探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
私は帰宅すると大学の課題に取り掛かる。
音楽を一曲聴いて、歌詞の中から比喩表現をピックアップして曲全体の表現意図をレポートにまとめるという楽しげだがちょっと面倒なやつだ。
だが、どんな面倒ごとも夜の配信に向けて、やるべきことはすべて済ませておく。
配信の後にはすぐ寝たいのでシャワーを浴びて、化粧も落としておく。
そもそもあまりしっかり化粧をするタイプではないが、外に出る時にする化粧もVtuberとしてアバターを纏うのも本来の自分を隠し、より良く見せようという意味では似たようなものなのかもしれない。
ただ化粧は薄く、Vの姿も自分自身に似せているため、本来の自分を隠そうという潜在意識はあまりないようにも思う。
私のように個人勢でデザインからキャラ設定まで自分一人で作った人のVの姿は自分のなりたい姿なのかもしれないし、自身の内面や本質を具現化したものなのかもしれない。
そして……Vの姿で人を騙したり、危害を加える人間はきっと内なる欲望をVの皮をかぶって発散しているのだろう。
そう思うとV殺しにも俄然興味が湧いてくる。
そういうV――人間の化けの皮をはがすのが私のような探偵の役目だ。
――今度、牧村さんに会ったらこういう話もできるといいな。
連絡先は交換したものの、なんの用事があるわけでもないのに雑談のために連絡するというのは気が引けた。
一年以上友達を作らずソロで大学生活を送ってきたので、いまいち他人との距離感をはかりかねているのだ。
つらつらと無駄なことを考えながらもしっかりレポートを書き上げ、作り置きして冷凍しておいたカレーを夕食として食べた。
貧しい大学生なので割と自炊はする方だ。あと昼に牧村さんがカツカレーを食べていたのが今になってちょっとうらやましくなってきたというのもある。
しかし、V殺しというのは一体何者なのだろうか。
私は牧村さんに聞いていた名前をライバー名鑑で検索する。
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呪井じゅじゅ
ゴシックロリータを纏う呪い系Vtuber。ダウナー系のトークがクセになると評判。自分に関わると不幸になると公言しているが、多くのファンは彼女の呪いで不幸になるのであれば構わないと豪語している。
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流石に紹介文に「V殺し」と直接的には書いてはいない。
そりゃそうだ。悪口としてストレートすぎる。誹謗中傷で訴えられたら勝ち目もなさそうだ。
でも、そもそものVとしてのコンセプトも呪いではあるのか。
引退していくVたちのことを呪い殺している、ということなのだろうか。
もう少し情報を集める必要がある。私は彼女の配信や動画のアーカイブを観てみることにした。