湖の求道者   作:たけのこの里派

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第五話 先輩風最大風速

 ~突然流れる某少年探偵のあらすじのテーマ~

 

 テテテテー。

 俺は人理保証機関カルデアの職員、らんすろ。

 世界を護る実験(語弊あり)の最中、爆発事故が原因で炎上する推定冬木市に訪れていた俺は、兄妹同然の同じデザイナーズベビーのマシュや新人の藤丸立香、カルデア所長のオルガマリーを発見後、襲来してきた白髪褐色肌の正義の味方を目撃した。

 

 ソイツの首を落とそうとした俺は、しかし彼が宝具を投影出来ることを思い出した(唐突)

 彼が三人を射殺す際にデュランダルのような不壊・自動修復機能のある剣を複製すれば、無刀状態を脱することができるかもしれない。

 そんな風にエミヤの投影に夢中だった俺は、所長と立香嬢の危機的状況に陥ったことで足を踏み入れようとしたその時、エミヤがエクスカリバーを複製していることに気付いたんだ。

 えっ、何してんのオマエ。死ぬやん(素)

 

 取り敢えず背後から斬り倒してエクスカリバーを奪ったは良いが、コメントに困った俺はエミヤに咄嗟に労ったんだ(まさかのジンニキポジ)

 

『───小さくなっても頭脳は同じ(脳筋)迷宮入りの傭兵!(騎士の自覚無し)

 真実は、いつも一つッ!!(ブリテン詰みすぎ&滅亡確定)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五話 先輩風最大風速

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────黄金に輝く聖剣を携えながら、ランス君は私達と合流した。

 

『やっと繋がった! 所長、大丈夫ですか──って、ランス!? 無事だったのかい!』

「ドクターか。俺は問題ない」

『いやぁ、よかった。端末が壊れていた君の存在証明が出来なかったから、どうなることかと……って、何だこれ!?』

 

 私達を狙っていたアーチャーは既に消滅した。

 遠くて、魔術のまの字も使えない私には、その最後がどんなものかは分からなかったけれど。

 ランス君が携える聖剣は、あのアーチャーが複製したものだという。

 私と所長の元にマシュを抱えて、某死神代行漫画バリの移動方法(客観)で現れたランス君は、未だに呆然としているマシュの頭を軽く叩く。

 

『どうなっているんだ!? 声や姿は届いているのに、計器で観測できない!』

「む、まだ圏境を使っていたな。マシュ、起きろ」

「……お、起きてます! 寝てません! って、兄さん、あの傷は!?」

「既に礼装で治した、問題ない」

 

 安堵の余りの呆然だったんだろう。

 ハッと、恥ずかしそうに抱えられた状態から降りたマシュは、そのままランス君の心配をする。

 彼女の困惑具合と、当の本人の平然具合に私は思わず苦笑してしまった。

 

「無事だったのね、ランス。本当に良かったわ」

「合流が遅れて申し訳無い」

 

 オルガマリー所長に素直に頭を下げる彼に、所長の視線は彼の携える聖剣に向けられていた。

 

「それは────」

「この聖剣は、必要なものだからな」

 

 エクスカリバー。

 その名はアーサー王伝説をそんなに知らない私でも、ゲームや漫画などのサブカルチャーで聞き馴染みのある名だ。

 確か、元ネタは───

 

『アーサー王伝説に於いて、かの王が持った聖剣は二振り存在するとされているんだ』

 

 ドクターが、モニター越しで解説してくれる。

 曰く、「アーサー王伝説」に登場する円卓の騎士の一人であり、ブリテンの伝説的君主。選定の剣を引き抜き、不老の王となった騎士王。

 しかし、選定の剣は折れてしまった。

 

『曰く、ペリノア王との決闘の際に折れたとされているけど……』

「元よりカリバーンは儀礼用の王剣だ」

 

 ランス君がドクターの言葉に続けて話す。

 それは自ら見聞きした事を話すように、自然なものだった。

 外見的には私より年下で、中学生程に見える彼は。

 しかし伝説を生きた英雄なのだろう。

 

「より正確に言えば、カリバーンが王を選定するのではない。選定するのはカリバーンが刺さった岩だ。マーリンは、カリバーンを『王を育てる剣』と言った」

「王を育てる剣……」

「そして王が育ちきった時、カリバーンは自然に砕けるだろうとも。事実、カリバーンは一度だけならエクスカリバーの通常最大出力と同等の力を発揮するが、同時に刀身はその力に堪えられず砕けてしまった」

 

 王剣が砕けるのは、騎士道に反するだけではない。

 王が完成されたと同時に、その役割を終えた事を示すように砕けるのだと。

 そして、アーサー王には二振り目の剣が求められた。

 即ち、完成された騎士王が振るうに相応しい、星の聖剣を。

 

「───聖剣というカテゴリに於ける頂点。星の聖剣エクスカリバー。アーサー王の持つ選定の剣、これはその二振り目の贋作だ」

「あのアーチャー、一体何者だったのよ……!」

 

 所長が呻く。

 そりゃそんなトンデモ武器以外にも、宝具をポンポン複製してるんだから、本気で何者だって話である。

 褐色白髪で顔立ちはアジア人。そして東西様々な伝説の武器、少なくともアーサー王伝説の聖剣を複製する英雄なんて──────ゲームとかでしか出てこない詰込み具合だ。

 それにしては、ランス君はどうやらあの英霊のことを知っていたようだけど……やはりアーサー王伝説の英雄なのだろうか。

 尤も、アーサー王伝説のあの字も知らない私にはどうしようもない話だった。

 

「重要なのは、この聖剣の兵器としての性能ではない」

 

 そう言った彼は、そのままマシュへ聖剣を渡した。

 

「その盾に納めていろ。そうすれば常に、この聖剣を持ち続ける事が出来るだろうからな」

「!」

『そうか、その聖剣なら……!』

「……どういうこと?」

 

 話に着いていけない私に、所長は無言で顔を逸らし、マシュは驚きながら聖剣を受け取る。

 

「……英霊をその身に宿す。本来それは、一流の魔術師でも秒単位で成せただけで成功の部類。そしてそれが限界でもあるわ」

「でもマシュは」

「えぇ、マシュは英霊の力を発揮できている。それは彼女の、稀有な素質による賜物。でもその力は確実に負担となり、寿命を削るでしょう」

 

 その言葉に、思わず息を呑む。

 今まで自分たちを守り、戦ってくれた代償として、彼女が支払っていた代償の重さに絶句してしまった。

 

「この聖剣はカリバーン同様、持ち主を不老にする恩恵を持つ落ちる事の無い砂時計だ。であるなら、マシュが持つべきだろう」

『すごい、よくやってくれたランス! これならマシュの寿命の件を後回しにできるぞ!』

 

 そう喜ぶドクターと、同じくほっとする私だったが。

 パン! と手を叩いて意識を奪ったのは所長の拍手だった。

 

「マシュの寿命の問題が解決したのはいいけど、あくまで私達の目的は特異点の修復。気を緩めない」

「は、はい」

『す、すみません』

「マシュも思う処があるかもしれないけど、今はこちらを優先しなさい」

「……はい」

 

 そう、まだ何も終わっていない。

 あくまでアーチャーを倒し、逸れていたランス君と合流しただけ。

 大きな一歩だけど、ゴールではないのだ。

 

「特異点の原因であるセイバー、そのサーヴァントのいる場所に向かうわよロマニ。残念だけど、キャスターを待っている時間は無いわ」

『ええ、既に捜索済みです。セイバーが居るのは恐らく、この街の霊脈の中心地—————』

 

 私の端末から表示、投影されたこの街の立体地図。

 その一点が映し出される。

 しかしドクターがその場所を言う前に、ランス君が答えを口にした。

 

「円蔵山がその内部に擁する大空洞。そこに、大聖杯は存在する」

 

 何故それを知っているのか。

 彼は答えることなく、迷うことなく歩き始めた。

 まるで主の元へ帰参する騎士のように。

 そして、そんな私に似合わない詩的な感想を抱いたのは、決して私の気の迷いではなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 大空洞の中心部、壁の様に盛り上がっている崖の上に鎮座する、大規模魔法陣。

 立ち上る黒い柱に見える莫大な魔力を湛えるソレは、しかし冒涜という程ではなく。獣を孕む祭壇と呼ぶほどではなかった。

 まるで、本来あったモノの残滓がまだそう感じさせるのか。

 

「ここが大空洞、そしてあれが────」

「なんて魔力───あんな超抜級の魔力炉心が、こんな島国に存在したなんて……!」

 

 次期ロードたるオルガマリーが愕然とする程度には、相応の代物であった。

 しかし、その手前に仁王立ちで待ち構える存在にすぐさま気付く。

 

「来たか」

「!」

 

 崖の上に、一人の黒騎士が待っていた。

 恐らく反転体なのだろう。先程のアーチャーの『侵食』されたそれとは違う、属性そのものの反転がなされた姿。

 しかして伝承とは違う少女の姿を取っている騎士王は、美しい金糸の髪を更に色素を薄め。

 肌は死人の様に色褪せ、白銀と蒼を基調とした甲冑とドレスは黒に染め上がり。

 目元を隠していたバイザーを外し、金色の瞳で此方を見据えた。

 

「……ッ!」

 

 汚染されたセイバーの視線に、オルガマリーが漏れそうになった悲鳴を押し殺す。

 

 王気、というならばオルガマリーにも覚えはある。

 Aチーム──本来のマスター候補達のリーダーを務める青年も、王気を持ち候補生達を束ねていた。

 時計塔からも期待厚き、オルガマリーにマスター適正が無かった事で『真のアニムスフィアの後継』と目されていた才人がいた。

 そんな彼さえも凌駕する、非人間性さえ感じる暴君の王気。

 この聖杯戦争にて、事実上盤上を支配していた剣の英霊である。

 

 怪物のランサーよりも、自分達に味方してくれたキャスターよりも。

 暴風とも表現できる魔力を纏うあのセイバーは、この聖杯戦争で最強であると認識させられた。

 だが、それより目を引いたのは禍々しい黒に染まり、同じように黒色の光を湛える彼女の宝具。

 

「あの、剣は──────」

 

 セイバーの持つ黒い聖剣。

 その意匠は、紛れもなく先程手に入れたエクスカリバーと同様の物だった。

 あれほどの魔力を纏う英霊で、加えてエクスカリバーを持つ英雄など、一人しかいない。

 

「アーサー王……!?」

 

 ブリテンに於ける、誉れ高き常勝の騎士王。

 散々そんなフレーズを聞かされた直後の対面である。

 立香はその魔力の圧力に顔を引き攣らせ、マシュはその霊基を軋ませる。

 だが、オルガマリーは咄嗟にランスを見た。

 

 マシュに宿る英霊もそうだが、よりその英霊の意思を表に出しているのは────

 

 アーサー王が女性であることは、その臣下であったランスに宿る英霊から聞き及んでいた。

 明らかに汚染されているあのアーサー王を見て、果たして彼はどう行動するのか。

 あるいは、嘗ての主君を前にカルデアの味方で居てくれるのだろうか────

 

 しかし傍に居た筈の少年は、既に其処には居なかった。

 

「あ────」

 

 気付いたのは、逆にセイバーから視線を外す事が出来なかった、マシュと立香だった。

 空間跳躍を思わせる、高ランクの縮地は彼我の距離を音も無く埋めてしまう。

 

「アーサー」

「……ッ」

 

 交わされる視線に、動揺が走ったのはどちらだったか。

 両者とも、大なり小なり嘗ての姿と異なり。

 だが両者は当たり前のように共にお互いを認識する。

 その程度の関係では無いのだというように。

 

「ランス、ロット────」

「─────このような有り様での帰参、心より御詫び申し上げる。しかしながら。果たすべき責務がある故、この首落とすのは今暫く御待ちを」

 

 名を告げようとしたセイバーに、ランスは迷うことなく跪く。

 美しいまでの臣下の習い。

 しかし、それを受けたセイバーは─────────不貞腐れていた。

 

「相変わらず鈍感だな、貴方は」

『なんて??』

 

 ランスの素が出るほど、彼にとって衝撃的な言葉だったのか。

 彼は下げていた顔を上げる。

 

「変に敏い癖に、女の機微には疎いのだな卿は。貴方はトリスタン卿さえ上回る、女人の視線を欲しいままにしていた湖の騎士だろう。成る程、ガレス卿が焦れる訳だ」

「何故、彼女がソコで出てくる」

「次同じ事を言うのであれば、その唇私の口で塞いでくれるぞ?」

「…………………………………………了解、した」

 

 ムム、とか。心外! とか。

 そんな擬音が浮かぶ無表情の彼に、珍しく得意気にセイバーが笑う。

 まるで、ずっと勝てなかった相手に一本取ったかのように。

 二人の空気は、身内のそれだった。

 

 

「───さて、立つが良いランスロット卿。我が敬愛なる湖の騎士よ」

 

 

 そんな中、空気を一新させたのはセイバーである。

 

「カルデアの者達よ。本来ならば、貴様達がこの後のグランドオーダーに相応しいか試してやるだけだったが─────姿は違えど、我が騎士を従わせているというなら話は別だ」

「……………えっと、ドクター」

『……………何かな』

 

 察した様な声を漏らしたのは、この場で一番コミュニケーション能力の高い立香だった。

 

「大体察してるんですけど、ランス君の中の人って」

『……サー・ランスロット。アーサー王率いる円卓最強の騎士で、王が最も敬愛したとされる英雄だよ』

「駄目じゃん! 本気だしてくるフラグだよ!?」

 

 先程の恐怖は何処に行ったのか。

 仲間の一人の身内だったからか、立香は恐怖ではなく焦りで頭を抱える。

 

 アーサー王伝説においてランスの中の人がどのような立場だったか、伝説に疎い立香は知らないが、そんなことは先程のやり取りを見ればわかる。

 自覚があるのか無いのか、あれは恋する少女のそれだ。

 そんなセイバーにとって、好意を寄せる相手をいつの間にか従える組織の見知らぬ女三人。

 逆鱗に触れていてもおかしくはない。

 というか、立香でも同じ立場なら不機嫌になる。

 

 頼みの綱のランスは、おそらくセイバーとは戦わないだろう。

 オルガマリーは、彼が決してアーサー王に刃を向けることは無いのを知っている。

 だが殺せというのではなく、止めてくれる程度なら。

 オルガマリーは、そんな願いを込めてランスを見遣る。

 それに答えたのか、ランスは今にも飛び掛からんとするセイバーの前に出た。

 

「待てアーサー、それは─────」

「貴方は手を出さないで貰いたい。それに、私程度凌げずにこの先のグランドオーダー。乗り越えられるとは思えん」

「……むぅ」

(ソコで納得しないで!)

 

 生前の主従関係は伊達ではないのか、セイバーにランスは見事に丸め込まれる。

 そんなやり取りに青褪めたのはオルガマリーだ。

 グランドオーダーという単語もそうだが、何より目の前の大英雄さえ程度と表現される存在が今回の特異点を発生させた元凶なのだろうか、と。

 

 そんな予想にふらつくも、厳しい表情のマシュを見て踏みとどまる。

 ランスが戦いに参加しないというならば、マシュは一人で戦うしかないのだから。

 

「……マシュ」

「兄、さん」

「出来るか?」

「私は────」

 

 ランスの言葉に、マシュはすぐさま答えることができない。

 恐怖故か、あるいは彼女の中の英雄の葛藤故か。

 問題は、そんな悠長なことをしている暇は無いという点だろうか。

 

「相変わらず甘いな、貴方は」

「ッ!」

 

 そんなやり取りに痺れを切らしたか、砲弾の様にセイバーが跳躍した。

 向かう先はマシュの元に。

 咄嗟に構えた盾に、上段から跳躍の勢いを乗せた黒い聖剣が叩き込まれた。

 

「ぐうッ!?」

 

 何とか受け止めた盾へ、セイバーはその表面を滑らすように向きを変え、掬い上げるように押し出した。

 問題は、その聖剣にジェット噴射の様に黒い魔力が追従したこと。

 その魔力はセイバーの膂力となり、竜の息吹と化す。

 マシュの体を宙に吹き飛ばした瞬間、魔力が爆音と共に弾けた。

 

「きゃあッ!?」

 

 オルガマリーか、立香か。

 あるいは両者の悲鳴が大空洞に爆炎と共に響く。

 アルトリア・オルタの魔力放出。

 赤黒い魔力光は、大空洞内部故に全力とは程遠い威力ではあるものの、マシュを呑み込んで余りあった。

 

 ならば彼女がそれを耐えられる理由は、マシュ以外の要因が必要である。

 

「────お願い、マシュに勇気と力を!」

 

 立香の拳の令呪が輝き、同時に、爆炎の中から聖盾の騎士が飛び出す。

 キャスターに開かれた魔術回路は、正しく令呪を機能させた。

 

「ほう」

 

 そんなマシュに、セイバーは寸分違わず剣尖を合わせる。

 再びマシュを呑み込まんと、黒の魔力が煌めいた。

 

「!」

 

 だが、黒い光はマシュの盾に防がれる。

 否。それは盾から展開される魔法陣がそれを成していた。

 

 ────魔力防御。

 それはデミ・サーヴァントであるマシュの持つスキル『憑依継承()』によって、マシュの中の英雄の力の一つが継承されたスキルである。

 セイバーの持つ『魔力放出』と対になるスキルで、あちらが魔力を攻撃力に変換するのに対し、こちらは防御力に変換する。

 あちらが魔力のジェット噴射ならば、こちらは差し詰め魔力のバリアフィールドといったところ。

 保有する魔力量が多いほど性能は向上し、膨大な魔力を保有するならばその守りは国一つをも守護する聖なる壁と化す。

 

 無論そんな事は未熟なマシュにはできない。

 だが、立香の令呪による後押しがある今、セイバーの攻撃だけなら防ぐことも不可能ではない! 

 

「やぁああっ!」

 

 魔力放出を防ぎ切ったマシュは、そのままシールドバッシュを敢行する。

 しかし根本的な筋力値の差か、身の丈ほどのある十字架の盾は黒の聖剣に容易く受け止められてしまった。

 攻守はすぐさま交代し、再びセイバーの聖剣が迫る。

 先刻のランサーとはまるで違う、技量の差。

 一撃一撃が凡百の英霊の宝具に匹敵する魔力放出の連撃を、マシュは後を考えない魔力防御と令呪の後押しで何とか押し留めた。

 

「ふむ」

 

 セイバーはマシュの体捌きを見て目を細める。

 如何に聖盾の騎士の力を持っていようとも、所詮は借り物。

 だが初陣も良い所の新兵が、マスターの力を借りているとはいえ騎士王にこうも喰らい付く。

 その事実に、彼女を鍛えた者を断定した。 

 

「そうか、師は彼か。では──────加減は不要か」

 

 ガシリ、とセイバーの禍々しい籠手に覆われた手がマシュの盾を掴む。

 そのままAランクの筋力を以て投げ飛ばした。

 

「マシュ!」

「大丈夫です!」

 

 投げられながら体勢を立て直し、追撃に備える。

 マシュは立香の声に答えながら、──────一向に来ない追撃の衝撃に目を丸くした。

 

「えっ?」

 

 唐突に現れた剣戟の空白に思わず拍子の抜けた声をマシュが漏らし、改めてセイバーを見据え──────息が凍った。

 両手で剣を掲げたセイバーは、先程までの魔力放出が児戯に映るほどの魔力を聖剣から立ち昇らせていた。

 

『魔力反応増大! そんな、こんなの完全に竜種のソレを超えているじゃないか……!? 逃げるんだマシュ!! それは聖剣の頂点に立つ、紛れもない最強の斬撃兵器だ!』

「証明して見せよ。お前たちが、彼が参画するに値する者達か否か」 

 

 通信越しにロマンから絶望の言葉が響く。

 しかし、マシュに回避の選択肢は無かった。

 

「先輩、所長……!」

 

 背後に、マシュの護るべきマスター達がいた。

 

 目の前で膨れ上がる死に、恐怖で震えが止まらない。

 涙を流していないことに自分でも驚きだった。

 

 だって、彼女はただの少女なのだから。

 

 でも、だけど。

 避けることなどできはしない。

 

「兄さん……!」

 

 兄が、見ている。

 手を出さず、任せてくれている。

 なら、彼女ができるのは一つだけ。

 その霊基()が出来ることは、ただ護るだけだ。

 

「─────────そうだ。それでいい」

 

 親愛なる兄の肯定の声が、聞こえた気がした。

 

「マスタ-!!」

 

 聖盾を突き立て、恐怖を抱えながら叫ぶ。

 そうだ、自分は決して一人ではないのだと。

 

「私に力を!」

 

 それに、マシュと同じ唯の少女は即座に応えた。

 

「令呪を以て命じる!」

「─────────卑王鉄槌。極光は反転する」

 

 黒い柱となっていた魔力が、渦を巻きながら加速する。

 所有者の魔力を光熱に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、振り下ろした剣の先端から光の断層による『究極の斬撃』として放つ、騎士王の最強の矛の一つ。

 黒化の影響を受け所有者の善悪が入れ替わろうとも、「聖剣」と呼ばれながら善悪両面の属性を有するこの宝具は。

 守り手である湖の乙女にヴィヴィアンととある女が並列するのと同じく、ブリテン島に潜む原始の呪力をウーサー王から継いだ、最後まで分かり合えなかった姉である妖妃モルガンの名を冠していた。

 

光を呑め───────約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!

マシュに、宝具を!!

 

 黒い断絶が振り下ろされると同時に、マシュの視界が黒く染まる。

 それに叫びながら応じるのは、恐怖に裏付けされた勇気によるもの。

 

「─────────ぁあああああアああああああああああッ!!!!!」

 

 命じられた令呪に、サーヴァントたる霊基は即座に反応する。

 護るのだ。

 その身は既に、盾の英霊であるが故に。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 白き竜の血を飲み、化身たる魔竜へ変貌したブリテンの卑王の息吹を彷彿とさせる威力を、ランスは静かに見守っていた。

 マシュの盾が展開した魔法陣は、僅かながらに城壁を築き黒き聖剣の真名解放を確かに受け止めていた。

 否、相手がアーサー王の聖剣だからこそ受け止められたというべきか。

 円卓の騎士にまつわる宝具に対し、あの盾は相性抜群なのだから。

 

 だが、受け止めるだけではだめだ。

 大聖杯を制したセイバーは、その膨大な魔力供給によって宝具の連撃さえ可能とする。

 一度は令呪で防げても、二度三度と続けられれば耐えられるものも耐えられない。

 盾のサーヴァントであるが故に聖剣を防げても、それ故にあと一手足りない。

 

「……済まんな」

 

 ランスは小さく謝罪する。

 無論戦いに参加することが出来ないこともだが、何よりは。

 ()()()()()()に、人理を護らせることへの謝意だった。

 

「何!?」

 

 セイバーが驚愕の声を上げる。

 それは、宝具の真名解放という最大の隙を突かれた為の声であり。

 何よりその第三者の攻撃が、複数のサーヴァントを一撃で消滅させるに値する威力と呪詛に溢れたものだったからか。

 

 

───────全く、世話が焼けるわね。後輩ッ!!

 

 

 膨大すぎる魔力の濁流を纏いながら─────Aチームメンバー、芥ヒナコはその一撃を叩き付けた。

 

 

 




一昨日から完成してたのに投稿することを忘れる致命を犯していくスタイル。
という訳でやっとこさ更新できました。遅れた理由は、一応本編完結済みの作品として、他の投稿作品を優先していたからですね。
御待ち下さった方には申し訳ありません。 

戦うしか能の無いオリ主を積極的に戦わせないスタイル。
ぶっちゃけ負い目的にも心情的にもらんすろはアルトリアと戦えないよね、というお話。

前回からのエミヤや複製聖剣の描写などは、「Fate/Grand Orderシャトー・ディフ 黒瀬浩介作品集」を参考にしております。

そして絶賛延期中の劇場版HFで話題となったオルタの出力デカすぎ問題。
あれは大聖杯からの魔力供給だという説もあるのですが、たぶん序章のオルタも水晶体の聖杯もどきから供給受けてるよね、と考え、ヒナコパイセンを参戦させることに。
矛役のパイセンと盾役のマシュがおれば大丈夫やろ、と安易な決めつけを平然としていきます。
まぁパイセンはらんすろの血飲んでますので、蘭ちゃん喰った時より出力は上です。

次回はパイセンの背後説明した後、序章を終わらせ、その次にエピローグで〆ですかね。

いつもお世話になっております誤字脱字指摘兄貴姉貴への感謝をば。
指摘いただければ随時修正していきます。
という訳で次回お会いしましょう。

*6/9待機らんすろの描写を修正しました。

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