探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
私は牧村さんと並んでキャンパスに併設されている生協内にある学食にやってきた。
昼時で混み始めてはいたものの、運よく入れ替わりで二人掛けのテーブルを確保することができた。
私は定食A(鮭の塩焼き、小鉢二つ、ご飯、お味噌汁)、彼女はカツカレー大盛りを注文していた。
「牧村さんっていっぱい食べるんだね」
「身体大きいからね」
「背が高いだけで細いから容積としては普通なんじゃないの?」
「そうかも。でも、私ジム行ったり運動もするから食べないと保たないんだよね」
「へー」
私は運動音痴かつ運動嫌いなのでジムに行こうなどと考えたこともない。
沢山動くとお腹が空くものなのだろうか。
そもそも私はあまり空腹感というものを感じたことがない。
ゆえに長時間配信にも耐えられるのだ。
お互いの受けている講義や出身地の話から、話題はVtuberのことに――。
「千里眼オロチがいなくなってから占い系いっぱい出てきたよね。雨後の筍って感じで」
「あー、そうだよね。でも、私あんまり占いって興味ないな」
実際、オロチ先生がほぼほぼ独占していた市場だったので、行き場を失くしたファンを獲得するために、今までこれといったキャラ付けがなかったVたちがこぞって占い師Vだの占星術Vだの八卦VだのタロットVだのに転身しまくっている。
「東城さん、千里眼を葬ったニコ推しだもんね」
「まぁ……推しっていうかちょっと観てるってだけね」
「はいはい」
――まぁ、推してると思われてるくらいがちょうどいいかな。
「牧村さんはどういうのが好きなの?」
「私はマイナーばっか推してる」
「マイナーってどのくらいの?」
「うーん、チャンネル登録二桁とか」
「二桁!」
信じられない。
私でも三桁いる。
マイナーとかいうレベルですらない。
「なんで? そこまでファン少ないってなにかしら理由があるんじゃないの? 面白くないとか」
「いやいや、そういうことじゃないのよ。私は青田買いが好きなの。売れた後に古参面したいから。ちゃんと売れそうな子を選んでるって。大手事務所とかじゃなくて個人勢とかでね、あ、この子売れそう! って思って推し続けて、ビッグになるのを見届けるのが快感なんだよ」
「わかるような、わからんような。で、ビッグになったらどうするの?」
「まー、しばらくは古参面して浮かれてるんだけど、飽きちゃって次の子探すかなぁ。常に数人同時で推してはいるんだけど」
「はぁ」
牧村さんはけっこういい奴だけど、けっこう変な奴でもあるのかもしれない。
こんな美人なのに。
「でも、最近ちょっといいかもって思った子がすぐ引退しちゃって悲しいんだよね」
「なんで? 人気なさすぎて?」
「いやいや、そうじゃないから。なんかV殺しの標的にされちゃって」
「なに、V殺しって?」
「絡んだVが次々に引退しちゃうっていう不吉なVがいるのよ」
「へー、そんなのがいるんだ。でもそれって絡まなきゃいいだけじゃないの?」
「そういうわけにもいかないのよ。人気Vだから」
「あー、登録者数二桁とかのこれからって子からしたら人気者に絡まれたら嬉しくなっちゃうし、うまくいけばファンが流れてくるかもしれないしね」
「人気っていっても炎上系だよ。だってコラボ相手が死ぬんだから。実際には死んでなくて引退なんだけど、画面越しのファンからしたら一緒だよね。殺されたようなもん」
「へー」
「藤堂ニコみたいに相手のインチキを暴いて引退に追い込むとかじゃなくて、理由がわからないのに急に引退しちゃうから。V殺しって呼ばれてるの」
そんな奴と比較されることはイマイチ釈然としないものの……V殺しのことは気になる。
――帰ったら調べてみようかな。
「藤堂ニコに頼んだら、V殺しのトリックも暴いてくれるかな? たしか名前にちなんで25000円でどんな依頼も請けてくれるんだっけ?」
「誰よ、そんなこと言ってるの。25000円くらいじゃ……まぁ、請けてくれそうではあるけどね。そんな金額設定はない……と思うけど」
「本当に好きなVがV殺しと絡んじゃったら本気で相談するかもしれない」
「ふーん。でも、もうそのV殺しってちょっと噂になってきてるんでしょ? ニコちゃんもそのこと知ったら自分から調べたりするんじゃないかな」
「たしかに。探偵なんだもんね、一応」
「そうなんだよね。一応、探偵なんだよねぇ」