湖の求道者   作:たけのこの里派

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今日は父親の介護しなくてもいいぜヒャッハー! と喜んでたら熱出てた。
皆さん無理なことをすればキッチリ体は悲鳴を上げます。気を付けてください。

というか滅茶苦茶評価を頂き、困惑しながら喜んでおります。
感謝を。

というわけで今回。他作品からカッコイイセリフをリスペクトしまくっております。
ご注意を。
最近一話5000文字いかねぇなぁ……


訪れる決戦

 アーサー王の王国、ログレスの都のキャメロット城の裏庭。

 そこへ歩いている少女が一人。

 

 アルトリア・ペンドラゴン。この国の王である。

 彼女が目指している場所は、とある騎士のお気に入りの場所である。

 

 彼女が歩みを進めること数分。森の奥に少し広げた場所に辿り着き、其処で一本の木にもたれ掛かっている男を見付けた。

 

 男は眠っているのか、肩や頭などに小鳥が止まっている。

 その姿に一瞬アルトリアが見惚れ、呆然と立ち尽くす。

 

「────アルトリアか」

「お、起こしてしまいましたか。済まないランスロット」

「構わない」

 

 体勢や体に止まった小鳥をそのままに、薄く開けた目線をアルトリアに向ける。

 自らの主君に対し明らかな不敬だが、しかしアルトリアは微笑みを浮かばせる。

 彼女はそのままに静かに、ちょこん、と隣に腰掛けた。

 この場において主従関係は無く、アーサー王が数少ない『王の貌』を脱ぐことのできる相手。

 ランスロットは友人関係と認識し、アーサー王は最愛の朋友と口にして憚らないが、本音は如何に。

 王として夢と現を共に王として育てられたアルトリアは、人としての情緒は聖剣によって成長の止まった外見より幼いものだった。

 それこそ『マーリンに恋をしているのかもしれない』と真顔で口にし、マーリン本人を思わず青褪めさせるほどだ。

 自身の人としての感情を、彼女が十全に把握している訳が無かった。

 

「……、何だ」

「いっ、いや、何ですかその。良く此処に来ているのを知って、何故かと思っただけです」

「大したことではない。ただ、俺の育ったあの湖の畔と、此処が少し似ていただけだ」

「そう───、ですか」

「お前こそ、王務は良いのか。アグラヴェインがいるとはいえ、奴にばかり負担を掛けてやるな」

 

 現在ブリテンは、お世辞にも余裕が有るとは言えない。

 

 蛮族(吸血鬼)による二度の大規模侵略。唯でさえ戦争は金が掛かるというのに、物資を生産する民がそのまま蛮族に呑み込まれている。

 尤も、被害が拡大する直前に殲滅しているため致命的な被害は出ていないが。

 しかし、それでも十二分なほどに危機だ。

 何より死徒の軍勢相手に、並の騎士では話にならない。

 

 とある決闘でランスロットに敗北したペレノア王が顧問監督官としてキャメロットに入ったのだが、だからといって円卓だけでも保たないのも確か。

 ケイは負傷により前線から退き、他の円卓の騎士も人なのだから消耗して当然。

 だいたいランスロットを除いて。

 

 しかもブリテンは内部にも様々な問題は存在する。

 虎視眈々とアーサー王の失墜を狙う諸侯は勿論、先に挙げた円卓の騎士サー・アグラヴェイン。

 その正体はモードレッド同様先王ウーサーの娘にしてアーサー王の姉、妖姫モルガンの子にして刺客である。

 

 だが彼は円卓の騎士処か王の秘書官にまでなった。

 

 偏に「国を存続させる」という彼の目的故に、国家の危機的状況で反逆の可能性が無いのだ。

 何より彼は国家の忠臣。

 そして彼の知る限りアーサー王を超える王は居ない。

 その国家に捧げる忠義を、アルトリアに捧げるのは道理だった。

 彼がアーサー王を裏切る時は、彼女が王に相応しく無くなった時だろう。

 故に彼は、ブリテン内部における最大の疾患たるモルガンを逆に監視することが出来るのだ。

 

「必要な仕事は済ませています。マーリンは次が総力戦と見ました。だから、その。そう! 少しでも休もうとも思いまして!!」

「そうか」

 

 何故か詰まった言葉を、彼女は無理やり吐き出す。

 そんな主君を特に感情の見えない瞳で眺めているランスロットに気勢を折られたか、咳払いで頬の紅潮を隠した。

 本題は、次。

 

「恐らく次は、奴等の『王』が出てくるでしょう」

「それは、マーリンの千里眼ではないだろう。直感か?」

「────えぇ」

 

 マーリンの持つ、世界を見通す最高位の千里眼。しかしそれは覗き見である以上、観られた者が神々の様な超越存在ならば、逆に存在を把握されたり報復などといったリスクが存在する。

 であるならば、『王』の動向を断言するアルトリアの様子から、彼女の直感であるとランスロットは理解した。

 

 アルトリアの直感は未来視の域に到達している。

 その直感が、次が決戦と教えていた。

 同時に、とてつもない嫌な予感も。

 次の戦いで、何か嫌なことが起きると告げている。

 アルトリアがランスロットに会いに来たのは、その不安を払拭するためでもあった。

 

(何故だろう。貴方と共にいるだけで、こんなにも安心する)

 

 戦場で彼と共に戦っている時に、どれ程の騎士がこの感情を有したことか。

 彼の戦いはお伽噺の様な、一騎当千という言葉すら役者不足のソレ。

 あらゆる艱難辛苦を、その一刀にて両断する出鱈目のようなその様は、戦場で誰もが惹き付けられる。

 

 本来地獄の具現たる戦場で、場違いのようにたった一人で蹴散らす姿にどれ程の人間が救われたか。

 

 本人が聞けば勘違いや錯覚と答えるかもしれないが、アルトリアにとってランスロットには不思議な安心感を与える力があった。

 子どもが物語のヒーローに焦がれるような、そんな感覚。

 

 そうして会話は終わり、再び静寂が訪れ二人とも目を閉じる。

 ほんの少しの、しかし訪れる戦いを前に、只管闘志を溜め込むために。

 

 

 

 

 

 

 

(──────────アレ? 吸血鬼の王さまって、朱い月じゃね? 無理ゲーじゃね?)

 

 そして、漸く気付いたお馬鹿が一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその三度目の蛮族による大規模侵略が確認された。

 数は今までで最大の十万。ブリテン原住民を呑み込みながら更に数を増やしている。

 

 一体一体が復元呪詛によって再生能力を持ち、膂力は人のソレを超える死徒の、まさしく前代未聞の軍勢。

 流石の円卓の騎士も、所詮人。たった一人で万軍と戦い、その数の暴力に勝利することは出来はしない。

 だいたいランスロットを除いて。

 

「多い……!」

「これほどの数、一体どう対処するつもりだ。マーリン」

「ふむ、策はあるにはあるよ」

 

 おぉ! と、虹色の長髪の美青年の姿をした魔術師──────マーリンの言に沸き立つが、黒い鎧を身に纏う騎士──────アグラヴェインは冷静に現状を分析した。

 

「あるにはある。しかし成功させるには難しいと?」

「吸血鬼────奴等の能力は非常に高い。しかしそれに比例して弱点も多い。この策が成る鍵は、ガウェイン卿とランスロット卿だね」

 

 白銀の騎士とそれに対照的な鎧を着ていない、貴族と言われれば納得しそうな漆黒の衣の男に視線が集まる。

 白銀の騎士────サー・ガウェインはマーリンに視線を向け、漆黒の剣士────ランスロットは閉じていた目を開けた。

 

「ソレが王の命ならば、私はそれを全うするのみです」

 

 忠義の騎士と名高いガウェインは、ただ盲目的に王を崇拝する。

 それが騎士の本懐であるのだと云う様に。

 それこそ友に最愛の弟妹を理不尽に殺されでもしない限り、太陽の騎士の忠義に曇りは無い。

 

 そんな絵に描いたような白騎士とは対照的な、風来坊染みた雰囲気さえ感じさせる黒衣の男は、胡散臭い笑みを浮かべるマーリンに毒を吐いた。

 

「回りくどい言い回しは老人の癖か? それとも性格の悪さか?」

 

 ランスロットの言葉に、しかし老人と言うには若々しい外見のマーリンは苦笑し、(アルトリア)は静かに微笑んだ。

 尤も、彼の本音は誰も聞こえなかったのだが。

 ────眠たくなるから早よ。作戦内容早よ。

 

 この男に言語補正があって良かったと、後に間桐雁夜は答えた。

 

「ランスロット卿には一つの役割を所望しよう。我等は彼の役が終えるまで、奴等を押し止めるのみ。そして止めはガウェイン卿とアーサー王が刺す。この圧倒的物量を覆すのには、コレしかない」

 

 単純な剣の技量で、ランスロットに並ぶ騎士は王であっても有り得ない。

 それにその任は、ランスロットが一番心得ていた。

 では、その役割とは。

 

「頼めるかな? 誉れ高き湖の騎士」

 

 マーリンの向けた言葉に、ランスロットは王へ、アーサー王へと視線を向けた。

 

「…………命令(オーダー)を。命令(オーダー)を寄越せ我が主」

 

 それは、王との何時ものやり取りだった。

 騎士も人だが、一度戦場に足を踏み入れれば、全て王の走狗として戦場を駆け抜けなければならない。

 故に、チェス盤の上で命を待つ騎士(ナイト)の様に。

 

「命令だ。その任を全うせよ、我が騎士」

 

 命は下った。後はソレを実行に移すのみ。騎士は、兵はその為にあるのだから。

 

了解した、我が主(Yes,Your Majesty)

 

 戦いの布告はとうの昔に過ぎている。

 此方は騎士王率いる、最強最高の黒騎士を筆頭とした十二の一騎当千の英雄達。

 そして彼等に付き従うブリテンの兵達。

 

 対するは化外の軍勢。

 ただ一つの命令に従う哀れな死体の群れ。しかしソレを統率する三体の化外の将が、ソレを人への猛威と変革させる。

 

 円卓の騎士すら上回る魔獣の主と黒翼の魔術師、そして大群を軍に仕立て上げている白翼の将。

 そしてその頂に立つのは世界の条理すら覆す月の王。

 

 真正面からぶつかるにはあまりにも危険だ。

 しかし起死回生の策はある。

 ランスロット(ジョーカー)は存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして両軍は対面する。

 自分達の数倍の化外の群れを目にしても、人の騎士の軍に畏れは無く。

 

 化外の群れの大半は、そもそも自意識すら怪しい本能の亡者。

 畏れは無い怒りも無いあるのはただ『喰いたい』という獣の欲求。

 手足もがれようとも、その歩みは止まらない。

 

 そこに、白翼の貴将が高らかに告げた。

 王の望みは忌々しき『黒』との対面と裁定。

 

 

 

「────────潰せ」

 

 

 

 故に、周りの有象無象を片すは臣下の役目。

 

「陛下は最強。この月明かり届く地上との狭間にて無双! ならばッ!! 弱者の弄する小賢しい足掻きの前にして何を恐れ、何を迷い、何を惑うッ!」

 

 それは、主のたった一つの命じられた神意を為すための自らへの、誓いでもあった。

 

「憎悪を喜び憤怒を貪り叛逆を赦す! その愚かさを愛でるのが陛下であり、その走狗にてその系譜たる我等は、主の決定に魂捧げて示すが己が使命と知れッ!」

 

 陛下の何たるかを知らぬ蒙昧共に──────

 

「気の赴くままに────ただ蹂躙するが『強者』と!!」

『『────────■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッ!!!!』』

 

 死徒の軍勢が、滾らせたその暴力を解放していく。

 それは王に下った真祖も同様で。

 

 彼らの望みはランスロットただ一人。

 超越者たる真祖を狩り続けた────そんな自分たちのプライドを、地に叩き落とした不届き者を八つ裂きにせんが為に。

 

 それに呼応して、最高の騎士団は士気を高める。

 語るに及ばす、開戦の狼煙(ことば)は必要無く。

 

 騎士の背中にのし掛かるは家族や友の笑顔。

 蹂躙された村々を彼等は決して忘れない。

 もう二度と喪わないために。奪わせない為に。

 騎士の誇りを胸にし、誉れ高きその姿を体現する王に付き従うのみ。

 

 全ては国を護るために。

 

「──────────勝負(コール)だ」 

 

 運命がカードを混ぜた。

 数奇な運命から始まった、吸血鬼と騎士の国との戦いの最終決戦が始まった。

 

 

 

 

 

 




Q:「なんで真祖まで戦線に加わってんの?」
A:「ランスロットのせい」

というわけでオリ設定を追加。
トラフィムの死体(グール)を死徒に変えて従える能力。この当時彼はあんま強くないんで、設定を追加しました。
形式上死徒の王らしく、かつ吸血鬼らしい能力を考えた結果です。
元ネタは屍姫のヴァルコラキ。



修正点は随時修正します。
感想待ってまする(*´ω`*)



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