探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~   作:正雪

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解決編 神様の正体(中編)

 きょとんとする西園寺さんのアバターを前に私は自分の推理を披露することにする。

 

「立ち話もなんだから、そこのカフェで話そ」

「うん」

 

 今はホラー小説家としてデビュー予定の東城ちゃんだが、彼女には色々と事前に説明しておかなければならない。

 適当なカフェの個室に入って向かい合わせに座る。

 私はいつものブラック珈琲を、そして彼女はなんかオーガニックトロピカルティー的なものを頼んでいた。

 VRにオーガニックもなにもあるかいな、と思いながらも彼女はロールプレイを楽しんでいるのでそれに水を差すようなことはしない。

 マッキーとかフローラがやったら、ノータイムでツッコミを入れている。

 

「とりあえず最初から整理するね」

「なんか探偵Vの推理ショーを生で見てるみたいー」

 

 この言い方……さてはこいつニコの方の配信観たことあるな。

 ちょっとニコっぽい喋り方とかしないように気をつけなければ。

 もう友達だとは思っているが、まだ100%彼女を信用しているわけではないから正体を明かすわけにはいかない。

 

「そんな大層なものじゃないよ。あのね、まず私がなんでグリモワールにいる神様のことを知ったかっていうと、あるアイドルのファンの人が神様について言及した後に姿を消したって噂を聞いたからなの」

「姿を消した?」

「最初はただ追っかけを引退しただけなのかなって話だったんだけど、どうやら強制ログアウトしていなくなっちゃったらしいの」

「強制ログアウト?」

「えーっとね、基本的にはログアウトポイントからしかログアウトできないじゃない? だけど、リアル側で心身に重い不可がかかったりしたってVR機器の生体センサーが判断したら強制的にログアウトさせられて、救急に通報がいくの」

「へー、そんな機能あるんだー」

 

 これって一般常識ではないのか。

 かつてVR使用中に大怪我をするとか命を落とすとかで社会的にVR批判が巻き起こった際に実装された機能だが、かなり昔のことなのでわざわざ調べようと思わなければ知らないのかもしれない。基本的にお世話になることはない機能なのだし。

 

「続けるね。で、その人がいなくなっちゃう前にもうアイドルの現場に行く必要はないっていうようなことを言ったらしいの」

「ふむふむ」

「で、神様の噂ってグリモワール上で広まってはいるし、こうやって何かしらの事故は起こってるのに、実態は掴めないのってなんでかなって考えたの。私は何かしらグレーゾーン、あるいは違法性のある物事をVR上で扱っていて、だけどその勧誘自体はリアルでやってるんじゃないかって予想したわけ。だからリアルでその話を聞いた人を探してたんだ」

「それであたしに話聞きたかったんだ」

「そういうこと」

 

 私はリアル側でルイボスティーを飲んで、喉を潤す。

 VR中にリアルで珈琲は飲まない。

 冷めたら不味いし、トイレ近くなるし。

 

「で、西園寺さんの話聞いたら、人と仲良くなれるセミナーをVRの神様って呼ばれる人がやってるって言われたんだよね?」

「うん……」

「でもそれって正確じゃないと思う」

「え? どういう意味?」

「勧誘してきた彼が正しく伝えなかったのか、まだ聞けてないのか、あなたがマッキーのいる前だから要所をボカしたのかはわからない……でも、私はいなくなったアイドルファンの人の情報と西園寺さんの状況、動機から推理するとちょっと違う答えに辿り着くの」

 

 西園寺さんはこれまで明るかった表情を曇らせ、グラスのストローに口を付ける。

 

「私はこれから本当の友達になりたいと思ってるし、西園寺さんもそう思ってくれてるからそのセミナーに潜入取材させてくれるんだと思ってる。そこに私を取り込もうとしたり、ここから全然違うところに連れて行ったり、まいたりするわけじゃなくてね」

「…………」

「ひょっとしたらそういう気持ちも少しはあるのかもしれない。でも……こないだも言ったけど、VRでは何にでもなれるし、自分の欲望を叶えることができる。でもそれは『仮想』でしかないんだよ。リアルで解決すべきことはリアルで解決しよう。私はそれを拒絶したりしない」

「東城さんって頭良さそうな喋り方するなーって思ってたけど、本当に頭いいんだねー。あたしとは違うや。続けて」

 

 目の前のギャルが諦めたように言った。

 

「うん。つまり……VR上で大好きだったアイドルにもう会いに行かなくてもよくて、人と仲良くなれるようなことで、のめり込むとリアルに支障が出る……これって一見するとカルト宗教みたいだよね。だけど、私がこれらの情報に筋が通ったストーリーを付けるとしたら……違法VRディープフェイクと、VRドラッグの組み合わせ、だと思うんだ」

 

 自分の好きな相手――それがリアルでもVRでも関係なく、まるで目の前で自分の欲望を満たすような行為をするVR動画とそれを現実かのように感じさせるVRドラッグ。

 これを売り捌くのであれば、当然VR上で証拠が残るような勧誘はやりにくいだろう。

 かといって、リアルだけでは完結しない。そのデータのやりとりや使用はVR上で行う必要があるからだ。

 金銭のやりとりや、ドラッグの提供はまたリアル側でうまくやるノウハウがあるのだろう。

 

 アイドルファンや叶わない恋をする相手を狙っているところもこの推理に辿り着くことになった要因だ。悪質だと思う。

 

「すごいね、だいたい当たってる。ってか、今日は私からそれを伝えて、そんな気持ち悪いやつとは友達にならない方がいいよって言うつもりだったんだー。友達になってくれて嬉しかったんだけど、やっぱりさ相応しくないんじゃないかってずっと思ってて」

 

 西園寺さんはヘラヘラ笑いながらそう言った。

 マッキーがどう思うかは知らないが、別に気持ち悪いとは思わない。

 でも、ドラッグは良くない。

 

「そうなんだ。でも別に気持ち悪くないよ」

「嘘でしょ」

「ホント。だって結局さ、西園寺さんがそんなのに手を出そうとしたのって、リアル側でどうしようもなくて、気持ちのやり場もなくなって仕方なくじゃん。変なやつにつけ込まれたのもあるし」

「…………でも、あたしは……牧村さんと友達になりたいとはもちろん思ってたけど……恋人にもなりたくて……そのVRで……偽者でもそんな風にできたらって……」

「大丈夫だよ。そういう感情を持つこともあるだろうし、それを私は否定したりしない。あとさっき私とは違うって言ってたけどね、違わないよ。私は孤独を感じる前に誰かが手を差し伸べてくれただけ」

 

 彼女は友情や愛に飢えている。渇望してる。

 私も孤独を感じてしまっていたら……彼女のように嘘の友情に縋り付こうとしていたのかもしれない。

 共感はできないが、想像はできる。

 ファンもいなくて、マッキーやフローラもいなくて、ぴーちゃんもいない。

 ずっと遠くから憧れの誰かを見てるだけ。

 リアルでも本当の自分を誰も理解してくれない。

 もうVR上で自分の憧れの人の偽者と一緒にいられるならそれでいいと思うのは気持ち悪いことだろうか?

 

「西園寺さんはまだ引き返せるわけでしょ。一緒にその変なセミナーぶっ潰しに行こうよ。それでリアルでマッキーと私と一緒に服買いに行こ」

「本当にいいの? 東城さん」

「いいよ。マッキーがキモいとか言ったら、アイツだけ置いて二人で行こう。私、GUとユニクロでしか服買ったことないけどね!」

 

 私はすっくと立ち上がる。

 

「これから私のことは……TJって呼んでね。リンちゃん」

「ありがとう! TJ」

「あとこれからもう一つ、私の大事な秘密教えてあげる」


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