湖の求道者   作:たけのこの里派

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独自解釈orツッコミ処満載ですが、よろしくです。


槍衾に対峙する化物共と英雄達

 化外の軍勢と英雄の騎士団。

 開戦と共に、死徒やグールの群れが咆哮と共に爆発したかのような勢いで進軍した。

 

 膂力が違う。如何に円卓の騎士の率いる軍勢といえど、中身は人。

 勿論円卓の中でも上位に位置する者達ならば蹴散らせるだろうが、一般騎士には恐怖を与えるだろう。

 

 「『約束された(エクス)』────」

 

 ソレを希望で払拭するように。

 人類最強の幻想が戦場を染め上げる。

 後の聖杯戦争において、超一級の魔術師である遠坂凛ですら、一度に精々二回しか撃たせることのできない聖剣の中の聖剣。

 

 神霊レベルの魔術行使を可能とし、所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、光の断層による斬撃として放つ。

 聖剣というカテゴリーの中で頂点に位置し、『空想の身でありながら最強』とも称される一撃。

 

 「────────『勝利の剣(カリバー)』ッ!!!」

 

 後にランスロットはその情景を間桐雁夜に語った。

 

 

 

 『開幕ブッパは気持ち良いよね』

 

 

 

 雁夜は白目だったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 槍衾に対峙する化物共と英雄達

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖剣エクスカリバーが、『連続』して吸血鬼達を襲う。

 アルトリアは、アーサー王は竜の因子を持っている。その力は、呼吸するだけで魔力を無尽蔵に生み出すことができるのだ。

 聖剣の使い放題。更には聖剣の鞘という、五つの魔法すら寄せ付けない絶対の防御によってその身を守っている。

 

 最強の矛と最強の盾を併せ持つ。ソレが大英雄アーサー王だ。

 

 そんなアルトリアの今やるべき事は、ただひたすらに最前線にて聖剣を撃ち続ける事だった。

 

 悲鳴すら上げること無く蒸発していく死徒達に、しかし聖剣の一撃から逃れた他の軍勢は目もくれない。

 元々仲間意識など皆無。他の死徒が死んだところで何とも思わない。

 

 「ぐがッ!?」

 

 そこに、ブリテン一の弓の名手。トリスタンの魔射が殺到する。

 

 琴の弓であるフェイルノートに矢は合わない。

 故に放たれるのは音の刃。

 それは聖剣の一撃から逃れた死徒達の体を次々に切り裂いていく。

 

 「くっ。いけません……やはり、決定打に欠けますか」

 

 不可視の刃は、しかし受けた吸血鬼にも痛手を与えるものの、何処までもそれは刃。

 復元呪詛を持つ死徒達にとって肉体欠損など、容易に復元する掠り傷でしかない。

 爆殺できる壊れた幻想(ブロークンファンタズム)を扱える英霊エミヤの投影宝具の矢なら兎も角、常人ならば即死の刃も頭部でなければ効果は薄い。それは死徒達が一番理解している。

 幾ら名手トリスタンといえど、只管に頭部を守る彼等相手では足止めにしかならなかった。

 

 しかしソレで十分。

 体勢が崩れていた吸血鬼達の前線に、騎士達の突撃が食らい付いた。

 

 

 「さあ、行こうかグランスルグ。我等が君の為に」

 「忠義のためだ。貴様の下賤なソレと同列にするな」

 「心外だなぁ。ボクはボクなりの忠誠を誓って此処にいるんだよ?」

 「貴様……」

 「ははッ!」

 

 最初に気付いたのは、戦場を離れた場所で観ていたマーリンだった。

 

 「アレは……、悪魔使い!?」

 

 突如出現したのは、約200メートル近い怪物だった。

 

 

 

 

 ────メレム・ソロモンは悪魔使いである。

 『デモニッション』とよばれる第一階位の降霊能力で、人々の願望をモデルにして使用者の憧憬で彩色し、類似品を作る能力。

 

 かつて彼はこの力を持つが故に、四肢を切断され生き神として小さな集落で神として祀られていた。

 その境遇は、拝火教のとある少年(アンリ・マユ)と酷似しているが、その違いは彼は本物の神子だった事。

 

 朱い月に戯れで拾われて死徒となってからも、ソレは変わらず。 

 彼の喪われた四肢は、彼の作り出した四つの大魔獣によって与えられたもの。

 そして最初に現れたのは、右足に対応している神罰と大海嘯の具現。

 

 「────陸の王者!」

 

 鯨と犬を掛け合わせたような姿の、四大魔獣のうちの一体。破壊の黒犬。

 特殊な能力など無い、しかしその圧倒的な膂力を兼ね備えた巨体が、音圧だけで人間を粉砕する咆哮と共に騎士達を死徒諸共蹂躙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何だあの怪物は!?」

 

 前線から離れた本陣で、ケイが叫ぶ。

 当然だろう。イキナリ全長約200メートルの鯨と犬が混ざった様な怪獣が現れれば。

 

 陸の王者の出現で、前線は崩壊したと言っても良い。というよりかは、崩壊させて騎士達を撤退させたと言った方がいい。

 あれに一兵卒を突っ込ませるのはあまりにも無駄というものだ。

 

 しかし前線には我等がアーサー王が完全武装で戦っている。かの黄金の聖剣ならあの怪物も倒せるだろう。

 

 問題は周りの死徒の数だ。

 幾ら円卓の騎士総出で当たっているとは言え、数の暴力は圧倒的だ。

 

 「くっ…………頼むぞ、ランスロット…………!」

 「おや、中々興味深い話をしているではないか」

 「ッ!?」

 

 その声に、本陣の誰もが空を見上げる。

 其処には、頭部が烏の様な異形達が黒い翼をはためかせていた。

 

 「馬鹿な、翼の生えた────」

 「戦争に於いて、頭を先に潰すのは定石では無いのか?」

 

 そして同様の異形のキメラが、本陣の周囲の上空を囲んでいる。

 

 「くっ────!」

 「貴公らには興味は無いのだが、主の命だ。────殺れ」

 

 子である彼の死徒達異形が、ブリテン一の口達者のケイが何かを語る前に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 「頭を先に潰すのは定石。なら、その頭を誰も護ってないなんて考えねぇよな?」

 「────!?」

 

 

 

 

 

 

 そんな彼等を、赤雷が悉くを撃ち落とした。

 

 全身甲冑の騎士の持つ、この戦いの為にとアーサー王から賜った信頼の証であり、且つ謀叛を起こさないよう極めて例外的に与えられた、王の後継に与えられる筈の宝剣、燦然と輝く王剣(クラレント)

 

 「使えるものがあるなら使え。余裕を残して負けるのは愚図のやること」というランスロットの言により、奪い取ったせいでランクが下がった正史のソレとは違って、極めて例外的且つ限定的にとはいえ与えられたソレは、エクスカリバーに勝るとも劣らない価値を宿している。

 そして宝剣によって威力を底上げされた赤雷は、雷速をもってして異形達の翼を貫いた。

 

 勿論復元呪詛で再生するだろうが、その前に本陣の近衛がトドメを刺す。

 

 「これは…………」

 「お前、ランスロットの敵か? 敵だな? ならオレの敵だ、死ね。王とランスロットの敵は全てオレの敵だ、駆逐してやる皆殺しだ」

 「────コレはコレは、恐ろしいな」

 

 アーサー王のクローンであるが故に、モードレッドは莫大な魔力を持っている。

 その常人に比べれば無尽蔵とも言える魔力が、魔力放出という出力端子をもってして赤雷という形で全身から迸っている。

 グランスルグは既にマジギレしているモードレッドに、素直に驚いていた。

 コレほどの人材を、ただ敵であるだけでここまで言わせるランスロットを内心称賛した。

 

 「故に、手加減するなど愚の骨頂か」

 

 グランスルグの半人半鳥の異形が、更に変貌する。

 ソレは最早、全長数キロの巨大な大怪鳥だった。

 前線を崩壊させている陸の王者すら圧倒する巨体に、モードレッドの戦意は些かの衰えも無い。

 

 

 

 

 「がはははははは!! 良いぞ良いぞー!」

 

 

 

 

 其処に、円卓の騎士が一人加わる。

 

 「一人でコレを相手にするのは不味かろう? 勝手ながら助太刀させてもらう!」

 「ペレノアか…………構わないぜ。ランスロットの敵をより早く殺せるなら文句はねぇ」

 (…………ランスロットが聞けば頭を抱えるな)

 

 モードレッドのアレっぷりに、何処で育てかたを間違えたッ!? と頭を抱えるランスロットが、ケイの脳裏に浮かんだ。

 

 「騎士として一応名乗っておく。キャメロット円卓の騎士の末席、モードレッドだ。死ね」

 「同じくキャメロット顧問監督官、ペレノアである! いざ!」

 「グランスルグ……ブラックモア……何でも良い、好きに呼べ」

 

 元魔術師の黒翼に、ブリテンの狂犬共が激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 トラフィムは死徒の群れが騎士達とぶつかり合い、ソレをメレムの陸の王者が踏み潰し、ソレに円卓の騎士達が襲い掛かるその戦場を、死徒本陣から眺めていた。

 

 ソレだけ見ればやや陸の王者が押されているのが解るが、直にメレムも新たな四大魔獣を追加投入するだろう。

 

 敵の本陣もグランスルグがその巨体で襲い掛り、張り合う赤雷が見える。

 

 そして長期戦になればなるほど此方が有利に運ぶ。

 何せ数は此方が圧倒的に勝っており、敵の騎士を喰らえば更に増える。

 

 敵の円卓の騎士が予想以上に手強いのが予想外だったが、所詮人間。限界はある。

 故にこのまま行けばブリテンの崩壊は確実だった。

 

 

 

 

 

 「────────待て」

 

 

 

 

 

 そこまで思考し、トラフィムは違和感を覚えた。

 何かを忘れている様な。

 

 「奴は」

 

 『王』までも出陣する迄になった、そもそもの原因は何だった?

 この身に嘗て無いほどの屈辱を与えた怨敵はどんな奴だった?

 この総力戦で、何故出てこない!?

 

 「────奴は、あの黒騎士は何処にいるッッ!?」

 

 トラフィムが違和感に気付いたと同時に、凄まじい衝撃が走った。

 具体的には、戦場から見える山の登頂部が吹き飛んだ。

 

 「なッ……!?」

 

 死徒の軍勢すら動きを止め、呆然と土煙を上げる山を見上げた。

 

 「やれッ! ガウェインッッ!!!」

 

 ソレが合図だった。

 

「我が聖剣は太陽の具現。王命のもと、地上一切の化外を焼き払いましょう────」

 

 それは、アーサー王の持つ『約束された勝利の剣』と同じく、騎士王が妖精湖の乙女によって賜った姉妹剣。

 そして最も適正のあったガウェインに与えられた、太陽の灼熱を具現する日輪の聖剣。

 

 『聖者の数字』にならぶ、ガウェインが『太陽の騎士』と謳われるもう一つの所以。

 

「この剣は太陽の映し身。もう一振りの星の聖剣────『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』ッ!!」 

 

 死徒最大の弱点。

 それは常に起こっている肉体の劣化、損傷の速度を急激に早める日光。紫外線といっても良い。

 血を吸うのも、血に含まれる遺伝子を取り込み肉体の劣化を補うために行っているのだ。

 

 平原で遮蔽物は皆無であるこの場で、擬似太陽を具現化するガラティーンはまさに最悪の聖剣だった。

 

 発動し、掲げるだけで良い。

 月が輝く真夜中にあり得ない、死徒にとって致死の猛毒である太陽は、化外の体を一片の容赦無く焼き尽くす。

 

 「────ぎっ、がぁあぅぅぉぉぉおおおおおおおおおっっっ!!!?」

 

 白翼は崩壊寸前の死徒を使い、死した騎士達の肉壁を積み上げ、黒翼は魔術で、魔獣王は獣でもって日光を防ぐ。

 日光に対して耐性を持つ死徒もいるだろうが、ダメージは不可避。

 だが、ただの死徒が浴びれば一瞬で肉体が崩壊するほどの直射日光だ。

 

 しかしメレムの魔獣―――――つまり悪魔である陸の王者は死徒では無い為、その巨体で日光を容易く防ぐだろう。

 故に悪魔使いであるメレムは日光に注意を向けてはいたものの、それを完全に防いだ彼は油断していた。

 

 

 

 

 「────────『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』ッ!」

 「なっ!?」

 

 

 

 そんなメレムに、黄金の聖剣が食らい付く。

 自らを盾にするように陸の王者が阻むも、直撃を喰らってしまった。

 

 胴体を大きく抉られた陸の王者は耐え切れず、顕現が解ける形で戦線から離脱する。

 要の陸の王者が屠られた前線に、死徒など一匹たりとも立っていなかった。

 

 化外の軍勢は文字通り崩壊した。

 

 「────馬鹿な!? 真祖に日光など効かん筈だ!」

 

 完全な不老不死である真祖には、日光など何の意味もない。ガラティーンを掲げるガウェインを集中的に狙わせれば良い。

 故に軍勢が崩壊するなどあり得ない筈である。

 しかし崩壊した軍勢に、百余人居た真祖は戦場に立っていなかった。

 

 否、最後の一人が、今まさに噴き出す血飛沫と共に崩れ落ちた。

 そして、ソレを殺った犯人である────黒い刀を持った男が一人。

 涼しい顔をした、手傷どころか返り血すら無いランスロットが其処に居た。

 

 「貴様ァッ…………!」

 

 そう、軍一つを一人で蹴散らせるランスロットが一体今まで何をしていたか。

 コソコソしながら軍勢内の、バラバラに配置されていた百余人いた真祖をコッソリ皆殺しにしていただけである。

 そして最後の一人を捉えた時に、合図として山を斬撃を飛ばして斬ったのだ。

 

 「化け物がァッ!!!」

 

 トラフィムは心の底からそう叫んだ。

 アレを人間だと断じて認めない。

 

 真祖はサーヴァント約二体分に匹敵する力を持っている。

 死ぬ以前の、生きている英雄ならば単体で互角に相手をできるだろうが、単純計算でも12対100。

 アルトリアやガウェインなどの力も計算に入れても、ソレにメレム達も含めればブリテンに勝ち目などなかった。

 

 「戦いが始まってから、まだ15分も経っていないのだぞ…………!?」

 

 というかそもそも、トラフィム達にバレずにとか関係無く、『コッソリ』真祖を殺すなど、あらゆる面で常軌を逸している。それを百余体。

 埋葬機関や執行者が聞けば、間違いなくその不条理に発狂するレベルだ。

 

 しかし現実は待ってくれない。

 

 「今だッ! 一気に押しきれ!!」

 

 アーサー王の号令に、騎士達がトラフィム達三人に雪崩れ込む。

 アルトリアは再び黄金の聖剣を放つため輝かせ、ガウェインもガラティーンを構える。

 日光を防ぐのに手一杯の三人に、それを防ぐ手だてはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「────────『沈め』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその一言で、出現していた擬似太陽は消滅した。

 日の光が消えると同時に、誰もがその方向を見た。

 見て────騎士達の心が折れた。

 

 「────がッ」

 

 突然の出来事によって生まれた静寂が支配する中、全身から血を吹き出したガウェインが崩れ落ちる。

 その鎧はひしゃげ、一瞬の内に何が起きたかを全く理解させなかった。

 

 コマが飛んだような理解不能の中で、ソレは現れた。

 

 超越者たる真祖が塵芥のソレに堕ち、他者を生物レベルで圧砕する威光と神威。

 傲岸に不遜に微笑むソレは、ランスロットだけを視ていた。

 

 「────今宵は月夜、月が天を統べている時は太陽は沈むべきだ。日の光など無粋極まりなかろう?」

 

 歩むのは天。制するは地。

 天体の王者であるアリストテレス。

 そして月の最強種(タイプムーン)を冠するアルテミット・ワン。真祖の王、朱い月のブリュンスタッドが降臨した。

 




まーりん「作戦のために、真祖ばれない様に潰してちょ」
らんすろ「ぶ、ラジャー」

マーリンェ…()

という感じに前哨戦終了。そして基本円卓組の出番もほとんどなくなります。
次回からはランスロと朱い月とのガチンコが始まります。

修正点は随時修正します。
感想待ってまする(*´ω`*)



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