探偵系VTuberの成り上がり ~謎を解いて、人気者になって、お金を稼ぎます~ 作:正雪
私は量産型として大量生産された藤堂ニコMk-2にアバターを変更し、VR空間グリモワールにダイブする。
家具だけはクオリティがあがったものの、今だに初期割り当ての六畳一間のワンルームだ。
「操作感はまったく一緒ですね」
オリジナルがそもそもリアルの私の体型に忠実に作られていて、そのコピー品なので当然ではあるのだが。
髪色・瞳はブルーブラックにしてある。光の当たり方や角度ではかなり青く見えるがこれはこれであり。
服装もネイビーメインの探偵服にした。これはママ――姫咲カノンが髪色にあわせて作ってくれたんである。色変えるだけだから楽勝だとおっしゃっていた。
あざます。
「いいですねぇ」
私は青系も好き。
しかし、浮かれている場合ではない。
これから友達を騙している嘘つきホストの化けのガワを引っぺがしに行くのだ。
「行きますか」
「行きますか……」
「い、行くんですけども……」
ホームを出た瞬間。
急に緊張してきた。
所詮はコミュ障。VRといえど、ホストクラブに行くのだ。
緊張するんである。
「あ、足が重い」
別に本体の私は歩くわけではないのだけども。
一歩ずつ嫌だなー、面倒くさいなーと思いつつノロノロと夜のカブキシティに向けて歩いていく。
やる気はどこかへ霧散してしまった。
そういえば、前回の配信で友達が悪いホストに騙されてるっぽいっていう話をした時に、コメ欄で『怪盗Vの子が今度はホストに』とか『ルパン、V引退してホス狂いになったのか』とか書かれていた。
マッキーじゃなくてリンちゃんの方なんだけどなーと思いつつも、訂正しなかった。面倒くさかったから。
でも今回の潜入捜査の報告配信で一応もう一人友達が増えたのだという話しておくか。
カブキシティのいかがわしい似非サイバーパンク風ネオンの下をトボトボと歩いていく。
「やっぱり明日にしようかな」
別に今日じゃなくてもいいもんね。
くそぅ、胃が痛くなってきた。
私の頭脳をもってすれば大抵の嘘つきなんて敵じゃないけど、一番の敵は私自身の人見知りだ。
最近、なんか友達とかできちゃって勘違いしていた。
向こうが私のことを好きだという圧倒的に優位な立場からの関係性だったからか。
あとは私がブチギレて論破できるような悪人だったらいいけど、今回の場合は私は客として行くわけなのでたぶんそんなに怒らせてくれる(?)ような態度はとってこないだろう。
一番困る。
『ニコ……俺の大胸筋を思い出せ』
『ボクの上腕二頭筋が君を見守っているよ』
「みんな……」
目を閉じれば、みんなが力を貸してくれているのがわかる。
そうだ、私にはイケメンボディビルダーで鍛えた大喜利能力が……いらんわい! そんなもん! 急に妄想の中に出てくんな! ホストはマッチョじゃないんだい!
「はぁ、勇気は出ないけど、なんか肩の力は抜けたな」
えっと……リンちゃんたちが行ったというホストクラブは……。
「アレ? ニコちゃん?」
「ぴーちゃん!」
「こんなところでどうしたんですか?」
「ぴーちゃんこそ」
「ワタシは収録があったので。アイドルVの特番に呼んでもらったんですよ」
「えー、素晴らしいじゃないですか! 絶対リアタイで観て、録画もするので放送日わかったら教えてください」
「もちろんです!」
「やったー。あ……そうだ、ぴーちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「これからホストクラブ一緒に行きません?」
「え?」
アイドルのイメージを損なう……かもしれないけど。
「いいですよ。行ってみたかったんです」
「いいんだ!」
「ニコちゃんが行くってことは事件ですよね?」
「うん、そうなんです」
「だったら、遊びで行くわけじゃないですし、ニコちゃんの捜査協力したってことならファンも喜んでくれます。ワタシのファンはニコちゃんファンとの掛け持ちも多いですし」
「ぴーちゃん……ありがとう!」