探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~   作:正雪

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TJとマッキーとリン

「思ったんだけどさー、やっぱあたしって有名な誰かにくっついてたり、好きになってもらうことで自分も価値がある人間なんだって思い込みたかっただけだと思うんだよねー」

 

 私と西園寺凛ちゃんは教育学部前のベンチに座ってマッキーを待ちながらおしゃべりをしている。

 なんと、こやつリアルでもピンク髪になりおった。服装も肩とかめっちゃ出てる。

 

「あんまり良い発想ではないけど、一歩引いて冷静にならないと自覚できないかもね」

「そうかもー。一歩引いたっていうかさ、TJに首根っこ掴まれて、引きずり回されて、往復ビンタで目覚まさせてもらったって感じだけどね」

「そんな感じなんだ」

 

 私はそんなイメージだったことになんだか可笑しくなった。

 リアルだととてもそんなことはできない。

 

「ホントにこの何日かで色んなことありすぎたからね。あたしの中ではそのくらいのショックだったのよー」

「荒療治過ぎたかもしれないけどね。なんか多重人格みたいだし」

「これがホントで、あっちの偽TJスタイルは嘘だから。こないだ着てた服とかあげようか?」

「え? もらっていいの?」

「いいよ、好みじゃないし」

「やったー。ありがとー。好みじゃないなら真似なんかすんなよとは思うけどさ」

 

 もう今日服買いに行かなくていいんじゃね?

 

「だって、マッキーに好かれたかったからさ。今となってはやり方イカれてたなって思うよね。恥ずいわー」

「変な奴過ぎる。しかもそのギャルギャルしい見た目で文芸サークルかつ専攻が数学なのもまた変さが上乗せされている」

「あはは、なんか数学だけは昔からできちゃうんだよね。あたしだってなんかチャラい勉強したいし」

「チャラい学問なんかねーよ」

 

 私が言うと何かツボに入ったのか、リンちゃんは大笑いしながら、私の肩を叩く。

 

 すると、もう一人の変な奴がやってきた。

 

「お待たせー。って、うわ! 誰? え? リンちゃん? あははははははははは。全然キャラ違うじゃん」

 

 マッキーは到着するや否や、新生リンを見て大爆笑している。

 

「変かな?」

「全然変じゃない。超似合ってる。そっちのがいいよ。ちゃんと自分の好きなカッコしてるの伝わるし」

「ありがとー。あたし、ギャルだったんだよねー」

「なるほどねー。そりゃ、あのTJスタイルが似合わないわけだ」

 

 元芸能人の美人とゴリゴリのギャルといるとなんか私だけ影のようだが、まぁいい。

 

「じゃ、揃ったし行こうか」私が立ち上がる。

「その前に二人に言いたいことあるんだけどさ。わたしの講義終わるの待ってくれるなら、文学部キャンパスの前で待っててよ。なんで講義ない二人のために教育学部まで歩かされなきゃいけないのよ。遠いよ!」

 

 そう、なんとなく教育学部前を待ち合わせ場所にしたが……講義があるのはマッキーだけなので文学部キャンパスで待ち合わせる方が効率がいいのだった。

 

「良い運動になったでしょ。行こ行こ」

「こういう時にその類稀なる推理力で一番時間と距離が無駄にならない待ち合わせ場所設定してよね」

「あー、あたしらが待ち合わせするのに一番効率いいのはメトロの2番出口だと思うよー」

 

 リンちゃんが一瞬考えて言った。

 確かに感覚的にはそこが良さそうだ。今回は一人だけ講義で二人フリーなので迎えに行ってもよかったが、全員せーので講義が終わるとなると駅か。

 

「リンちゃんかしこー。じゃ、次から3人で出かける時はそこね!」

「今日以外も遊んでくれんの?」

「当たり前じゃん」

 

 そして、私たちは歩き始めた。

 

     ※

 

「しっかし、こないだのTJってかニコちゃんはカッコよかったよねー。私なら脚竦んで立てないよ。VRなのに」

 

 私たちは電車で新宿に向かうことになった。全員服のセンスが異なるが(私はセンスとか以前の問題だが)、新宿ならなんとかなんだろってマッキーが言うので。

 

「マッキーはスラムの時もVRなのにぷるぷるしてたもんね」

「そうなんだー。でも、あたしも怖くてグリモのスラム地域とか行ったことないなー」

 

 グリモって略すんや、リンちゃん……。

 

「わたしもTJと一緒じゃなきゃ無理無理。こないだのディープフェイクのセミナーで怒ってた時もだけど、TJはコミュ障なのにいざって時は頼りになるというか、すごい胆力あるなーって思うよ」

「ホントホント」

「いや、あれはあーせざるを得なかったのよ。当初のプランだとあのままセミナー最後まで聴いて、ドラッグの取引まで漕ぎ着けて警察に通報するつもりだったの」

 

 私だって、あんな形にしたくはなかった。

 

「でも、成分が合法って言ってたじゃん。多分、というか十中八九合法ではないというか、まだ違法になってないだけの脱法だと思うんだけど、それだと犯罪じゃないし、ディープフェイク動画制作だけだと大した罪にならないかもしれないじゃん。だからもう、こういう犯罪があるんだって周知した方がいいかなって」

「そういうことかー」

「正直ね、今でも正しかったかはわかんない。逆に宣伝になっちゃった可能性もあるからね」

 

 存在を知って、ディープフェイクと没入感を高めるドラッグで歪んだ欲望を叶えようとする人間が出てこないとも限らない。

 

「でもさー、少なくともあたしは救われたからねー。キモい想像上のマッキーとVRでデートして、薬でラリって病院送りならずに済んだ」

「やっぱリアルの方がいいでしょ」

「うん! まだちょっと緊張してるー」

「リンちゃん、緊張とか全然表出ないね。あと多分すぐマッキーには幻滅して緊張とかしなくなるから大丈夫」

「なんでこと言うのよ! ってかTJってわたしに幻滅してるの? え? なんか泣きそう」

「幻滅してないしてない! 言葉のアヤだよ! 元芸能人だからってお高くとまってなくて親しみやすいみたいニュアンスだよ!」

「よかったー」

 

 メンヘラが発動してちょっと面倒くさい感じになりかけたが、即座のフォローで機嫌を直してくれた。

 あとまたリンちゃんはツボに入っている。この子、ゲラなのか。

 

「ほら、着いたよ。今日は元モデルのわたしが二人の服をコーディネートしたげるからね」

「やったー」

「あんまり高いの選ばないでよー」


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