や民草に対する愛があった。

 故にその欲望の果ては、人々の幸せであるだろう。

 しかしモードレッドのそれは違う。

 国や民草を慈しむ心など皆無だ。寧ろ憎悪と怒りしか無い。

 

「……それは暴君の治世とも呼べない。征服の過程で破壊を呼ぶ王もいただろう。だが征服の後に破壊を呼ぶ王はいない。それは人の世を統べる王ではなく、人の世界を否定する魔神にすぎない」

「無欲の王政の果てがあの滅びだろうがッ!! 塵の山を有効利用してやるんだ、寧ろ喜んでランスロットの為に死ぬべきだろう!」

 

 それは失敗したアーサー王とは違う方策ではあるが、それは治世ですら無い。

 最終的に国を滅ぼすつもりの王など居てたまるものか。

 

 しかしそれは当然なのだ。

 モードレッドの復讐は、アーサー王以外にも向けられる物なのだから。

 ランスロットを踏み台にして存命した国や民、ブリテンの全てが憎かった。

 

 故に滅ぼしたのだ。

 己が主人の命を踏み台にして生を謳歌する存在を、狂犬は許容するなど出来なかった。

 そしてその怒りは、滅ぼして尚治まることはなかった。

 

 アーチャーもライダーも、王道を語った王達は何も口にしない。

 モードレッドのそれは王道ではないし、それを本人は認めている。

 

 モードレッドの願いはランスロットの救済と銘打ってはいるが、実際はブリテンへの報復だ。

 勿論ランスロットを救いたい気持ちも強いのだろうが、このサーヴァントは復讐者なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十七夜 悲痛の果ては

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モードレッドの憎悪と復讐心を見せ付けられ、しかしセイバーの内心は穏やかだった。

 

(思えば、この街を訪れて未だ数日しか経っていないのだな)

 

 己と劣らぬ英霊と戦い、意思をぶつけ合った。

 己と同等以上の王の在り方を見せ付けられた。

 己の過去の罪が追ってきた。

 何より、この場に(アーサー王)の生前と深い関わりを持つものが多すぎた。

 

 これは偶然か必然か。

 

(因果なものだな。だが、お蔭で己を振り返れた)

 

 ────己の、愚かしさに。

 

「さて、長くなったがこれで最後だな。セイバー、アーサー王。貴方が聖杯に捧げる願いは何だ?」

 

 モードレッドの聖杯を使う理由を聞いた一同は、最後の静かなセイバーに自然と視線を移した。

 

「……セイバー?」

「そう……ですね────アイリスフィール、謝罪をさせてください。どうやら私は聖杯に捧げる願いを間違えていた」

「貴女、瞳が元に……?」

 

 アイリスフィールは、セイバーの変化に気付いた。

 金色に染まっていた瞳が、元の碧眼に戻っていたのだ。

 しかし何故だろうか、その変化が恐ろしい物だと感じたのは。

 

「モードレッド卿、感謝しよう」

「感謝、だと……?」

「貴方のお蔭で、私は勘違いに気付けた」

 

 アイリスフィールは思い出す。

 この街に訪れた時に聞いた、彼女の願いを。

 それはランスロット卿と共に在ることだった。

 嘗ての、黄金の記憶の続きを彼と共に過ごすことだ。

 

「私が聖杯に捧げる願いは────」

 

 しかし、彼女は考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

「────王の選定をやり直す事だ」

 

 そんな幸せを求める権利など、己には無いのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「選定の、やり直し?」

 

 その言葉の意味を、アイリスフィールは直ぐ様理解する事が出来なかった。

 

 セイバーの言う選定。

 それはアーサー王伝説に於ける、岩に刺さった選定の剣のことである。

 アーサー王たるセイバーはソレを抜き、王となった。

 それをやり直すというのは、それはアーサー王の物語(人生)を根本から覆すことに他ならない。

 

 エレインは気付けただろうか。

 その言葉が、ランスロットの日記に記された、あり得るかもしれない可能性のソレとは少し意味合いが違うことを。

 

「アーサー……何を────?」

 

 氷室(ギネヴィア)はまるで想像出来ていなかった。

 あの王の抱いていた、絶望の深さを。

 

「なぁ騎士王、もしかして余の聞き間違えかもしれないが」

 

 ライダーの言葉は、困惑という程ではないが、驚きに包まれていた。

 

「貴様は過去の歴史を覆すということか?」

「私に一度は付き従い、共に戦った者達の積み重ねたモノを台無しにすると言った」

 

 誉れ高き騎士の王?

 心惹かれた男と引き換えに国を護った外道だと言うのに。

 

「私はどうあれ、国を護れなかった。それは即ち、私が王に相応しくなかった訳だ」

 

 引き換えにしたにも拘わらず、国を護り抜く事が出来なかった無能だというのに。 

 

「私は正しき統制、正しき治世こそ、全ての臣民が望むものだと思っていた」

 

 人は王の姿を通して、法と秩序の在り方を知るのだと。

 

「一人の騎士が私にこう言い残して去っていったよ。『王には人の心が解らない』と。道理だった。無欲な王など飾り物にも劣る」

 

 しかしそんな王の実態は正しさの奴隷。

 臣下や民草は、そんな常に「正しく」あり続けた王の姿に恐怖した。

 

「私の掲げた正義と理想は、確かにひとたびは臣民を救済したかも知れない。事実私は伝説に名を刻んだ。だが、その果ては伝説になったが故に瞭然だ」

「────」

 

 瞼を閉じれば鮮明に思い出せる。

 ランスロットと共に過ごし、戦場を駆けた黄金の記憶を。

 

 だが、目を開けばカムランの丘から見下ろした光景を、今でも幻視する。

 

 累々と果てしなく続く屍の山と血の大河。

 そこに滅んだ命の全てが、嘗ての臣で友で肉親であったモノ。

 思えば幼き日、岩の剣を抜く時に予言(忠告)されたではないか。

 

『────それを手にしたが最後、君は人間ではなくなるよ』

 

 それが破滅の道であっても、その途中で人々の笑顔があるのなら────そう、覚悟していた。

 今思えばまるでおかしい。

 

「覚悟? 覚悟とはなんだ。国を滅ぼす覚悟でもしていたのか私は」

 

 過ちは既に示されていたというのに。

 自身は破滅を許容したのだ

 選定の剣が折れて当然だ。

 王となる前に破滅を許容する王など、居てはならないというのに。

 

 

 

 

 

「────そら。そんな下らん小娘など、居なくなるのが世のためだと思わないか?」

 

 

 

 

 

 その言葉に、アイリスフィールと氷室が絶句した。

 

「そんな物に何の意味がある?」

「意味はある。少なくとも私が王にならなければ、私が彼に騎士になって欲しい等と願わなければ、ランスロットはブリテンを護るために戦わなかっただろう。死ぬことはなかった筈だ。ギネヴィアも女である私に嫁ぐことなどなく、己の幸せを掴めた筈だ」

 

 ライダーはその言葉を受け止めるものの、その瞳に哀憫の感情を乗せる。

 無欲な王?

 そんなことはない。

 この王はただ、大切な者達を救いたいだけなのだと。

 

「感謝する、エレイン姫。輪廻を越えてまで、彼を救おうとしてくれて。済まない、ギネヴィア。私は貴女に苦労しか掛けられなかった」

「…………っ」

「違う、違いますアーサー! 私は……ッ!」

 

 ギネヴィアの叫びは、騎士王には届かない。

 エレインはそれを瞬時に悟り、唇を咬む。

 

「私の果ては滅びだった。切っ掛けはモードレッド卿だったかも知れないが、そんなものは言い訳にはならない」

 

 モードレッドの叛逆に、セイバーは何の恨みもない。

 あの結末は寧ろ、感謝があった。

 

「感謝する、モードレッド卿。今でも私は貴公を子として見ることは出来ないが、そこまでランスロットを大切に想ってくれて嬉しく思う」

 

 

 

 

 

 

 

「────────ふざけるなッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 そのセイバーの言葉に、叫んだ者が居た。

 叫ばずには居られなかった者が居た。

 

 その者にとって、セイバーの願いは己の存在を否定する事に他ならなかったにも拘わらず。

 そんな事は頭にまるでなかった。

 

 彼女が思ったことはただ一つ。

 

 そこまで絶望しておきながら。

 彼処まで彼を求めておきながら。

 

「なら何故、あの時ランスロットを一人残したッ!?」

 

 それは、戦いを見守ることすらできなかったモードレッドの、血を吐くような叫びだった。

 怒りと憎悪を主にした、後悔や悲しみ、失望。様々な感情を綯い交ぜにした、彼女が生前に於ける死に際に叫んだ物と同じだった。

 

 そんなモードレッドの叫びに、同じくセイバーもかつての様に淡々としながら。

 戦場でないが故に、問答であるが故に答えた。

 

 

 

「────私が王であり、彼が騎士だったからだ」

 

 

 

 それはランスロットのために王を廃し、王と成らんとしたモードレッドを絶句させるものだった。

 

「仮に貴公の言う通り、民や騎士全てを兵士化して投入したとして、それでどうなる? あの『王』が出てくる前の死者の軍勢すら止められていたか解らない。仮に出来たとしても、その時点で壊滅に近いだろう」

「なッ……せッ……────」

 

 あの死徒の軍勢には、ガウェインの太陽の聖剣が効かない真祖達が居た。

 だが確かに、全軍が命を賭せば撃退くらいは出来たかもしれない。

 しかしそうなれば、朱い月は止められない。

 否、仮に万全の軍勢があったとしても、円卓の騎士全員が揃っていたとしても。

 

 セイバーはあの朱い月に勝てるとは思えなかった。

 

 モードレッドの考えは気絶させられていた為に、ランスロットと朱い月の戦いを見ていないが故の致命的な物だった。

 

「でなければあの侵略者はキャメロットまで進軍し、結局の処ランスロットは戦ったろう。それとも、ランスロット以外であの『王』を撃退できたか?」

 

 例えキャメロットにランスロットを残そうとも、そのランスロット以外では、疲弊した円卓では朱い月には対抗出来なかっただろう。

 そうなれば彼は────動かずにはいられない。

 

「私はランスロットに、王の責務を果たせと言われた。ならば私はそれを果たすだけだ」

「ッッ…………!!」

 

 それが、彼の望んだことなら。

 

 壊れた笑みを浮かべながら。

 昏い暗い、しかし金色ではなく元の碧色の両の瞳に血の涙を流しながら。

 そんな、狂うことすら許されなかった王の成れの果てを見て、モードレッドと氷室(ギネヴィア)が息を呑む。

 

 それは、仮にモードレッドやアルトリアが共に戦ったとしても、ランスロットにとっては足手纏いでしかなかったという事実を端的に示していた。

 それほどまでに朱い月は、何よりランスロットは強かった。

 

 それほどまでに、アルトリアやモードレッドはランスロットより弱かったのだ。

 

「じゃあオレは、オレはッ……!!!!」

 

 モードレッドが膝を突く。

 仮にモードレッドが王となっても、何れだけ圧政を敷こうが同じ事態になればランスロットは動くだろう。

 嘗ての様にモードレッドを気絶させ、王の責務を果たさせて己を戦場へと赴かせたろう。

 結末は、変わらない。

 

 それを歪めるには、ランスロットの精神性を歪める必要がある。

 そんなことを、モードレッドが出来る筈が無いと言うのに。

 

 故にアルトリアは、彼と出会うことすら捨てた。

 己との出会いすら捨てて、ランスロットの命を取ったのだ。

 

「それが私達が、『最高』と呼んだ騎士だからだ」

 

 それこそが、そんな男だからこそ。

 エレインは、ギネヴィアは、モードレッドは、アルトリアは────。

 

「────ッッ……、ぁああああああああアあああああああああああァッッッ!!!!」

 

 モードレッドが慟哭する。

 主を喪い、狂犬へと身を落とした彼女には所詮、吠えることしか出来ないのだから。

 

 帰ってきてと、啼く事しか出来ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「……痛ましいにも程がある」

 

 それを見守ったライダーが、端的に感想を漏らした。

 ライダーは民草の威光を一身に背負わされた少女の果てに憐れみを。

 アーチャーは実感の無い記録の中の、喪った友と重なる少女に対して哀しみを帯びた微笑みを。

 ランサーは少女の想い人にかつて喪ったスカサハと、少女に間に合わなかったかつての己を重ねた。

 

 エレインは何も思わない。

 それは既に越えた道だからだ。

 叫びもした、絶望もした。

 だがそれでも、諦められなかったのだから。

 

「アーサー王の失敗は、ブリテンが既に滅んでいることを逸早く認識できなかった事だろう」

 

 ブリテンは先代ウーサーの時点で限界であった。

 作物の生産量の低下。卑王ヴォーティガーンの魔龍化と、死に際の呪いの言葉。

 その時点でブリテンとその民草が限界であることを知るべきだった。

 

「だが、王は強すぎた」

 

 理想の騎士王と呼ばれるほどにアーサー王は強く────、常人の弱さを知らなかった。

 

 当然といえば当然だろう。

 超越者として望まれて産まれ、起きている時は勿論夢の中でもマーリンの教えを受け続けた純粋培養といっても過言ではない王としての教育。

 唯一傍に居たのは、ひねくれ屋の義兄のみ。

 人の弱さを深く知る機会など無きに等しかったのだろう。

 

 彼女が見聞を広げるために諸国漫遊の旅に出て華々しい花の旅路を得ていたのならば。

 或いは何かが変わっていたかも知れないが────所詮、ありふれた夢想だ。

 結果、眩し過ぎるその威光は己の眼さえ晦ませた。

 

「失敗しない人間は存在しない」

 

 その言葉に、ギルガメッシュとイスカンダル。

 相反する二人の偉大な王は否定出来ない。

 

 ギルガメッシュはどれだけ理不尽な物であろうとも、掛け替えのない盟友を喪った。

 それを失敗と言わずに何だ。

 それを取り返すことは出来ないし、遣ってはいけない。

 

 イスカンダルはそもそも失敗したからこそ聖杯、『次』を望んでいる。

 

「偉そうに考察しているが、私も所詮何もできなかった。彼が消える姿を、臣下の魔術師による遠見越しにただ観ることしか出来なかった」

 

 失敗していない人間など、存在しないのだから。

 

「だからこうして、湖の精霊に懇願し、己を転生させることで此処にいる」

「転生……」

「死徒27祖番外位ミハイル・ロア・バルダムヨォン、無限転生者と呼ばれる魔術師だった死徒が居てな。その男はかの真祖の姫君を利用して死徒となり、魂を転生させ続けることで『永遠』を探求している。永遠などを求める気概など、私には理解できなかったがな」

 

 真祖とは言え、正確には精霊種に分類される。そんな彼女(アルクェイド・ブリュンスタッド)の力の一部を奪った程度で、優れた程度の魔術師は転生を行えている。

 ならば同じ精霊によって転生を行って貰えば、真祖より格は低いが聖槍の力をも利用して転生を行うことができるだろう。

 尤も、ロアとは違い何度も転生を行おうとは思わないが。

 

「私達は膓を晒した。故に前に進もう」

 

 それはセイバー達や、自分にも言い聞かせるような言葉だった。

 エレインは厳しい顔をしている遠坂時臣を盗み見る。

 

「さぁ、聖杯戦争を暴くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ブリテンの末路を何一つ知らない当の本人は。

 

「む、こんな時間に何奴」

「……夜分すまない。この寺の近くに天然の鍾乳洞が在る筈なのだが、どの方角か知っているだろうか少年」

「ぬ?」

 

 何も知らないが故に、迷わずこの戦争に王手を仕掛けようとしていた。

 

 

 




作者的に最大の難所、ブリテン勢の聖杯問答。

モードレッドの願望は圧政による復讐と、ランスロットを騎士として侍らせたいという願望が無意識にあります。
当初はランスロットを王するのを考えてましたが、回想で否定しちゃったのでその可能性は無くなりました。

セイバーの願望はエミヤにも似た自己嫌悪と自己否定による結果、原作通り王の再選定となりました。
自己を否定することで叛逆の火種であるモードレッドも生まれなくなるので、セイバー的には一石二鳥です(白目)
セイバーが王にならなかったら美少女的に恐らくらんすろがブリテンに就職することは無いので(あっても客将程度)、ランスロットの世界からの消滅は実際にかなりの確率で回避できます(朱い月と偶然カチ会わなければ)。その為セイバーにとって最も大切な、作中であった様にランスロットとの出会いをも犠牲にするつもりです。
実はZERO編三話はまだメンタルマシだった事実。
オルタ化が解除されたのは、一周廻って冷静(白目)になったからです。

本当は後二話出来てから放出するのがキリの良い所まで行けたのですが、テンション上がったので仕方がない()

修正or加筆点は随時修正します。


次回は聖杯戦争解体話回。
そしてエレインの狂言回しとしての、最後の役目です。
果たして一体いつになるのか()


エレインの考察修正。

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