探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~   作:正雪

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ファンと付き合ったりしないでしょって話

「ね、お願いTJ」

「うーん、嫌だねぇ」

「え? なんで?」

「なんで? 逆になんで?」

「友達の真実の恋だよ。応援したいって思わない?」

「ちょっと思えないかなぁ。友達が偽りの恋で破滅しそうだから、目を覚ましてあげたいとは思うかな」

「よくわかんない」

「わかれよ。不思議そうな顔すんなよー。言った通りの意味しかないんだよー」

 

 リンちゃんはキョトンとしている。私はちゃんと日本語で喋ってるでしょうがよ。

 え? 通じてない。私もよくわかんない。

 

「お、いたいた」

 

 二人して自分は宇宙人と邂逅したんか?みたいな顔で見つめあっているとマッキーがやってきた。

 

「TJさ、あれやってあれ」

「あれってなに?」

「あそこにいる、レスリング部の主将っぽい人応援して」

「えーと……なんて立派な屋久杉だ! 樹齢200年じゃなくて、20年? 信じられない! あの巨木のような両腕はまだまだ成長途中だというのか! いったいどこまで伸びていくんだ! 神への冒涜バベルの塔!」

「わー、すごーい」

「じゃないのよ! 思わず反射でやっちゃったけどさ」

 

 しかし、この一瞬でよく出たよ。私も。最後のバベルの塔とか飛躍し過ぎでわけわかんない。

 

「まぁまぁ。TJの筋肉大喜利面白いからさー。これ他にも応用利きそうだよね」

「新しいVR恋愛シミュレーション出る度に謎の才能が開花してバリエーション増えていきそうな予感はしているよ」

「はー、面白かった。またやってね」

「別にいいけど、今はこんなのやってる場合じゃないのよ」

「どうせリンちゃんがホストのエラ君と付き合いたいとか言ってるんでしょ?」

 

 マッキーは私の隣の席に腰掛けながらズバリ当ててくる。

 

「お、名探偵マッキーじゃない」

「探偵じゃなくてもわかるよ。ホストクラブ行ってからリンちゃんずっと言ってるし」

「あたし、マッキーにも相談してたからねー」

 

 なるほど。マッキーの意見も聞きたいところだ。

 

「マッキーはなんて?」

「TJに相談したら?って」

「おいー」

「まぁ、無理だろうなーとは思ってるよ。でも意外とTJならなんか無理を通して道理を引っ込めてくれる可能性もあるし」

「そんな可能性はないのよ。この件に関してはね」

「そんなこと言わないで、なんとかして」

「もう直接会いに行って、付き合ってって言って玉砕しておいでよ」

「でもそれは……」

 

 ギャルは急にもじもじし始めた。

 なんやねん。

 

「玉砕しに行くにもお金かかるからねー。結構厳しいかもね」

「やっぱり二人が行ったお店って高級店なの?」

 

 私の質問にはマッキーが答えてくれる。

 

「最高級ってわけじゃないけど、結構な高級店だったよ。内装とかサービスも凝ってたし、性別不詳の王子様ホストってニッチ系だからね。エラ君の指名料は5万だって。あと謎のTAXが30%でテーブルチャージが1時間2000円」

「「たっか!」」

 

 私とリンちゃんがハモる。

 会うだけで、67600円かかるじゃん。その謎のサービス税がチャージにもかかるとして。

 やば。

 

「会うだけで、だからねぇ。当然ドリンクも頼むわけでしょ。一回10万円くらいは見といた方がいいんじゃない?」

 

 マッキーはこともなげに言う。彼女はトップモデルとして活動してたので金銭感覚はバグり気味だし、なんなら推しホストにナンバーワン取らせることもできそうだ。

 

「あたしんちの家賃より高い……免許取ろうと思って貯めてたお金崩せば、一回くらいは会いに行けるかな。でも、それで付き合ってもらえなかったら……あたしも夜の仕事で……」

「あー、もうわかったわかった。私はまだ初回料金で行けるから偵察に行ってくるよ」

「ホント?」

「リンちゃんがそのエラ君とやらと付き合えるように行くわけじゃないよ。その逆」

「え? 邪魔するってこと?」

「違うよ! エラ君は誰にでも好きって言ってるっていうのを証明しに行く。本性を暴きに行くんだよ!」

 

 久々に出るわ。

 バケのガワを剥がしてあげますよ!

 この名探偵VTuberである藤堂ニコがね!

 

「じゃあ、エラ君が本当にあたしのこと好きなんだって証明できたら協力してくれる?」

「わかった。その時はね」

 

 本当にそんなことがあるならな!

 

「リンちゃんよかったねー」

「マッキーさぁ、他人事みたいに言うけど、あんたもファンと付き合ったりしないでしょ?」

「ファンはファンだからね。引退した今ならわかんないけど、付き合ったらもうお金使ってくれなくなっちゃうじゃん」

「っていう話なのよ」

「なるほどー」

「じゃないのよ。そこまでマキ・リンの間で詰めてから話持ってきなさいよ」

 

 それは無理だよねー、とか言って二人で顔を見合わせてウフフって笑ってる。

 ドッと疲れた。


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